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47.転売屋は客を紹介しろと迫られる
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店が開店して一か月。
当初の予想とは裏腹にそれなりの集客があり、ぶっちゃけ驚いている。
最初の二カ月ぐらいは暇だろうからいつも通り露店を出しておけばいいかぐらいの感覚でいたのだが、そんな暇もないぐらいに忙しい状況だ。
「毎度あり。」
「また見つけたら持ってきます!」
元気よく店を出ていく冒険者。
外では仲間が待っていたようで買取金額を聞いて歓声を上げていた。
「ふぅ。」
「疲れたか?」
「お手数をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。」
「魔物の素材は一目でわかりにくいからな、仕方がない。」
俺も鑑定スキルがあったから判別できただけだ。
畑違いの品が多い中よくやっていると思うよ。
「まだまだ勉強が足りません。」
「エリザに教えてもらえばいいさ、それに他の部分では本当によくやってくれている。」
「もったいないお言葉です。」
そう言いながらも表情は曇ったままだ。
先程買い取ったばかりの素材を箱に入れ裏の倉庫にもっていく。
『ニードルモールの針。体中が短い鋭利な毛で覆われており取り扱いには注意が必要。最近の平均取引価格は銅貨40枚、最安値が銅貨20枚、最高値が銅貨50枚、最終取引日は三日前と記録されています。』
ハリネズミじゃなくてハリモグラのようだ。
こんな毛で土の中に潜るのかと思ったら、天井に張り付いて落下してくるらしい。
それモグラじゃないよね?と突っ込みたくなるがそういう物らしい。
魔物ってマジ分からんな。
倉庫にはこの一か月で買い取った魔物の素材が山のように積み上げられている。
どれも取引板で見つけた時期によって価格の変動があるもので、当分は塩漬けすることになるだろう。
まさかこんなにもたくさん仕入れることになるとは思わなかった。
これも全部エリザのせいだ。
「おっはよ~。」
積み上げられた素材に頭を悩ませていると、その張本人がやって来たようだ。
最近俺が倉庫に行くタイミングで計ったかのように入ってくるよな。
監視されてるのか?
「こんにちはエリザ様。」
「シロウは?」
「シロウ様でしたら裏に・・・。」
「ここにいるぞ。」
「あ、いたいた。調子はいかが?」
「お陰様で大忙しだよ。当初の予定とは違う客ばかりだけどな。」
「えへへ、頑張りました。」
自分の手柄だと言わんばかりの笑みを浮かべるエリザ。
若干イラっとしたので頬を抓ろうと腕を伸ばすと華麗にかわされてしまった。
「なにするのよ!」
「イラっとしたんでな、つい。」
「どうしてよ!」
「予定では中級以上の冒険者がダンジョンで見つけた品々を持ってくる予定だったんだが、お前の宣伝のおかげで素材買取店みたいになっちまった。確かに金の卵ではあるんだが、この調子じゃ破産しちまうよ。」
「でも、素材があると嬉しいってシロウが言ったんじゃない。」
「あぁ言ったさ。だがな、物には限度ってもんがあるだろ?」
この一か月忙しかった理由。
それはエリザの宣伝が良かったからだ。
『新しくできた買取屋は金を貸さない代わりに不要なものを買い取ってくれる。特に素材はギルドより高い物もあるから一度は見に行った方がいい。』
そんな風に冒険者仲間に言ったもんだから、興味のある連中がこぞってやって来ては大量の素材を持ち込みだした。
もちろんギルドより安い品だってある。
最初はそういう物も持ち込まれたが、情報が冒険者の中で共有されるとギルドよりも高い品ばかりが持ち込まれるようになった訳だ。
この素材はギルド、この素材は買取屋。
そんな感じだろうな。
俺も馬鹿正直に全部答えたものだから、結果としてこういう状況になってしまったってわけだ。
今の所ギルドから警告はされていないが、あまり派手にやると言われることも有るだろう。
でもこの状況を作り出したのは俺じゃなくてエリザだからな?
