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378.転売屋はいつもと変わらない日々をすごす

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女たちに全てを話し、気持ちが軽くなったのは確かだ。

相場スキルを隠す必要もない。

仕事もスムーズに進み、いつも以上に仕事が捗った。

何より女たちが今までと変わらない感じで接してくれるのが非常にありがたい。

変に気でも使われたらどうしようかと思ったが杞憂だったようだ。

「シロウ、倉庫の搬入終わったわよ。」

「助かった。」

「次は?」

「いや、特に何もない。暇ならダンジョンに行ってきてもいいんだぞ。」

「ん~そんな気分じゃないんだけど、依頼がないかだけ見てくる。」

「そうしろ。」

エリザが武器を担いで店を出ていくのを見送ると、入れ違いざまにミラが戻ってきた。

「ただいま戻りました。」

「どうだった?」

「今年は畑が豊作だったので食料関係の仕込みは難しそうですね。特に芋は日持ちするせいで価格が減少傾向にあります。」

「収穫が始まる前からそれか。」

「氾濫の際にも日持ちする食料を多く仕入れましたから。まだまだ町に残っているんだと思います。」

「う~む、外で売るしかないか。」

「ひとまず隣町に声をかけてみて、それでもダメでしたらお願いされてはいかがでしょう。」

「そうするか。」

今年も畑では芋がスクスクと生育中だ。

昨秋同様の収穫を見込んでいるんだが、どうやらかなり余ってしまいそうな感じだ。

向こうでも同じようなことになっているだろうから、あまり期待はできないだろう。

とりあえずは様子見だな。

「すみません、食事に入ります。」

「おぅ、ゆっくり食べろよ。」

「ありがとうございます。」

ちょうど昼過ぎ。

ミラが横を通り過ぎ、店の裏に入る。

すれ違う時にさりげなく尻を揉もうとしたらひらっと躱されてしまった。

残念だ。

仕方なく店番に戻り、ボーっと外を見る。

今日はあまり客が来ないな。

暇なのは嫌いじゃないが、手持無沙汰な感じはある。

ミラの食事が終わったら露店でも見に行くとしよう。

道行く人を眺めているとあっという間に時間が過ぎて行った。

店番を代わってもらい、露店を冷やかして回る。

「おはよう。」

「おぅ、おはようさん。」

「なんだい、今日はずいぶんといい顔してるじゃないか。」

「そうか?」

「憑き物が落ちた、そんな顔してるねぇ。そういやミラも今日は良い顔してたけど・・・。」

「まさかおめでたか?」

「残念ながら違うよ。」

そうか、ミラもいい顔していたのか。

「なんだい、早く孫の顔見せてくれないと死んじまうよ。」

「いやいやまだまだ若いのに何言ってんだよ。」

「こっちはねぇ、大病患った経験があるんだ。人間いつ死ぬかわからない、だからさっさと孫の顔を見せな。」

「孫はいいぞ~、何時間でも見ていられる。」

「え、おっちゃん孫いるのか?」

「いるにきまってるだろ、何歳だと思ってんだよ。」

こっちの世界は結婚も出産も早いからなぁ。

そういう意味ではミラは遅い部類に入るのか。

そんなこと言われてもなぁ・・・。

「今年とは言わないから来年までに種を仕込むんだよ、わかったね。」

「自分の娘に種を仕込むって・・・。」

「母親が許可してるんだ、いい加減根性見せなよ。」

「はいはい、わかったって。」

「お、言ったね?」

「前までは渋っていたくせに、兄ちゃんもいよいよ腹を決めたか。」

「ん~そんなんじゃないが、まぁそんなところだよ。」

「よくわかんねぇが頑張れよ!」

おっちゃんとおばちゃんに子作りを頑張れと言われてしまった。

っていうか、まだまだ日は高いんですけど?

