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黒薔薇の真実②
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「どういうことです?お父様」
ルシファンヌは怒りに震えていた。
「どうもこうも…黒薔薇の発表を正式に且つ大々的にやろうということだ」
ここはレジェ男爵の書斎。男爵はすまし顔で言った。
「わたくしはともかく何故シャルルのことを黙っているのです?初めに咲かせたのはシャルルなんです!」
「はて、シャルルとは私のとこかな?」
バカにしたような笑みを浮かべながら話す男爵にルシファンヌはますます怒りが込み上げてきた。
「どんなに誤魔化しても無駄です。わたくしはすべてを世間に公表します!」
ダンッ‼︎
男爵は書斎のデスクを叩いた。
「黙れ‼︎
あの黒薔薇は由緒正しい家があってこそ光輝くのだ!
名もない平民が偶然見つけたとあっては薔薇の価値が下がってしまう!
おまえだってあの薔薇を世に出したいだろう!」
「ただの偶然なんかじゃないわ!いろいろ試行錯誤してやっと咲かせたのよ!」
そしてとうとうルシファンヌは言ってしまった。
「お父様はシャルの命だけでなく薔薇の功績も奪うの!」
しばらく沈黙が続いた。
「…何を言っている?」
男爵は重い口を開いた。
「…」
ルシファンヌが何か言おうとした時男爵は静かに語った。
「薔薇造りは私のすべてだ。この家に生まれ人生のすべてを捧げ…でもそれは強制的なものでなく本当に好きでやっていたことだ。
それを…あの若造は掻っ攫うように黒薔薇をモノにした。
ああ、認めるよ、ヤツは天才だ。
私はチマチマとデータを取ってやるのが関の山。
…あと少しだったんだ。あいつがいなかったらこっちが黒薔薇を咲かせてた!」
次第に興奮して語気が荒くなった。
「ああ、そうだよ!嫉妬している?そうだ!嫉妬だ!誰の手も借りない、この手でヤツを葬ってやりたいと思ったんだ!」
ルシファンヌにはもう返す言葉もなかった。
それを見た男爵は
「お前が何を言っても誰も相手にするまい。信用が違うのだよ」
と、鼻で笑って部屋を出ていこうとした。
「この件はこれで終わりだ」
許せない‼︎
何もなかったように出ていくこの男を!
許せない‼︎
ルシファンヌはデスクにあったブロンズ像を咄嗟に掴んだ。
男爵は背中を向けていた。彼女は後頭部めがけ力一杯そのブロンズ像を振り下ろした。
ゴトッ!
鈍い音がして男爵は力なくその場に崩れた。
…動かない。
ルシファンヌの握った像からは血が滴り落ちている。
皮肉にもそのブロンズ像は『薔薇の女神』の像であった。
ルシファンヌの心は凪であった。
薔薇の女神像をもとあったデスクに飾った。女神像は頭から血を流している。彼女はその女神像と倒れている男を見比べていた。
間が悪いことに夫を探していたレジェ男爵夫人が部屋に入ってきた。夫人は目を見開き叫び声をあげそうになったのをルシファンヌは冷静に口元を押さえた。
夫人はそれでも抵抗し、やっと言えた言葉が
「育ててもらった恩も忘れて‼︎」
だった。
だがこれがいけなかった。
「…育ててもらった…恩…忘れて?」
ルシファンヌはそう呟くと口元を押さえた手が一気に夫人の首にかかった。
「育ててもらった恩?そんなものないわ‼︎
薔薇のことなんか何にもわからないくせに‼︎
この馬鹿女‼︎」
その勢いと恐ろしさに押され夫人がよろめき倒れても、まだ馬乗りになって首を締め続けた。
やがて…動かなくなった。
ルシファンヌは死んだふたりを引きずって部屋の中央に並べてみた。
部屋のドアはきちんと閉めた。
勢いとはいえふたりも殺したのに後悔も恐怖もなかった。
むしろ清々しい気分だ。ルシファンヌは自分が不思議だった。
「あー清々したー」
声に出してみるとなんだかおかしくなった。
「あはは」
笑ってしまった。
ひとしきり笑うと今度は部屋の窓を開けた。新鮮な空気が吸いたかった。
でもそれは死体といっしょで気持ち悪いとか匂いがやだとかそんなことでなく、たとえば朝目覚めが良くて早く外の空気に触れたいようなそんな気分に似ていた。
窓の下ではアダンが薔薇園の掃除をしているのが見える。
「アダーン!」
少し遠いと思って声を張り上げた。アダンは見上げた。気がついたらしい。
「ここに、2階に上がってきて!」
ルシファンヌは楽しそうに笑顔で呼んだ。
「どういうことですか?お嬢」
二つの死体を目の前にしてアダンが問いただした。
ルシファンヌは今までのことを掻い摘んで話した。するとアダンの表情がみるみると変わり
「シャルの仇を取ってくれたんですね」
とついには号泣していた。
確かにシャルのことで腹を立て許せない気持ちから殺した。でも今の心持ちとは少し違う気がした。夫人にいたっては偶然だ。
でも…
「ええ、そうよ。それで…わたくしはこれからどうしたらいいと思う?」
アダンの前では敵討ちの体で話した。そうすることでアダンの気持ちが晴れると思ったからだ。
アダンはしばらく考えていたが
「お嬢は予定どおりデュラン邸に行ってください。あとはこっちに任せて」
「いいの?」
「ええ、いいですとも。あっ、いい薔薇を出来るだけ持って行ってください」
そう言って押し出すようにルシファンヌを送った。
その夜
レジェの本邸は業火に包まれた。
ルシファンヌは怒りに震えていた。
「どうもこうも…黒薔薇の発表を正式に且つ大々的にやろうということだ」
ここはレジェ男爵の書斎。男爵はすまし顔で言った。
「わたくしはともかく何故シャルルのことを黙っているのです?初めに咲かせたのはシャルルなんです!」
「はて、シャルルとは私のとこかな?」
バカにしたような笑みを浮かべながら話す男爵にルシファンヌはますます怒りが込み上げてきた。
「どんなに誤魔化しても無駄です。わたくしはすべてを世間に公表します!」
ダンッ‼︎
男爵は書斎のデスクを叩いた。
「黙れ‼︎
あの黒薔薇は由緒正しい家があってこそ光輝くのだ!
