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117.転売屋は地下鉱山から発掘する
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はい、俺が間違っていました。
あれはただのキノコじゃない。
食べるに値する、待つに値する食べ物だった。
噛んだ瞬間のこりこりとした食感、それでいてジューシーで噛めば噛むほど独特の味が口いっぱいにあふれてくる。
あれを食べずして夏をこえられるかというオッチャンのセリフにも納得だ。
一つだけ気に入らなかったのはエリザの勝ち誇ったような顔だ。
昨晩あれだけヒーヒー言わせてやったというのに、また次の順番が来たらその天狗になった鼻をへし折ってやる。
だが美味かった。
美味かったなぁ・・・。
「また狩ってきてあげるからそんな顔しないでよ。」
「別に俺はそんな顔してないぞ。」
「うそ、食べたそうな顔してたわよ。」
「それはアレだ、胸だ。」
「はぁ?」
「揉みたいと思っていただけだ。」
「シロウ様、お揉みになりますか?」
渾身の言い訳に大真面目に答えるミラ。
もちろん揉ませて頂きましたが何か?
いやぁ、今日も良い揉みごたえでした。
「ふぅ満足した。それで、依頼の方はどんな感じだ?」
「かなりの量が持ち込まれてるみたい。この分だと明日には必要数集まるんじゃないかしら。」
「少なめにしていて正解だったな。」
アネットには酔い覚ましの薬も作ってもらわなきゃならない。
今回はスポット的な扱いだから買い取り量を減らしたんだ。
冒険者全員が欲しがっている薬でもないし、多少儲かる程度だからあまり時間をかけたくないというのもある。
「ここにも持ち込まれてるんでしょ?」
「持ち込まれてるがギルドに行くように言っている。」
「徹底してるのね。」
「そりゃな、ここでうちも買い取ったら依頼を出した意味がない。」
今回はギルドに恩を売るための依頼だ。
そこで俺が出たら何の意味もなくなってしまう。
薬だってキノコ狩りに行く冒険者の為だし、買ってきたキノコは殆どギルドを経由して出荷されることになっている。
まさにおいしい商売というやつだな。
「あの~。」
と、その時扉が開き客が入ってきた。
「ん?ルティエじゃないか。」
と思ったら客ではなく裏の細工職人だった。
ここに来るなんて珍しいな。
「そんなところにいないで入りなさいよ。」
「いえ、今回は私じゃなくて、その~。」
「なんだハッキリしないな、客がいるのか?」
「いるというか来たというか・・・。」
これまたはっきりしない。
仕方なく玄関まで行くとものすごい異臭が鼻をつく。
思わず鼻をつまんでしまった。
「なんだこの臭いは。」
「ウチそんな臭いかなぁ。」
「ん?誰だ?」
「ここよここ、もっと下、そうそこ!」
聴こえてくる通りに視線を動かすと、ルティエのふくらはぎの場所に鼠がいた。
「なんだネズミか。」
「ネズミとは失礼やな、これでも立派な鼠人なんやで!」
「もぅ、そんないい方してシロウさん困ってるよ。今日はお願いに来たんでしょ。」
「せやったせやった。兄ちゃん堪忍してや。」
「なんだかよくわからんがこの臭いはマジできつい、なんとかしてからもう一回来てくれ。」
「なぁルティエ、ウチそんなに臭い?」
「うん、私もそろそろ限界。」
関西弁をしゃべる臭い鼠。
いやぁ鼠ってしゃべるんだな。
鼻をつまみながらそんなことを考えていた。
「いや~、お湯までもらって兄ちゃんすまんなぁ。」
「あのままじゃルティエが酸欠で死にそうだったからな。店に臭いが移っても困る。」
「普段下水におるから何とも思わんのやけど、やっぱたまには綺麗にせなあかんね。」
手桶に入れたお湯につかりながら鼠が気持ちよさそうにしている。
これはなんのファンタジーだ?
