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376.転売屋は酒におぼれる
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なんだかんだありながらあっという間に時は過ぎ、オリンピア様が帰る日の前日となった。
その前日も終わりが近づき、今日は一角亭を貸し切っての食事会である。
貸切ってと言っても集まったのは俺達とマリーさん、アニエスさん、それとオリンピア様だけ。
あ、イライザさんもいるか。
まぁ、聞かれて困る内容はほぼないので問題ないだろう。
イライザさんの口も堅いしな。
「ってことで、かんぱ~い!」
「どういうことだよ。っていうか何度目だよ。」
「別に何度目でもいいじゃない。」
「シロウ様新しい料理です。」
「ありがとう。」
「ミラ、わたしにも取って~。」
「自分で取れ酔っ払い。」
「酔ってないし!」
顔を真っ赤にして何を言うかこの駄犬は。
さすがのオリンピア様も前回の一件以降飲酒に懲りたらしい。
今日も果汁を淹れた水を飲んでいる。
今日は・・・レレモンのようだ。
あっさりして美味しいよな。
「ふぅ。」
「なによ、ため息ついちゃってさ。」
「いや、考え事をな。」
「何か悩み事ですか?」
「そうじゃないんだが・・・。まぁ、俺の考えすぎだ。」
「何かあれば遠慮なくおっしゃってくださいね。」
「ありがとうマリーさん。」
マリーさんが心配そうな顔でこちらを見てくる。
うん、美人は不安そうな顔も美しいね。
ミラは気にするそぶりもなくエリザに料理をよそっている。
アネットとオリンピア様は少し離れたところで何やら盛り上がっているようだ。
アニエスさんはイライザさんとこちらも何やら話し込んでいる。
エリザ?
横で料理はまだかと騒いでるよ。
無駄な考えを飲み込むように、俺はぬるくなったエールを胃に流し込んだ。
美味い。
でも不味い。
楽しい食事もこんなテンションじゃ面白くなくなってしまう。
これも全部あの男と神様とやらのせいだ。
俺が考えすぎなのもあるんだが、それでもあのやり取りは俺の心に楔のように食い込んでいる。
掌の上で踊らされている。
俺はただの役者に過ぎない。
もちろんそうではなく、俺は俺。
自主性がありシナリオは存在しない。
そう神様は言っていたが、それでもこの世界にきての一連の流れはあまりにも出来すぎている。
ふつうここまで上手くいくだろうか。
そりゃあ何度も失敗してるし、大変だったこともある。
だが、それを差し引いても良い事ばかりだ。
女達と出会い、金が金を産む。
何をしても成功している現状は、まるで出来レースのようだと心のどこかで思っていた。
もちろんそんなことはなく、自分たちが考えて仕入れた品々を売って利益にしてきた。
その自負はあるけれど、思いついたことすら仕組まれたものだったら?
俺を別の世界から呼んでこれるぐらいなんだ、記憶の改竄なんて朝飯前だろう。
今こう悩んでいることすら仕組まれたものかもしれない。
そう考えれば考えるほど、何を信じていいのかわからなくなってしまう。
はぁ。
「なによ、大きなため息ついて。」
「なんでもねぇよ。」
「お酒が足りないんじゃなの?」
「お前と一緒に・・・いや、そうかもしれないな。」
たまには我を忘れるぐらいに飲んでもいいかもしれない。
これが神様の仕組んだものだとして、それを台無しにするぐらいに飲んだくれたら少しは抵抗することになるかもしれない。
「そうこなくっちゃ!イライザさん、あれちょうだい!」
「アレ?」
「モーリスさんがね、面白いお酒を仕入れてきたの。で、イライザさんの所で試しに売ってるんだって。透明で雑味も一切ないんだけど、すっごい強いの。でも、鼻に抜ける香りはなんだか果実酒みたいなのよね。」
「へぇ、モーリスさんの酒か。面白そうだな。」
珍しい酒はマスターの所でいろいろ飲んできたが、エリザが言うような酒はなかった。
透明で強い酒となると焼酎だが、それに果物の香りはしただろうか。
最近前の世界の記憶がどんどんと薄れている気がする。
これも神様とやらのせいなんだろうか。
そんなことを考えていると、イライザさんが陶器の入れ物を持ってきた。
「はいよ、お待たせ。」
「えっとねぇ、後は・・・そうだ!焼き魚!」
「はいはいあの乾いた魚だね、すぐ持ってくるよ。」
「これと一緒に食べるとすっごい美味しいの。もしかしたらシロウも食べたことあるんじゃない?」
そう言いながらエリザが陶器の入れ物を傾ける。
さっきまでエールが入っていたグラスに、半透明の液体が満たされた。
これは、日本酒か?
