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第十七話 思ったら
しおりを挟むどうやら彼はまだ事件のことを知らないらしい。ロウはいま聞いて知ったばかりのことを彼に伝える。
「通り魔らしいです。昨日の三人組が被害に遭ったみたいで」
「三人組?」
ルタはキョトンとした顔になる。忘れているらしい。
「ほら、昨日、お店の代金を踏み倒そうとして、あなたにやられた」
「ああ、あいつらか。ふーん」
思い出したようだが、特に興味は惹かれなかったらしい。彼にとっては店に悪さをしようとした三人組だから、その反応も仕方がないかもしれないが。
「夜中に襲われたそうです。あたし達も気を付けないといけませんね」
「ま、そうだな。それはそうと、おれ、ギルドに行くんだけど、あんたも?」
彼は話題を変える。本当に興味がないらしい。ロウは少しだけ戸惑いながら。
「はい、そうですけど……」
「なら一緒に行こーぜ。せっかくだしよ」
「はあ、まあ、いいですけど……」
特に断る理由もなかったので承諾すると、彼は明るい調子で。
「んじゃ行こうぜ。早くしねーと、いいクエストが取られちまうかもしれねーしよ」
そう言ってルタは足早にギルドへと向かっていく。
「あ、待ってください」
そのあとをロウは慌てて追いかけた。
隣に並んで歩きながら、ロウはルタに尋ねる。
「気にならないんですか、事件のこと。地元で起きた事件ですし、一応、知ってる人が被害に遭ったのに」
「そりゃ少しは気になるけどよ、自分に関係あること以外はあんまり首を突っ込まないようにしてんだ。面倒だから」
ひょうひょうと彼は答えるが、彼女は少し訝しんで。
「昨日は首を突っ込んだじゃないですか。あたしを助けたのもそうだし、お店の店員さんも助けたし」
「それはほら、助けられるのに見捨てたら、なんか気持ち悪りいからだよ。だからおれの心の平穏を保つために助けただけだ」
「なんか、納得できるような、できないような……?」
「ま、あれだ、おれがそうしたいと思ったらそうするし、したくないと思ったらしない、そんだけのことだ」
「だから、事件のことはどうでもいい、と」
「ま、そういうこったな。おれやおれの周りに関係してくんなら、分かんねーけど」
「…………」
悪く言えば自分勝手ということになるだろう。しかしロウ自身も、いま事件のことを調べようとは思っていない。それは官憲の仕事だし、いずれは解決されるだろうから。
だから、ルタがそう言ったからといって、ロウにそれを責めることはできなかった。むしろ彼女自身もある意味、そうだといえるとも思ったから。
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