いや、異世界だからありなのか。
「本当にごめんなさい。」
「別にルティエが謝る必要はない。客なんだろ?」
「せや!とっておきの品を持ってきたお客様やで!せやからこれぐらいもてなしてもらって当然なんや!」
「とっておきかどうかは俺が判断する。っていうかあの臭いは下水のせいだったのか。」
「ダスキーは下水道を掃除するお店をしてるの。」
「せやで、とっても偉いんや!」
ほぉ、清掃会社の社長か。
鼠だけど。
「で、その偉いさんがうちに何の用だ?」
「ここは何でも買い取ってくれるんやろ?」
「あぁ、価値のあるものは買い取らせてもらっている。」
「実はな、職場で見つけたとっておきの物があるんやがそれを買い取ってほしいんや。」
「下水でか?」
「せや。あんたらはゴミやと思うかもしれんが、ゴミの中にもすごいもんはあるんやで。」
まぁわからんでもない。
俺も過去に何度かトイレに物を流してしまったことがある。
指輪を流したって話も聞いたことはあるし、そういったものがたくさん眠っていそうだよな。
「とりあえず見せてくれ。臭くないよな?」
「ここに来る前にちゃんと掃除と消毒してるから安心しぃな。」
「そりゃ助かる。」
「ルティエ、さっきの袋渡したってんか?」
「は~い。」
ちなみに鼠はカウンターの上で手桶に浸かり、ルティエはその前に座っている。
鼠に言われルティエが袋の中に入っていたものをトレイの上にザーッと出した。
そりゃもうザーッと。
「・・・すごい量だな。」
「せやろ、これだけのモノが下水には眠っとるんや。」
色とりどりの石がトレイの上で光り輝いている。
後ろで様子を見ていたミラとエリザが身を乗り出してきた。
「綺麗ね。」
「はい、これだけの宝石は見たことがありません。」
「とはいえ全部下水道から出てきたやつだけどな。都市鉱山とはよく言ったものだ。」
「どういうこと?」
「街の下に鉱山があるって例えだ。」
「兄ちゃんそれおもろいな!下水っていう鉱山やけどな。」
アッハッハ鼠が大声を出して笑う。
見た目鼠なのでオスなのかメスなのかすらわからないが、人前で風呂に入れるぐらいだからオスなんだろう。
いや、気にしないだけのメスかもしれない。
一人称ウチだったしな。
そうだとしたらかなりメンタル強いだろこの鼠。
「で、この宝石をどうしてほしいんだ?」
「買い取ってほしいに決まってるやんか。」
「その様子じゃ普段はルティエに買い取ってもらってるんだろ?ならそっちに持っていけばいいじゃないか。」
「普段はそうやったんやけど、最近この子涙貝に夢中やんか、買い手がつかんねん。」
「そんだけ小さな宝石ばっかじゃそうなるだろうなぁ。」
大粒の石ならともかくトレイの上に転がるのはどれも米粒大の小さな宝石ばかり。
多少大きいのもあるが、それでも小石程度だ。
「ほんでな、ルティエが兄ちゃんなら買ってくれる言うから来てみたんや。」
「そりゃ何でも買い取りはするが・・・。」
とりあえずいくつか手に取ってみる。
ルビー、ガーネット、ダイヤ、サファイア、アクアマリン、トパーズ、ジェイド、エメラルド。
名だたる宝石勢揃いという感じだ。
これで小指の先ほどの大きさがあればそれだけでも大金持ちだっただろうが、どれも米粒程度だ。
だが鑑定してみて面白いことに気が付いた。
『ルビー。火の加護を加える。アクアマリン。水の加護を加える。トパーズ。土の加護を加える。etc・・・』
てな感じで各宝石にはそれぞれの属性に対する加護を加える効果があるらしい。
恐らく宝石の大きさによって加護の量も変わるんだろうな。
クリムゾンティアなんかはかなり大きかったし、効果も付与では無く授けるだったた気がする。
「どや?金貨5枚いや10枚でも損はないで!」
「いや、大損だろ。ルティエ以外に使うやつがいなくてその本人が使わないって言ってるんだから。」
「そこを何とか!兄ちゃんが買ってくれなかったらうちらは破産や!」
「破産って言われてもなぁ。ルティエ、他に使い道あるのか?」
