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360.転売屋は野鳥を見つける

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神様の助言により、無事ミラの体調は快方に向かっている。

とはいえまだ万全の状態ではないので、今日は休暇とリフレッシュもかねてキャンプに来たというわけだ。

まぁ、ルティエ達が使うガーネットルージュ用の原石が無くなったから取りに来たというのもある。

王都で大当たりしたおかげで連日の大騒ぎしているようだ。

嬉しい悲鳴だよな?

知ってる。

夢のお告げもあったので早々に事業を委託、今は俺の手を離れて自分達だけで全てをやらせている。

今回の原石採取も、ルティエ達からの注文があったからこそ。

中々の注文量なので、ちょいと気合を入れて探さなければ。

「シロウ、天幕の設置終わったわよ。」

「おう、ありがとさん。」

「こちらも仕分けの準備できました!」

「後は手筈通りに、だな。」

「あの・・。」

「ミラはそこで火の番ね。本はいっぱい持って来たでしょ?」

「確かに持ってきましたが・・・。」

「飯はアネットが、材料は俺とエリザが釣って来る。火の番は重要だからよろしく頼むぞ。」

有無を言わせずに火の番を押し付け、俺達は早速川に向かって出発した。

「怒らないかしら。」

「本人も本調子じゃない事は理解してる、大丈夫だろう。」

「そうよね。」

「なんならさっさと釣り上げて戻ればいいだけの話だ、どっちが沢山釣り上げるか競争だからな。」

「望むところよ!」

「では私はガーネットを探してまいります。」

「あぁ、前回とは別の場所を重点的に頼む。今回は大きめのをご所望だ。」

「わかりました。」

新作のサングラスをかけてアネットは原石探しに向かった。

どれ、俺達もさっさと釣り上げちゃいますかね。

少し上流まで行き、サングラスをかける。

さっきまでキラキラしていた水面が一気に中まで見通せるようになった。

今日もいい感じに魚が泳いでいる。

秋が近いからだろうか、心なしか大きいようにも見える。

これは大物が期待できそうだ。

「じゃあ行くぞ。」

合図と同時に糸を垂らす。

あまり人の来ないこの場所は、魚がすれていないので食いつきが違う。

上から下へと流れていくまでの間に、早くも一匹目が食いついた。

中々の引きだ、これは大物だぞ。

右に左に竿を振られながらも何とか手前まで引き寄せると、丸々と太った立派な川魚がビチビチとタモの中で暴れだした。

幸先のいいスタートだ。

「見ろエリザ、中々の大物だぞ。」

「こっちだって、ほら!」

満面の笑みを浮かべてエリザが見せてきたのは、これまた大きな腹をしたやつだった。

むむ、なかなかやりおる。

「これは良い勝負が期待できそうだな。」

「そうね、楽しみだわ。」

釣り針にエサをしかけて再び水面に投げる。

それから一時間程かけて網から溢れる程の魚を釣り上げてしまった。

ぶっちゃけちょっとやりすぎた感がある。

「この勝負引き分けだな。」

「そうみたいね、なかなかやるじゃない。」

「そっちもな。さぁ、後はこれを捌いて飯の準備だ。この数は流石に食べきれないから塩で〆て干物にでもするか?」

「いいわね。」

とりあえず捌くだけ捌いて冷蔵用の魔道具に入れておけば一日ぐらいは問題ないだろう。

後は戻ってからゆっくり干物にすればいい。

そんな事を考えながら竿を片付けていると、ふと川向こうに一匹の鳥が飛んでいるのが見えた。

よく見るやつと違い、尻尾が七色に光っている。

「エリザ、あれが見えるか?」

「野鳥みたいね。」

「あの尻尾、随分派手だと思わないか?」

「ん~そういう種類なんじゃなない?求愛の為に生え変わったとか?」

「ふむ。」

「捕まえようと思っちゃだめよ、まず無理だわ。」

「わかってるって。」

流石に何の仕掛けも無く捕まえようとは思わない。

あぁ言うのは自然の中で見るから素晴らしいのであって、籠の中ではそんなに綺麗じゃないってのはよくある話だ。

だが、あいつは鳴くわけでもなくずっとこちらを見続けている。

なんとなく視線が痛い。

「魚を欲しがっているのかしら。」

「そうだとしても自分で獲れよな。」

「私達が根こそぎ釣っちゃったから怒っているとか。」

「この森の主とか?」

「あの鳥にそんな気配は感じないけど、でも一匹ぐらいは良いんじゃない?」

「餌付けすると後が大変だぞ?」

「別に餌付けじゃないわよ。知らぬ間に一匹落としちゃっただけ。」

「それが餌付けっていうんだがなぁ。」

でもまぁ一匹ぐらいならいいか。

前に来たときは見かけなかったし、珍しい鳥なんだろう。

その姿を見せてもらったお礼だと思えばいい。

これはあくまでも魚を落としただけ。

そういう言い訳にして、中型の魚を一匹地面に落として俺達は天幕に戻った。

「たっだいま~。」

「おかえりなさいませ、勝負はいかがでしたか?」

「残念ながら引き分けよ。」

「引き分けでその量ですか。」

「ゆっくりしているところ悪いが捌くのを手伝ってもらえるか?」

「そろそろ我慢も限界でした。」

ミラに何もするなというのは中々酷だったようだ。

待っていましたと言わんばかりに顔色が明るくなった。

大量の魚を簡易の台所に置き、三人で捌いていく。

