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第七十三話 追跡者
しおりを挟むと、そのとき。メロンパンを食べ終えたルタが小さな声で彼女に言う。
「……後ろを振り返るなよ。気付いてるか? パン屋を出たあとから、つけられてるぞ」
「…………え……?」
ロウの肩がビクリとする。周りに人気が多いこともあったが、全然気付かなかった。
前を向いて歩きながらルタが言葉を続ける。
「……いいか、この会話が終わったら、おれは奴を追いかける。あんたは先回りしてくれ。挟み撃ちだ」
「……分かりました」
ロウもまた追跡者に気取られないように、小さな声でうなずいた。
追跡者が何者なのかは判然としない。だが、もしも昨夜の通り魔か、もしくはその関係者であったのなら……ルタとロウを見かけたために、なにかしらの思惑によって尾行してきたのだとしたら。
これはチャンスかもしれない。通り魔の正体をつかむための、千載一遇のチャンス。
「……じゃあ、カウントダウンするぜ。三……」
さっさとすぐに追いかければいいのに、とロウは思う。いや、二人のタイミングを合わせるためにあえてそうしているのかもしれない。
「……二……」
とロウは自分を納得させようとしたのだが、当の彼はというと、なにが楽しいのか、どことなく口元に笑みを浮かべていた。
昨夜、通り魔と対峙したときと同じだ。もしかしたら彼は、またあの通り魔と命の駆け引きをしたいというのだろうか。
「……一……」
そんなこんなことを考えていると、もう残り一秒となっていた。ロウは心のなかで準備する。じんわりと、緊張のためか、かすかに手のひらに汗をかいていた。
そして。
「……ゼロ……!」
瞬間、ルタは後ろを振り返り、一目散に走り出した。
離れた路地の陰からわずかに覗いていた人影が、ビクリと動いて路地の向こうへと逃げ出していく。
「待ちやがれ!」
声を上げながら、ルタも相手が逃げていった路地を曲がって追いかけていく。ロウはというと、彼らの行く末を横目で見つつ。
(尾行してた人が逃げた先は……確かこっちの道につながってたはず……っ)
ルタの作戦通りに、尾行者の行き先を予測して、挟み撃ちになるように駆け出した。
「この、待ちやがれっての!」
蛇のようにうねる路地を走りながらルタが叫ぶ。が、前方の相手は止まろうとしない。いや、待てと言われて待つのなら、最初から尾行などしていないし逃げないだろう。
「この……っ」
逃げることに必死なのだろう、相手の足は意外と早く、また路地に木樽やゴミ箱があって邪魔なせいもあり、なかなか思ったように距離は縮まらない。
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