悪女は黒薔薇を愛でる

バオバブの実

文字の大きさ
13 / 19

クレマンの苛立ち

しおりを挟む
「コゼット、君なら知っているだろう?聞かせてくれ!」
 麗らかな昼下がり、今日はポアソン邸でお茶会である。クレマンは新聞を握りしめながらコゼットに迫った。
「そのような三面記事、信じるのですか?」
 コゼットはため息をついた。
 誌面には
『エンゾ・ポアソン氏ルシファンヌ・レジェ嬢と婚約か⁈』
『ルシファンヌ嬢のお相手はクレマン・ベルクール氏ではなくその友人エンゾ氏⁈』
 という文字が踊っていた。
「何故だ⁈エンゾは彼女とは別れろと言っていた。自分のものにしたいからそんなことを言ったのか?」
 クレマンは頭を抱えた。
「いい加減になさいませ‼︎あの2人の間に恋愛感情は間違ってもありません‼︎」
 コゼットが一喝した。
「…仕方ありませんね。わたくしも先ほど聞いたばかりなので心の整理がつきませんが…」
 と、前置きをし
「知っていることをお話ししますわ」
 コゼットはクレマンに向き直った。


「端的に申しますと、その記事、本当です。ついさっきお父様とお兄様からお伺いしました」
「やっぱり!」
「話を急がせないでくださいませ。婚約の話を正式なものとするためふたりはルシファンヌ様の家へと先程向かいました。
 わたくしが気になったのはふたりとも顔色が悪かったことです。いろいろと質問したのですが、何を聞いてもしどろもどろ、詳しい経緯は何一つ聞けませんでした。
 これは…ルシファンヌ様に何か弱みでも握られたのではないかと」
「きみまでそんなことを言うのか!相手はか弱い女性だぞ⁈」
「クレマン様、ルシファンヌ様はか弱くなどありません。美しい中にも棘を持った…薔薇の花のような方ですわ」
 コゼットはポアソン邸にも植えてある薔薇を眺めながら言った。
「実はお兄様とふたりでルシファンヌ様のことを調べていたのです。詳細は言えませんがそれでお兄様はこれなら彼女を断罪出来ると…でも正直わたくしは決定不足だと思いました」
 コゼットは遠い目をした。
「あの頃のお兄様は少しおかしかった。焦っていたように思います」
 クレマンは食い入るようにコゼットを見た。
「原本はわたくしが預かりお兄様はコピーを持ってレジェ邸に向かいました。ルシファンヌと話をしてくると言って…
 帰ってきたのは次の日です。あの日を境にお兄様はすっかり変わってしまった…」
「何があった?」
 たまらずクレマンが声をあげた。
「わかりません。それからお父様と長く話し合っておいででした。ふたりとも顔色が悪くなるばかりです」
 コゼットはいったん言葉を切った。次は言おうか言うまいか迷っている風だった。
「…お兄様が出かける前にわたくしに言いました。『これであの女も手出しできない。お前はクレマンと幸せになりなさい』と」
「どういう意味だ?」
「わたくしも同じように聞きました。そうしたら『危険な女を一生をかけて監視する。いや、俺の方が囲われてしまったのかな』と。わたくしの方こそお尋ねしたいです。クレマン様は何か心当たりはないのですか?」
 クレマンは思い返した。ある日から突然ルシファンヌとは会えなくなっていた。行っても門前払いだ。
「実は最近、ルシファンヌとは会っていないのだ。行っても門前払いで会うことを拒まれているようだ。…嘘をついてもしょうがないからな、その前は頻繁に会っていた」
 コゼットはしばらく考えて
「お兄様が変わってしまった日から会えていないのだと思います。ルシファンヌ様と何らかの取引をしたのでしょう」
 と言いながらもまだ腑に落ちないといった感じで
「わからないのはお父様もまた彼女のいいなりになっているところです。この婚約はどう考えても我が家に益のないもの、でもお父様自ら話を進めている…」
 とまた考え込んだ。
 クレマンもまた思いを巡らせていた。ルシファンヌとエンゾの婚約など、ましてや恋愛感情もなく単なる取引で整えられた婚約などとても了承できない。自分の知らないところでことが大きく動いていることも気に入らなかった。
「何とかしてルシファンヌに会えないものか」
 クレマンのひとりごとがコゼットに聞こえてしまった。
「何を言っているのです?クレマン様が会ってもルシファンヌ様に取り込まれるだけです!
 いいわ、わたくしが会いに行きます。あなたは何もしないで!」


 クレマンはすっきりしないままポアソン邸を後にした。
 馬車を家へ返し、そのまま街中をぶらついた。
 何もしないわけにはいかないじゃないか…
 そんな思いから足は自然とルシファンヌのもとへと向かっていた。
 デュラン邸、今はレジェ邸だが、歩きでは距離があるにもかかわらずすぐに着いたような気がしてクレマンはため息をついた。
 ここまで来たもののどうしようかと思っているとレジェ邸の門から馬車が出て行くのが見えた。ポアソン家の紋章である。慌てて隠れ、馬車を見送った。すると同じように隠れるようにして馬車を見送っている人影が見えた。アダンであった。
「アダン!アダン!」
 小声だがわかるようにクレマンは必死で手を振った。アダンはすぐ気づいて駆け寄ってきた。
「クレマン様、本当に申し訳ない。ルシファンヌ様の命令で会わすわけにいかんのです」
「どうして⁈さっきの馬車はエンゾだな、教えてくれ。何がどうなっている?」
 クレマンの勢いに押されアダンは重い口を開いた。
「ルシファンヌ様はクレマン様の幸せを願って身を引いたんです。あのエンゾという男の言いなりになって」
「婚約するということがか?」
「はい、あいつがルシファンヌ様をいやらしい目で見ていたことは確かです」
 アダンは嘘をついた。ルシファンヌがエンゾを嵌めたことは察しがついていた。恋愛感情もないことも知っている。
 ただ同じ伯爵令息なら優しいクレマンの方がよほどいいとアダンは思っていた。婚約するのはクレマンでもいいのではないかそんな思いが彼を突き動かした。
「あいつは悪党ですよ!従わせるためお嬢を手篭めにし言うことを聞かないのならクレマン様を傷つけると脅したそうです」
「なんだって⁈それで婚約?」
「そうです。あなたに会わないのは守っているのですよ」
 クレマンは怒りで震えていた。
 なんということだ!コゼットは恋愛感情などないと言っていたがエンゾはルシファンヌに惚れているではないか!
 しかもこんな理不尽な方法で彼女と婚約するなんて!
 もう彼は冷静な考えなど持ち合わせていなかった。
 アダンは焚き付けるだけ焚き付けてニヤッと笑った。
「クレマン様、ルシファンヌ様に会いたくないですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...