文句はエリザに言ってほしいものだ。
「・・・やりすぎちゃった?」
「ちょっとな。だが、助かっているのもまた事実だ。よかったらミラに素材の見極め方を教えてやってくれ。」
「そんな事ならお安い御用よ!」
「エリザ様ご教授お願いします。」
「まっかせといて!」
下がり始めたテンションが一気に跳ね上がる。
相変わらず賑やかな奴だ。
「表は俺が見てるから倉庫整理のついでに勉強して来い。」
「はい。」
勝手知ったる俺の店。
エリザがミラの手を引いて裏へと消えていく。
裏口の戸が閉まると同時に静寂が戻ってきた。
やれやれだ。
「だがマジで何とかしないとなぁ。」
それなりにあった蓄えもジリジリと減少している。
もちろん素材を売りに出せばお金は戻ってくるのだが、それでは結局マイナスだ。
普通の買い取りもないわけじゃないので、それを何とか売り切って凌ぐしかないだろう。
ミラがまとめてくれている出荷予定表と在庫票を見比べながら収益を逆算していく。
とりあえず後一か月。
それを耐え切れば倉庫に眠っている素材を一つ吐き出すことが出来る。
『アイアンアラーニャの糸。通常のアラーニャ種よりも固い糸は革鎧や梱包に使用されている。最近の平均取引価格は銅貨81枚、最安値が銅貨60枚、最高値が銀貨1枚、最終取引日は五日前と記録されています。』
蜘蛛の糸なのだが、普通のやつと違ってかなり丈夫らしい。
これで縛れば荷崩れがしにくくかつ傷みにくい。
3~4月がこの世界における引っ越しシーズンらしく、梱包用として重宝するそうだ。
また、冒険者のランクアップ試験が6月にあるらしく、防具生産用に前倒しで需要が多いらしい。
常に先を見て行動すれば儲かる。
これは鉄則なんだが・・・。
「不良在庫をどれだけ現金化できるかだな。」
予定表とは別に倉庫内の目録と、店内の在庫を確認する。
やはりネックはずっと残っている食器だろう。
売れれば金貨5枚にはなる。
だが、それも売れたらの話だ。
後は冒険者から買い取った品と露店で見つけてきた奴を適切に処理出来れば・・・。
「でもなぁ、素材の買い取りは俺がいないと。」
露店に行って店を出せればいいんだが、中々それも上手くいかない。
ミラだけで店を任せられない以上俺が残る必要がある。
ココはやはりエリザにお願いして露店を出すか・・・。
いや、ミラに任せるという手もあるな。
販売だけなら十分にできるだろう。
「戻ってきたら提案してみるか。」
いまだ二人は戻らずミラが熱心に勉強しているんだろう。
なんだかんだ言ってあの二人仲いいよな。
キャラが真逆だから合わないかと思っていたが、人って難しいものだ。
「すみませ~ん。」
と、カウンターに肘をつき考え事をしていると気づかないうちにお客が入ってきていた。
「あ、いらっしゃい。買取ですか?」
「いえ、今日は挨拶に来たんです。」
そこにいたのは一人の女性。
見た目は30代後半。
少し小柄で程よく肉の付いた身体と泣き黒子が妙にそそられる。
若い二人もいいが、こういった感じの人もなかなか・・・。
「なにか?」
「すみません、挨拶でしたね。」
あまり見すぎても失礼だな。
向こうからしたら若造みたいなものだし興味もないだろう。
「実は先日西通りで飲食店を開店しまして、ぜひ皆様にご利用いただけたらと思っているんです。」
「それはおめでとうございます。どんなお店ですか?」
「主にお酒と食事を提供しています。量もしっかりありますし、味には自信があるんです。」
「でも見ての通り小さいお店ですから、あまりお力になれないかもしれませんよ?」
「もちろんわかっています。その、差し出がましいお願いではあるんですけど、こちらのお客様に宣伝していただければと思いまして・・・。」
ここの客?
「冒険者向けのお店でしたか。」
「聞けば開店間もないにもかかわらず多くの冒険者でにぎわっているとか、お願いしますこちらに来られるお客様に当店をお勧めしてほしいんです!」
先程まで大人しく話をしていたと思ったら、急にカウンターまで駆け寄り俺の右手を両手で包んできた。
それどころか、強引に自分の胸に押し付けようとしてくる。
慌てて右手を引き抜くと、向こうも我に返ったのか顔を真っ赤にして手を引き下げた。
お互いに無言の時間が続く。
「あ、あの・・・。すみませんでした、つい勢いで・・・いやですよねこんなおばさんに。」
「年は関係ないが、そこまでする必要があるのか?」
「実は思っている以上にお客さんが来なくて・・・そんな時にこちらの話を聞きまして、特別な何かをされているのなら是非教えてもらえないかと。」
「で、実力行使に出た。」
実力行使と言われまた顔を真っ赤にして俯いてしまった。
やることに勢いがある割には小心者。
っていうか後先考えないタイプか?
