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48.転売屋は在庫の処分先を見つける
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「まぁ、何にするにしても味が分からないことには話が始まらない。確かにそう言ったが・・・。」
「美味しい!次のやつ頂戴!」
「はい!ただいま!」
まるで掃除機のように目の前の料理がエリザの腹に消えていく。
前々からよく食うやつだと思ってはいたが、お前はどこのフードファイターだよ。
お前が戦うのは魔物だろ?
料理と戦ってるんじゃねぇよ。
「シロウ様はお食べにならないのですか?」
「これでも食べてるつもりだが、出てくるそばから無くなってるんでな。」
「エリザ様の勢いは素晴らしいですね。」
「素晴らしいってレベルなのか?そりゃあ作っている方からしたら気持ちいいだろうが、見ているだけで胸いっぱいになるぞ。」
エリザに隠れてさりげなくミラも食べてるよな。
今テーブルに置かれている料理で5皿目。
その三分の一はミラの腹に納まっているのを俺は知っているぞ。
痩せの大食いって奴だろうか。
家ではそんな感じなかったけど、遠慮していたのか?
「次、いきます!」
「はーい!」
厨房から大皿に乗った肉塊が運ばれてくる。
さっきはボアの肉、その前がディヒーアの肉、今度はなんだ?
「ワイルドホーンのもも肉をワインで煮込んであります。お好みで横の香辛料を振って召し上がって下さい。」
「すっごーい!これで一人前?」
「一応二人分のつもりです。」
「これでいくらなんだ?」
「銅貨12枚で出しています。」
ぶっちゃけ安い。
いや、安すぎるといっていい。
一人前で考えると高いように見えるが、すべて大皿料理なので複数人で食べることを想定してある。
これだって量的には三人前はあるだろう。
味も申し分ない。
酒も水で薄めるようなことはせず、しかもちゃんと冷蔵用の藏で冷やしてある。
これでは流行らない理由が分からないんだが・・・。
「なぁ、イライザさん。今までどんな宣伝してきたんだ?」
「お店のビラを配ったり、露店で声をかけたり色々です。」
「でもさ、ここの料理って一般向けじゃないよな。」
「そうですね、冒険者の皆さんに楽しんでもらえるようにしてます。」
「冒険者ギルドとかには行ったのか?」
「一度お願いに入ったんですけど、ギルドとしては宣伝できないと言われて、それっきりです。」
エリザが料理にかぶりつく姿を嬉しそうに見ているが、その表情には曇りが残る。
どうして流行らないんだろう。
開店してからずっと悩み続けてきたんだろうな。
「冒険者にアプローチしたことは?」
「何度もダンジョン帰りの冒険者さんに声を掛けましたけど、みなさんなじみの店に行くばかりで。もちろん来てくれた方もいますが、なかなか二度目が・・・。やっぱり私がオバサンだからですよね。」
「そんなことはありません。イライザ様は十分にお美しいですよ。」
「ありがとうございますミラさん。でも、自分でもわかってるんです。若い子には敵わないなって。」
ハァ、とため息をついて調理場へ戻るイライザさん。
世の中若い娘が全てではないと思うんだが、この世界では俺みたいな考えは特殊なのか?
いやいや、娼館にはそれなりの年齢の娼婦もいたし決して需要がないわけじゃない。
ってことはだ。
「単純に宣伝不足が原因だろうな。」
「私もそう思います。エリザ様の食いつきを見ても、決して味が悪いわけではありません」
「元は老舗の料理屋だったらしいし、客が来ないような場所じゃない。」
「後足りないものがあるとすればなんでしょうか。」
「インパクトだろ。一回で覚えてもらえるような何かがあれば流行るんじゃないか?」
その道のプロってわけじゃないから確証はないが、やっぱり流行る店は何か記憶に残るものがある。
立ち食いのステーキ屋とか、釣り堀付きの居酒屋とか。
二度漬け禁止の串揚げなんかも、味よりも二度漬けって行為で知名度をあげたようなものだ。
店の名前でインパクトを残すような場所もあるが・・・。
『一角亭』なんてどこにでもありそうな名前じゃなぁ。
難しいだろう。
「おかわり!」
「早すぎだろ!少しは遠慮して食ったらどうなんだ?」
「だって、味が分からないのに宣伝できないよ。でも絶対流行る、この私が保証する!」
「確かに美味い、だがそれだけだ。ぶっちゃけ同じような店はほかにもあるしな。マスターの料理も美味いだろ?」
「そうね。比べたら・・・どっちも美味しいかな。」
「だろ?つまりはそういう事だよ。」
美味いだけじゃ店は流行らない。
値段だけの俺みたいな商売と違い、その辺も考えないといけないのが飲食業だ。
俺には絶対に無理だな。
「美味しいだけじゃダメなんですね。」
「不味かったら話にならないから、改良次第で何とかなるだろ・・・多分。」
「なんで言い切らないのよ!」
「専門家じゃないんだ、適当なこと言えるか!」
エリザに言い返しながらふと勢いで立ち上がってしまった。
座りなおすのもあれなのでそのまま店の中を見て回る。
四人掛けの円形テーブルが4つ、カウンター6席、店の奥に四人掛けのボックス席が2つ。
総席数26席か。
これを一人で回すとなると結構大変だな。
でもまぁ、マスターも一人でやってるし出来ないことはないんだろう。
給仕がいれば問題は解決するはずだ。
ん・・・?
