かつて天才と言われた落ちこぼれ。ムカついたので自由に生きてたらいつの間にか最強と言われるようになってた件

はくら(仮名)

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第五章

第七話 ニンジャ

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「んまいんまいー」
「おい、肉ばっか食いすぎてんじゃねえ! 俺が食えねえだろうが! もっとピーマンとかニンジンとか野菜も食え!」
「んまいんまいーっ」
「人の話を聞け!」

 鉄板の上の肉をトパと取り争っていると、追加の食材を皿に乗せて持ってきたおっさんが笑いかけてくる。

「ははは、本当によく食べますなあ、二人とも。やはり育ち盛りなんですかね」
「おっさんからも言ってくれ! こいつ小せえくせに、どこにこんだけ詰め込めるんだ⁉」
「ははは」

 見てるだけでも面白いというように、おっさんは相好を崩し続けていた。そうして食材の乗った皿を木のテーブルの上に置くと、コップが空になっていることに気がついて。

「おや、コップが空ですね。飲み物を持ってきますね」
「んぐんぐ、ありがとー、おじさんっ」
「いえいえ、どういたしまして」

 おっさんが再び家の中へと消えていく。その間もずっとトパと肉の取り合いを続けていたが、ふと、トパが何かに気付いたように。

「あれ? ここにあったお肉は? どこ?」
「あ? てめえが自分で食ったんだろうが⁉ それよりもっと野菜を……おい、いま俺が狙ってた肉、いつの間に取りやがった⁉」
「えっ? あたし取ってないよ? レインが自分で取ったんでしょ? って、今度はここにあったお肉が消えてる⁉」
「…………、おい、なんか変だぞ。こっちにあった肉もいつの間にか消えてやがる」
「ええっ⁉ なにっ⁉ どういうことっ⁉ なにが起きてるのっ⁉」
「まさかなんかの魔物か⁉」

 とっさに右手に持っていたトングをテーブルの上に放り出すと同時に、魔力剣を作り出して周囲に首を巡らす。

「トパは鉄板の上の食材を見張ってろ! なくなった瞬間に言え! 絶対に見逃すなよ!」
「う、うんっ!」
「くそがっ! よくも俺の肉を取りやがって! ぜってーに許さねえ!」

 肉を取ることに夢中になっていたとはいえ、トパも一緒にいて、二人の目を出し抜くほどの早業となると、相当厄介な魔物に違いない。
 だがそんなの関係ねえ! 肉の恨みを思い知れ!
 瞳に魔力を集中させて、一瞬の異変も見逃さないようにしていると。

「あっ! 消えたよっ! レインっ!」

 肉が消えたという事実は認識出来たようだが、トパの目にはその動きまでは見えなかったらしい。
 それも仕方ないかもしれない。瞳に魔力を集中しているいまでさえ、奴の動きをなんとか捉えられたほどに、それは素早かったのだから。

「そこだ!」

 そいつの影が潜りこんだテーブルの下へと魔力剣を突き出すと。

「わあっ⁉ いきなりなんでござるか⁉ 危ないでごさるなあっ⁉」

 黒い頭巾をかぶり口元に黒い布を当てて黒装束に身を包んだ、全身黒尽くめの見るからに怪しい奴が、魔力剣を両手で白刃取りしていた。

「…………っ⁉ てめえ、いったいなにもんだ⁉」

 手加減したつもりはない。高速で動く魔物を仕留めるつもりで、魔力剣を突き出したはずだった。
 だから、避けられたのなら、まだ分かる。相手のスピードを考えれば、それは当然の結果だと思えただろう。
 しかし、こいつは魔力剣を両手で白刃取りしやがった。目を凝らして見てみるが、その両手に魔力をまとって強化している気配はない。
 つまり、こいつは素の身体能力で魔力剣を白刃取りしやがったということになる。
 黒い布の向こうにある口をもぐもぐとさせながら、奴が答える。

「ごちそうを頂戴した手前、自己紹介するのが礼儀でござるな。拙者はイノ。ここより東にある国の忍者でござる」
「「ニンジャあ⁉」」

 トパと声がハモった。
 どうも悪意のようなものは感じられないが、変な奴が出てきやがったな。

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