果物のような香りは醸造酒独特ものものだ。
蒸留酒はどこかアルコール臭い感じがあるが、これは発酵の過程で出る甘い香り。
てっきりどろっとしたドブロクてきな物かと思っていたのだが、まさかここまで澄んだものが手に入るなんて。
ますます西方に興味が出てきたなぁ。
「綺麗ですね。」
「見た目にだまされちゃだめよミラ、すっごい強いお酒だから。」
「そうなんですか?」
「オリンピア様が飲んだら即倒れるレベルよ。」
「えぇ!?」
ミラも少し酔っているんだろうか、いつもよりもリアクションが大きい。
俺はグラスに口をつけ、少しだけ液体を口に含んだ。
その瞬間、果実酒と錯覚するほどの甘い香りが口いっぱいに広がり、呼吸と共に鼻から抜けていった。
ゆっくりと飲み干すと香りとは違い、ガツンと強い酒精がのどを焼いていく。
美味い。
何年振りになるんだろうか。
前の世界でも飲んでいたのは安い発泡酒かチューハイ。
日本酒は若いころに飲んだっきりだった気がする。
俺は調子に乗って注がれた液体を全部飲み干した。
胃の中がカッと熱くなる。
ため息とともにアルコールと果物の香りが漏れていくのがなんとなくわかった。
もっと飲みたい。
そう強く思った。
ここまで意識するのは久々だ。
「エリザ、もう一杯だ。」
「そう来なくっちゃ!」
「ですがシロウ様、あまり飲みすぎるのは・・・。」
「このぐらい問題ないだろう、適度に水も飲むさ。」
さすがに飲み方ぐらいは心得ているつもりだ。
飲んだ酒と同量の水を飲めば問題ない。
注がれるまま酒を飲み干し、あっという間に入れ物が目の前に積まれていった。
「なによシロウだって飲めるじゃない。いつも飲みすぎだ~って言うくせにさ。」
「俺だってたまには飲みたい時があるんだよ。」
「へぇ、珍しい。」
「大丈夫ですか、シロウ様。」
「大丈夫だ。いや、大丈夫じゃなかったとしても大丈夫だ。」
「なによそれ、酔っぱらってるの?」
酔っぱらってる?
当たり前だろ、酒飲んでるんだから。
「こうでもしないとシナリオが書き変わらないだろ?」
「シナリオ?」
「俺は今まで自分のしたいことをしてきた、自分のしたいことでここまでやってきた。だが、それが全部嘘だったら、いったい何を信じればいいんだ?」
「え、ちょっと何言ってるの?飲みすぎたんじゃない?」
「お前もミラもアネットも、全部が全部仕組まれてたんだよ。」
「シロウ様?」
なんだろう、なんかどうでもよくなってきた。
グラスに入っていた液体をまた一気に飲み干す。
流石に胃が膨らんで来た。
だがまだ飲める。
いや、飲まないといけない。
「次。」
「だめよ、もうおしまい。」
「なんだよ、いつもは好き勝手飲むくせに。俺だっていいだろ。」
「ダメだって、あ、こら!」
エリザから入れ物を奪い取り、グラスに入れるのも面倒でそのまま口をつけた。
盛大に口からこぼしながら真上を向いて何度も何度も胃に流し込んでいく。
全部飲み干し、大きく息をはくと、途端に目の前が左右に揺れだした。
へへへ、ざまぁみろ。
これで、何もかもめちゃくちゃだ。
「・・・ロウ様!」
「んだよ、ほっといてくれ。」
「・・・ら!・・・こに・・・なさい!」
「だ・・・か、ごsy・・・ま。」
「うるさいなぁ。いいんだよ、どうなっても。」
誰かが俺の近くで何か言っているが、視界がどんどんと速度を上げて回りだし、そっちに意識が行ってうまく聞き取れない。
吐き気はない。
でも世界がぐるぐる回りだす。
「どうだ!これで、お前らの思い通りにならねぇぞ!ざまぁみろ!悔しかったら元の世界に戻してみやがれ!」
そう言った気がする。
言った気がするが、次の瞬間にはブレーカーが落ちたように目の前が真っ暗になった。
そこで全てが終わった。
その前日も終わりが近づき、今日は一角亭を貸し切っての食事会である。
貸切ってと言っても集まったのは俺達とマリーさん、アニエスさん、それとオリンピア様だけ。
あ、イライザさんもいるか。
まぁ、聞かれて困る内容はほぼないので問題ないだろう。