あれはなんだ?
「なぁ、ここはなんだったんだ?」
店の奥に空きスペースがあるのを発見した。
奥行きは3mぐらい。
ちょうどボックス席の裏側でトイレがそこにあったといわれても不思議じゃない。
穴は開いていないし扉もないので違うんだろうけど・・・。
「そこは前のお店が倉庫に使っていたようなんですけど、扉が汚かったので壊してしまったんです。」
「だから石床になってるのか。」
「何か重たいものを置かれていたんでしょうね。」
なるほどなぁ。
わざわざボックス席の奥を壁にしてこの空間を作ったのか。
だが、倉庫にしては奥の荷物を取り出しにくいと思うんだが・・・。
「今は何に使ってるんだ?」
「特に何も。時々お客さんが間違って入ってしまうので、今は木箱を置いているだけです。」
「ふ~ん・・・。」
通路の奥に行けないように手前に木箱が置いてある。
誰かがここで飲み食いしていたんだろうか、よく見ると通路の奥に食べかすなどが捨ててあった。
うーん。
なんだか昔海外で行った射撃場みたいな感じだな。
ほら、奥に的を設置すればまさにそんな感じだ。
ここで射撃大会でもやるか?
でも銃はないし、弓だと構えるスペースがないなぁ。
せいぜい何かを投げるぐらいか。
手裏剣とか?
それか石でもいいかもしれない。
「なぁ、エリザ。」
「なぁに?」
「冒険者でも何かを壊したい時ってあるか?例えば物を叩きつけたり、投げたり。」
「そりゃあるわよ。」
「普段魔物ぶった切ってるだろ?」
「それとこれとは話が別よ。宝箱の中身がゴミだった時なんかはキィィー!ってなるわね。」
「酒を飲みながら思い出したりも?」
「あー、あるある。それでみんなで愚痴るのよね。」
なるほどなるほど。
冒険者でもストレスはたまると。
ま、当然だよな。
「そんなときはどうするんだ?」
「飲む。」
「他は?」
「食べる。」
「飲み食い以外なら?」
「え~、叫んだり手ごろなもの投げたりするかな。」
「それだ!」
エリザとのやりとりで固まらなかった考えがまるでパズルのピースが合うようにピッタリと嵌った。
「どうしたのよ、そんな大声出して。」
「もし飲みながら物を壊していいって言われたらどうする?」
「え!喜んで壊すわよ。」
「壊れる時にいい感じの音が鳴ったら?」
「最高ね!」
だよな。
俺も同じ答えだ。
やっぱり物を壊すのには破壊音もセットじゃないと。
無音のままの破壊なんて何も面白くないからな。
「ご主人様、いったい何を考えておられるんですか?」
「この店を流行らせる方法だよ。冒険者を相手にするのにピッタリのやつさ。」
「そんな方法があるんですか!?」
さっきまで暗い顔で俯いていたイライザさんが目を輝かせている。
いいねぇ、やっぱり飯屋の奥さんは笑顔でなくっちゃ。
不景気な顔をしていたらそれこそ客が寄り付かないだろ?
「で、物は相談なんだが・・・。」
「何でもやります!このお店が流行るなら喜んで!」
「だめよイライザさん、そんなこと言ったらシロウに食べられちゃうわよ?」
「別に構いません!」
いや、構いませんって・・・。
確かに魅力的ではあるが、流石にこの二人の前で抱きますとは言えないだろうが。
え、抱いていいの?
マジで言ってる?
