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1144.転売屋はお酒を売り込む
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感謝祭二日目。
初日に予想外の事が起きたものの、それ以降は大きな問題も起きずのんびりと感謝祭を過ごすことが出来ている。
とはいえ感謝祭は一週間にわたる長いお祭り。
初日で盛り上がり過ぎるのもあれなので丁度良かったのかもしれない。
新しい玩具に子供達は大喜びしていたし、女達も欲しい物が手に入って満足そうだ。
ダンディさんの店になだれ込んだ時はどうなる事かと思ったが、普段手に入らなさそうな珍しい物も手に入ったので俺としても大満足。
もっとも、彼女たちが買った物が聊か過激だったのは見なかったことにしておこう。
なんだよあの下着、どう見ても紐じゃないか。
他にも自分用と言いながらもどう考えても使用する相手が俺だとわかる品ばかり。
別にそんなもの使わなくても俺は十分満足なんだが・・・。
「これはシロウ名誉男爵、お噂はかねがね。」
「遠路はるばるようこそ。オークションの開催は二日後、それまではどうぞごゆっくりお過ごしください。」
如何にも金を持っていそうな脂ギッシュな男が腹の肉を揺らしながら手を伸ばしてくるので、致し方なく握手を交わす。
くそ、こんなことなら大人しく真贋鑑定の方にまわればよかった。
どっちにせよ俺がするのならこんなめんどくさい事をしなくてもよかったのにと、一時間前の自分に悪態をつく。
決してこのオッサンに悪態をついているわけではない。
「なにか?」
「いや、なんでも。」
おっと、危なく表情に出てしまったようだ。
すぐに精神を落ち着かせて挨拶もほどほどに次の客を出迎える準備をしなければ。
ローランド様のお屋敷の前にはまだまだ多くの馬車が列をなしており、その一台一台にどこぞからやってきた貴族やら王族やらが乗っている。
一時間前。
突然ローランド様から呼び出されたとおもったらこんなめんどくさい事を頼まれてしまった。
あの時断っておけばよかったと後悔するも、一緒に呼び出されたオリンピアやマリーさんに全てを押し付けるわけにもいかないのでこうして仕方なく出迎えの仕事を引き受けているというわけだ。
幸い俺という人間がそれなりに有名なだけあって出迎えられて悪い顔をした人はいない。
皆驚いた顔をするも、丁寧に応対すると満足そうに屋敷の中に入っていく。
一人また一人と笑顔で出迎え、握手を交わして屋敷へ誘導する簡単なお仕事。
貴族とかいう至極めんどくさい連中を気持ちよく出迎える為に体よく使われているような感じだが、それが金に変わるのだから今は我慢するしかないよな。
そんな我慢を続ける事二時間、いい加減疲れ果ててきた時の事だった。
「おや、貴方は・・・。」
「名誉男爵のシロウと申します、ようこそお越しくださいました。」
「存じています、そうですか貴方が出迎えを。」
「ローランド様は中で皆様をお待ちになっておられます、私で申し訳ありませんがどうぞご容赦を。」
「いえいえ、一番にお会いできてよかった。」
爽やかな金髪長身イケメン。
漫画かなにかから出て来たようなその男は、静かに俺に手を伸ばし握手を求めて来た。
今日何度目かのやり取りに何も気にせず手を伸ばす。
「っ!」
指の骨が折れるんじゃないかという位に強い力で握られ思わず苦悶の声が漏れるも気合で耐える。
が、あまりの痛さに思わず睨みつけてしまった。
しかしその男は爽やかな笑顔でそれを躱し何事もなかったように手を離すとそのまま屋敷へと消えてしまった。
くそ、まだジンジンするんだが。
「旦那様、交代しましょうか。」
「大丈夫だ。それよりも今すれ違った男を知ってるか?」
「あの方は確か王都議会の方ですね、名前は確かマイケルだったかと。昔何度か話したことがありますが、非常に物腰が柔らかくて貴族の女性たちから絶大な人気だったのを覚えています。その方が何か?」
「さっき握手をしたんだが、指をへし折られるかと思った。」
そう言いながら赤くなった右手をプラプラと振ってみせる。
