かつて天才と言われた落ちこぼれ。ムカついたので自由に生きてたらいつの間にか最強と言われるようになってた件

はくら(仮名)

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第四章

第十話 ヴァーゴ

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「何の用ですか、レイン=カラー。ゾディアックには……わたしには関わるつもりはないと言っていたはずですが」

 手に持つ魔力剣をにらむように見据えながらユキが言ってくる。その後ろではワイバーンもまた警戒と威嚇に満ちた瞳で睨み付けてきていた。
 そんな奴らに、ニヤリと口角を上げながら言う。

「はっ! わざわざ説明する必要があるか? そのワイバーンを討伐しに来たに決まってんだろ」
「……!」

 おそらくいまのそのセリフは、彼女にとっては悪人にしか見えないものなのだろう。
 関係ねえな。

「そのワイバーンを生かしたままにしておけば、いずれはこの街を破壊するだろう。この学園がなくなるのは授業が潰れるから構わねえが、街が壊されると食いもんや生活に困るんでな」
「だから……殺すんですか?」
「そうだ。今回に限っては誰が聞いても俺のほうが正しいと思うだろ。街を破壊する危険性のあるそいつを助けようっていう、おまえのほうが間違ってんだよ」
「…………っ」

 ユキが下唇を噛む。その部分が赤みがかり、いまにも噛み切ってしまいそうだった。
 ユキ自身、自分勝手な思いだと分かってるってこった。
 それでも、彼女は引き留めようとして言ってくる。

「ワイバーンはドラゴンの仲間です。そしてドラゴンは人語を解するほどに知能が高い。だから……話せば分かってくれるはずです。この街を壊さないように説得すれば……」
「はっ。そいつが人語を解するかどうか分からねえ上に、おとなしく帰るかどうかも分からねえ。第一、そいつの翼を見ても分かるが、そいつは討伐されようとしてた奴だ。つまり」

 魔力剣を前に構えながら。

「そいつは既に何の罪もない人間を襲っていたかもしれねえってこった!」
「……っ⁉」

 地面を蹴って、高速で前に飛び出す。ユキの横をすれ違おうとした時、ユキが両腕に魔力をまとって殴り掛かってきた。

「おっと」

 とっさに後ろに跳んでその拳を回避する。が、地面に着地すると同時に、彼女は今度は側頭部を狙って魔力を込めた蹴りを放ってきた。

「ちっ」

 回避する時間はない。魔力剣を頭の横に持ってきて、ギリギリでその蹴撃を防御する。

「黒。パンツが丸見えだぜ、乙女座のユキさんよお」
「問題ないわ。あなたの記憶を消し飛ばせばいいんだもの」
「…………っ⁉」

 魔力剣で防いでいるユキの足に、さらに魔力が集中されていく。その集まるスピードはコンマ数秒ほどの一瞬で、不覚にも対応が遅れてしまった。
 魔力剣にヒビが入り、粉々に砕け散る。ユキの蹴りは勢いを弱めることなく、側頭部のこめかみを貫いた。

「がっ……!」

 衝撃が脳天を撃ち揺らす。頭に引っ張られるように身体が横側に飛んでいく……が、辛うじて片手を地面に当てて、側転の要領で倒れるのを防いだ。
 それでもユキから少し離れた場所で片膝をついてしまう。その様子を見て、ユキが口を開く。

「驚いたわね。完全に仕留めたと思ったのに。いまの一瞬でギリギリ頭に魔力を込めたってわけ?」
「…………魔力剣は壊されたがな……」
「なるほどね。さすがはモードに勝っただけはあるってことか」
「驚いたのはこっちもだ。てめえ、ただの回復役じゃあねえな。なんだその魔力の動きと体術は。普通に前線でも戦えるじゃねえか」
「知らないの? 回復役の一番の役割は負傷しないこと。そのために、わたしは誰よりも鍛えてないといけないのよ」

 ユキの全身に魔力がみなぎっていく。いままではまだ本気じゃなかったらしい。拳を構えて、両目を四白眼にしたユキが言った。

「かっかっかっ! 一分だ! 一分でてめえを仕留める! そんでもってこいつを治してどこかに転移させる! それがわたしの正義だ! 誰にも邪魔はさせねえ!」
「……上等だ、くそ女」

 血の滲んだ唾を地面に吐いた。

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