エリザが捌き、ミラが内臓を取りながら身を洗い、最後に俺が塩をまぶして串に刺していく。

あっという間に焚き火の周りは魚の刺さった串で囲まれてしまった。

うむ、中々に壮観だな。

「あっ。」

と、その時だった。

片づけをしていたミラが空を指さし声を上げる。

見上げるとそこには一匹の野鳥。

金色の尻尾を優雅に振りながらそいつは俺達の上をくるくると回っていた。

「またアイツか。」

「また、という事は先ほども見られたのですか?」

「釣りをしている時に見つけたんだ。ジッとこっちを見て来るんで仕方なく一匹恵んでやったんだが、まいったなまたよこせって言いに来たのか?」

「でもそんな感じじゃないわよ?」

「確かに欲しいなら近くで待つか。」

「なんというか、監視してるみたいね。」

監視ねぇ。

俺達が魚を釣りすぎたのを怒ってるのかもしれないぞ。

悪かったってつい勝負ごとになって盛り上がりすぎただけなんだ、許してくれ。

と、本人?に聞こえるわけでもなく言い分けしてしまう。

とりあえず害はなさそうだ。

「まぁ魔物って感じじゃなさそうだし放っておいてもいいだろう。ここは任せた、俺はアネットの様子を見て来る。」

「畏まりました。」

「気をつけていくのよ。」

魔除けのお香を焚いているのでその辺は大丈夫だろう。

釣竿を革袋に持ち替えてアネットのいる方へと向かう。

「おーい、どんな感じだ~?」

「前とは違う場所を探してみたんですけど、いかがでしょうか。」

「おぉ、中々に大物だな。」

アネットが自慢げに大きな赤い塊を見せて来る。

陽の光に照らされてそれはキラキラと輝いていた。

まさに鮮紅の輝き。

この大きさならルティエ達の注文にもこたえられることだろう。

「あっちの方にもありそうなんですが、深みがあると危険なので止めました。」

「それで正解だ。行くなら二人一緒の方がいいだろう。」

「他の場所は小ぶりなものが多かったように思います、やはり大きいものは流れのはやい場所に固まってるみたいですね。」

「重さがあるからなぁ、自然とそうなるんだろう。」

「手前の緩やかな場所には顔料向けの小さい物が多かったです。集めておきますか?」

顔料かぁ。

ついこの間フェルさんが持って行ったばっかりなので追加で作る必要はないんだよなぁ。

そっちの注文もまだ来てないし、今回は様子見でいいかもしれない。

「いや、今回は見送ろう。あまりとりすぎも良くない。」

「わかりました、では奥の方を見ましょうか。」

「俺が潜るからアネットが受け取ってくれ、紐も渡しておく。」

「はい。」

腰にしっかりと紐を結び付け、紐の先をアネットにしっかりと握らせる。

あまり流れは速くないので溺れることは無いと思うが念の為だ。

下着だけになりいざ、水の中へ。

手前は浅く流れも緩やかだったのに、深くなるにつれて思った以上に速さがあった。

これは中々に大変だな。

最初こそいい感じで水底からガーネットを拾えたのだが、2度3度と潜ると次第に体力が無くなって来た。

出来れば奥のやつを取りたいんだが・・・。

呼吸を整えながら4度目にトライしようとしたその時。

「ピィィィィィ!」

という鋭い泣き声が頭上から聞こえて来た。

「なんだ?」

「あの鳥のようです。」

「またアイツか。」

上を見ると例の鳥がまたグルグル回っている。

やはり監視しているんだろうか。

それとも何か言いたいんだろうか。

「御主人様、エリザ様を呼んできましょう。」

「どうしてだ?」

「嫌な予感がします。」

「魔物か?」

「そういうんじゃないんですけど・・・。ちょっと待っていてください。」

アネットは思いつめたような顔をしてエリザを呼びに天幕へと走る。

その間も例の鳥は俺の上をグルグルと回り続けてた。

「何を言いたいんだ、お前は。」

もちろん返事はない。

しばらくしてエリザが合流したので再び水に入った。

流れに負けないように出来るだけ深い所を目指す。

上は流れが速いが下はそうでもない。

が、代わりに水温が一気に下がる。

冷たい水をかき分けていると、目の前に真っ赤な塊が見えて来た。

中々に大きそうだ。

スコップを取り出し塊を掘り返しながらポケットに詰めていく。

と、その時だった。

流れそうになるのを耐えようと変な所に力を入れたせいか、足にピシッと電気が走った。

ヤバイ。

攣った!

慌てて水面に戻ろうとするも流れに阻まれ思ったように登れない。

そんな事をしていると呼吸が苦しくなってきた。

万事休す。

そう思った次の瞬間。

突然腰から思いっきり引っ張られる。

そしてそのまま一気に河原へと引きずり上げられた。

「大丈夫ですか御主人様!」

「ケホッ、なんとかな。」

「まったく、ミラの次はあんたが無茶してどうするのよ。私が居なかったら流されていたわよ。」

ゲホゲホとせき込みながら上を見ると、呆れた顔をしたエリザの顔があった。

そしてその奥には例の鳥が飛んでいる。

アイツがエリザを呼んでくれたんだろうか。

「すまん。」

「ほら、すりむいてるところも見てあげるから一回戻りましょ、あんな深くに潜って馬鹿じゃないの?」

「だが良いのは取れた。」

「それで溺れてちゃ世話無いわ。」

それはごもっとも。

二人に肩を借りながら天幕に戻るとミラが驚いた顔で出迎えてくれた。

こっぴどく怒られたのは言うまでもない。
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