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第七十二話 ふざけているように見えて
しおりを挟む一緒についてくるロウに、ルタが聞く。
「あんたもパン?」
「はい。ルタさんに合わせます」
「べつに構わなくていいぜ。そこら辺のメシ屋に行ってこいよ」
「いえ。あたしはルタさんの護衛ですから」
「……ちっ」
彼女から顔を背けてルタが舌打ちする。それを聞いたロウが、ちょっと、と声を出した。
「なんで舌打ちしたんですかっ」
「シテネーヨ」
「しましたよねっ、はっきり聞こえましたよっ」
「だからしてねーって。あんたがメシ食ってる隙にトンズラしようだなんて全然思ってねえって」
「そんなこと思ってたんですかっ。どんだけ護衛されるの嫌なんですかっ」
「だから面倒くせーだけだって。それよりそこのパン屋に行くぞ」
「あ、誤魔化さないでくださいよっ」
彼女の文句を無視して、ルタは最寄りのパン屋へと入っていく。ロウも慌ててそのあとを追っていく。
パン屋のドアが閉じたとき、窓ガラス越しに見える二人のことを、路地の陰から何者かが覗き込んでいた。
……………………。
パンの入った紙袋からメロンパンを取り出して、ルタが歩きながらモグモグと食べ始める。同じく紙袋を持つロウが注意した。
「歩きながら食べるのは行儀悪いですよ」
「細けえことは気にすんな。腹が減ってはイグサはできぬ、ってな」
「それを言うなら戦ですよね。なんでお腹が減ることと植物の成長が関係あるんですか」
「マジメに言ってくんなよ。ただの冗談やシャレじゃねーか」
「ただのダジャレのくせに」
紙袋を両手で抱えるように持ちながらロウは文句を言う。病院で聞き込みをしているときは真面目だったのに、それが終わった途端、いつものひょうひょうとした感じに戻ってしまったことに、内心少しがっかりしていた。
「それよりずっと歩いてますけど、どこに向かってるんですか? ベンチならそことか、あっちの公園とかに……」
ベンチに座って食べればと暗に提案したのだが、それに気付いているのか、いないのか、ルタはなおもモグモグしながら。
「方向としてはギルド、実際にはその途中にある現場だな」
「現場?」
「通り魔が最初に事件を起こした場所だよ。あの三人組がやられた」
「…………」
ロウが息を飲む。
今度はその最初の現場に向かい、そこに残されている痕跡を調べようということだった。
……一見ふざけているように見えて、その実、意外と真面目に取り組んでいるんだ。意外と。
内心、彼女はそう思った。あるいは彼が歩きながら食べているのも、調査の時間が削られないように、移動と食事を同時にしているのかもしれない。
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