冗談抜きでアレは痛かった。
普通はあそこまでやる事はないだろうから、本気で俺の指を折りに来たのかもしれない。
この世界では骨折程度であればポーション飲めばすぐに治るとはいえ、だからと言って折っていいわけではない。
「そんな、何でそんな事を。」
「わからん。わからんが、あの笑顔のままおもいっきりやってくる辺り俺を試したかったか何かなんだろう。」
「試す?」
「俺の所にオリンピアが来てるだろ?大方それ関係じゃないのか?」
王族と仲睦まじい関係というのは王都の人間からすればあまりいい物ではないだろう。
名誉貴族の地位だって反発する声がある中の強硬決定だったわけだし、良く思っていないやつがいてもおかしくない。
しかしここまで露骨に敵意を向けられるのは初めてだ。
何が目的なのかは知らないが気を付けておくべきだろう。
「私から注意しましょうか。」
「いやいい、事を荒立てる気はないし向こうが俺に敵意を受けてくるのならば俺はそれを流せばいいだけの話だ。もちろん強引な手で来るのならばその限りではないが。」
「オリンピアですね。」
「あぁ、陛下から預かっている大切な義理の妹だからな。何かしようものならディーネの力を使ってでも目にもの見せてやる。俺に喧嘩売ったことを後悔するんだな。」
「ふふ、最初は貴族なんてめんどくさいと仰っていたのに。」
そりゃ今でもめんどくさいさ。
だがその地位のおかげで色々と助かっていることもあるし、それを利用して金儲けができるのであれば利用するまでの事。
もちろん今回だってそれを利用するために致し方なく手伝っているだけだ。
そうでなきゃ感謝祭の日にわざわざこんなめんどくさい事をするはずがない。
「それで中はどんな感じだ?もう始まってるのか?」
「今は歓談しながらローランド様を待っている状態です。そうでした、納品したお酒の件で問い合わせが多数出ているそうです。中をお願いできますでしょうか。」
「了解。くれぐれも気を付けろよ、変なの多いからな。」
「そういうのは慣れていますのでご心配なく、でも有難うございます。」
王族時代にそういう経験は多数しているだろうが、男と女ではその程度も害意の向けられ方も違うはず。
まぁマリーさんが俺の嫁さんだってことは知られているはずだから大丈夫だと思うけどなぁ。
先程の男を追いかけるように俺も屋敷の中へ。
マイケルとか言うイケメンは・・・お、早速大勢の女性に囲まれているようだ。
よしよしそのままそこから動かないでくれよ。
「シロウさん、丁度呼びに行こうと思っていたところです。」
「うちの酒がどうかしたのか?」
「この最高に美味い酒は君が作っているそうじゃないか!」
「陛下も絶賛した酒だ、ぜひうちに譲ってくれ!」
「いいや、うちだ!」
「何を言ううちに決まっているだろ!」
向こうは美人のお姉さま方に言い寄られ、こっちはむさくるしいオッサンたちに絡まれる。
どっちがいいかと聞かれたらどっちも嫌なのだが、めんどくさいことこの上ない。
とはいえこの酒は見せつける為に作っているわけじゃない。
今年の仕込みも順調に進んでいるようだし来年に向けてしっかり売り込むとしよう。
「まぁまぁ落ち着いてくれ。今回提供している数には限りがあるし、今回の仕込み分の殆どは王家に献上した後だ。とはいえ次回には今の三倍以上の量が仕上がる予定だからそれを提供するという事であれば吝かではない。だがかなり高いぞ。」
「いくらでも出そう。」
「あぁ、金ならある。是非譲ってくれ!」
金にものを言わせて買い付けようという勢いが半端ない。
この感じから察するに貴族って言うか商人なんだろうなこの人たちは。
金にものを言わせるという意味では俺も似たような所はあるが、王家御用達というだけでこれだけの箔がつくものなのか。
もちろんそれを狙って今年の分は殆どを王家に献上することにしたわけだが、まさかここまでの効果が出るとはちょっと想像していなかった。
本当は四倍近い量を仕込んでいるのだが、絶対という言葉はないので少な目に言っておく方がいいだろう。
さて、いくらでもいいって言ってるんだから盛大に上乗せさせてもらうとするか。
