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359.転売屋は夢を見る

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思っていた以上にミラの調子は悪い様だ。

アネット曰くハドゥスではないとのことだが、なかなか熱が下がらないらしい。

幸いにも氷が手に入りやすいので皆で交代して氷嚢を当て熱を下げている。

「申し訳・・・ありません。」

「大人しく寝てろ。」

「・・・はい。」

おでこの布を取り、冷たい水で冷やしてから元に戻す。

寝室のベッドではミラが苦しそうに浅い呼吸を繰り返していた。

アネットの薬も効果は弱く、改善するには至っていない。

「さて、俺は下に戻るから何かあればベルで呼べ。」

返事を聞かずに部屋を出る。

何かあれば俺よりも先にアネットに聞こえるだろう。

「どう?」

「ん~変わらずだな。」

「そっかぁ。」

「この一年随分と無理をさせて来たからな、その疲れが出たんだろう。」

「そうだと良いんだけど。」

「魔力の流れが弱くなっているだけで大きな病気でない事は確認できてる。とりあえずはそれが戻らない事にはなぁ。例の素材は取れそうか?」

「今罠をしかけてるとこ、明日には引っかかってると思うんだけど。」

「マジックアントの蜜か、随分とやばい奴らしいな。」

「一匹ならどうでもないんだけど、一匹倒すのに百匹は相手にしないといけないのよねぇ。罠は趣味じゃないんだけど今回は仕方ないわ。」

「無理をする必要はないしな、よろしく頼む。」

「まかせて。」

魔力衰弱。

体内を駆け巡る魔力が何らかの原因によって減少し、身体をうまく動かせない状態。

この状態が続くと、最終的には臓器に影響が出てしまうのだとか。

それを防ぐために必要なのがマジックアントの蜜。

ようは魔力の塊だ。

中身が減ってしまったのならば補充すればいいというなんとも脳筋的発想だが、それが一番適しているのは間違いない。

明日には素材が手に入る。

今日が山という事になるだろう。

「ちょっと仮眠する、何かあったら起こしてくれ。」

「わかったわ。私は上で本でも読んでるからごゆっくり。」

あのエリザが本を?

いや、元から本は好きか。

罠をしかけているので冒険はお休み、なんだかんだ言ってもミラの事を一番心配しているのはエリザかもしれない。

カウンターの下に毛布を引いて簡単な寝床にする。

床が痛いが、熟睡しないのでむしろ好都合だ。

気を張っていたからか、あっという間に睡魔が襲ってくるのがわかる。

まるで何かに誘われるように一瞬で意識を手放した。


「おい、起きろ。」

「ん?」

「お、やっと起きたか。呼んだものの何もせずに帰られる所だったぞ。」

「・・・夢か。」

「お、寝起きの割に判断が早いな。」

「目を覚まして目の前に半裸の男が立っている状況にはいなかったはずだ。」

「そう言う解釈の仕方か、面白い奴だな。」

「夢が夢と認識できる、明晰夢だったか?異世界に飛ばされるぐらいだ、なんでもありなんだろう。で、アンタは?」

「神だ。」

は?

それは何かのネタか?

どこぞの芸人がそんなギャグを使っていたような気がする。

なるほど、そういう事か。

「そうではない。」

「なら本物だという証拠は?」

「夢に出てきてこうやって会話している。それともなにか?空でも飛んだ方がいいか?」

「魔法で飛べるだろ?」

でもまぁこんなふざけた状況を作れるんだから、神様ってのもあながち間違いじゃないんだろう。

とりあえず話を聞くだけ聞いてやるか。

「で、その神様が何のようだ?」

「お前のところで苦しんでいる女がいるだろ?」

「ミラの事か?」

「名前は知らんがそいつだろう。で、そいつだが放っておくと死ぬぞ。」

「なに?」

「あれは厄介な病気だ、ただの薬じゃ完治しない。」

「夢の癖に都合の悪い話じゃないか。」

普通は都合のいいように話が進むもんだが、厄介な話だ。

ミラの病気が治らない?

