かつて天才と言われた落ちこぼれ。ムカついたので自由に生きてたらいつの間にか最強と言われるようになってた件

はくら(仮名)

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第二章 ゾディアックにまつわる面倒な連中

第二話 ならない

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 なおも反応を返さないでいると、仕方ないというようなサフィの溜め息。彼女が耳元に顔を寄せてくる気配がして、ささやき声で言ってくる。

「話を聞かないなら、昨日の校舎裏のこと、みんなに言うわよ」

 …………。
 むくり。顔を上げてサフィを強い目で見ると、彼女はしたり顔をしていた。

「やっと起きてくれましたか」
「…………」
「そんなに睨まなくてもいいでしょう。……ここではみんながいるので、場所を変えましょうか」

 背を向けてドアに向かう彼女。
 ……ついていくしかなさそうだ。少なくとも、いまは。
 席から立ち、サフィのあとについていく。
 校舎裏にでも連れていくつもりなのか、彼女は正面玄関から渡り廊下を進んでいく。

「どこに行くんだろ?」
「やっぱり告白なのかも。告白の定番っていったら校舎裏だもんね」
「クソウ、なんであんな落ちこぼれが……羨ましい……俺なんてサフィさんと挨拶したこともないんだぞ!」

 隠れて尾行しているつもりなのか、背後には大勢のクラスメイト達がいた。さっきより人数が増えている気がするのは、話を聞き付けた野次馬がどんどん追加されていってるのだろう。
 と、その時、前を歩いていたサフィが立ち止まって振り返る。

「それじゃあ、行きましょうか」

 途端、足元に転移の魔法陣が展開される。

「「「「あ⁉」」」」

 背後の野次馬達が驚きの声を上げるのと同時に、転移の光が強くなり、視界は別の場所へと切り替わっていた。
 目の前のサフィを警戒しながらも、サッと周囲に視線を走らせる。

「ここは……屋上か」
「ええ。ここなら誰もいないし、邪魔は入らないから、安心して話せるわよ」

 フェンスのついた屋上の縁の向こうからは、さっきまで後ろをついてきていた野次馬達のざわめきが聞こえてきている。

「……なるほどな。それで? 大事な話ってのは何なんだ? まさか本当に告白するわけじゃねえんだろ?」
「……昨日、校舎裏でレイン君がしていることを見てたわ」
「……さっき聞いた。相変わらずストーカーやってんだな」
「……気付いてたくせに」
「それをネタに本格的に脅そうってか? さっきは一応従ったが、二度目はねえぞ。退学になったら、その時はその時だ」
「……あなたも相変わらずよね。……相変わらずの天の邪鬼」
「いいからさっさと用件を言え。俺は眠いんだ」

 彼女が見つめてくる。風が吹いて彼女のサファイア色の髪がなびいた。

「……わたし、ゾディアックの空席の『水瓶座 (アクエリア)』にならないかって言われてるの。だけどゾディアックにはもう一つ空席があって……レイン君もゾディアックにならない? いえ、なってほしいの」
「…………」

 ゾディアックはこの学園の特待生であり、学園を代表する優等生でなければならない。

「……はあ? 何言ってんだおまえ。俺みたいな落ちこぼれが、おまえらみてえな優秀な天才集団と一緒にいられるわけねえだろ」

 バカバカしいというように背を向けて、校舎内へと続く階段のあるドアへと向かう。
 しかし彼女は引き止めるように手を取ってきて。

「『何言ってる』はレイン君のほうよ。あなたが天才なことはわたしが知ってる。わたし以上の、ううん、わたしが会ってきた誰よりも才能と実力があるって」
「…………」
「あなたこそゾディアックになるべき人よ。レイン君なら、きっと……」
「……離せよ」
「……っ!」

 瞳を鋭くして睨みつけると、彼女はビクリとした。
 彼女の手が離れる。階段へと再び向かい始めると、後ろから、

「……レイン君……」

 つぶやく彼女の声が聞こえた。

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