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第二章 ゾディアックにまつわる面倒な連中
第五話 もぎせん
しおりを挟む「よーしっ、頑張るぞー」
えいえいおーっ、というようにそばに立つトパが腕を上げる。
実戦形式の授業。いわゆる模擬戦というやつだ。二人一組でチームを組み、教師が用意したデータの魔物と戦闘をおこなう。
あくまでデータであり、教師の一存によって自由に消滅させられるので、仮に討伐出来なかったとしても命に関わるような事態に陥ることはない。
語弊を恐れずに言えば、安全な戦い、ということになる。
「ほらー、レインも一緒にー。えいえいおーっ」
誰がやるか。
面倒くさいと断ったのだが、トパに、あたしが全部片付けるから戦わなくてもいいからと、半ば強引にチームを組まされた。
そのトパの手には弓矢。戦闘相手はさっき説明を受けたスライムなので、遠距離から攻撃出来るそれを選んだというわけだ。
「レインは武器を持たなくていいのー?」
「おまえが全部片付けるんだろ」
「そう言われればー」
天然なのか腹黒なのか分からないトパの笑顔を無視して、あくびをする。
周囲には観戦しているクラスメイト達。前のチームがギリギリといったところで討伐を完了し、出番が回ってくる。
「それでは次の二人は前へ。敵はイエロースライムです。準備はいいですね?」
ジャージ教師が確認してきて、トパが、
「おっけーでーす」
元気よく手を振る。
教師がうなずきを返して、掛け声を上げた。
「それでは、始め!」
目の前に黄色のスライムが一体出現する。人間の子供ほどの大きさ……だいたい一メートルくらいの体長だ。
「いくよー、えいっ!」
トパが弓を引き、矢を放つ。狙いはスライムの中心にある核で、矢は見事スライムに命中する。
しかし。
「あれっ⁉」
トパが放った矢はイエロースライムに突き刺さることなく、プルンッと弾かれてしまう。
観戦している奴らが、
「黄色は防御力が高いから気を付けろー!」
だの、
「魔法を使えー!」
だの言ってくる。
奴らの言う通り、イエロースライムは防御力が高い。討伐するには攻撃力を上げるか、魔法で攻撃するかだ。特にイエロースライムは風系の魔法が苦手なので、それを使うのが効率がいい。
「よーしっ、これならどうだっ! ウインドブレイド!」
前方にかざした手から、トパが風の刃をスライムへと撃ち出す。それは命中し、スライムの身体が一部切り離された。
「よしっ」
トパが声を出すが、その喜びも束の間、核を破壊するには至らなかったらしく、ブルブルと震えたスライムがゼリーの散弾を撃ち出してきた。
「わわっ、ブロックシールド!」
トパが慌てて防御魔法を使い、飛んでくるゼリーを防いでいく。
「大丈夫、レイン⁉」
「……俺まで守る必要はない。そんな余裕があるなら、さっさと討伐して終わりにしろ」
こんな面倒なことは早く終わりにしてほしいんだ。
「う、うん」
トパが返事をした時、ついでに観戦していた連中も口々に、
「守ってもらっといてその言い草はなんだー⁉」
とか、
「トパー、そんな自分勝手な奴、放っておきなさいよー!」
とか言ってくる。
まったく、その通りだ。
しかしトパは聞いているのか、いないのか、ゼリーの雨が終わると同時に防御魔法を解いて、風魔法の呪文を唱えた。
「『数多の風よ、あたし達の前に立ち塞がる敵を切り刻め、ウインドブレイズ!』」
威力強化、及び刃数増加の呪文。いくつもの風の刃がイエロースライムへと襲い掛かり、その身体と核を確かに破壊した。
イエロースライムの身体が消滅していき、ジャージ教師の声が上がる。
「そこまで。トパ=ロイ、レイン=カラー組、討伐成功!」
トパがその場でピョンピョン跳ねながら嬉しそうな声を出した。
「やったー!」
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