「職人仲間が使いたいっていうかもしれないけど、みんなお金ないから。」
「だよなぁ。」
「そないな事言わんといてぇなぁ。」
鼠がなにやら悲しげな声を上げているが俺も商売だ。
金にならない仕事はしない。
それが例え親しいルティエが連れてきた客でもだ。
「金貨5枚、いや3枚でもいい!お願いや兄ちゃん、頼むわ。」
「値段の問題じゃない、需要があるかどうかの話だ。金にならない品を買い取るほど金は余ってないんだよ。」
「シロウさんどうしてもだめですか?私の方が落ち着いたらそれを買い取らせてもらうとか。」
「それや!それでいこ!」
「じゃあそれは何時なんだ?明日か?来月か?」
「それは・・・。」
「それをはっきりしてもらわない事には話にならないな。」
厳しいようだがこれも商売だ。
どれだけ素晴らしい品を目の前に並べられても需要がなければ意味がない。
さっきも言ったが不良在庫を抱えるほどの余力は無いんだ。
「うぅ。」
「アカンのか・・・。」
鼠が手桶のなかでうなだれている。
ってかこいつ長風呂だな。
のぼせたりしないんだろうか。
はてさて、どうしたもんか。
使い道のないゴミを買うわけにはいかないが・・・。
ゴミをカネに変えるのもまた俺の仕事だよな。
鼠がルティエを連れてきたのも縁のおかげみたいだし、その縁に乗っかってやるか。
「ルティエ、今の予約状況はどんな感じだ?」
「今は前みたいに詰め込んでないよ、ちゃんとお休みしてるから。」
「じゃあ息抜きできるよな。」
「息抜き?うん、ご飯食べたり散歩したりしてる。」
「アクセサリーを作るのはどうだ?」
「え?」
「最近同じような物作って飽きてきただろ。」
「えへへ、うん、ちょっと・・・。」
恥ずかしそうに頭をかくルティエ。
最近は涙貝の加工ばかりだからな、俺が頼んだ仕事だし気晴らしも必要だろう。
「エリザ、女性の冒険者は普段どんなアクセサリーをつけるんだ?」
「ん~、ピアスとか指輪とかあまり邪魔にならないのかな。」
「そういうのに機能性は求めるのか?」
「どうかな。体力の指輪とかそういうのだと嬉しいけど、見た目重視かも。」
「じゃあ見た目に加えて僅かでも属性の加護がついたらどうだ?」
「それすっごい嬉しいかも。」
「あったら買うか?」
「買う!」
と、現役は申しているわけで。
最悪責任はエリザに押し付ければいいか。
売れるって言ったのこいつだもんな。
「よし、金貨3枚で買ってやる。」
「金貨5枚はアカンか?」
「無理だな、出せて金貨4枚だ。」
「しゃあないか、買ってくれるだけめっけもんやな。」
トレイの上の宝石をザーッと袋に戻し、代わりに金貨を四枚積み上げる。
入浴中の鼠は受け取れないので代わりにルティエが受け取った。
それと一緒に宝石の入った袋も渡す。
「ルティエ、良い息抜きが出来たぞ。頑張ってくれ」
「うん!」
「可愛いのが出来たら見せてね、いっぱい買うから。」
「ありがとうございますエリザさん!」
手桶の中で大きなため息をつく鼠。
そいつの拾ってきた下水のお宝。
これがどれだけ化けるか、見ものだな。
あれはただのキノコじゃない。
食べるに値する、待つに値する食べ物だった。
噛んだ瞬間のこりこりとした食感、それでいてジューシーで噛めば噛むほど独特の味が口いっぱいにあふれてくる。
あれを食べずして夏をこえられるかというオッチャンのセリフにも納得だ。
一つだけ気に入らなかったのはエリザの勝ち誇ったような顔だ。
昨晩あれだけヒーヒー言わせてやったというのに、また次の順番が来たらその天狗になった鼻をへし折ってやる。
だが美味かった。
美味かったなぁ・・・。
「また狩ってきてあげるからそんな顔しないでよ。」
「別に俺はそんな顔してないぞ。」
「うそ、食べたそうな顔してたわよ。」
「それはアレだ、胸だ。」
「はぁ?」
「揉みたいと思っていただけだ。」
「シロウ様、お揉みになりますか?」
渾身の言い訳に大真面目に答えるミラ。
もちろん揉ませて頂きましたが何か?