イライザさんの口も堅いしな。
「ってことで、かんぱ~い!」
「どういうことだよ。っていうか何度目だよ。」
「別に何度目でもいいじゃない。」
「シロウ様新しい料理です。」
「ありがとう。」
「ミラ、わたしにも取って~。」
「自分で取れ酔っ払い。」
「酔ってないし!」
顔を真っ赤にして何を言うかこの駄犬は。
さすがのオリンピア様も前回の一件以降飲酒に懲りたらしい。
今日も果汁を淹れた水を飲んでいる。
今日は・・・レレモンのようだ。
あっさりして美味しいよな。
「ふぅ。」
「なによ、ため息ついちゃってさ。」
「いや、考え事をな。」
「何か悩み事ですか?」
「そうじゃないんだが・・・。まぁ、俺の考えすぎだ。」
「何かあれば遠慮なくおっしゃってくださいね。」
「ありがとうマリーさん。」
マリーさんが心配そうな顔でこちらを見てくる。
うん、美人は不安そうな顔も美しいね。
ミラは気にするそぶりもなくエリザに料理をよそっている。
アネットとオリンピア様は少し離れたところで何やら盛り上がっているようだ。
アニエスさんはイライザさんとこちらも何やら話し込んでいる。
エリザ?
横で料理はまだかと騒いでるよ。
無駄な考えを飲み込むように、俺はぬるくなったエールを胃に流し込んだ。
美味い。
でも不味い。
楽しい食事もこんなテンションじゃ面白くなくなってしまう。
これも全部あの男と神様とやらのせいだ。
俺が考えすぎなのもあるんだが、それでもあのやり取りは俺の心に楔のように食い込んでいる。
掌の上で踊らされている。
俺はただの役者に過ぎない。
もちろんそうではなく、俺は俺。
自主性がありシナリオは存在しない。
そう神様は言っていたが、それでもこの世界にきての一連の流れはあまりにも出来すぎている。
ふつうここまで上手くいくだろうか。
そりゃあ何度も失敗してるし、大変だったこともある。
だが、それを差し引いても良い事ばかりだ。
女達と出会い、金が金を産む。
何をしても成功している現状は、まるで出来レースのようだと心のどこかで思っていた。
もちろんそんなことはなく、自分たちが考えて仕入れた品々を売って利益にしてきた。
その自負はあるけれど、思いついたことすら仕組まれたものだったら?
俺を別の世界から呼んでこれるぐらいなんだ、記憶の改竄なんて朝飯前だろう。
今こう悩んでいることすら仕組まれたものかもしれない。
そう考えれば考えるほど、何を信じていいのかわからなくなってしまう。
はぁ。
「なによ、大きなため息ついて。」
「なんでもねぇよ。」
「お酒が足りないんじゃなの?」
「お前と一緒に・・・いや、そうかもしれないな。」
たまには我を忘れるぐらいに飲んでもいいかもしれない。
これが神様の仕組んだものだとして、それを台無しにするぐらいに飲んだくれたら少しは抵抗することになるかもしれない。
「そうこなくっちゃ!イライザさん、あれちょうだい!」
「アレ?」
「モーリスさんがね、面白いお酒を仕入れてきたの。で、イライザさんの所で試しに売ってるんだって。透明で雑味も一切ないんだけど、すっごい強いの。でも、鼻に抜ける香りはなんだか果実酒みたいなのよね。」
「へぇ、モーリスさんの酒か。面白そうだな。」
珍しい酒はマスターの所でいろいろ飲んできたが、エリザが言うような酒はなかった。
透明で強い酒となると焼酎だが、それに果物の香りはしただろうか。
最近前の世界の記憶がどんどんと薄れている気がする。
これも神様とやらのせいなんだろうか。
そんなことを考えていると、イライザさんが陶器の入れ物を持ってきた。
「はいよ、お待たせ。」
「えっとねぇ、後は・・・そうだ!焼き魚!」
「はいはいあの乾いた魚だね、すぐ持ってくるよ。」
「これと一緒に食べるとすっごい美味しいの。もしかしたらシロウも食べたことあるんじゃない?」
そう言いながらエリザが陶器の入れ物を傾ける。
さっきまでエールが入っていたグラスに、半透明の液体が満たされた。
これは、日本酒か?
