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609.転売屋は茶漬けを売る
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夜もどっぷりと深け、子供たちが寝静まった頃。
大通りをガラガラと音を立てて何かが進んでいく。
そいつは飲み屋通りの手前で止まり、しばらくして真っ赤な明かりが灯された。
「さて、今日も頑張りますか。」
音の正体は屋根付きの大きな荷車。
即席の厨房のような物が備えつけてあり、その下には食器やら材料やらが仕舞われている。
厨房の反対側に垂れた板を起こせばカウンターテーブルに変身だ。
後は椅子を置いて準備完了。
「あ、やってる!」
「おぅ、いらっしゃい。今湯を沸かしてるから少し待ってくれ。」
「は~い!」
「何にしようかなぁ、やっぱりサワープラムかなぁ。」
「私サモーンにしよ~っと。」
ほろ酔いの女冒険者が二人、カウンターに座って談笑している。
準備をしながら聞き耳を立ててみるも、女の会話なんてのは色恋か噂話ぐらいなものだ。
火の魔導具にやかんを乗せてしばし待つ。
シュッシュと湯気が吹き出し、あっという間にお湯が沸きあがった。
足元のおひつから炊き立てのお米を茶碗に盛り、梅干しと鮭のほぐし身をそれぞれ乗せる。
最後に揚げ玉と海苔を散らせば完成だ。
「こっちがサワープラムで、こっちがサモーン。そんじゃま最後の仕上げだ。」
少し高くなったカウンターの上に茶碗を載せ、ゆっくりとした手つきでお茶を注ぐ。
緑茶の良い香りがふわっと広がり、二人とも目を閉じてその匂いを吸い込む。
「良い香り~。」
「ね、お酒の後はやっぱりこれよ。」
「茶漬け二丁お待ちどうさん、火傷するなよ。」
「「は~い。」」
おっと、最後にキュウリと茄の漬物も忘れちゃいけない。
さっきまでにぎやかだった二人も、茶漬けを食べてるときは静かだなぁ。
ちなみに、これは茶漬けの屋台。
前におでんを仕込んだ時のを改造して作り上げた俺のお楽しみだ。
先日仕込んだ漬物は大当たりこそしなかったものの、主に飲食店で食べられることになった。
やはり味の濃い料理を好む冒険者にはピクルスの方が需要は多いみたいだが、薄味の料理やコメ関係を出すお店には受け入れられた。
作り方も同時に公開しているので一般家庭は自分で作るだろう。
で、せっかく流行らせたんだから何か面白いことできないかと考えて始めたのがこの茶漬け屋台だ。
代金は一律銅貨10枚の深夜価格。
それでもふわりと広がる緑茶の香りに、飲み帰りの冒険者が吸い寄せられるように集まってくる。
あっという間にカウンターは埋まり、簡易テーブルを出して対応するも立ち食いまで出る賑わいだ。
「シロウさん!トゥロンの漬物おかわり!」
「俺も!」
「これ食いながら一杯やりたくなるよなぁ。」
「いや、〆なんだから我慢しろよ。」
「マスターの所で出してる西方の透明な酒とか合うんじゃないか?」
「正解だ、ちなみに用意出来るが飲むか?」
「え、飲みます!」
飲みの〆は茶漬け。
だが酒と一緒に食べてはいけないという決まりはない。
小さなガラス瓶に入った日本酒風の酒を開け、瓶ごと出してやる。
ちなみに値段は一本銀貨2枚。
普通に考えれば高価だが今の冒険者には手が届きやすい金額になっている。
王都に行くために色々と仕込みをしているので、それを冒険者に依頼しまくっているからだ。
この酒も昔は売れなかったのにとモーリスさんが驚いていたっけ。
何をするにしても育つ土壌が無いと広まるものも広まらない。
茶漬けだって、コメの文化が受け入れられていなければ広がらなかっただろう。
「シロウ様、食器をお持ちしました。」
「悪いなミラ。」
「客足はなかなかのようですね、使った物は持ち帰ります。」
「宜しく頼む。」
「お酒は足りていますか?」
「心もとないが無ければ無いで構わない。」
「わかりました、ではまた後で。」
大量の食器を持ってミラが静かに立ち去る。
木製の食器とはいえあの量は中々重たいだろう。
