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ぼんさい
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――二つ上の姉が、盆栽にハマった。
生け花でも、フラワーアレンジメントでもなく、盆栽。
「華の女子高生がそんなんで良いの?」
「いいのいいの」
ボクが呆れ声でかけた言葉も軽く流して、姉は今日も五葉松と戯れる。
「……何が楽しいんだか」
本当に……。
こんなのが自宅に居るせいで、友人を呼ぶことも儘ならないのだ。
「この渋さが分からんとは、アンタもまだまだ子供ね」
そう言って、針金と鋏を手に笑みを浮かべる姉。
こんな調子では、いつまでたっても彼氏の一つも出来ないだろう。
『盆栽系女子』
「うわっ! 折れた!? 松ちゃんの左腕が!?」
少なくとも、ボクはこんな恋人願い下げだった。
思えば、昔から少し変わった姉ではあった。
街中で、唐突にコブシの効いた鼻唄を口ずさんだり、公園で拾ってきた雑草を煮出しては「美味い」と言い張ってみたり。
中学の修学旅行で沖縄に行った姉が、お土産にヒョウ柄のシャツを買ってきた時は、本気で姉の将来を心配した。
そんな姉も、高校を卒業するとともに理容系の専門学校へと進学した。
理容師になる姉の姿が想像できず、姉の真意について両親と共に夜な夜な会議を行ったりもしたけれど、なんてことはない。
姉の頭に理容師になると言う選択肢は一切存在しなかったのだ。
専門学校を卒業した姉は、何を思ったのか造園業者へと就職。
数年の修行を経て、今度はデザイナーへと転職。
その後も転々と飛び回り、遂には連絡も取れなくなってしまった姉。
心労の溜まった父が禿げ、白髪の混じり始めた母が姉の部屋を季節家電の待避場所へと有効活用し始めた頃。
ふとつけたテレビ番組に姉が登場した。
『ニューヨークで活躍する新進気鋭の天才盆栽家 尼ヶ谷なつめさんです!』
食卓を挟んだ眼前でふたつ、味噌汁の噴水が上がった。
『盆栽なのに天才とは、中々――』
コメンテーターらしき男性が画面の向こうで寒いギャグを飛ばす中、父は嗚咽し母は叫ぶ。
阿鼻叫喚のダイニングで、ふと、姉の左手の薬指に輝く指輪を見つけた。
……どうやら、ニューヨークでは盆栽系女子の需要もあったらしい。
(今度の企画は海外での開催を提案してみようかな……)
味噌汁まみれのスーツを着替えるため、そっとダイニングを出る。
「盆栽な天才……ね」
確かに、突拍子の無い行動を繰り返し、家族に散々心配をかけた姉だけれど、思い返せば高校のあの頃から我が姉は盆栽一直線だったのかもしれない。
庭に植え直され、大きく育った松ちゃんに見送られながら、天才盆栽家の凡才な弟は今日も会社へと出勤するのであった。
生け花でも、フラワーアレンジメントでもなく、盆栽。
「華の女子高生がそんなんで良いの?」
「いいのいいの」
ボクが呆れ声でかけた言葉も軽く流して、姉は今日も五葉松と戯れる。
「……何が楽しいんだか」
本当に……。
こんなのが自宅に居るせいで、友人を呼ぶことも儘ならないのだ。
「この渋さが分からんとは、アンタもまだまだ子供ね」
そう言って、針金と鋏を手に笑みを浮かべる姉。
こんな調子では、いつまでたっても彼氏の一つも出来ないだろう。
『盆栽系女子』
「うわっ! 折れた!? 松ちゃんの左腕が!?」
少なくとも、ボクはこんな恋人願い下げだった。
思えば、昔から少し変わった姉ではあった。
街中で、唐突にコブシの効いた鼻唄を口ずさんだり、公園で拾ってきた雑草を煮出しては「美味い」と言い張ってみたり。
中学の修学旅行で沖縄に行った姉が、お土産にヒョウ柄のシャツを買ってきた時は、本気で姉の将来を心配した。
そんな姉も、高校を卒業するとともに理容系の専門学校へと進学した。
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姉の頭に理容師になると言う選択肢は一切存在しなかったのだ。
専門学校を卒業した姉は、何を思ったのか造園業者へと就職。
数年の修行を経て、今度はデザイナーへと転職。
その後も転々と飛び回り、遂には連絡も取れなくなってしまった姉。
心労の溜まった父が禿げ、白髪の混じり始めた母が姉の部屋を季節家電の待避場所へと有効活用し始めた頃。
ふとつけたテレビ番組に姉が登場した。
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阿鼻叫喚のダイニングで、ふと、姉の左手の薬指に輝く指輪を見つけた。
……どうやら、ニューヨークでは盆栽系女子の需要もあったらしい。
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「盆栽な天才……ね」
確かに、突拍子の無い行動を繰り返し、家族に散々心配をかけた姉だけれど、思い返せば高校のあの頃から我が姉は盆栽一直線だったのかもしれない。
庭に植え直され、大きく育った松ちゃんに見送られながら、天才盆栽家の凡才な弟は今日も会社へと出勤するのであった。
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