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第九十二話 閃き

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「サージのおっさん」
「サージさん」

 二人がつぶやくように言い、サージが二人のほうへと近付いてくる。窓口の向こうにいた官憲がサージに言った。

「サージさん、お知り合いですか?」
「昨夜の通り魔事件の被害者だよ。今朝実況見分に行ってきたんだ」
「そうでしたか」

 二人の元まで来たサージが二人に聞く。サージが来たからか、窓口の官憲は様子を静観しているようだ。

「どうしてここに? 忘れ物ですか? それとも、事件に関して何か気付いたことや思い出したことでも?」

 サージの目にはかすかな期待の光が浮かんでいた。情報が少ないいま、藁にもすがりたい気持ちなのかもしれない。

「残念だけど、事件の手掛かりならねえよ。おれ達も自分なりに調べたんだがな」
「…………そうですか……」

 危険なことはしないようにって言うかと思ったけど、気にする余裕もないのかな……残念そうにため息をこぼすサージを見て、ロウはそう思う。実際に、官憲側にもこれといった手掛かりは掴めていなかった。
 気を取り直したようにサージは尋ねてきた。

「では忘れ物ですかな? 私は気付きませんでしたが……」
「いや、そうじゃなくてな。いまこの人にも言ったが、失踪者の情報を見せてもらえないかと思ってね」
「失踪者……?」

 どういうことなのかと、サージが窓口の官憲を見る。その官憲もサージのほうを見て、分かりませんとばかりに首を横に振っていた。
 サージがルタ達に言う。

「とりあえず話を聞きましょう。捜査本部の部屋はいま人が混雑していますから……そこの使っていない部屋で」

 それから窓口の官憲に向いて。

「彼らは私が話を聞くから、君は引き続き業務を頼む」
「了解しました」

 階級的に、窓口の官憲よりもサージのほうが一つか二つ上なのだろう。ルタ達としても、今朝担当してもらって、なにかと少しは打ち解けているサージのほうが話しやすかった。
 三人は近くのあいていた部屋に移動し、入口そばのテーブルに腰掛ける。

「それで、どういうことですか、失踪者の情報を見せてほしいというのは……?」

 前置きや世間話などはせず、サージは早速本題を尋ねた。ルタ達がわざわざ官憲事務所までやってきて、こんなことを言ってきたのだ、何かしらの考えがあると推測したのだろう。

「実はさっき閃いたことなんだがな……」

 ロウと並んで座りながら、ルタは対面に座るサージへと説明を始める。さっきロウに話した考え、もしかしたら失踪者のなかに、人知れない通り魔の犠牲者がいるのではないだろうかという閃きを。

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