買取屋に客を紹介しろと言いに来るぐらいだ、よっぽど客入りが悪いんだろう。
うーむ、どうしたものか。
「あれ、お客さん?」
何とも言えなく空気を察する事もなくエリザが裏から戻ってきた。
カウンター越しに向かい合う俺達をキョロキョロと交互に見るあたり遠慮がない。
「買取・・・ではなさそうですね。」
「あぁ。東通りに飲食店を開店したらしくてな、挨拶に来てくれたんだ。エリザ知ってるか?」
「東通り?うーん、ちょっとわかんないかも。」
冒険者同士のネットワークにも引っかかっていないようだ。
エリザって新しもの好きだからてっきり知っていると思ったんだがなぁ。
「そうですか・・・。」
「味はいいんだろ?」
「はい!味も量も他のお店に負けていない自信はあります!」
「でも客が来ない。何が悪いんだ?」
「見ての通りこの年ですから、冒険者の皆さんは若くて可愛い子のいるお店に行かれるみたいで・・・。」
「そんなことないと言いたいんだけど、確かにあるかも。私はそういうの気にしないけど、ほら、男はみんな若い子が好きだから。」
そう言いながら俺を見るのは止めてもらえないだろうか。
若ければいいってもんじゃない、むしろこの人なら余裕でストライクゾーンだ。
「それで、冒険者の多く出入りするこのお店に来たのですか。」
「その通りだ。冒険者を紹介してくれってな。」
「せっかく自分のお店が出来たのに、このままじゃ潰れてしまいます。お願いします!力を貸してください!」
エリザもそうだが何で女はこんなに感情の波が激しいんだ?
さっきまで大人しかったのにまたこれだ。
その点ミラはそんな感じが無いなぁ。
横にいる女店主を見比べていると不思議そうに首をかしげるミラ。
うん、そういう表情も好みだぞ。
何度も頭を下げる女店主を前に、俺はどうするべきか思案を巡らせるのだった。
当初の予想とは裏腹にそれなりの集客があり、ぶっちゃけ驚いている。
最初の二カ月ぐらいは暇だろうからいつも通り露店を出しておけばいいかぐらいの感覚でいたのだが、そんな暇もないぐらいに忙しい状況だ。
「毎度あり。」
「また見つけたら持ってきます!」
元気よく店を出ていく冒険者。
外では仲間が待っていたようで買取金額を聞いて歓声を上げていた。
「ふぅ。」
「疲れたか?」
「お手数をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。」
「魔物の素材は一目でわかりにくいからな、仕方がない。」
俺も鑑定スキルがあったから判別できただけだ。
畑違いの品が多い中よくやっていると思うよ。
「まだまだ勉強が足りません。」
「エリザに教えてもらえばいいさ、それに他の部分では本当によくやってくれている。」
「もったいないお言葉です。」
そう言いながらも表情は曇ったままだ。
先程買い取ったばかりの素材を箱に入れ裏の倉庫にもっていく。
『ニードルモールの針。体中が短い鋭利な毛で覆われており取り扱いには注意が必要。最近の平均取引価格は銅貨40枚、最安値が銅貨20枚、最高値が銅貨50枚、最終取引日は三日前と記録されています。』
ハリネズミじゃなくてハリモグラのようだ。
こんな毛で土の中に潜るのかと思ったら、天井に張り付いて落下してくるらしい。
それモグラじゃないよね?と突っ込みたくなるがそういう物らしい。
魔物ってマジ分からんな。
倉庫にはこの一か月で買い取った魔物の素材が山のように積み上げられている。
どれも取引板で見つけた時期によって価格の変動があるもので、当分は塩漬けすることになるだろう。
まさかこんなにもたくさん仕入れることになるとは思わなかった。
これも全部エリザのせいだ。
「おっはよ~。」
積み上げられた素材に頭を悩ませていると、その張本人がやって来たようだ。
最近俺が倉庫に行くタイミングで計ったかのように入ってくるよな。
監視されてるのか?
