初雪はクリスマスに

シュウ

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二章 恋わずらいはゆううつで

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 学校を終えて、つばさは母さんとシノブと三人で病院に向かう。
 大丈夫だとつばさは主張したのだが、後日精密検査をうけるように医者から言われたからである。
 行って大丈夫だとわかるまで、サッカーの練習ができないのでは従うしかない。
 いろいろな心のもやもやも、とにかく身体を動かしてはらしたかった。
 車の中で母さんはしきりに「痛くない?」とか「気分悪くない」と聞いてくる。
 少し心配し過ぎだよなあ、と内心で考えていた。
 病院は平日にもかかわらず混んでいた。
 外科の待合にはほとんどがお年寄りで、子供は他に野球のユニフォームを着たいくつか年上のお兄ちゃんしかいない。
 シノブは歯医者以外の病院は初めてなので、珍しそうに周囲をキョロキョロして母さんに注意をされていた。
 親子三人が並んで座る所が無かったので、空いている席にシノブと母さんを座らせた。
 ケントは他の空いている席に座ることを母さんに告げる。
 小さな待合室なので眼の届くところにいるので、今度は簡単に納得してくれた。
 空いている席を探し、大柄なおばあさんが座っている椅子の隣の席に座る。
 となりのおばあさんと眼が合ったので、軽く会釈をした。

「ぼうや怪我してるわねえ。どうしたの?」

 おばあさんは一人で病院に来ていたらしい。
 隣に可愛らしい話し相手が出来た事が嬉しいらしく、気さくに話しかけてきた。

「ちょっと、階段で転んで」

 ケンカして怪我をしたとは、言えない。

「あらまあ、大変ね。あまりお母さんに心配をかけたら駄目よ」

 子どもと話が出来て嬉しいのか、元々子供好きなのか、おばあさんはニコニコと笑顔でそう言った。
 おばあさんは話しをするのが好きらしく、いろいろと話しをしてくる。
 歳をとってすっかり腰が悪くなり、よく病院にやってくるのだという。
 「少し痩せようかしら」と着膨れしている事を差し引いてもずいぶん大きな体を指さしながら笑った。
 おばあさんはおじいさんと二人暮らしで、おじいさんの仕事は今の時期が一番忙しいらしい。

「でも最近は色々便利になっていいわ。これがあればすぐ連絡をつけれるのですもの」

 そう言って膝に抱いている鞄の中から、携帯電話を取り出した。
 シンプルなタイプの携帯電話で、クラスにも何人か持っている子を見た事がある。

「あら、おじいさんからメールが入っているわ」

 そう言うと携帯電話のボタンを押し始めた。
 この年代の人には多いように、おばあさんはあまり携帯電話を使う事は得意ではないようだ。
 また院内でも手袋をしているので余計に扱いにくのだろう。
 しばらくのろのろとボタン操作していたが、手を滑らせて床に落としてしまった。
 おばあさんは腰が悪い為か、足元に落ちたものを拾うのが難しいようだ。
 それを察したケントは、すぐに椅子の下に落ちた携帯電話を拾うとおばあさんに手渡した。

「あらありがとう。坊やはやさしいのね」
「どういたしまして」

 ちょっと照れくさくて、ケントはあいまいに笑う。

「ところでそのハンカチは坊やの?」

 おばあさんはケントが握りしめていたハンカチを指さす。

「ええーと、まあ」

 事情が複雑なので、どういってよいかわからない。

「そのハンカチかなり珍しいモノみたいだけど、坊やももっているのね」
「珍しい? どこにでもある量販品じゃあないんですか?」
「いいえ、そんなじゃないはずよ。友達のお孫さんもこれを欲しがっていたもの」

 がぜんケントは気になり始めた。

「これどこで売っているかわかりますか?」

 おばあさんは眼を大きく見開いて、少し驚いた表情を浮かべたが、ケントの様子が真剣な事がわかったらしく、「ええーとね」と記憶をたどり、思いだそうとする。
 ややあって「そうそう思い出したわ」と明るい声でそう言った。

「どこかのコンサートで売っているって聞いたと思うわ」
 
 ハンカチをよく見る。
 英語で書かれた文字と、その模様が言われてみれば音楽っぽい。
 
「おばあちゃん、若い子が聞く音楽のことよくわからないから、詳しくまでは知らないけど」
「いえ、ぼくもくわしくないので。ありがとうございます、おばあさん!」
 
 このハンカチはコンサートに来演した際に買える、限定品ということになる。
 完全に途切れていたあの女の子への道筋が、見えたような気がした。

 その声が思いのほか大きかったらしく、待合室にいた人たちが一斉にケントの方を振り向いた。
 母さんとシノブも何事かと思ってこちらを見ていた。
 直後にケントの名前を呼ぶ声が、母さんより少し若い位の看護師からアナウンスされる。
 これ幸いとばかりに慌てて立ち上がり、診療室へと逃げ込んだ。
 やや遅れて母さんがシノブをせっつかして立ち上がるのが見える。
 診療室のドアの前で一度おばあさんの方を振り返ると、にこにことケントに向かって笑顔を向けていた。

 精密検査では特に異常は見受けられず、サッカーをしても問題ないと言われた。
 ケントは初めから大丈夫だと言っていたのだが、親というものは子供の言うことよりも、医者とかそういう人の言う方を信じるものらしい。
 ハルヒサの受け売りだけども。
 夜は興奮してなかなか眠れなかった。
 このハンカチが買えるところは限られている。
 だったらこのハンカチをたどれば、あの女の子につながるのではないのか。

 
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