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343.転売屋は夏バテする

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19月になった。

夏が始まって二ヶ月、まだまだ夏本番って感じで暑い日が続いている。

朝方はそうでもないのだが、日の出とともに一気に気温が上昇し、昼前には地面から陽炎が昇り始める。

つまりは暑い。

とてつもなく暑い。

さすがに昼過ぎにもなると出歩く人は減り、プールに入る人が多くなる。

つまり誰も仕事をしなくなるわけだ。

それぐらいにこの夏は暑かった。

「だるい。」

「なによ、そんな締まりのない顔しちゃって。」

「暑いんだよ。」

「わかってるわよ。でも氷も風の魔道具もあるでしょ?」

「あってなお暑い。っていうかだるいんだよなぁ。」

「シロウ様お食事の準備が出来ましたが・・・、顔色が優れませんね。」

呼びに来たミラが心配そうな顔で俺を見てくる。

心配されるほどよくないのだろうか。

いや、元はよくないんだけども。

「お疲れが出たのでしょう、今日は私が見ておきますので上で休んでください。」

「いや、そこまでじゃない。後は露店を見て回ってルティエの様子を見て、マリーさんと化粧品の打ち合わせをして、それから冒険者ギルドに行くだけだ。」

「だけって、やること多すぎよ。どれかにしなさい。」

「でもなぁ。」

「でもじゃない!シロウのそれはどう考えても働きすぎ、そんでもって夏バテね。」

「夏バテ?食欲も運動もしてるのに?」

「現にそんな状態になってるじゃない。食べても寝ても疲れが取れないってのはバテてるって事でしょ、今日だって朝にアネットから薬もらったの知ってるんだから。」

こそっと貰った筈なんだが、どこでバレたんだろうか。

でもなぁ、やらないといけない事はさっさと終わらせたいしなぁ。

「ともかく、今日はもう仕事は終わり。」

「せめて露店だけでも。」

「ダメったらダメ、そもそもこんな炎天下で外を出歩くとか自殺行為よ。魔導具のある部屋でゆっくりしなさい。」

「ルティエ様とマリー様は明日でも問題ないでしょう、冒険者ギルドへは私が行きますのでご安心を。」

「店は?」

「もちろん閉めます。」

「ちょっとダルイだけだぞ?」

「それでもダメ、アネット!シロウを二階に連れてって!」

「は~い、今行きま~す。」

まさかこんな大ごとになるとは。

こんなことなら無理してでも問題ないといえばよかった。

でもなぁ、それで無理して倒れたしなぁ。

「まぁ、俺も若くないしなぁ。」

「はぁ?何言ってんのよ。」

「シロウ様、そのような発言は外では慎まれたほうがよろしいかと。」

「そこまで?」

「はい。」

さすがにそれは・・・いえ、なんでもありません。

階段を駆け下りてきたアネットに引きずられるようにして二階へと上がる。

風の魔道具の前に氷が置かれ、いい感じの涼しさになっていた。

「今日はこちらでゆっくりなさってください、必要なものがあればすぐに用意しますから。」

「ベッドに縛り付けられないだけましか。」

「そのほうがいいですか?」

「勘弁してくれ。」

「私も含めてみんな心配なんですよ。」

「それは俺が主人だからか?」

「そんな心にも思ってないこといっても駄目です。聞かなくてもわかってるじゃないですか。」

どうやら作戦失敗らしい。

仕方がないので魔道具の風が少しだけ当たるソファーに寝転がり、目の前に置いてあった本を手に取る。

誰かが借りてきた本だろう仕事とは全く関係のない本だが、たまにはいいかもしれない。

その本はどこぞの恋愛小説だった。

こういう本はどこの世界でもあるんだな。

甘酸っぱいセリフにありきたりな展開。

とはいえ読んでいるうちについつい夢中になってしまった。

「おや、珍しいものをお読みになっていますね。」

「これはミラのか?」

「いえ、エリザ様が借りた来たものかと。」

「まじか。」

「お休みの日はよくお読みになっていますよ。」

「意外って言ったら怒られるだろうな。」

「私たちの中では一番乙女ですから。」

「いや、乙女って。」

「ふふ、冗談です。食欲はいかがですか?」

食欲なぁ。

まったく食べる気がないわけではないが、重たいものは勘弁願いたい。

さらさらっと食べるものがあればいいんだが、あいにくこの世界にそうめんはないんだよな。

いや、探せばあるかもしれないが今はない。

「米ってまだあったっけ?」

「申し訳ありません、この前食べたのが最後です。」

「だよなぁ、あれば茶漬けでもと思ったんだが・・・。軽くサラダとかでいいか。」

「ダメですよ、ちゃんと食べないと。」

「とはいえ肉はきついぞ。」

「そうおっしゃると思いまして、アングリーチキンのレレモン煮を用意しました。むね肉ですからあっさりしていますし、パンにはさんで野菜と一緒にどうぞ。」