果物のような香りは醸造酒独特ものものだ。
蒸留酒はどこかアルコール臭い感じがあるが、これは発酵の過程で出る甘い香り。
てっきりどろっとしたドブロクてきな物かと思っていたのだが、まさかここまで澄んだものが手に入るなんて。
ますます西方に興味が出てきたなぁ。
「綺麗ですね。」
「見た目にだまされちゃだめよミラ、すっごい強いお酒だから。」
「そうなんですか?」
「オリンピア様が飲んだら即倒れるレベルよ。」
「えぇ!?」
ミラも少し酔っているんだろうか、いつもよりもリアクションが大きい。
俺はグラスに口をつけ、少しだけ液体を口に含んだ。
その瞬間、果実酒と錯覚するほどの甘い香りが口いっぱいに広がり、呼吸と共に鼻から抜けていった。
ゆっくりと飲み干すと香りとは違い、ガツンと強い酒精がのどを焼いていく。
美味い。
何年振りになるんだろうか。
前の世界でも飲んでいたのは安い発泡酒かチューハイ。
日本酒は若いころに飲んだっきりだった気がする。
俺は調子に乗って注がれた液体を全部飲み干した。
胃の中がカッと熱くなる。
ため息とともにアルコールと果物の香りが漏れていくのがなんとなくわかった。
もっと飲みたい。
そう強く思った。
ここまで意識するのは久々だ。
「エリザ、もう一杯だ。」
「そう来なくっちゃ!」
「ですがシロウ様、あまり飲みすぎるのは・・・。」
「このぐらい問題ないだろう、適度に水も飲むさ。」
さすがに飲み方ぐらいは心得ているつもりだ。
飲んだ酒と同量の水を飲めば問題ない。
注がれるまま酒を飲み干し、あっという間に入れ物が目の前に積まれていった。
「なによシロウだって飲めるじゃない。いつも飲みすぎだ~って言うくせにさ。」
「俺だってたまには飲みたい時があるんだよ。」
「へぇ、珍しい。」
「大丈夫ですか、シロウ様。」
「大丈夫だ。いや、大丈夫じゃなかったとしても大丈夫だ。」
「なによそれ、酔っぱらってるの?」
酔っぱらってる?
当たり前だろ、酒飲んでるんだから。
「こうでもしないとシナリオが書き変わらないだろ?」
「シナリオ?」
「俺は今まで自分のしたいことをしてきた、自分のしたいことでここまでやってきた。だが、それが全部嘘だったら、いったい何を信じればいいんだ?」
「え、ちょっと何言ってるの?飲みすぎたんじゃない?」
「お前もミラもアネットも、全部が全部仕組まれてたんだよ。」
「シロウ様?」
なんだろう、なんかどうでもよくなってきた。
グラスに入っていた液体をまた一気に飲み干す。
流石に胃が膨らんで来た。
だがまだ飲める。
いや、飲まないといけない。
「次。」
「だめよ、もうおしまい。」
「なんだよ、いつもは好き勝手飲むくせに。俺だっていいだろ。」
「ダメだって、あ、こら!」
エリザから入れ物を奪い取り、グラスに入れるのも面倒でそのまま口をつけた。
盛大に口からこぼしながら真上を向いて何度も何度も胃に流し込んでいく。
全部飲み干し、大きく息をはくと、途端に目の前が左右に揺れだした。
へへへ、ざまぁみろ。
これで、何もかもめちゃくちゃだ。
「・・・ロウ様!」
「んだよ、ほっといてくれ。」
「・・・ら!・・・こに・・・なさい!」
「だ・・・か、ごsy・・・ま。」
「うるさいなぁ。いいんだよ、どうなっても。」
誰かが俺の近くで何か言っているが、視界がどんどんと速度を上げて回りだし、そっちに意識が行ってうまく聞き取れない。
吐き気はない。
でも世界がぐるぐる回りだす。
「どうだ!これで、お前らの思い通りにならねぇぞ!ざまぁみろ!悔しかったら元の世界に戻してみやがれ!」
そう言った気がする。
言った気がするが、次の瞬間にはブレーカーが落ちたように目の前が真っ暗になった。
そこで全てが終わった。
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