彼女は終着駅の向こう側から

シュウ

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『今日はみんなで集まろう』

 グループメールで呼び出しがあり、久しぶりに全員が集まった。

「ミスズ、久しぶりじゃない」
「海行ったときはあなたがいなかったもんね」
「ごめんね、お土産もう残っていなくて」
「いいよそんなの。ミスズの変顔がいいお土産になっているから」
「もう、それは言わないでよ」

 ミスズがふくれ面をして、それが写真の時の顔と似ていたものだからみなが一斉に爆笑した。
 ファミレスに場所を移して夏休みに何をしていたとか報告し合う。
 おおよそのことはラインで伝わっているので、話のネタにしているという方が正しい。
 ミスズの北海道ネタは、わたしが行かなかった海での時に散々話されたらしく、もっぱらエリの新しい彼氏とカズキが彼女に振られた話で盛り上がった。

「カズキあり得ないよね。試合応援に来てもらって、それで主将の方が格好良かったから振られるなんて」
「うるせえよ。そもそもバスケのバの字も知らない奴に何がわかるってんだよ。俺の方がいい男だってえの」
「あーはいはい。よしよしだね」

 エリの赤子をあやすような仕草に笑ってしまった。

「もう夏休みも終わりか。早いよね」

 ミスズが感慨深げにしゃべると「そりゃ北海道に一週間もいたからだろう」と茶化される。

「もう、わたしは夏休み最後にみんなで何かしたいよね、と言いたいの」
「じゃあさ、みんなで思い出に映画でも撮ってみる? 簡単なのでいいからさ」

 冗談じみて言ったが半分は本気だ。
 仲間内で集まって、何かをしたいという気持ちはわかる。
 そしてそのために一生懸命になることが、とても楽しいことも。

「あ、面白そう」

 とエリがのったがリノは「えー」と嫌そうな表情で声をあげる。

「お姉ちゃんが行っている高校に映画部ってのがあって、クラスにいるらしいんだけど。もうださい格好に眼鏡で、ちょっと声をかけるとおどおどしているって。いつも文芸部の小説書いているって奴と一緒にいるってさ」
「うそお」
「うわ、きもい」
「でしょ、でしょ! 映画撮るとか小説書こうとか考える奴なんて、そんなのばっかだって。そんな気持ち悪いことしなくていいじゃん。まだバンドの方が全然いいよ」
「バンドって、誰か楽器弾けるの?」
「俺、ギター弾けるぜ」

 待っていましたとばかりにカズキが主張すると、黄色い声援が上がる。
 本当に弾けるの? 
 マジだって、俺は上手いよ。
 うそだー、本当だったら考えてあげるよ。
 明るい笑いが広がっていく中、わたしは笑えないでいた。
 そんなに一生懸命になることが、いけないことなのだろうか。

「で、でもみんな映画とか見るでしょ? 作る人がいて、それを目指している人がいるから面白い映画とかあるんじゃないの?」

 当然のことを言ったつもりだった。でも反応は冷ややかだった。

「映画なんて俳優が格好いいかどうかじゃん。それ以外に見るところある?」

 リノの意見に「女優がセクシーかどうかもあるぜ」と男子からの声が続く。
 おおむねみんな同じ意見のようだった。  

「そりゃすごい監督はいると思うよ」

 そういってリノが上げたのは、映画監督に挑戦したというタレントだった。

「格好いいのに小説を書いたり、レースしたりできるのはすごいよね」

 エリが賛同する。
 昔小説の賞をとったという俳優や、レーサーをしているアイドルの名前があがる。
 確かにすごいのに間違いは無いけど。

「格好良くないと何をしても駄目なの? 世の中すごい人とかいるじゃん」
「はー、どこにいるのよ。わたしそんなの見たことないよ」
「でも漫画家とか……」

 おずおずとミスズが意見したが周囲の視線を感じ、しまったという顔をして黙る。
 そうだ、今はそんな風に反対するような空気じゃない。

「仮にさ。あそこに見える太ったおっさんが音楽とかしていたとして、それ聞きたい? きもいだけでしょ」

 むしろ犯罪よね。生きている必要ないって感じい。
 存在を否定しては笑い声をあげるクラスメイト達から、わたしの中で何かが引いたような音が聞こえる気がした。
 そんな風に自分達が見えているだけの世界でしか判断できない子供が、人の何を決めれるっていうの?
 他人を馬鹿にするほどあんたらって偉いの?
 声には出さなかった。
 でも幾人かが、わたしを値踏みするような目で見ているのがわかる。

「そういえば最近あんたメールの反応悪いよね? そんなにいつも電波が通っていないような所にいるようなものなの?」
「この間海に行ったときに来なかった理由の聞いていないし」

 リノと目が合った。
 「仲間だったらわかっているよね」という心の声が聞こえる。
 それは学校で仲間と過ごすには、暗黙の了解とも言うべきルールがいくつかある。
 わたしがそれを踏み外そうとしていることが、周囲からひしひしと伝わる。

「ごめん、興奮して雰囲気壊しちゃった。実はわたしも、ほら、大学生の彼氏と別れてさ」

 え、初耳。
 お金持ちだったんでしょ、もったいない。
 何で別れたの?
 たちまち空気が弛緩するのを感じる。
 話題の矛先がわたしに向き、思い出したようにエリの新しい彼氏や、カズキの話が混ぜっ返されていく。

「カズキも彼女と別れたし、どうせならあんたらつきあいなよ」

 ついでとばかりに新しいカップルを作ろうとする流れを、曖昧に笑いながらなんとかかわす。
 わたしたちにとって、学校内での人間関係は世界の全てだと言っていい。
 世界を円滑に保つためには我慢だとか、いいたいことを言わずに周りに合わせるっていうのは必然だった。
 今まで当然でやってきたし、上手くやれていた。
 それがなんだかすごく空虚に感じがあった。
 なんでこんな連中と、わたしはつきあっているんだろう。

「みんな宿題終わらせたの、そういえば」

 努めて明るい声で聞くと、所々から悲鳴が上がった。
 まだー。
 じゃあ宿題写し合いっこしない?
 あんたは写すだけでしょ?
 ただじゃ駄目よ。
 そんな声を聞きながら、わたしはおかしそうに笑い声をあげる。
 どこか心が冷めているのを、隠そうとしながら。
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