もちろん屋敷に持ち帰るわけではなく、イライザさんの厨房をお借りして綺麗にするわけだがそれでも大変なことに変わりはない。
本当に申し訳ないなぁ。
「ご主人様、追加のおコメです。」
「お、そろそろ足りなくなる所だったんだ。」
「具材はどうですか?足りてますか?」
「そうだな、のりがもう少しあると助かる。次の補充のときでいいから頼むな。」
「わかりました。あ、ミラ様が食器を下げてくださったんですね。」
「あぁ、悪いが手伝ってやってくれ。」
「わかりました。」
そろそろコメが心もとないなというタイミングでアネットが追加を持ってきてくれた。
茶葉はまだまだあるし水も魔道具から供給されるので閉店までは何とかなるだろう。
さて、もうひと頑張りだ。
「そうだシロウさん、こんな噂知ってます?」
「噂?」
「西方の兵士が異国巡りでこの国に来てるそうなんです。なんでも見たことのない剣術でダンジョンを制覇して回ってるとか。」
「しらねぇなぁ。」
「しかも一人でらしいですよ。」
「腕試しでダンジョンにもぐるのはまぁわかるとして、金にならないのによくやるなぁ。」
「ホントそれですよ。」
「深部にもぐっても何の名誉もないのにな。」
そう、ゲームのように最下層まで達したからといって何か報酬があるわけではない。
ダンジョンは存在自体が謎だ。
最下層がわかっているものもあれば、いまだ未踏はの場所もたくさんある。
うちのダンジョンは龍の巣が最下層といわれているが、行ったからといってあのしゃべる古龍がいるに過ぎない。
そういやそろそろ土産を持って行く時期か。
王都に行く前に顔を出しておいた方がいいだろう。
でもなぁ、エリザはいないしアニエスさんに全部任せるのは大変だ。
腕のある冒険者に声かけしておいた方がいいか。
「まぁ俺達には関係のない話だ。」
「ですね。あ、お漬物おかわり。」
「塩分の取りすぎだぞ。」
「いいじゃないですか、その分酒も飲んでますから。」
「それはいいのか?」
「いいんです。」
そうか、いいのか。
その後も冒険者達から様々な噂を聞きながら、あっという間に時間は過ぎていった。
「今日はコレで終わりだ、また今度な。」
「次はいつですか?」
「わからん。」
「そりゃないですよぉ。」
茶漬け屋台は不定期営業、仕事が少なく元気があれば営業する。
お遊びではあるが意外に稼げるだけに定期的に開けたいとは思っているのだが、そこは体と相談だ。
俺のかわりに働いてくれる人がいるといいんだが誰も立候補してくれないんだよなぁ。
最後の客を見送り、後片付けを続ける。
「お疲れ様でした。」
「あれ、ハーシェさんどうしたんだ?」
「ちょっと寝付けなくて。」
「何か出してやりたいんだが生憎緑茶はダメなんだよなぁ・・・。」
「気にしないでください。」
カフェインレスのお茶があればいいんだが、生憎とそういうのは手元にない。
麦茶とかルイボスティーがあればいいんだがなぁ。
っていうかルイボスって何だろう。
味は好きだが知らずに飲んでいた気がする。
カウンター側に座ったハーシェさんが片づけをする俺をじっと見てくる。
別に見られて困るものではないのだが、なんていうか気になる。
「見て楽しいものじゃないだろ。」
「そんなことありません、素敵です。」
「素敵な要素がどこにあるかは正直わからないが、まぁ好きにしてくれ。」
「ふふ、そうします。」
黙ったまま静かな眼で俺を見つめるハーシェさん。
その口元は少しだけ上がり笑っているようにも見える。
「楽しそうだな。」
「はい。もしかするとシロウ様とこんなお店を開くこともありえたのかなと思ってしまいました。」
「店を?確かに一度は夢見たものだが、生憎と料理の腕は人並みだ。」
「でもたくさんお客様が来てくれそうです。皆さん楽しそうに食事をして、最後は笑って帰られる。それを二人で見送るんです。」
「なるほどなぁ。」
「儲からなくてもいいので幸せにすごせるお店、素敵だと思いませんか?」
「やるからには儲けたい性分なんだが。」
「ふふ、知ってます。」
若い頃は自分の店を持って、なんて考えたこともあった。