「シロウ様、どうされるおつもりですか?」
「うちの倉庫に使ってない食器があるんだが、格安で買わないか?」
俺の提案を聞いた時のイライザさんの顔と言ったら・・・。
「美味しい!次のやつ頂戴!」
「はい!ただいま!」
まるで掃除機のように目の前の料理がエリザの腹に消えていく。
前々からよく食うやつだと思ってはいたが、お前はどこのフードファイターだよ。
お前が戦うのは魔物だろ?
料理と戦ってるんじゃねぇよ。
「シロウ様はお食べにならないのですか?」
「これでも食べてるつもりだが、出てくるそばから無くなってるんでな。」
「エリザ様の勢いは素晴らしいですね。」
「素晴らしいってレベルなのか?そりゃあ作っている方からしたら気持ちいいだろうが、見ているだけで胸いっぱいになるぞ。」
エリザに隠れてさりげなくミラも食べてるよな。
今テーブルに置かれている料理で5皿目。
その三分の一はミラの腹に納まっているのを俺は知っているぞ。
痩せの大食いって奴だろうか。
家ではそんな感じなかったけど、遠慮していたのか?
「次、いきます!」
「はーい!」
厨房から大皿に乗った肉塊が運ばれてくる。
さっきはボアの肉、その前がディヒーアの肉、今度はなんだ?
「ワイルドホーンのもも肉をワインで煮込んであります。お好みで横の香辛料を振って召し上がって下さい。」
「すっごーい!これで一人前?」
「一応二人分のつもりです。」
「これでいくらなんだ?」
「銅貨12枚で出しています。」
ぶっちゃけ安い。
いや、安すぎるといっていい。
一人前で考えると高いように見えるが、すべて大皿料理なので複数人で食べることを想定してある。
これだって量的には三人前はあるだろう。
味も申し分ない。
酒も水で薄めるようなことはせず、しかもちゃんと冷蔵用の藏で冷やしてある。
これでは流行らない理由が分からないんだが・・・。
「なぁ、イライザさん。今までどんな宣伝してきたんだ?」
「お店のビラを配ったり、露店で声をかけたり色々です。」
「でもさ、ここの料理って一般向けじゃないよな。」
「そうですね、冒険者の皆さんに楽しんでもらえるようにしてます。」
「冒険者ギルドとかには行ったのか?」
「一度お願いに入ったんですけど、ギルドとしては宣伝できないと言われて、それっきりです。」
エリザが料理にかぶりつく姿を嬉しそうに見ているが、その表情には曇りが残る。
どうして流行らないんだろう。
開店してからずっと悩み続けてきたんだろうな。
「冒険者にアプローチしたことは?」
「何度もダンジョン帰りの冒険者さんに声を掛けましたけど、みなさんなじみの店に行くばかりで。もちろん来てくれた方もいますが、なかなか二度目が・・・。やっぱり私がオバサンだからですよね。」
「そんなことはありません。イライザ様は十分にお美しいですよ。」
「ありがとうございますミラさん。でも、自分でもわかってるんです。若い子には敵わないなって。」
ハァ、とため息をついて調理場へ戻るイライザさん。
世の中若い娘が全てではないと思うんだが、この世界では俺みたいな考えは特殊なのか?
いやいや、娼館にはそれなりの年齢の娼婦もいたし決して需要がないわけじゃない。
ってことはだ。
「単純に宣伝不足が原因だろうな。」
「私もそう思います。エリザ様の食いつきを見ても、決して味が悪いわけではありません」
「元は老舗の料理屋だったらしいし、客が来ないような場所じゃない。」
「後足りないものがあるとすればなんでしょうか。」
「インパクトだろ。一回で覚えてもらえるような何かがあれば流行るんじゃないか?」
その道のプロってわけじゃないから確証はないが、やっぱり流行る店は何か記憶に残るものがある。
立ち食いのステーキ屋とか、釣り堀付きの居酒屋とか。
二度漬け禁止の串揚げなんかも、味よりも二度漬けって行為で知名度をあげたようなものだ。
店の名前でインパクトを残すような場所もあるが・・・。
『一角亭』なんてどこにでもありそうな名前じゃなぁ。
難しいだろう。
「おかわり!」
「早すぎだろ!少しは遠慮して食ったらどうなんだ?」
「だって、味が分からないのに宣伝できないよ。でも絶対流行る、この私が保証する!」
「確かに美味い、だがそれだけだ。ぶっちゃけ同じような店はほかにもあるしな。マスターの料理も美味いだろ?」
「そうね。比べたら・・・どっちも美味しいかな。」
「だろ?つまりはそういう事だよ。」
美味いだけじゃ店は流行らない。
値段だけの俺みたいな商売と違い、その辺も考えないといけないのが飲食業だ。
俺には絶対に無理だな。
「美味しいだけじゃダメなんですね。」
「不味かったら話にならないから、改良次第で何とかなるだろ・・・多分。」
「なんで言い切らないのよ!」
「専門家じゃないんだ、適当なこと言えるか!」
エリザに言い返しながらふと勢いで立ち上がってしまった。
座りなおすのもあれなのでそのまま店の中を見て回る。
四人掛けの円形テーブルが4つ、カウンター6席、店の奥に四人掛けのボックス席が2つ。
総席数26席か。
これを一人で回すとなると結構大変だな。
でもまぁ、マスターも一人でやってるし出来ないことはないんだろう。
給仕がいれば問題は解決するはずだ。
ん・・・?