「そこに置いている大瓶一本で金貨1.5枚、小さい方で銀貨20枚。今すぐに融通できるのは大瓶が10本と小瓶が100本それが限界だ。」
「全部くれ!」
「何を言う、独占するなど許さんぞ!」
「まぁまぁ落ち着いてくれ、他にもほしい人が後ろで話を聞いてるんだ、酒でも飲みながらゆっくり話し合ってくれ。」
「それじゃあ良い感謝祭を。」
本当はもっと提供できるがこういう時は出し渋ったほうが希少価値が出てより高く売れる。
それを理解したうえで大瓶銀貨50枚、小瓶は銀貨10枚も予定の価格よりも上乗せしたにもかかわらずこの需要、うーむこれなら通常価格も値上げした方がいいだろうか。
殴り合いになるんじゃないかってぐらいに盛り上がるオッサンたちから距離を置いて壁側に移動し、大きく息を吐く。
反対側の壁ではあのイケメンがニコニコしながら女性達に囲まれている。
どれも綺麗だがうちの嫁さんたちには敵わないな。
「相変わらずですねぇシロウさん、今話していた人達って貴族の大商人ですよ。」
「だろうな、金さえ出せば何とかなるって感じだったし。」
「邪険にしないでくださいねオークションの大事な金づるなんですから。」
「そっちこそ、そんな事言っていいのか?」
「聞かれなければ問題ありませんよ。」
公平を司るギルド協会の偉いさんが大事なお客を金づる呼ばわりか。
街としては歓迎するが、個人では余程相手したくないと見える。
確かに素行は宜しくなさそうだが、オークションを含め感謝祭の間にかなりの金を落としてくれるはずだ。
うちとしても大事な『お客様』になるわけだし、揉めるようならもう少し提供する数を増やしてもいいだろう。
通常価格で売るよりも間違いなく利益が増えるし、冒険者たちにふるまう分はもう別に避けてある。
後は残りを誰に売るかってだけの話なのでそれで儲けが増えるのならば文句はない。
その分ジョウジさんに還元するお金が増えるわけだし、金が増えれば今回の仕込みに回せるお金も増えるわけだしな。
「シープさん、一つ頼みたいことがあるんだが。」
「出来る事と出来ないことがありますけど、一応聞かせてもらいます。」
「向こうの壁にいるマイケルって王都議会の議員がいるんだが、それとなく監視してもらえるか?」
羊男は一瞬だけ確認して視線をすぐに戻す。
今日はここに一日缶詰だろうからそれとなく確認してもらうだけでも十分だろう。
「あの女性に囲まれている羨ましい人ですね。」
「嫁に聞かれたって知らないぞ。」
「羨ましいだけで同じことをしたいとは言ってませんよ。ともかくあの人を監視すればいいんですね?」
「あぁそれとなく見ているだけで十分だ。」
「何かされたんですか?」
「挨拶もほどほどにいきなり握手で俺の手を折りに来た。」
ポケットに隠していた真っ赤になった手を出すと驚いたように目を見開く。
だがすぐにいつもの表情に戻った。
「恨まれるようなことしたんですか?」
「生憎と覚えは無くてね。俺の勘ではオリンピア関係かと思っているんだが、証拠がないから何とも言えない。とりあえず俺が狙われているのは間違いなさそうだから今日は大人しく退散させてもらうつもりだ。受付はもう終わりだろ?」
「そうですね、程々来られていますし・・・。どうやらローランド様の準備も終わったようです。」
「話が長くなる前にとっととずらかるか。それじゃあ、良い感謝祭を。」
「良い感謝祭を。」
後の事は羊男に丸投げだ。
オリンピアは会場に残らないとだめだろうけど、マリーさんは一般人扱いなので受付が終わればお役御免になるだろう。
羊男にもマークしてもらっているし余程の事はない・・・はずだ。
もちろん本人が残りたいといえば残ってもらってもかまわないのだが。
「街長ローランド様の登場です、皆様ご注目下さい。」
アナウンスと同時に二階から登場したローランド様が帰ろうとしている俺を見て一瞬険しい表情をしたかもしれないが、俺の気のせいだろう。
盛大な拍手を背中に感じながら静かにエントランスを後にする。
全員の視線がローランド様に集まる中、背中に刺すような物を感じたのは気のせいじゃないんだろうなぁ。
初日に予想外の事が起きたものの、それ以降は大きな問題も起きずのんびりと感謝祭を過ごすことが出来ている。