いやぁ、今日も良い揉みごたえでした。
「ふぅ満足した。それで、依頼の方はどんな感じだ?」
「かなりの量が持ち込まれてるみたい。この分だと明日には必要数集まるんじゃないかしら。」
「少なめにしていて正解だったな。」
アネットには酔い覚ましの薬も作ってもらわなきゃならない。
今回はスポット的な扱いだから買い取り量を減らしたんだ。
冒険者全員が欲しがっている薬でもないし、多少儲かる程度だからあまり時間をかけたくないというのもある。
「ここにも持ち込まれてるんでしょ?」
「持ち込まれてるがギルドに行くように言っている。」
「徹底してるのね。」
「そりゃな、ここでうちも買い取ったら依頼を出した意味がない。」
今回はギルドに恩を売るための依頼だ。
そこで俺が出たら何の意味もなくなってしまう。
薬だってキノコ狩りに行く冒険者の為だし、買ってきたキノコは殆どギルドを経由して出荷されることになっている。
まさにおいしい商売というやつだな。
「あの~。」
と、その時扉が開き客が入ってきた。
「ん?ルティエじゃないか。」
と思ったら客ではなく裏の細工職人だった。
ここに来るなんて珍しいな。
「そんなところにいないで入りなさいよ。」
「いえ、今回は私じゃなくて、その~。」
「なんだハッキリしないな、客がいるのか?」
「いるというか来たというか・・・。」
これまたはっきりしない。
仕方なく玄関まで行くとものすごい異臭が鼻をつく。
思わず鼻をつまんでしまった。
「なんだこの臭いは。」
「ウチそんな臭いかなぁ。」
「ん?誰だ?」
「ここよここ、もっと下、そうそこ!」
聴こえてくる通りに視線を動かすと、ルティエのふくらはぎの場所に鼠がいた。
「なんだネズミか。」
「ネズミとは失礼やな、これでも立派な鼠人なんやで!」
「もぅ、そんないい方してシロウさん困ってるよ。今日はお願いに来たんでしょ。」
「せやったせやった。兄ちゃん堪忍してや。」
「なんだかよくわからんがこの臭いはマジできつい、なんとかしてからもう一回来てくれ。」
「なぁルティエ、ウチそんなに臭い?」
「うん、私もそろそろ限界。」
関西弁をしゃべる臭い鼠。
いやぁ鼠ってしゃべるんだな。
鼻をつまみながらそんなことを考えていた。
「いや~、お湯までもらって兄ちゃんすまんなぁ。」
「あのままじゃルティエが酸欠で死にそうだったからな。店に臭いが移っても困る。」
「普段下水におるから何とも思わんのやけど、やっぱたまには綺麗にせなあかんね。」
手桶に入れたお湯につかりながら鼠が気持ちよさそうにしている。
これはなんのファンタジーだ?
いや、異世界だからありなのか。
「本当にごめんなさい。」
「別にルティエが謝る必要はない。客なんだろ?」
「せや!とっておきの品を持ってきたお客様やで!せやからこれぐらいもてなしてもらって当然なんや!」
「とっておきかどうかは俺が判断する。っていうかあの臭いは下水のせいだったのか。」
「ダスキーは下水道を掃除するお店をしてるの。」
「せやで、とっても偉いんや!」
ほぉ、清掃会社の社長か。
鼠だけど。
「で、その偉いさんがうちに何の用だ?」
「ここは何でも買い取ってくれるんやろ?」
「あぁ、価値のあるものは買い取らせてもらっている。」
「実はな、職場で見つけたとっておきの物があるんやがそれを買い取ってほしいんや。」
「下水でか?」
「せや。あんたらはゴミやと思うかもしれんが、ゴミの中にもすごいもんはあるんやで。」
まぁわからんでもない。
俺も過去に何度かトイレに物を流してしまったことがある。
指輪を流したって話も聞いたことはあるし、そういったものがたくさん眠っていそうだよな。
「とりあえず見せてくれ。臭くないよな?」
「ここに来る前にちゃんと掃除と消毒してるから安心しぃな。」
「そりゃ助かる。」
「ルティエ、さっきの袋渡したってんか?」
「は~い。」
ちなみに鼠はカウンターの上で手桶に浸かり、ルティエはその前に座っている。
鼠に言われルティエが袋の中に入っていたものをトレイの上にザーッと出した。
そりゃもうザーッと。
「・・・すごい量だな。」
「せやろ、これだけのモノが下水には眠っとるんや。」
色とりどりの石がトレイの上で光り輝いている。
後ろで様子を見ていたミラとエリザが身を乗り出してきた。
「綺麗ね。」
「はい、これだけの宝石は見たことがありません。」
「とはいえ全部下水道から出てきたやつだけどな。都市鉱山とはよく言ったものだ。」
「どういうこと?」
「街の下に鉱山があるって例えだ。」
「兄ちゃんそれおもろいな!下水っていう鉱山やけどな。」
アッハッハ鼠が大声を出して笑う。
見た目鼠なのでオスなのかメスなのかすらわからないが、人前で風呂に入れるぐらいだからオスなんだろう。
いや、気にしないだけのメスかもしれない。
一人称ウチだったしな。
そうだとしたらかなりメンタル強いだろこの鼠。
