スローテンポで愛して

木崎 ヨウ

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思わぬ再会

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 副島に遊びに誘ってもらってから、早いものでもう一ヶ月が過ぎた。
 あの翌週から、日和は金曜日になんとなく副島の店に足を運ぶようになっていた。
 初めて行った日は「お礼だから」と言われて結局奢ってもらってしまったけれど、その次の週に行った時からはちゃんと自分の財布から会計している。
 というか、それが人として当たり前の事だ。
 あれから一ヶ月経ったが、飲みに行こうという約束はお互い仕事が上手く都合がつかずにまだ実現していない。
「こんばんは」
 店に入って、カウンターの中で背を向ける副島にそう声をかける。
「あ、いらっしゃいませ。今日は、お仕事忙しかったみたいですね」
 今日は就業時間ギリギリのところで急な打ち合わせが滑り込んできてしまい、部下たちを先に帰したおかげで日和は一時間も残業する羽目になってしまった。
 上着をハンガーに掛けながら、
「ええ、急な打ち合わせが入ってしまって」
 と言うと、
「お疲れ様でした」
 おしぼりを渡してくれたので、それで丁寧に手を拭く。
「ありがとうございます。…本当はうちの会社、基本的には残業禁止なんですけどね。たまにこういう事が有ると、ちょっと疲れます」
「それなのに、わざわざ逆方向のうちの店に来てもらって有りがたいです」
「とんでもない。ゆっくり飲みたい気分だったんですよ」
 日和は、手癖でおしぼりをきちんと畳んで置く。そういえば、彼女に一度、それをヘンだと指摘されたのを急に思い出した。
「いつもので良いですか?」
「はい」
「ごゆっくりしてくださいね」
 いつもの、になってしまったパナシェと生ハムとチーズ。それを出してもらいながら、自分は客単価がものすごく低いのだろうな…と日和は思った。
 以前、家で作ったシャンディガフはちっとも美味しくなくて、それを二回目に行った時に副島に話したら、ビールの種類が違うんじゃないかと言われた。
 食に興味を持たない日和は、自分で探求して美味しいものを作ろうという気にもならず、もう副島の所で飲むだけにしようと思った。
 日和は、自分がもっと酒に強くてたくさん飲めたら副島の店の売り上げに貢献できるのに…と思いつつ、いつも通りパナシェを飲む。
「そういえば…このレモンスカッシュって、見ない感じの容器に入ってますよね」
 副島がいつも冷蔵庫から出しているレモンスカッシュは市販のペットボトルに入っているようなものではなく、炭酸が抜けないように密閉できるタンブラーに入っている。
「ええ、自家製なので…」
「えっ! レモンスカッシュって自分で作れるんですか?!」
 日和が驚いてそう言うと、副島はにこりと笑った。
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