とはいえ感謝祭は一週間にわたる長いお祭り。
初日で盛り上がり過ぎるのもあれなので丁度良かったのかもしれない。
新しい玩具に子供達は大喜びしていたし、女達も欲しい物が手に入って満足そうだ。
ダンディさんの店になだれ込んだ時はどうなる事かと思ったが、普段手に入らなさそうな珍しい物も手に入ったので俺としても大満足。
もっとも、彼女たちが買った物が聊か過激だったのは見なかったことにしておこう。
なんだよあの下着、どう見ても紐じゃないか。
他にも自分用と言いながらもどう考えても使用する相手が俺だとわかる品ばかり。
別にそんなもの使わなくても俺は十分満足なんだが・・・。
「これはシロウ名誉男爵、お噂はかねがね。」
「遠路はるばるようこそ。オークションの開催は二日後、それまではどうぞごゆっくりお過ごしください。」
如何にも金を持っていそうな脂ギッシュな男が腹の肉を揺らしながら手を伸ばしてくるので、致し方なく握手を交わす。
くそ、こんなことなら大人しく真贋鑑定の方にまわればよかった。
どっちにせよ俺がするのならこんなめんどくさい事をしなくてもよかったのにと、一時間前の自分に悪態をつく。
決してこのオッサンに悪態をついているわけではない。
「なにか?」
「いや、なんでも。」
おっと、危なく表情に出てしまったようだ。
すぐに精神を落ち着かせて挨拶もほどほどに次の客を出迎える準備をしなければ。
ローランド様のお屋敷の前にはまだまだ多くの馬車が列をなしており、その一台一台にどこぞからやってきた貴族やら王族やらが乗っている。
一時間前。
突然ローランド様から呼び出されたとおもったらこんなめんどくさい事を頼まれてしまった。
あの時断っておけばよかったと後悔するも、一緒に呼び出されたオリンピアやマリーさんに全てを押し付けるわけにもいかないのでこうして仕方なく出迎えの仕事を引き受けているというわけだ。
幸い俺という人間がそれなりに有名なだけあって出迎えられて悪い顔をした人はいない。
皆驚いた顔をするも、丁寧に応対すると満足そうに屋敷の中に入っていく。
一人また一人と笑顔で出迎え、握手を交わして屋敷へ誘導する簡単なお仕事。
貴族とかいう至極めんどくさい連中を気持ちよく出迎える為に体よく使われているような感じだが、それが金に変わるのだから今は我慢するしかないよな。
そんな我慢を続ける事二時間、いい加減疲れ果ててきた時の事だった。
「おや、貴方は・・・。」
「名誉男爵のシロウと申します、ようこそお越しくださいました。」
「存じています、そうですか貴方が出迎えを。」
「ローランド様は中で皆様をお待ちになっておられます、私で申し訳ありませんがどうぞご容赦を。」
「いえいえ、一番にお会いできてよかった。」
爽やかな金髪長身イケメン。
漫画かなにかから出て来たようなその男は、静かに俺に手を伸ばし握手を求めて来た。
今日何度目かのやり取りに何も気にせず手を伸ばす。
「っ!」
指の骨が折れるんじゃないかという位に強い力で握られ思わず苦悶の声が漏れるも気合で耐える。
が、あまりの痛さに思わず睨みつけてしまった。
しかしその男は爽やかな笑顔でそれを躱し何事もなかったように手を離すとそのまま屋敷へと消えてしまった。
くそ、まだジンジンするんだが。
「旦那様、交代しましょうか。」
「大丈夫だ。それよりも今すれ違った男を知ってるか?」
「あの方は確か王都議会の方ですね、名前は確かマイケルだったかと。昔何度か話したことがありますが、非常に物腰が柔らかくて貴族の女性たちから絶大な人気だったのを覚えています。その方が何か?」
「さっき握手をしたんだが、指をへし折られるかと思った。」
そう言いながら赤くなった右手をプラプラと振ってみせる。
冗談抜きでアレは痛かった。
普通はあそこまでやる事はないだろうから、本気で俺の指を折りに来たのかもしれない。
この世界では骨折程度であればポーション飲めばすぐに治るとはいえ、だからと言って折っていいわけではない。
「そんな、何でそんな事を。」
「わからん。わからんが、あの笑顔のままおもいっきりやってくる辺り俺を試したかったか何かなんだろう。」
「試す?」