そんなバカな。

「悪いが現実だ。夢だけどな。」

「で、神様とやらが親切に教えてくれたその理由は何だ?」

「おいおい、ずいぶん冷静だな。」

「異世界に飛ばされてきてるんだぜ?信じるしかないだろ。」

「まぁそれもそうか。」

「ちなみにあんたが俺をココに呼んだのか?」

「いや?俺じゃない。」

どうやら神様とやらは複数いるみたいだ。

ダンジョン内にもそれらしいやつがいるし、あながち間違いじゃない・・・とおもう。

「どうすればいい?」

「信じるのか?」

「信じるしかないだろ。っていうか、その為にきたんじゃないのか?」

「いいねぇそういうやつは好きだぜ。」

「そりゃどうも。」

いいから早く教えてくれ。

俺の夢なんだから。

「治す方法は簡単だ、お前が元の世界に戻ればいい。」

「わかった。」

「即答だな。」

「それでミラが助かるんだろ?なら俺が戻れば済むだけの話だ。」

「もう会えなくなるんだぞ?」

「死んだらどっちみち会えないじゃないか、生きているならそれでいい。」

「男だなぁ。」

「自分の女だぞ?当たり前だろ。」

俺もまさかノータイムで返事するとは思わなかったが、これが本音なんだろう。

夢だけにつくろう必要なんてない。

「自分の欲望のままに動く、まさに君らしい回答だね。」

「で、いつもどればいい?出来れば別れの挨拶ぐらいは済ませたいんだが。」

「ごめん、さっきのは冗談だ。」

「おい!」

「勝手に帰したら呼んだやつに怒られるからね、っていうか君は戻る必要なんてないんだよ。この世界で好きに生きればいい。元々帰るつもりなんてないだろ?」

「向こうよりも最高な生活をしているんだぞ?わざわざ戻りたいとおもうか?」

「違いない。」

ははは、と半裸のそいつは一人で笑った。

まったく人の夢に勝手に現れてすき放題言いやがって。

「結局どうすればいいんだ?」

「魔力を補充するだけじゃ足りない、流れ出ている原因を何とかしないと。」

「ふむ、確かに減った理由が不明だったな。」

「原因は魔力の使いすぎ、君たちは気づいていないかもしれないけど鑑定スキルは魔力を結構使用するんだ。最近働きすぎなんだよ。」

「あ~・・・。」

「君が働いていないとは言わないけど、色々と手を広げすぎだね。そろそろ腰を落ち着けたらどうだい?」

まさか神様に休めといわれるとは思わなかったが、まさにそのとおりだ。

最近色々と手を広げたからミラに仕事を任せっぱなしだった。

そうか、それが原因か。

「わかった、くれぐれも気をつけよう。」

「それがいい。とりあえずは魔力を補充して、その後は出る量よりも増やし続ければいずれは傷口がふさがるように流出が停まるはずだ。」

「なら継続的に魔力を入れなきゃならんか。」

「そういうのはお手の物だろ?」

「数を用意すればいいだけだからな。」

つまり仕事を休ませつつ、マジックアントの蜜を飲ませ続ければいい。

エリザには申し訳ないが何度も運んで貰う必要があるだろう。

それと、魔力の増強だな。

魔力とは体内でも生成されるものだ。

自前で増やせるのであればそれに勝る治療は無いだろう。

やはり、こうなった原因は俺だったか・・・。

マジで改めないと不味いな。

「都合のいい夢だと承知の上で聞くが、何でわざわざ教えてくれるんだ?」

「ん~、それを俺の口から言うことはできない。悪いな。」

「そうか。いや、教えてくれただけでも十分だ、感謝する。」

「一ついえるのはお前の行動は見ていて楽しいということだな。それは俺と俺以外の存在も同意見だ。」

「見世物かよ。」

「我々は何も関知していない、ここまで来たのも全て君の運と実力の結果だ。もちろんこれから先も。」

「本当だな?」

「見世物だとしても君は操り人形じゃない、先のわかっている話は見ていても面白くないだろ?」

「まぁ確かに。」

この世界に来てからの全ては仕組まれたものではない。

それがわかっただけでも十分だ。

今の状況も仕組まれたものではなく、十分に好転させることが出来る。

死ぬとわかっているとかだったらどうしようかと思った。

ミラは助かる。

だが、それは俺次第というわけだ。

「色々と教えてくれてありがたいんだが、すぐに準備に入りたい。どうやって起きればいい?」

「ちょうど誰かが君を呼びに来たようだ。あぁ、あの女戦士だね。彼女は中々に強いよ。」

「脳筋だからな。」

「それじゃあもう会うことは無いだろうけど、頑張って。」

「言われずとも。」

急に睡魔が襲ってくる。

夢の中でもう一度寝るとはどういうことなんだろうか。

そんなよくわからないことを考えているうちに、意識はブツリと途絶えた。


「シロウ、ちょっとシロウ。」

「ん?」

「まったく上から声をかけても返事が無いんだもの、心配したわよ。」

目を覚ますと、正面にエリザの顔があった。

中々の近距離だ。

どうやら目が覚めたらしい。

「悪い、夢をみていたんだ。」

「昨日もまともに寝てないし仕方ないわよ。」

「だが、色々とわかった。」

「なにが?」

「マジックアントの蜜だが、かなりの量が必要そうだ。採れるだけ採ってきてくれ。」

「どういうこと?」

「夢の中で神様とやらがそういってたんだよ。」

「・・・寝ぼけてる?」

「もうすっかり目覚めてるよ。」

信じて貰えないかもしれないが、それを実行するより他は無い。

俺の顔をまじまじと見た後エリザは大きく息を吐いた。

「夢でも何でもミラが元気になるのならそれでいいわ。」

「話が早くて助かる。」

「多めに仕掛けてあるから数は大丈夫だと思う、足りなきゃまたもぐるわよ。」

「よろしく頼むな。」

「ミラのためだもん、当然よ。」

まずは蜜が手に入ってからになる。

それまで出来ることがあるとすれば、魔力が減らないように精のつくものを食わせるだけだが・・・。

ふむ、何がいいだろうか。

「おかゆにするか。」

「ご飯?」

「何も食べないよりも食べたほうがいいだろう、今回の原因は鑑定スキルの多用による魔力流出だ。」

「それも神様が?」

「だな。」

「確かに最近は頑張りすぎだったしね、ちゃんと店番しないと駄目よ。」

「くれぐれも気をつける。」

「そ、ならいいけど。蜜は急いだほうがいい?」

「出来れば。」

「じゃあちょっと行って来る、まだ早いけど一匹ぐらいかかってるでしょ。」

「無理するなよ。」

「するわよ。」

「ミラのためだもんな。」

それ以上はお互いに何も言わなかった。

ミラのために出来ることをする。

そのためならなんだってしよう。

それこそ、この世界から追い出されてもかまわない。

とはいえ、そうはならないようなので安心してよさそうだ。

神様とやらの発言が本当ならな。

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