悪女は黒薔薇を愛でる

バオバブの実

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反撃

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 ルシファンヌにとっては予定外の行動だった。ただ話を聞いてエンゾにはすみやかに帰ってもらう、これが一番よかった。
 だがここまでまずい情報を握られては黙って帰すわけにはいかない。
 彼女は胸元に媚薬の小瓶を隠し持っていてよかったと思った。次の計画の肝はこれなのだから。
 エンゾは顔が赤く息も苦しそうだった。ルシファンヌはそれを横目に見ながら
「ずいぶんクレマン様を気にかけているのね。いえ、『愛している』と言ったほうが正解かしら」
「!」
「この国では同性愛は認められていないわ。ましてや貴族の息子なんて御法度もいいところ」
 エンゾは大きく目を見開いた。
「あなたが街で買っていた男娼はずいぶんとクレマン様に似ているそうね」
 エンゾはうなだれた。
 ルシファンヌは逃さなかった。
 彼女はうなだれたエンゾの顔をわざと覗き込みながら股間を弄った。
「不思議に思っているのね。女には反応したことないのにと。でもね、あの媚薬はけっこう刺激的なのよ」
 そう言ってエンゾの服を脱がし始めた。
「今のあなたならわたくしを抱けるわ」
 その言葉を聞いた途端、エンゾはルシファンヌを突き飛ばした。
「やめろ!やめてくれ!」
 喘ぎながらフラフラと立ち上がった。
 ルシファンヌは突き飛ばした拍子にテーブルの角に額を打ちつけた。血が少し流れた。
 これはいい!彼女は心の中で叫んだ。
 最高の演出よ!
 エンゾはというと血を見たのと媚薬のせいで理性はどこかに吹っ飛んだ。今度は欲望のままルシファンヌに襲いかかった。
 ドレスを引き裂き彼女の胸元と足は露わになった。エンゾにとっては初めての女体であった。それはあまりにも柔らかすぎた。
 ぐにょぐにょと気持ちが悪い、エンゾはたまらず嘔吐した。
 それでも体は止まらない。まさに絶頂を迎えようとした時、
 部屋のドアが勢いよく開いた!
「お嬢!」
「ルシファンヌ様!…キャァァーッ!」
 エンゾはルシファンヌの中で果てた。そして白目をむいて失神した。
 いいタイミングね…ルシファンヌは可笑しくてしょうがなかった。

 アダンはエンゾの体を引き剥がしにかかり、メイドはルシファンヌの額を持っていたハンカチで押さえた。
「私がもう少し早くアダンを呼んできたら」
 メイドはそう言って泣きながらごめんなさいと繰り返した。
「…いいのよ。よく来てくれたわ。それよりお湯に浸かりたいわ、用意してくれる?」
「わかりました。それと…その姿では部屋から出られませんので何かお持ちします。待っていてください」
 メイドは部屋から出て行った。

「まったく、無茶なことを」
 アダンはため息混じり言った。
「でもうまくいったわ。アダン、そいつを縛りあげて客室に放り込んでおいて」
 アダンは細いが力持ちである。エンゾを肩に担いで部屋を出た。
 その後ろ姿を見ながらルシファンヌは
「あとは交渉次第」
 とひとりごとを言った。
 伯爵夫人も悪くないかもね…ルシファンヌは薄く笑った。


 その夜、エンゾは見覚えのない部屋で目を覚ました。ベッドの上、荒縄で縛られている。
「ここは?」
 なんだか頭がズキズキと痛む。薄暗い部屋の中で月明かりが差し込みその明かりだけが頼りであった。
「気がつきまして?」
 月明かりの下、頭に包帯を巻いたルシファンヌが立っていた。
 エンゾはその包帯を見て先程のことが夢ではなかったのだと分かった。
「…夢ではなかったのだな」
「人をあのように酷い目にあわせてよく言いますわ」
 ルシファンヌはベッドの端に座った。エンゾはビクッと身を震わせた。
「…もう、女は駄目なんですね」
「あぁ」
 エンゾは観念していた。事を焦って不用意に飛び込んだ。どこかで女ごときがと侮っていた。クレマンには気をつけろと言ったくせに…エンゾは唇を噛んだ。
「…お互い腹を割って話しましょう。わたくしはこの書類を公にしてほしくない。で、あなたは?」
「俺は同性愛者ということを公にしてほしくない」
「あらそちら?わたくしはクレマンにあなたが彼を愛している事を知られたくないというほうだと思っていましたが」
 エンゾはそれを聞いてルシファンヌが一枚も二枚も上手だと悟った。
「そうだな。それが一番だ」
「昼間のあなたの所業をメイドとアダンに目撃させたのは、まぁ、保険みたいなものですわ。あれであなたは同性愛者だということは隠せたし、わたくしは哀れな被害者ということで世間はわたくしの言うことの方を信じるでしょう」
 ルシファンヌは美しく微笑んだ。
「…そこまで考えているのなら、もう青写真は出来上がっているのだな」
 エンゾがため息をついた。
「えぇ。妹思いのあなたはコゼットとクレマンの婚約がうまくいくようわたくしと話をつけにこの屋敷に来た。長い話し合いの末わたくしはクレマンと別れることを了承しあなたは帰った」
 ルシファンヌは人差し指を立てて
「これが一つ目のシナリオ」
 と言った。やや間があって
「二つ目は…」
 指を二本立てて
「あなたが裏切った場合。妹思いのあなたはふたりの婚約がうまくいくようわたくしと話をつけにここへ来た。でもいくら話し合ってもわたくしは別れることを拒む。そこであなたはわたくしを手篭めにしていうことをきかそうとした。首尾よくことが終わったところに使用人たちが駆けつけ目撃されてしまった」
 ここまで言ってルシファンヌは微笑んだ。
 世の中で一番怖い笑顔だなとエンゾは思った。
「その話で概ね了解した。…ただひとつ条件があるのだが…まぁ言えるような立場じゃないが聞いてほしい」
「なんです?」
「クレマンとは本当に別れてくれ。もう彼に手出ししないと約束してほしい」
 ルシファンヌはしばらく考えていたが
「わかりましたわ。その代わり…」



長い話し合い・・・・・・でお疲れでしょう。今日はお泊まりください」
 そう言ってルシファンヌは部屋を出た。
 ドアを閉める時
「良い夢を」
 と言いながら。
 エンゾの縄はもう解かれ、彼は手足を伸ばしながらベッドに横になった。
 疲れた…だが眠れそうにないな…エンゾは見知らぬ天井を見ながらそう思った。


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