「ん、もらおう。」

確かに小腹は空いている。

本を置きミラの用意してくれたパンにかぶりつく。

肉・・・ではあるが、レレモンの酸味で肉っぽい感じは一切感じられない。

これなら食べれそうだ。

「どうですか?」

「美味い。」

「それはよかったです。あとでエリザ様が来ますから、お相手してあげてください。」

それだけ言うとミラは満足そうに下に降りて行った。

俺の代わりにギルドに行ってくれるんだろう。

あまりゴロゴロするのは好きじゃないんだが、仕事すると怒られそうだしなぁ。

「あ、ちゃんと食べてる。えらいえらい。」

「俺は子供かっての。」

「男なんてみんなそんなもんでしょ。」

「どういう思考なんだよ。」

「そのまんまの意味よ、女の子が好きでエッチなことが好きで危ないことが好き。」

「今の感じだと一種類しか当てはまらないんだが?」

「え、一個だけ?」

「女は好きだが別に危ないことは好きじゃない。危ない橋を渡るぐらいなら堅実に稼いだほうがいいだろ?」

「エッチは好きじゃないんだ。」

それはおまけみたいなものだ。

誤解してもらいたくないが、別に女好きというわけでもない。

ただ単に女が好きなだけ。

目の前に好みの女がいたら触ったり抱きたくなるものだろう。

そういう感覚だ。

だから目の前ですねた顔をするエリザの胸も触りたくなる。

「今日もいい乳だな。」

「言っていることが矛盾してない?」

「そんなことないぞ。女は好きだ、だから揉んでいる。」

「まぁ、そうよね。」

「ちなみに尻も好きだぞ。」

「知ってる、いつも私たちのお尻見てるもんね。」

「わかるのか?」

「むしろわからないとでも思ってるの?」

それもそうか。

何も気にせず見てるもんな。

目線があっても見続けてるし。

あぁ、街の女はそこまで露骨じゃないぞ。

自分の女だけだ。

「とはいえ、今日は勘弁してくれ。」

「わかってるわよ、今日は勘弁してあげる。」

「今日だけかよ。」

「運動不足も夏バテの原因よ、しっかり食べてしっかり動いてしっかり休む。シロウは働きすぎなの、たまにはゆっくり休みなさい。」

「休んでるぞ?」

「休んでいるつもりになってるだけ。これから毎週こんな感じで押し込まれたい?」

「それは勘弁願いたい。」

「じゃあ大人しく休みなさい。」

毎週こんな感じで監禁されるとか勘弁願いたい。

でもなぁ、何もしないっていうのは性に合わないんだ。

さて、何をするか・・・。

「何するつもりよ。」

「それを考えてるんだよ。」

「じゃあちょっと私に付き合って。」

「だからそういうことは・・・。」

「違うわよ、ストレッチするの。一人じゃできないから押してってこと!」

「あぁなるほどな。」

てっきり某お笑いトリオのネタかと思ってしまったんだが違うようだ。

ヨガマット的な滑りにくいビッグフロッグの革を床にひき、その上に座るエリザ。

その後ろに回りいわれるがままに体を押す。

背中、腕、腰。

脳筋だといつも言っているが、思った以上に体は柔らかい。

いや、女なんだから当たり前なんだが根本的に体のつくりが違うんだよなぁ。

そんなムキムキというわけでもないのにあんなでかい武器を思いっきり振り回すとか、いったいどういう作りになっているんだろうか。

「ふぅ、すっきりした。ありがとうシロウ。」

「俺もいい運動になった。」

「言ったでしょ、適度な運動が大切だって。」

「それならルティエ達と一緒にしてるんだけどなぁ。」

「急激に動かすのとゆっくり動かすのは全然違うわ、たまにはこうやって休めながら動かさないと。」

「なるほどなぁ。」

「あとは、しっかり食べて今日は早めに寝ること。そしたら明日には元気になってるわ。」

「とはいえ飯の時間まではまだあるぞ?」

外はまだまだ明るい。

真昼間という時間だ。

それまで何をするか・・・。

「じゃあさ、お昼寝しましょう。」

「あ~、いいなぁ。」

「ね、涼しい部屋でお昼寝、最高じゃない。」

「まぁ、そうだな。」

普段なら時間がもったいなくてそんなことしないが、今日ぐらいはいいだろう。

「じゃあちょっとシャワー浴びてくるから。」

「はいはい。」

「ちゃんと待っててよ?」

「なんでだよ。」

「もぅ!最後まで言わせないでよね!」

だからそういうことはしないんじゃなかったのか?

そういう突っ込みをする間もなく、エリザは浴室へと消えていった。

その後どうなったかって?

そりゃしましたよ。

でもまぁ激しくもなく、程よい感じだったので疲れはない。

むしろすっきりした感じだ。

たまにはこういうのもいいかもしれないな。

もちろん、休日的な意味で。
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