「俺の所にオリンピアが来てるだろ?大方それ関係じゃないのか?」
王族と仲睦まじい関係というのは王都の人間からすればあまりいい物ではないだろう。
名誉貴族の地位だって反発する声がある中の強硬決定だったわけだし、良く思っていないやつがいてもおかしくない。
しかしここまで露骨に敵意を向けられるのは初めてだ。
何が目的なのかは知らないが気を付けておくべきだろう。
「私から注意しましょうか。」
「いやいい、事を荒立てる気はないし向こうが俺に敵意を受けてくるのならば俺はそれを流せばいいだけの話だ。もちろん強引な手で来るのならばその限りではないが。」
「オリンピアですね。」
「あぁ、陛下から預かっている大切な義理の妹だからな。何かしようものならディーネの力を使ってでも目にもの見せてやる。俺に喧嘩売ったことを後悔するんだな。」
「ふふ、最初は貴族なんてめんどくさいと仰っていたのに。」
そりゃ今でもめんどくさいさ。
だがその地位のおかげで色々と助かっていることもあるし、それを利用して金儲けができるのであれば利用するまでの事。
もちろん今回だってそれを利用するために致し方なく手伝っているだけだ。
そうでなきゃ感謝祭の日にわざわざこんなめんどくさい事をするはずがない。
「それで中はどんな感じだ?もう始まってるのか?」
「今は歓談しながらローランド様を待っている状態です。そうでした、納品したお酒の件で問い合わせが多数出ているそうです。中をお願いできますでしょうか。」
「了解。くれぐれも気を付けろよ、変なの多いからな。」
「そういうのは慣れていますのでご心配なく、でも有難うございます。」
王族時代にそういう経験は多数しているだろうが、男と女ではその程度も害意の向けられ方も違うはず。
まぁマリーさんが俺の嫁さんだってことは知られているはずだから大丈夫だと思うけどなぁ。
先程の男を追いかけるように俺も屋敷の中へ。
マイケルとか言うイケメンは・・・お、早速大勢の女性に囲まれているようだ。
よしよしそのままそこから動かないでくれよ。
「シロウさん、丁度呼びに行こうと思っていたところです。」
「うちの酒がどうかしたのか?」
「この最高に美味い酒は君が作っているそうじゃないか!」
「陛下も絶賛した酒だ、ぜひうちに譲ってくれ!」
「いいや、うちだ!」
「何を言ううちに決まっているだろ!」
向こうは美人のお姉さま方に言い寄られ、こっちはむさくるしいオッサンたちに絡まれる。
どっちがいいかと聞かれたらどっちも嫌なのだが、めんどくさいことこの上ない。
とはいえこの酒は見せつける為に作っているわけじゃない。
今年の仕込みも順調に進んでいるようだし来年に向けてしっかり売り込むとしよう。
「まぁまぁ落ち着いてくれ。今回提供している数には限りがあるし、今回の仕込み分の殆どは王家に献上した後だ。とはいえ次回には今の三倍以上の量が仕上がる予定だからそれを提供するという事であれば吝かではない。だがかなり高いぞ。」
「いくらでも出そう。」
「あぁ、金ならある。是非譲ってくれ!」
金にものを言わせて買い付けようという勢いが半端ない。
この感じから察するに貴族って言うか商人なんだろうなこの人たちは。
金にものを言わせるという意味では俺も似たような所はあるが、王家御用達というだけでこれだけの箔がつくものなのか。
もちろんそれを狙って今年の分は殆どを王家に献上することにしたわけだが、まさかここまでの効果が出るとはちょっと想像していなかった。
本当は四倍近い量を仕込んでいるのだが、絶対という言葉はないので少な目に言っておく方がいいだろう。
さて、いくらでもいいって言ってるんだから盛大に上乗せさせてもらうとするか。
「そこに置いている大瓶一本で金貨1.5枚、小さい方で銀貨20枚。今すぐに融通できるのは大瓶が10本と小瓶が100本それが限界だ。」
「全部くれ!」
「何を言う、独占するなど許さんぞ!」
「まぁまぁ落ち着いてくれ、他にもほしい人が後ろで話を聞いてるんだ、酒でも飲みながらゆっくり話し合ってくれ。」
「それじゃあ良い感謝祭を。」
本当はもっと提供できるがこういう時は出し渋ったほうが希少価値が出てより高く売れる。