「で、この宝石をどうしてほしいんだ?」
「買い取ってほしいに決まってるやんか。」
「その様子じゃ普段はルティエに買い取ってもらってるんだろ?ならそっちに持っていけばいいじゃないか。」
「普段はそうやったんやけど、最近この子涙貝に夢中やんか、買い手がつかんねん。」
「そんだけ小さな宝石ばっかじゃそうなるだろうなぁ。」
大粒の石ならともかくトレイの上に転がるのはどれも米粒大の小さな宝石ばかり。
多少大きいのもあるが、それでも小石程度だ。
「ほんでな、ルティエが兄ちゃんなら買ってくれる言うから来てみたんや。」
「そりゃ何でも買い取りはするが・・・。」
とりあえずいくつか手に取ってみる。
ルビー、ガーネット、ダイヤ、サファイア、アクアマリン、トパーズ、ジェイド、エメラルド。
名だたる宝石勢揃いという感じだ。
これで小指の先ほどの大きさがあればそれだけでも大金持ちだっただろうが、どれも米粒程度だ。
だが鑑定してみて面白いことに気が付いた。
『ルビー。火の加護を加える。アクアマリン。水の加護を加える。トパーズ。土の加護を加える。etc・・・』
てな感じで各宝石にはそれぞれの属性に対する加護を加える効果があるらしい。
恐らく宝石の大きさによって加護の量も変わるんだろうな。
クリムゾンティアなんかはかなり大きかったし、効果も付与では無く授けるだったた気がする。
「どや?金貨5枚いや10枚でも損はないで!」
「いや、大損だろ。ルティエ以外に使うやつがいなくてその本人が使わないって言ってるんだから。」
「そこを何とか!兄ちゃんが買ってくれなかったらうちらは破産や!」
「破産って言われてもなぁ。ルティエ、他に使い道あるのか?」
「職人仲間が使いたいっていうかもしれないけど、みんなお金ないから。」
「だよなぁ。」
「そないな事言わんといてぇなぁ。」
鼠がなにやら悲しげな声を上げているが俺も商売だ。
金にならない仕事はしない。
それが例え親しいルティエが連れてきた客でもだ。
「金貨5枚、いや3枚でもいい!お願いや兄ちゃん、頼むわ。」
「値段の問題じゃない、需要があるかどうかの話だ。金にならない品を買い取るほど金は余ってないんだよ。」
「シロウさんどうしてもだめですか?私の方が落ち着いたらそれを買い取らせてもらうとか。」
「それや!それでいこ!」
「じゃあそれは何時なんだ?明日か?来月か?」
「それは・・・。」
「それをはっきりしてもらわない事には話にならないな。」
厳しいようだがこれも商売だ。
どれだけ素晴らしい品を目の前に並べられても需要がなければ意味がない。
さっきも言ったが不良在庫を抱えるほどの余力は無いんだ。
「うぅ。」
「アカンのか・・・。」
鼠が手桶のなかでうなだれている。
ってかこいつ長風呂だな。
のぼせたりしないんだろうか。
はてさて、どうしたもんか。
使い道のないゴミを買うわけにはいかないが・・・。
ゴミをカネに変えるのもまた俺の仕事だよな。
鼠がルティエを連れてきたのも縁のおかげみたいだし、その縁に乗っかってやるか。
「ルティエ、今の予約状況はどんな感じだ?」
「今は前みたいに詰め込んでないよ、ちゃんとお休みしてるから。」
「じゃあ息抜きできるよな。」
「息抜き?うん、ご飯食べたり散歩したりしてる。」
「アクセサリーを作るのはどうだ?」
「え?」
「最近同じような物作って飽きてきただろ。」
「えへへ、うん、ちょっと・・・。」
恥ずかしそうに頭をかくルティエ。
最近は涙貝の加工ばかりだからな、俺が頼んだ仕事だし気晴らしも必要だろう。
「エリザ、女性の冒険者は普段どんなアクセサリーをつけるんだ?」
「ん~、ピアスとか指輪とかあまり邪魔にならないのかな。」
「そういうのに機能性は求めるのか?」
「どうかな。体力の指輪とかそういうのだと嬉しいけど、見た目重視かも。」
「じゃあ見た目に加えて僅かでも属性の加護がついたらどうだ?」
「それすっごい嬉しいかも。」
「あったら買うか?」
「買う!」
と、現役は申しているわけで。
最悪責任はエリザに押し付ければいいか。
売れるって言ったのこいつだもんな。
「よし、金貨3枚で買ってやる。」
「金貨5枚はアカンか?」
「無理だな、出せて金貨4枚だ。」
「しゃあないか、買ってくれるだけめっけもんやな。」
トレイの上の宝石をザーッと袋に戻し、代わりに金貨を四枚積み上げる。
入浴中の鼠は受け取れないので代わりにルティエが受け取った。
それと一緒に宝石の入った袋も渡す。
「ルティエ、良い息抜きが出来たぞ。頑張ってくれ」
「うん!」
「可愛いのが出来たら見せてね、いっぱい買うから。」
「ありがとうございますエリザさん!」
手桶の中で大きなため息をつく鼠。
そいつの拾ってきた下水のお宝。
これがどれだけ化けるか、見ものだな。
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