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第七十一話 いつだって真面目
しおりを挟む医者が言う。
「あったら、もう官憲に話していますよ。残念ながらね」
「……そりゃそうか」
「しいて言えば、犯人は右手でナイフを持っていた、くらいでしょうね。彼らの刺し傷から判断して」
「「…………」」
それに関しては、ルタとロウも昨夜の戦いで実際に目撃している。そもそも右利きの人間はたくさんいる、通り魔を特定できる手掛かりとしては薄弱すぎた。
「……悪かったな、忙しいときに話を聞いたりして。おれ達はもう帰るよ」
「そうですか。犯人に襲われたから、自分達で捕まえようと思うのは立派ですが、あまり無理はしないように。何かあったら官憲に連絡してくださいね」
「分かった分かった」
本当に分かってるのか、ルタは軽く流すように答えると。
「じゃあな。またなんか聞きにくることがあるかもしれねえけど、そんときはよろしく」
「私に出来ることであれば」
ルタが医者のいる部屋から出ていき、ロウも頭を下げてからルタのあとを追っていく。この病院内で聞けることはだいたい聞けただろう、二人は病院から外へと出ていき、歩きながらロウがルタに聞いた。
「これからどうするんですか? 結局、通り魔の正体は分からないままですし」
「…………」
「ルタさん?」
妙な間に、ロウは不思議に思う。よく見ると、彼はなにか真面目な顔つきで神妙な雰囲気を醸し出していた。
もしかしていままでの聞き込みでなにかの手掛かりを……? ロウがそう思ったとき、歩いていた彼の腹が鳴った。グウ。
「…………」
「…………」
「昼メシなんにすっかな」
「もしかして考えてたことってそれですかっ」
「そうだが?」
それ以外になにかあるのか? そう言いたげな顔である。
ロウはため息をついた。
「はあ……真面目に通り魔を捕まえるつもりかと思ってたのに。動機はともかく」
「はあ? おれはいつだって真面目だぞ。真面目に面倒くせーことを回避して、真面目に今日食うメシのことを考えてるぜ」
「真面目の方向性が真面目じゃありませんから」
「なんか知らんが、とにかくいまは昼メシが最優先だ。おやっさんのメシ屋にするか、それとも別にするか。たまにはパンの買い食いも悪くねえな。いや、ここはエビルボアの肉にするか? まだたくさん余ってるし」
「はあ……」
通り魔のことを聞いていたのと同じ以上の真剣さで昼食のことを考える彼に、ロウはまたも呆れを含んだため息を吐いたのだった。
結局、歩きながら考えた結果、道中のパン屋でパンを買って済ませることになった。
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