だが友人がやっている店を見て、俺には出来ないなと思ったんだ。
見た目は華やかだが中々大変な仕事だし、その上儲けを出すのなんてよほどの腕前が無いと難しい。
よほどの人脈、もしくは繋がりが無いと厳しいだろう。
そういう意味でもマスターやイライザさんの店は凄いと思う。
よくもまぁあそこまで繁盛させるものだ。
でもよく考えれば今の俺には金もつながりもあるわけで。
晩年になったら考えてみてもいいかもしれない。
「そのお店にはもちろん我々もいますよね。」
「もちろんそのつもりだ。流石に二人じゃ大変だしな。」
「それを聞いて安心しました。」
「下準備は任せてくださいね。」
そろそろ片付けも終わり、というタイミングで食器を抱えた二人が戻ってきた。
「お帰りなさい、ミラさんアネットさん。ご苦労様でした。」
「あの、ハーシェ様は二人のお店の方がよかったんじゃありませんか?」
「そんなことありません。確かに頭の中ではそう考えますが、実際にシロウ様とお店をするとなるとあれこれ手を広げて大変なことになるのは目に見えていますから。お二人といわず皆さんがいないと回らないと思います。」
「否定できない自分が怖い。」
「なんでしたら今からお店を作られますか?」
「いやいや、コレは単なるお遊びだ。」
「お遊びでかなりの金額を稼いでると思うんですけど。」
「それはそれ、これはこれ。仕入れとかを考えるとマスターの足元にも及ばないって。」
「比較対象がどうかと思いますが。でも、シロウ様の目標を考えるとまだまだですね。」
稼ぐならとことん稼ぎたい。
だからあれこれ手を広げて、結果として今みたいに忙しくなるのは眼に見えている。
ハーシェさんの考えたとおりになるだろう。
とりあえずは現状維持で十分だ。
「さて、そろそろ帰るか。面白い噂を聞いたんだ、話しながら戻るとしよう。」
食器をしまい、アネットと共に屋台を押してゆっくりと屋敷へ戻る。
俺の聞いた噂に加えて、ミラも中々に面白い話を聞いていた。
なるほど、それは金になりそうだ。
こんなことを考えているから忙しくなるんだと、わかっていても止められない自分がいる。
金儲けは止められない。
なぜなら金が好きだからだ。
大通りをガラガラと音を立てて何かが進んでいく。
そいつは飲み屋通りの手前で止まり、しばらくして真っ赤な明かりが灯された。
「さて、今日も頑張りますか。」
音の正体は屋根付きの大きな荷車。
即席の厨房のような物が備えつけてあり、その下には食器やら材料やらが仕舞われている。
厨房の反対側に垂れた板を起こせばカウンターテーブルに変身だ。
後は椅子を置いて準備完了。
「あ、やってる!」
「おぅ、いらっしゃい。今湯を沸かしてるから少し待ってくれ。」
「は~い!」
「何にしようかなぁ、やっぱりサワープラムかなぁ。」
「私サモーンにしよ~っと。」
ほろ酔いの女冒険者が二人、カウンターに座って談笑している。
準備をしながら聞き耳を立ててみるも、女の会話なんてのは色恋か噂話ぐらいなものだ。
火の魔導具にやかんを乗せてしばし待つ。
シュッシュと湯気が吹き出し、あっという間にお湯が沸きあがった。
足元のおひつから炊き立てのお米を茶碗に盛り、梅干しと鮭のほぐし身をそれぞれ乗せる。
最後に揚げ玉と海苔を散らせば完成だ。
「こっちがサワープラムで、こっちがサモーン。そんじゃま最後の仕上げだ。」
少し高くなったカウンターの上に茶碗を載せ、ゆっくりとした手つきでお茶を注ぐ。
緑茶の良い香りがふわっと広がり、二人とも目を閉じてその匂いを吸い込む。
「良い香り~。」
「ね、お酒の後はやっぱりこれよ。」
「茶漬け二丁お待ちどうさん、火傷するなよ。」
「「は~い。」」
おっと、最後にキュウリと茄の漬物も忘れちゃいけない。
さっきまでにぎやかだった二人も、茶漬けを食べてるときは静かだなぁ。
ちなみに、これは茶漬けの屋台。
前におでんを仕込んだ時のを改造して作り上げた俺のお楽しみだ。
先日仕込んだ漬物は大当たりこそしなかったものの、主に飲食店で食べられることになった。
やはり味の濃い料理を好む冒険者にはピクルスの方が需要は多いみたいだが、薄味の料理やコメ関係を出すお店には受け入れられた。
