かつて天才と言われた落ちこぼれ。ムカついたので自由に生きてたらいつの間にか最強と言われるようになってた件

はくら(仮名)

文字の大きさ
15 / 66
第二章 ゾディアックにまつわる面倒な連中

第五話 もぎせん

しおりを挟む

「よーしっ、頑張るぞー」

 えいえいおーっ、というようにそばに立つトパが腕を上げる。
 実戦形式の授業。いわゆる模擬戦というやつだ。二人一組でチームを組み、教師が用意したデータの魔物と戦闘をおこなう。
 あくまでデータであり、教師の一存によって自由に消滅させられるので、仮に討伐出来なかったとしても命に関わるような事態に陥ることはない。
 語弊を恐れずに言えば、安全な戦い、ということになる。

「ほらー、レインも一緒にー。えいえいおーっ」

 誰がやるか。
 面倒くさいと断ったのだが、トパに、あたしが全部片付けるから戦わなくてもいいからと、半ば強引にチームを組まされた。
 そのトパの手には弓矢。戦闘相手はさっき説明を受けたスライムなので、遠距離から攻撃出来るそれを選んだというわけだ。

「レインは武器を持たなくていいのー?」
「おまえが全部片付けるんだろ」
「そう言われればー」

 天然なのか腹黒なのか分からないトパの笑顔を無視して、あくびをする。
 周囲には観戦しているクラスメイト達。前のチームがギリギリといったところで討伐を完了し、出番が回ってくる。

「それでは次の二人は前へ。敵はイエロースライムです。準備はいいですね?」

 ジャージ教師が確認してきて、トパが、

「おっけーでーす」

 元気よく手を振る。
 教師がうなずきを返して、掛け声を上げた。

「それでは、始め!」

 目の前に黄色のスライムが一体出現する。人間の子供ほどの大きさ……だいたい一メートルくらいの体長だ。

「いくよー、えいっ!」

 トパが弓を引き、矢を放つ。狙いはスライムの中心にある核で、矢は見事スライムに命中する。
 しかし。

「あれっ⁉」

 トパが放った矢はイエロースライムに突き刺さることなく、プルンッと弾かれてしまう。
 観戦している奴らが、

「黄色は防御力が高いから気を付けろー!」

 だの、

「魔法を使えー!」

 だの言ってくる。
 奴らの言う通り、イエロースライムは防御力が高い。討伐するには攻撃力を上げるか、魔法で攻撃するかだ。特にイエロースライムは風系の魔法が苦手なので、それを使うのが効率がいい。

「よーしっ、これならどうだっ! ウインドブレイド!」

 前方にかざした手から、トパが風の刃をスライムへと撃ち出す。それは命中し、スライムの身体が一部切り離された。

「よしっ」

 トパが声を出すが、その喜びも束の間、核を破壊するには至らなかったらしく、ブルブルと震えたスライムがゼリーの散弾を撃ち出してきた。

「わわっ、ブロックシールド!」

 トパが慌てて防御魔法を使い、飛んでくるゼリーを防いでいく。

「大丈夫、レイン⁉」
「……俺まで守る必要はない。そんな余裕があるなら、さっさと討伐して終わりにしろ」

 こんな面倒なことは早く終わりにしてほしいんだ。

「う、うん」

 トパが返事をした時、ついでに観戦していた連中も口々に、

「守ってもらっといてその言い草はなんだー⁉」

 とか、

「トパー、そんな自分勝手な奴、放っておきなさいよー!」

 とか言ってくる。
 まったく、その通りだ。
 しかしトパは聞いているのか、いないのか、ゼリーの雨が終わると同時に防御魔法を解いて、風魔法の呪文を唱えた。

「『数多の風よ、あたし達の前に立ち塞がる敵を切り刻め、ウインドブレイズ!』」

 威力強化、及び刃数増加の呪文。いくつもの風の刃がイエロースライムへと襲い掛かり、その身体と核を確かに破壊した。
 イエロースライムの身体が消滅していき、ジャージ教師の声が上がる。

「そこまで。トパ=ロイ、レイン=カラー組、討伐成功!」

 トパがその場でピョンピョン跳ねながら嬉しそうな声を出した。

「やったー!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...