そういう話題は・・・。

いや、なんでもない。

「あ、ご主人様!」

「アネット、珍しいな露店にいるなんて。」

「納品帰りにちょっと。お買い物ですか?」

「あぁ、仕入れを兼ねてぶらぶらと。」

「えへへ、あの、よかったら・・・。」

「せっかくだから一緒に見て回るか。」

「はい!」

普段自分の部屋か納品先に行くかしかしないアネットが自由に動き回っているのは珍しい。

俺のせいとはいえ色々と忙しくしているし、必要な素材は俺が準備してしまうからあまり外出しないんだよな。

二人で手をつないで露店を見て回る。

終始ニコニコと笑顔を振りまいていたアネットだったが、ある場所に来た途端にその笑顔がさらにもう一段輝きだした。

「お、ドルチェの店が出てるじゃないか。」

露店の端の方に人だかりができている店がある。

近づいて様子を見ると、ドルチェが新作のスイーツを販売していた。

知り合いとはいえ順番抜かしは良くない。

ちゃんと並んで話しかけた。

「新作が出来たんだな。」

「あ、師匠!見てください自信作ですよ!」

「わぁ、綺麗ですねぇ。」

「これはミルクレープか。」

「流石師匠!王都で今一番人気のおかしなのに、もうご存じなんですね。」

「まぁな。」

今までならアネット達も一緒にごまかしていたけれど、今は違う。

それがわかっているのか、アネットがこちらを向いてにこりと笑った。

「どっちもおいしそうです。」

「ってことでどっちもくれ。」

「ありがとうございます!」

「二個ずつって言いたいが、他にも客はいるみたいだな。また売りに来るか?」

「次回は二日後に!」

「じゃあまた買いに来る。」

「予約もできますよ?」

「そんなことしたら他の客が買えないだろ?」

「えへへ、ありがとうございます。」

せっかくドルチェが作ったお菓子だ、たくさんの人に食べてもらうべきだろう。

皿に乗せてもらい、少し離れたところで二人で分ける。

「ん~、美味しい!」

「良い感じの味だ、甘すぎずでも味がしっかりしてる。」

「ご主人様は食べたことがあるんですよね。」

「好んでは食べなかったが、時々はな。」

「いいなぁ、たくさん種類があるんですよね。」

「俺が食べた事のない物も数え切れないほどあるぞ。」

「え、すごい!」

「とはいえ、こっちでもドルチェが色々と作ってくれそうだ。楽しみだな。」

「そうですね!早速帰ってエリザ様に自慢しないと。」

わざわざ自慢するのか?

ケンカになったりしないだろうか。

そんな不安を抱えながら店に戻ると案の定エリザがぶちキレた。

何で私のが無いのよ!と騒ぐものだから、仕方なく俺が似たような菓子を作らされる羽目になったんだが・・・。

もしかするとコレもアネットの策略なんだろうか。

いや、アネットだけじゃない。

実はエリザも一枚咬んでいるんじゃないか?

クレープもどきを作りながらそんな事を考えてしまった。

夕食も食べずにただひたすらにクレープ生地を作り、それを使って女達が好きなものをくるんでいる。

甘みの無いシンプルな生地だからできる荒業だ。

「美味しい!」

「こんな美味しい食べ物があるなら何ですぐに作ってくれなかったのよ。」

「いや、菓子が食いたきゃドルチェの店に行けよ。俺は本職じゃない。」

「本職ではないのにこんなに美味しいもの作れるんですか?」

「材料さえあれば何でも作れたからなぁ、今思えばもっと料理しとけばよかったと思うよ。」

「今でも美味しいですよ?」

「そりゃどうも。」

女達に誉められながら生地を作り続ける。

今までだったらこんなに気軽に会話できなかったんだよな。

そう思うと本当に気持ちが楽になった。

「はぁ、おなか一杯。」

「食いすぎだろ。」

「いいのよ、運動すればプラマイゼロだわ。」

「ポジティブすぎる思考だな。」

「もちろん付き合ってくれるわよね?」

「ジョギングなら付き合ってもいいが筋トレはパスだ。」

エリザのしごきにはさすがに耐えられない。

アレをするぐらいなら何も考えずに走っているほうがましだ。

「何言ってるの?」

「ん?」

「することは一つしかないじゃない。」

「・・・順番はミラじゃなかったか?」

「一人も二人も同じよね、ミラ。」

「はい、エリザ様。」

いや、なんでそこで仲良くなってるの。

っていうか後ろでアネットまで手を上げてるんだが?

さすがに三人は無理だ、勘弁してくれ。

「ちなみに、さっき私が上げたお肉あったわよね。」

「あぁ、肉を挟んだやつな。」

「あの中にアネットのお薬、入れてあったんだけど気づいた?」

「バカ、お前!」

「後30分ぐらいで効いてくると思うから。ふふふ、楽しい夜になりそうね。」

プラシーボ効果って言ったか?

意識すればするほど体が熱くなってきて、体の一部分が元気になる。

女達の視線が自然とそこに集まった。

「それと、私達お薬飲むのをやめることにしました。」

「薬?」

「避妊の薬よ。」

「おま、それはつまり・・・。」

「もう我慢しないって決めたんです。ご主人様がここにずっといられるように、私達に出来ることをしようって。」

「いや、いくらなんでも話が飛びすぎだろ。」

「そんなこと無いわ。シロウが我慢していたように、私達も我慢していた。でも、もう我慢しない方がいいってわかったの。」

「お母様にも孫を早く見せるよう言われています、頑張りましょうねシロウ様。」

女達がゆっくりとこっちに近づいてくる。

喰われる。

薬を飲んで元気になっているとはいえ、それがいつまで持つかわからない。

っていうか薬を飲んでいないってことは孕む可能性があるわけで・・・。

いや、もういいか。

孕んだら孕んだときだ。

「どうなっても知らないからな。」

「望む所よ。」

「よろしくお願いします!」

「では善は急げ、片付けは後回しでいいでしょう。エリザ様はシロウ様と上に、アネットさんは裏口の施錠と火の後始末を。私は入り口を見てきます。」

「わっかりました!」

そうと決まれば動きが早いのがうちの女達。

その日、日の出前まで寝室の明かりが消えることは無かった。
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