作り方も同時に公開しているので一般家庭は自分で作るだろう。
で、せっかく流行らせたんだから何か面白いことできないかと考えて始めたのがこの茶漬け屋台だ。
代金は一律銅貨10枚の深夜価格。
それでもふわりと広がる緑茶の香りに、飲み帰りの冒険者が吸い寄せられるように集まってくる。
あっという間にカウンターは埋まり、簡易テーブルを出して対応するも立ち食いまで出る賑わいだ。
「シロウさん!トゥロンの漬物おかわり!」
「俺も!」
「これ食いながら一杯やりたくなるよなぁ。」
「いや、〆なんだから我慢しろよ。」
「マスターの所で出してる西方の透明な酒とか合うんじゃないか?」
「正解だ、ちなみに用意出来るが飲むか?」
「え、飲みます!」
飲みの〆は茶漬け。
だが酒と一緒に食べてはいけないという決まりはない。
小さなガラス瓶に入った日本酒風の酒を開け、瓶ごと出してやる。
ちなみに値段は一本銀貨2枚。
普通に考えれば高価だが今の冒険者には手が届きやすい金額になっている。
王都に行くために色々と仕込みをしているので、それを冒険者に依頼しまくっているからだ。
この酒も昔は売れなかったのにとモーリスさんが驚いていたっけ。
何をするにしても育つ土壌が無いと広まるものも広まらない。
茶漬けだって、コメの文化が受け入れられていなければ広がらなかっただろう。
「シロウ様、食器をお持ちしました。」
「悪いなミラ。」
「客足はなかなかのようですね、使った物は持ち帰ります。」
「宜しく頼む。」
「お酒は足りていますか?」
「心もとないが無ければ無いで構わない。」
「わかりました、ではまた後で。」
大量の食器を持ってミラが静かに立ち去る。
木製の食器とはいえあの量は中々重たいだろう。
もちろん屋敷に持ち帰るわけではなく、イライザさんの厨房をお借りして綺麗にするわけだがそれでも大変なことに変わりはない。
本当に申し訳ないなぁ。
「ご主人様、追加のおコメです。」
「お、そろそろ足りなくなる所だったんだ。」
「具材はどうですか?足りてますか?」
「そうだな、のりがもう少しあると助かる。次の補充のときでいいから頼むな。」
「わかりました。あ、ミラ様が食器を下げてくださったんですね。」
「あぁ、悪いが手伝ってやってくれ。」
「わかりました。」
そろそろコメが心もとないなというタイミングでアネットが追加を持ってきてくれた。
茶葉はまだまだあるし水も魔道具から供給されるので閉店までは何とかなるだろう。
さて、もうひと頑張りだ。
「そうだシロウさん、こんな噂知ってます?」
「噂?」
「西方の兵士が異国巡りでこの国に来てるそうなんです。なんでも見たことのない剣術でダンジョンを制覇して回ってるとか。」
「しらねぇなぁ。」
「しかも一人でらしいですよ。」
「腕試しでダンジョンにもぐるのはまぁわかるとして、金にならないのによくやるなぁ。」
「ホントそれですよ。」
「深部にもぐっても何の名誉もないのにな。」
そう、ゲームのように最下層まで達したからといって何か報酬があるわけではない。
ダンジョンは存在自体が謎だ。
最下層がわかっているものもあれば、いまだ未踏はの場所もたくさんある。
うちのダンジョンは龍の巣が最下層といわれているが、行ったからといってあのしゃべる古龍がいるに過ぎない。
そういやそろそろ土産を持って行く時期か。
王都に行く前に顔を出しておいた方がいいだろう。
でもなぁ、エリザはいないしアニエスさんに全部任せるのは大変だ。
腕のある冒険者に声かけしておいた方がいいか。
「まぁ俺達には関係のない話だ。」
「ですね。あ、お漬物おかわり。」
「塩分の取りすぎだぞ。」
「いいじゃないですか、その分酒も飲んでますから。」
「それはいいのか?」
「いいんです。」
そうか、いいのか。
その後も冒険者達から様々な噂を聞きながら、あっという間に時間は過ぎていった。
「今日はコレで終わりだ、また今度な。」
「次はいつですか?」
「わからん。」
「そりゃないですよぉ。」