名もない平民が偶然見つけたとあっては薔薇の価値が下がってしまう!
おまえだってあの薔薇を世に出したいだろう!」
「ただの偶然なんかじゃないわ!いろいろ試行錯誤してやっと咲かせたのよ!」
そしてとうとうルシファンヌは言ってしまった。
「お父様はシャルの命だけでなく薔薇の功績も奪うの!」
しばらく沈黙が続いた。
「…何を言っている?」
男爵は重い口を開いた。
「…」
ルシファンヌが何か言おうとした時男爵は静かに語った。
「薔薇造りは私のすべてだ。この家に生まれ人生のすべてを捧げ…でもそれは強制的なものでなく本当に好きでやっていたことだ。
それを…あの若造は掻っ攫うように黒薔薇をモノにした。
ああ、認めるよ、ヤツは天才だ。
私はチマチマとデータを取ってやるのが関の山。
…あと少しだったんだ。あいつがいなかったらこっちが黒薔薇を咲かせてた!」
次第に興奮して語気が荒くなった。
「ああ、そうだよ!嫉妬している?そうだ!嫉妬だ!誰の手も借りない、この手でヤツを葬ってやりたいと思ったんだ!」
ルシファンヌにはもう返す言葉もなかった。
それを見た男爵は
「お前が何を言っても誰も相手にするまい。信用が違うのだよ」
と、鼻で笑って部屋を出ていこうとした。
「この件はこれで終わりだ」
許せない‼︎
何もなかったように出ていくこの男を!
許せない‼︎
ルシファンヌはデスクにあったブロンズ像を咄嗟に掴んだ。
男爵は背中を向けていた。彼女は後頭部めがけ力一杯そのブロンズ像を振り下ろした。
ゴトッ!
鈍い音がして男爵は力なくその場に崩れた。
…動かない。
ルシファンヌの握った像からは血が滴り落ちている。
皮肉にもそのブロンズ像は『薔薇の女神』の像であった。
ルシファンヌの心は凪であった。
薔薇の女神像をもとあったデスクに飾った。女神像は頭から血を流している。彼女はその女神像と倒れている男を見比べていた。
間が悪いことに夫を探していたレジェ男爵夫人が部屋に入ってきた。夫人は目を見開き叫び声をあげそうになったのをルシファンヌは冷静に口元を押さえた。
夫人はそれでも抵抗し、やっと言えた言葉が
「育ててもらった恩も忘れて‼︎」
だった。
だがこれがいけなかった。
「…育ててもらった…恩…忘れて?」
ルシファンヌはそう呟くと口元を押さえた手が一気に夫人の首にかかった。
「育ててもらった恩?そんなものないわ‼︎
薔薇のことなんか何にもわからないくせに‼︎
この馬鹿女‼︎」
その勢いと恐ろしさに押され夫人がよろめき倒れても、まだ馬乗りになって首を締め続けた。
やがて…動かなくなった。
ルシファンヌは死んだふたりを引きずって部屋の中央に並べてみた。
部屋のドアはきちんと閉めた。
勢いとはいえふたりも殺したのに後悔も恐怖もなかった。
むしろ清々しい気分だ。ルシファンヌは自分が不思議だった。
「あー清々したー」
声に出してみるとなんだかおかしくなった。
「あはは」
笑ってしまった。
ひとしきり笑うと今度は部屋の窓を開けた。新鮮な空気が吸いたかった。
でもそれは死体といっしょで気持ち悪いとか匂いがやだとかそんなことでなく、たとえば朝目覚めが良くて早く外の空気に触れたいようなそんな気分に似ていた。
窓の下ではアダンが薔薇園の掃除をしているのが見える。
「アダーン!」
少し遠いと思って声を張り上げた。アダンは見上げた。気がついたらしい。
「ここに、2階に上がってきて!」
ルシファンヌは楽しそうに笑顔で呼んだ。
「どういうことですか?お嬢」
二つの死体を目の前にしてアダンが問いただした。
ルシファンヌは今までのことを掻い摘んで話した。するとアダンの表情がみるみると変わり
「シャルの仇を取ってくれたんですね」
とついには号泣していた。
確かにシャルのことで腹を立て許せない気持ちから殺した。でも今の心持ちとは少し違う気がした。夫人にいたっては偶然だ。
でも…
「ええ、そうよ。それで…わたくしはこれからどうしたらいいと思う?」
アダンの前では敵討ちの体で話した。そうすることでアダンの気持ちが晴れると思ったからだ。
アダンはしばらく考えていたが
「お嬢は予定どおりデュラン邸に行ってください。あとはこっちに任せて」
「いいの?」
「ええ、いいですとも。あっ、いい薔薇を出来るだけ持って行ってください」
そう言って押し出すようにルシファンヌを送った。
その夜
レジェの本邸は業火に包まれた。
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