簡単にすらすらと神様を語る人を私は信用致しません

バオバブの実

文字の大きさ
27 / 28

戦いの後で

しおりを挟む
 国を揺るがせた陰謀はレオンハート様の働きで白日の下にさらされた。
 もちろんルーメン枢機卿が黒幕であることも。
 民衆は驚愕した。神殿を恨む者もいた。

 結局、神は降臨しなかった。
 でもルーメン枢機卿が雷に打たれて死んだのを見て、やはり神は姿は見えないがあの日あの時降臨したのではないか、ルーメンに怒りの鉄槌を与えたのではないか、という話で持ちきりになった。
 そしてケイレブは悪を暴きルーメンと対峙して命を落としたということになった。
 槍に貫かれ死んだ姿はちょうど膝をついて祈るような格好になった。最後に我々を思って祈ったのだと。
 かくして“ケール司祭”は“聖人ケール”と呼ばれるようになった。
「聖人ケールなんて、あなたはなりたくもないでしょうに」
 私はそう呟くとひとり窓の外に目をやった。
 バークレー商会事務所から見える街の景色はようやく落ち着きを取り戻していた。

 私はキリアンに呼び出されていつもの応接室で待っていた。久しぶりの外出であった。
 ガチャ
 キリアンが入ってきた。
「急に呼び出してごめん。会わせたい人がいて…もう最後になるかもしれないから」
「…そう」
「大丈夫か?」
「…」

 あの日のことは正直覚えていない。
 雨の中、私は半狂乱だったらしい。キリアンに押さえつけるように抱きしめられ、その後は放心状態になったそうだ。

 コンコン!
 入ってきたのはソリス船長だった。そして…
「エレニ⁈」
 もうひとりはエレニだった。
「お久しぶりです。ララ様」

「エレニ、時間がない。隣の部屋に用意してあるから着替えてくれる?」
「はい」
 キリアンに促され、エレニが出ていくと
「エレニは今狙われているんだ」
 と小声で言った。
「どういうこと?」
「エレニはもう一度聖女にしてティラーン教を盛り立てようという一派と単純に恨みで殺そうとする一派に狙われている」
「そんな」
 エレニだって犠牲者なのに。
「この国から逃がそうと思うんだ」
「そこでソリス船長なのね」
「そう、一番信用できるから。安全などこか遠い国に送ってもらう」
 ガチャ
 エレニが入ってきた。船乗りの格好をしている。
「変装?ってこと?」
 私が聞くと
「ええ、でもまだ足りないわ。船長、短剣を貸して」
「?」
 船長が持っていた短剣を貸すと
 エレニは自分の長い髪の毛を持ってザクッと切り落としてしまった。
「ええ?」
 エレニは躊躇なく短く整えてゆく。
「エレニ、やりすぎよ!」
 私が叫んで止めようとすると
「ララ様、エレニじゃないわ。今日から私は船乗りのレン・・
 エレニ、いやレンは笑って見せた。

「私、多くの人にいろいろ迷惑かけてしまった。結果的には人を騙すことになって。
 心も体も傷ついた人がいることも聞いた。
 自分が生きていたらいけないんじゃないかとさえ思ったわ。
 でもララ様の言葉を思い出したの。
 ソルが私に自由にのびのび生きてほしいと思っていたって。
 …だから図々しいけど生き延びようと思います」
 私はレンを抱きしめた。
「そうよ!あなたは幸せになっていいの!」
「ありがとう、ララ様」

「そろそろ行かないと」
 ソリス船長が申し訳なさそうに言った。
「はい、よろしくお願いします。船長」


「ララ様にどうしてもお伝えしたいことが」
 船に向かいながらレンは私だけに言った。
「あの時、ケールはまだ少し息があったの。
 最後の言葉を残した」
「えっ?」
「『ララ、あの試合は無効だよ』と。確かに伝えましたよ」
 ふたりは素早く船に乗り込み私とキリアンに手を振った。
 船は出航した。

 『ララ、あの試合は無効だよ』

 私はその言葉を噛み締めた。
 涙が頬を伝った。
 繰り返し言われたその言葉、それはある言葉の代わりなのね…

 私には言葉通りの意味しかわからなかった。
 そうじゃなかった。
 ケイレブ、あなたはいつも思っていてくれたのね。
 だけど私はその言葉を聞きたかったのよ。
 私に遠慮して、世間を気にして、言えなかった言葉「愛している」と。

 あなたが死んでなにもかも失ったように思えた。
 そうじゃなかった。
 私にはこの思いが残った。

「バカね、最後まで…」
 私はちゃんと言うね、遅かったかもしれないけど
「あなたを愛しています」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どちらの王妃でも問題ありません【完】

mako
恋愛
かつて、広大なオリビア大陸にはオリビア帝国が大小合わせて100余りある国々を治めていた。そこにはもちろん勇敢な皇帝が君臨し今も尚伝説として、語り継がれている。 そんな中、巨大化し過ぎた帝国は 王族の中で分別が起こり東西の王国として独立を果たす事になり、東西の争いは長く続いていた。 争いは両国にメリットもなく、次第に勢力の差もあり東国の勝利として呆気なく幕を下ろす事となった。 両国の友好的解決として、東国は西国から王妃を迎え入れる事を、条件として両国合意の元、大陸の二大勢力として存在している。 しかし王妃として迎えるとは、事実上の人質であり、お飾りの王妃として嫁ぐ事となる。 長い年月を経てその取り決めは続いてはいるが、1年の白い結婚のあと、国に戻りかつての婚約者と結婚する王女もいた。 兎にも角にも西国から嫁いだ者が東国の王妃として幸せな人生を過ごした記録は無い。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~

たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。 彼女には人に言えない過去があった。 淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。 実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。 彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。 やがて絶望し命を自ら断つ彼女。 しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。 そして出会う盲目の皇子アレリッド。 心を通わせ二人は恋に落ちていく。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

論破!~召喚聖女は王子様が気に食わない

中崎実
ファンタジー
いきなり異世界に召喚されて、なんかイケメンに「世界を救ってもらいたい事情」を説明される、よくあるWEBファンタジーあるあるパターンが発生した。 だけどねえ、あなたの言い草が気に食わないのよね?からの、聖女が帰宅するまでのおはなし。 王子「自分達より強い敵をどうにかしてくれる相手を呼ぼう。女なら押し倒してしまえば、思うがままにできる!」 聖女1「有能な人を呼びました、としゃあしゃあと抜かすツラだけ良い男、なぁんか気に入らないのよねえ……」 聖女2「はよ帰ろ~」 聖女3「……」 論破というより爆破してませんか、あなた達?

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

処理中です...