「こんにちはエリザ様。」
「シロウは?」
「シロウ様でしたら裏に・・・。」
「ここにいるぞ。」
「あ、いたいた。調子はいかが?」
「お陰様で大忙しだよ。当初の予定とは違う客ばかりだけどな。」
「えへへ、頑張りました。」
自分の手柄だと言わんばかりの笑みを浮かべるエリザ。
若干イラっとしたので頬を抓ろうと腕を伸ばすと華麗にかわされてしまった。
「なにするのよ!」
「イラっとしたんでな、つい。」
「どうしてよ!」
「予定では中級以上の冒険者がダンジョンで見つけた品々を持ってくる予定だったんだが、お前の宣伝のおかげで素材買取店みたいになっちまった。確かに金の卵ではあるんだが、この調子じゃ破産しちまうよ。」
「でも、素材があると嬉しいってシロウが言ったんじゃない。」
「あぁ言ったさ。だがな、物には限度ってもんがあるだろ?」
この一か月忙しかった理由。
それはエリザの宣伝が良かったからだ。
『新しくできた買取屋は金を貸さない代わりに不要なものを買い取ってくれる。特に素材はギルドより高い物もあるから一度は見に行った方がいい。』
そんな風に冒険者仲間に言ったもんだから、興味のある連中がこぞってやって来ては大量の素材を持ち込みだした。
もちろんギルドより安い品だってある。
最初はそういう物も持ち込まれたが、情報が冒険者の中で共有されるとギルドよりも高い品ばかりが持ち込まれるようになった訳だ。
この素材はギルド、この素材は買取屋。
そんな感じだろうな。
俺も馬鹿正直に全部答えたものだから、結果としてこういう状況になってしまったってわけだ。
今の所ギルドから警告はされていないが、あまり派手にやると言われることも有るだろう。
でもこの状況を作り出したのは俺じゃなくてエリザだからな?
文句はエリザに言ってほしいものだ。
「・・・やりすぎちゃった?」
「ちょっとな。だが、助かっているのもまた事実だ。よかったらミラに素材の見極め方を教えてやってくれ。」
「そんな事ならお安い御用よ!」
「エリザ様ご教授お願いします。」
「まっかせといて!」
下がり始めたテンションが一気に跳ね上がる。
相変わらず賑やかな奴だ。
「表は俺が見てるから倉庫整理のついでに勉強して来い。」
「はい。」
勝手知ったる俺の店。
エリザがミラの手を引いて裏へと消えていく。
裏口の戸が閉まると同時に静寂が戻ってきた。
やれやれだ。
「だがマジで何とかしないとなぁ。」
それなりにあった蓄えもジリジリと減少している。
もちろん素材を売りに出せばお金は戻ってくるのだが、それでは結局マイナスだ。
普通の買い取りもないわけじゃないので、それを何とか売り切って凌ぐしかないだろう。
ミラがまとめてくれている出荷予定表と在庫票を見比べながら収益を逆算していく。
とりあえず後一か月。
それを耐え切れば倉庫に眠っている素材を一つ吐き出すことが出来る。
『アイアンアラーニャの糸。通常のアラーニャ種よりも固い糸は革鎧や梱包に使用されている。最近の平均取引価格は銅貨81枚、最安値が銅貨60枚、最高値が銀貨1枚、最終取引日は五日前と記録されています。』
蜘蛛の糸なのだが、普通のやつと違ってかなり丈夫らしい。
これで縛れば荷崩れがしにくくかつ傷みにくい。
3~4月がこの世界における引っ越しシーズンらしく、梱包用として重宝するそうだ。
また、冒険者のランクアップ試験が6月にあるらしく、防具生産用に前倒しで需要が多いらしい。
常に先を見て行動すれば儲かる。
これは鉄則なんだが・・・。
「不良在庫をどれだけ現金化できるかだな。」
予定表とは別に倉庫内の目録と、店内の在庫を確認する。
やはりネックはずっと残っている食器だろう。
売れれば金貨5枚にはなる。
だが、それも売れたらの話だ。
後は冒険者から買い取った品と露店で見つけてきた奴を適切に処理出来れば・・・。
「でもなぁ、素材の買い取りは俺がいないと。」
露店に行って店を出せればいいんだが、中々それも上手くいかない。
ミラだけで店を任せられない以上俺が残る必要がある。
ココはやはりエリザにお願いして露店を出すか・・・。
いや、ミラに任せるという手もあるな。
販売だけなら十分にできるだろう。
「戻ってきたら提案してみるか。」