あれはなんだ?
「なぁ、ここはなんだったんだ?」
店の奥に空きスペースがあるのを発見した。
奥行きは3mぐらい。
ちょうどボックス席の裏側でトイレがそこにあったといわれても不思議じゃない。
穴は開いていないし扉もないので違うんだろうけど・・・。
「そこは前のお店が倉庫に使っていたようなんですけど、扉が汚かったので壊してしまったんです。」
「だから石床になってるのか。」
「何か重たいものを置かれていたんでしょうね。」
なるほどなぁ。
わざわざボックス席の奥を壁にしてこの空間を作ったのか。
だが、倉庫にしては奥の荷物を取り出しにくいと思うんだが・・・。
「今は何に使ってるんだ?」
「特に何も。時々お客さんが間違って入ってしまうので、今は木箱を置いているだけです。」
「ふ~ん・・・。」
通路の奥に行けないように手前に木箱が置いてある。
誰かがここで飲み食いしていたんだろうか、よく見ると通路の奥に食べかすなどが捨ててあった。
うーん。
なんだか昔海外で行った射撃場みたいな感じだな。
ほら、奥に的を設置すればまさにそんな感じだ。
ここで射撃大会でもやるか?
でも銃はないし、弓だと構えるスペースがないなぁ。
せいぜい何かを投げるぐらいか。
手裏剣とか?
それか石でもいいかもしれない。
「なぁ、エリザ。」
「なぁに?」
「冒険者でも何かを壊したい時ってあるか?例えば物を叩きつけたり、投げたり。」
「そりゃあるわよ。」
「普段魔物ぶった切ってるだろ?」
「それとこれとは話が別よ。宝箱の中身がゴミだった時なんかはキィィー!ってなるわね。」
「酒を飲みながら思い出したりも?」
「あー、あるある。それでみんなで愚痴るのよね。」
なるほどなるほど。
冒険者でもストレスはたまると。
ま、当然だよな。
「そんなときはどうするんだ?」
「飲む。」
「他は?」
「食べる。」
「飲み食い以外なら?」
「え~、叫んだり手ごろなもの投げたりするかな。」
「それだ!」
エリザとのやりとりで固まらなかった考えがまるでパズルのピースが合うようにピッタリと嵌った。
「どうしたのよ、そんな大声出して。」
「もし飲みながら物を壊していいって言われたらどうする?」
「え!喜んで壊すわよ。」
「壊れる時にいい感じの音が鳴ったら?」
「最高ね!」
だよな。
俺も同じ答えだ。
やっぱり物を壊すのには破壊音もセットじゃないと。
無音のままの破壊なんて何も面白くないからな。
「ご主人様、いったい何を考えておられるんですか?」
「この店を流行らせる方法だよ。冒険者を相手にするのにピッタリのやつさ。」
「そんな方法があるんですか!?」
さっきまで暗い顔で俯いていたイライザさんが目を輝かせている。
いいねぇ、やっぱり飯屋の奥さんは笑顔でなくっちゃ。
不景気な顔をしていたらそれこそ客が寄り付かないだろ?
「で、物は相談なんだが・・・。」
「何でもやります!このお店が流行るなら喜んで!」
「だめよイライザさん、そんなこと言ったらシロウに食べられちゃうわよ?」
「別に構いません!」
いや、構いませんって・・・。
確かに魅力的ではあるが、流石にこの二人の前で抱きますとは言えないだろうが。
え、抱いていいの?
マジで言ってる?
「シロウ様、どうされるおつもりですか?」
「うちの倉庫に使ってない食器があるんだが、格安で買わないか?」
俺の提案を聞いた時のイライザさんの顔と言ったら・・・。
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