それを理解したうえで大瓶銀貨50枚、小瓶は銀貨10枚も予定の価格よりも上乗せしたにもかかわらずこの需要、うーむこれなら通常価格も値上げした方がいいだろうか。
殴り合いになるんじゃないかってぐらいに盛り上がるオッサンたちから距離を置いて壁側に移動し、大きく息を吐く。
反対側の壁ではあのイケメンがニコニコしながら女性達に囲まれている。
どれも綺麗だがうちの嫁さんたちには敵わないな。
「相変わらずですねぇシロウさん、今話していた人達って貴族の大商人ですよ。」
「だろうな、金さえ出せば何とかなるって感じだったし。」
「邪険にしないでくださいねオークションの大事な金づるなんですから。」
「そっちこそ、そんな事言っていいのか?」
「聞かれなければ問題ありませんよ。」
公平を司るギルド協会の偉いさんが大事なお客を金づる呼ばわりか。
街としては歓迎するが、個人では余程相手したくないと見える。
確かに素行は宜しくなさそうだが、オークションを含め感謝祭の間にかなりの金を落としてくれるはずだ。
うちとしても大事な『お客様』になるわけだし、揉めるようならもう少し提供する数を増やしてもいいだろう。
通常価格で売るよりも間違いなく利益が増えるし、冒険者たちにふるまう分はもう別に避けてある。
後は残りを誰に売るかってだけの話なのでそれで儲けが増えるのならば文句はない。
その分ジョウジさんに還元するお金が増えるわけだし、金が増えれば今回の仕込みに回せるお金も増えるわけだしな。
「シープさん、一つ頼みたいことがあるんだが。」
「出来る事と出来ないことがありますけど、一応聞かせてもらいます。」
「向こうの壁にいるマイケルって王都議会の議員がいるんだが、それとなく監視してもらえるか?」
羊男は一瞬だけ確認して視線をすぐに戻す。
今日はここに一日缶詰だろうからそれとなく確認してもらうだけでも十分だろう。
「あの女性に囲まれている羨ましい人ですね。」
「嫁に聞かれたって知らないぞ。」
「羨ましいだけで同じことをしたいとは言ってませんよ。ともかくあの人を監視すればいいんですね?」
「あぁそれとなく見ているだけで十分だ。」
「何かされたんですか?」
「挨拶もほどほどにいきなり握手で俺の手を折りに来た。」
ポケットに隠していた真っ赤になった手を出すと驚いたように目を見開く。
だがすぐにいつもの表情に戻った。
「恨まれるようなことしたんですか?」
「生憎と覚えは無くてね。俺の勘ではオリンピア関係かと思っているんだが、証拠がないから何とも言えない。とりあえず俺が狙われているのは間違いなさそうだから今日は大人しく退散させてもらうつもりだ。受付はもう終わりだろ?」
「そうですね、程々来られていますし・・・。どうやらローランド様の準備も終わったようです。」
「話が長くなる前にとっととずらかるか。それじゃあ、良い感謝祭を。」
「良い感謝祭を。」
後の事は羊男に丸投げだ。
オリンピアは会場に残らないとだめだろうけど、マリーさんは一般人扱いなので受付が終わればお役御免になるだろう。
羊男にもマークしてもらっているし余程の事はない・・・はずだ。
もちろん本人が残りたいといえば残ってもらってもかまわないのだが。
「街長ローランド様の登場です、皆様ご注目下さい。」
アナウンスと同時に二階から登場したローランド様が帰ろうとしている俺を見て一瞬険しい表情をしたかもしれないが、俺の気のせいだろう。
盛大な拍手を背中に感じながら静かにエントランスを後にする。
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一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーヤのお気楽異世界転移
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ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
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