いまだ二人は戻らずミラが熱心に勉強しているんだろう。
なんだかんだ言ってあの二人仲いいよな。
キャラが真逆だから合わないかと思っていたが、人って難しいものだ。
「すみませ~ん。」
と、カウンターに肘をつき考え事をしていると気づかないうちにお客が入ってきていた。
「あ、いらっしゃい。買取ですか?」
「いえ、今日は挨拶に来たんです。」
そこにいたのは一人の女性。
見た目は30代後半。
少し小柄で程よく肉の付いた身体と泣き黒子が妙にそそられる。
若い二人もいいが、こういった感じの人もなかなか・・・。
「なにか?」
「すみません、挨拶でしたね。」
あまり見すぎても失礼だな。
向こうからしたら若造みたいなものだし興味もないだろう。
「実は先日西通りで飲食店を開店しまして、ぜひ皆様にご利用いただけたらと思っているんです。」
「それはおめでとうございます。どんなお店ですか?」
「主にお酒と食事を提供しています。量もしっかりありますし、味には自信があるんです。」
「でも見ての通り小さいお店ですから、あまりお力になれないかもしれませんよ?」
「もちろんわかっています。その、差し出がましいお願いではあるんですけど、こちらのお客様に宣伝していただければと思いまして・・・。」
ここの客?
「冒険者向けのお店でしたか。」
「聞けば開店間もないにもかかわらず多くの冒険者でにぎわっているとか、お願いしますこちらに来られるお客様に当店をお勧めしてほしいんです!」
先程まで大人しく話をしていたと思ったら、急にカウンターまで駆け寄り俺の右手を両手で包んできた。
それどころか、強引に自分の胸に押し付けようとしてくる。
慌てて右手を引き抜くと、向こうも我に返ったのか顔を真っ赤にして手を引き下げた。
お互いに無言の時間が続く。
「あ、あの・・・。すみませんでした、つい勢いで・・・いやですよねこんなおばさんに。」
「年は関係ないが、そこまでする必要があるのか?」
「実は思っている以上にお客さんが来なくて・・・そんな時にこちらの話を聞きまして、特別な何かをされているのなら是非教えてもらえないかと。」
「で、実力行使に出た。」
実力行使と言われまた顔を真っ赤にして俯いてしまった。
やることに勢いがある割には小心者。
っていうか後先考えないタイプか?
買取屋に客を紹介しろと言いに来るぐらいだ、よっぽど客入りが悪いんだろう。
うーむ、どうしたものか。
「あれ、お客さん?」
何とも言えなく空気を察する事もなくエリザが裏から戻ってきた。
カウンター越しに向かい合う俺達をキョロキョロと交互に見るあたり遠慮がない。
「買取・・・ではなさそうですね。」
「あぁ。東通りに飲食店を開店したらしくてな、挨拶に来てくれたんだ。エリザ知ってるか?」
「東通り?うーん、ちょっとわかんないかも。」
冒険者同士のネットワークにも引っかかっていないようだ。
エリザって新しもの好きだからてっきり知っていると思ったんだがなぁ。
「そうですか・・・。」
「味はいいんだろ?」
「はい!味も量も他のお店に負けていない自信はあります!」
「でも客が来ない。何が悪いんだ?」
「見ての通りこの年ですから、冒険者の皆さんは若くて可愛い子のいるお店に行かれるみたいで・・・。」
「そんなことないと言いたいんだけど、確かにあるかも。私はそういうの気にしないけど、ほら、男はみんな若い子が好きだから。」
そう言いながら俺を見るのは止めてもらえないだろうか。
若ければいいってもんじゃない、むしろこの人なら余裕でストライクゾーンだ。
「それで、冒険者の多く出入りするこのお店に来たのですか。」
「その通りだ。冒険者を紹介してくれってな。」
「せっかく自分のお店が出来たのに、このままじゃ潰れてしまいます。お願いします!力を貸してください!」
エリザもそうだが何で女はこんなに感情の波が激しいんだ?
さっきまで大人しかったのにまたこれだ。
その点ミラはそんな感じが無いなぁ。
横にいる女店主を見比べていると不思議そうに首をかしげるミラ。
うん、そういう表情も好みだぞ。
何度も頭を下げる女店主を前に、俺はどうするべきか思案を巡らせるのだった。
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