簡単にすらすらと神様を語る人を私は信用致しません

バオバブの実

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これから

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 月日は流れて…

 あれからもう5年も経ってしまった。

 街は今日も活気づき賑やかだ。人々はもうあのことは忘れしまったかのようである。
 ただ神殿の礼拝堂は立ち入り禁止になっていて、近々取り壊して建て直すそうだ。
 ティラーン教は今も健在だが、イメージが悪いので建て直しが決まったのである。

 3年前、私はキリアンと結婚した。
 貴族ではなくもう平民。
 その際貴族っぽい“マルグリット”の名は捨ててしまった。お祖母様ごめんなさい!
 ララ・バークレーとしてこれからは生きていく。

 何もかも忘れたわけではないがキリアンが
「それでも俺たちは生きていかなきゃ」
 と言った。私も同じ思いだ。
 キリアンはいつでも優しかった。私はその優しさに甘えてしまった。
 子どもも生まれた。今私の腕の中で眠っているカイト・バークレー、私たちの息子だ。


「ララさん、お久しぶり!」
 バークレー邸の庭でカイトと日向ぼっこをしているとソリス船長とレンがやってきた。
「まあ、1年ぶりかしら?」
「ええ、事務所にいなかったからお宅まで推しかけちゃった。カイトくんを見に」
 レンが覗き込んだ。
「うふ、かわいい!前に来た時はまだ生まれてなかったから」
 結局、レンことエレニは船を降りなかった。ソリス船長と船であちこち行くのが楽しいという。
「レンのおかげで助かってるんですよ。船員の管理が上手いのか、風邪ひとつひかないし」
 (ん?)
「小さな怪我もすぐ治るし」
 (ん?)
 ソリス船長が自慢している。
「ふふっ、カイトくんに加護を」
 と言ってレンはカイトのおでこにキスをした。
 (まさか…ね…)
「荷下ろしの途中なので我々はこの辺で失礼します」
 ふたりは仲良く帰っていった。

 バークレー邸の庭園は美しい。カイトにはまだわからないだろうけど私はひとつひとつ花を見せた。
 事務所にキリアンはいなかったのかしら?
 誰もいないなら私が事務所に戻ったほうがいい?
「ララー」
 キリアンだ。アンディもいっしょだ。
「事務所カラにしてどうしたのよ?」
「会頭が留守番してるから大丈夫!」
「ごめん、私のせいだ。先にキリアンに相談していて」
 そう言って私に一通の書簡を渡した。
「レオンハート王太子の正式な書簡だよ」

 あの後レオンハート様とセレンティア様は結婚し、王太子と王太子妃となられた。
 恐れ多いけれどふたりに私たちの結婚を伝えたら
「式はどうするの?王宮の礼拝堂使う?」
 と、とんでもないことを言ってきたので丁重にお断りした。

「あの件?」
「そう、キリアンに相談したら『まだ5年ならOKを出せないがもう5年になったから』って。だから渡すよ」
 見届け人としての最後のお仕事、それは記録に残すこと。
 レオンハート様は前に辛いのならいつまでも待つよと言ってくれて延び延びになっていたのだ。
 この書簡はそれを依頼する正式なものであった。
「もう、大丈夫でしょ?」
 キリアンが暖かく笑う。
「ええ!後の人が困っちゃうものね、頑張るわ!」
 あんなに助けられたんだもの、私もいろいろ残さないと。
「よかった!レオンハート王太子に早速報告するよ」
 アンディは帰っていった。

「…本当によかった?」
 キリアンは私の顔を覗き込んだ。
「もちろん!『それでも俺たちは生きていかなきゃ』でしょ?」
「ん…」
「キリアン、ありがとう」
 ふたりで笑い合った。


 次の日はヴァイオレット姉様とミカエラ姉様がバークレー家に遊びに来た。
「カイトってかわいい!」
「かわいいって言うか面白いわ!」
 庭園のベンチでカイトを抱いて腰掛けていたら急に騒がしくなった。
「面白いって何⁈」
 わたしがすぐ反応した。
「だって見て!キリアンを寸分狂わず小さくした感じじゃない?フィギュアみたい!」
「ララ要素が全然ないわねぇ」
 相変わらず失礼な姉たちだ。
「私に似たところだってありますぅー」
 私はカイトの左手と自分の左手を並べた。
「ほらっ、小指がちょこっと内側に曲がってるところなんてそっくり!曲がり具合が」
 きゃーはははっ
 ふたりが爆笑している!

「賑やかだね」
 キリアンが笑って近づいてきた。
「なに?またカイトの小指の話してたの?よせよせ、また笑われるだけだぞ」
「…もう笑われてる」
「ははっ…ここはもう暑くなったから中へ。お姉様がたも」
 3人が笑いながら家の中へ入っていく後ろで
「あれ?」
 私はカイトの左手の甲を見た。そこには星形の小さなあざが。こんなのあったかしら?
 いいえ、それよりこれって…
 私はあることを思い出していた。



「ちょっと小さいけど…通れる?」
「あぁ、なんとか」
 塀の外に出る。細い通路を抜ける。
 ケイレブが足を引きずっていることに気が付いた。
「足怪我してる?」
「さっき倒れた時ちょっと捻ったかな。…大丈夫」
「ちょうどいい葉があるわ」
 林の中には薬になりそうな葉が生えていた。私は葉を2枚採るとドレスの裾をもう一度細く割いた。
「葉とこれで足首に巻く。熱がとれると思う」
「ああ、ありがとう」
「ん?靴一瞬脱いでくれる?上手く巻けない」
 ケイレブが靴を脱ぐと
「やだ、足の甲も怪我してるじゃない、痣になってるよ!」
 私が驚いていると
「ああ、それは違うよ。子どもの頃からある痣なんだ。ほら、打ったみたいじゃなく、星の形してるだろう…」
 ケイレブは笑っていた。




 あの時見たのと同じ。
 同じ形の痣だ。

 そういうことなの?

 私はカイトを抱きしめた。

「神様って本当にいるのね…」

 私は泣き、笑った。

 これからの人生が幸せであることを願って。




 end
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