茶漬け屋台は不定期営業、仕事が少なく元気があれば営業する。
お遊びではあるが意外に稼げるだけに定期的に開けたいとは思っているのだが、そこは体と相談だ。
俺のかわりに働いてくれる人がいるといいんだが誰も立候補してくれないんだよなぁ。
最後の客を見送り、後片付けを続ける。
「お疲れ様でした。」
「あれ、ハーシェさんどうしたんだ?」
「ちょっと寝付けなくて。」
「何か出してやりたいんだが生憎緑茶はダメなんだよなぁ・・・。」
「気にしないでください。」
カフェインレスのお茶があればいいんだが、生憎とそういうのは手元にない。
麦茶とかルイボスティーがあればいいんだがなぁ。
っていうかルイボスって何だろう。
味は好きだが知らずに飲んでいた気がする。
カウンター側に座ったハーシェさんが片づけをする俺をじっと見てくる。
別に見られて困るものではないのだが、なんていうか気になる。
「見て楽しいものじゃないだろ。」
「そんなことありません、素敵です。」
「素敵な要素がどこにあるかは正直わからないが、まぁ好きにしてくれ。」
「ふふ、そうします。」
黙ったまま静かな眼で俺を見つめるハーシェさん。
その口元は少しだけ上がり笑っているようにも見える。
「楽しそうだな。」
「はい。もしかするとシロウ様とこんなお店を開くこともありえたのかなと思ってしまいました。」
「店を?確かに一度は夢見たものだが、生憎と料理の腕は人並みだ。」
「でもたくさんお客様が来てくれそうです。皆さん楽しそうに食事をして、最後は笑って帰られる。それを二人で見送るんです。」
「なるほどなぁ。」
「儲からなくてもいいので幸せにすごせるお店、素敵だと思いませんか?」
「やるからには儲けたい性分なんだが。」
「ふふ、知ってます。」
若い頃は自分の店を持って、なんて考えたこともあった。
だが友人がやっている店を見て、俺には出来ないなと思ったんだ。
見た目は華やかだが中々大変な仕事だし、その上儲けを出すのなんてよほどの腕前が無いと難しい。
よほどの人脈、もしくは繋がりが無いと厳しいだろう。
そういう意味でもマスターやイライザさんの店は凄いと思う。
よくもまぁあそこまで繁盛させるものだ。
でもよく考えれば今の俺には金もつながりもあるわけで。
晩年になったら考えてみてもいいかもしれない。
「そのお店にはもちろん我々もいますよね。」
「もちろんそのつもりだ。流石に二人じゃ大変だしな。」
「それを聞いて安心しました。」
「下準備は任せてくださいね。」
そろそろ片付けも終わり、というタイミングで食器を抱えた二人が戻ってきた。
「お帰りなさい、ミラさんアネットさん。ご苦労様でした。」
「あの、ハーシェ様は二人のお店の方がよかったんじゃありませんか?」
「そんなことありません。確かに頭の中ではそう考えますが、実際にシロウ様とお店をするとなるとあれこれ手を広げて大変なことになるのは目に見えていますから。お二人といわず皆さんがいないと回らないと思います。」
「否定できない自分が怖い。」
「なんでしたら今からお店を作られますか?」
「いやいや、コレは単なるお遊びだ。」
「お遊びでかなりの金額を稼いでると思うんですけど。」
「それはそれ、これはこれ。仕入れとかを考えるとマスターの足元にも及ばないって。」
「比較対象がどうかと思いますが。でも、シロウ様の目標を考えるとまだまだですね。」
稼ぐならとことん稼ぎたい。
だからあれこれ手を広げて、結果として今みたいに忙しくなるのは眼に見えている。
ハーシェさんの考えたとおりになるだろう。
とりあえずは現状維持で十分だ。
「さて、そろそろ帰るか。面白い噂を聞いたんだ、話しながら戻るとしよう。」
食器をしまい、アネットと共に屋台を押してゆっくりと屋敷へ戻る。
俺の聞いた噂に加えて、ミラも中々に面白い話を聞いていた。
なるほど、それは金になりそうだ。
こんなことを考えているから忙しくなるんだと、わかっていても止められない自分がいる。
金儲けは止められない。
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