簡単にすらすらと神様を語る人を私は信用致しません

バオバブの実

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決戦の時

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 それはルーメン枢機卿の発表から始まった。

「神は明日、陽が西へ落ちるころ奥の院に降臨する。家に帰り皆に知らせよ!明日神殿に集まり皆刮目かつもくせよ!」
 礼拝堂の中、枢機卿の声が響き渡る。
 その中で
「聖女エレニは?どこですか?」
「…もう明日の準備で奥の院にこもっているのだよ」
 これはもういよいよ本物だということで礼拝堂にいた人々は急ぎ帰っていった。


「やっぱり私が捕まっている間に動いたのね。
 ケイレブが言った通りだわ」
「そして明日、計画が実行されるのだな」
 レオンハート様が拳をぐっと握った。
 ここはバークレー商会事務所、いつもの応接室だ。
 私が無事帰ってきたのでキリアンが招集をかけたのだった。
キリアンの手際の良さといい、私が自力で帰ってくるのをみんなは当然のことのように思っているらしい。
 私はそのことには触れず、ケイレブとエレニに聞いた計画を話した。
「婚姻の話は前々から出ていたよ。無げにもできないから国王が曖昧にしていた」
 レオンハート様の話によると婚約白紙になったことで付け入る隙を与えてしまったとのことだった。
「それにしても急ですね、やはり」
 アンディが私の方を見た。
「脅威に感じたんでしょうか?」
「ララの話を聞く限り見届け人の存在は知らないようだ。ただララに何かを感じたんだろうな」
「いずれにしても」
 キリアンがあの木製の手枷てかせを持ってきた。
「これの出番じゃないか」

「封じる方法ね。いつかはわからないけど枢機卿は明日どこかのタイミングで時を止めると思うの。
 時が止まってまた動き出す、この時が勝負!」

 時間が止まる時体に圧を感じたが、再び時間が動き出す時疲労感やダメージを感じた。
 私がこうなら術者本人はもっとダメージを負っているはず。

 弱っている時手枷をはめる!

「となるとはめる役はララには無理だ。俺とアンディで枢機卿にこれをはめる」

「わかったわ。じゃあ私は動き出した時合図を送る」

「じゃあその手筈で」
 レオンハート様は神殿の図を指しながら言った。
「これからあのふたりを救出しないと」
 私は焦っていた。
「残念だがそれは無理だ。時間もないし、枢機卿には悟られず予定通りの行動をしてもらはないと」
 レオンハート様は首を振った。
「そんな!」
「自力で脱出するのを祈るしかない」






 夕方、ここは神殿前。大勢の人が集まって熱気に包まれてる。
 レオンハート様と私は正面、群衆に混ざって礼拝堂入口が見える場所を陣取った。
 キリアンとアンディは礼拝堂入口真横の柱に隠れた。例の手枷を持って。
 ギィィィーッ
 礼拝堂の扉が開きルーメン枢機卿が登場した。
「みなさん、これから特別な儀式・・にお付き合いください」
 ニターと嫌な笑いを見せ
「聖女エレニ!」
 と呼んだ。
 礼拝堂からエレニが姿をあらわした。
 (抜け出せなかったのね)
 いよいよここから飛び出してエレニを救おうかと思った矢先
「みなさんの熱気を鎮めるため雨を降らせてください」
 枢機卿が言った。ところがエレニは動かない。
「雨など降りませんよ。枢機卿」
 エレニは毅然として言った。
「なに⁈…ケールはどこだ!」
 エレニはそれには答えず
「みなさん、神は奥の院に降臨しません!
 どうぞ自分の目でお確かめください!」
 そう言って持っている杖で奥の院を指した。
「エレニ!貴様!」
 ルーメン枢機卿の声は群衆にかき消された。みんなが奥へ奥へと急ぐ。
 それを誘導するモンクと阻止するモンクがいる。モンク同士で戦っている!
 ふたりに賛同する人たちがいたのね。私は安堵した。
「ララ、こっち!」
 レオンハート様に庇われ群衆の波から逃れた。
「北口に侵入路を確保してある。行こう!」
 私は走り出していた。
 ルーメン枢機卿はどこへ!キリアンもアンディもどこかわからない。とりあえず奥の院に向かわなければ!

 私たちは中庭の噴水付近まで何とかやってきた。
 奥の院と呼ばれるものは小さいが美しくまさに神殿・・だった。
「みんな、こっちだ!」
 奥の院の前にケイレブが立っていた。
「ケール様だ!」
「ケール司祭!」
「中を見てくれ!これが聖水だ」
 みんなが中へと入っていく。私も覗いてみた。神殿というよりも研究室のようだ。
「ここで人を狂わせる薬物を注入する」
 みんなはただただ驚くばかりである。急な展開についていけない人もいる。
「そして」
 ケイレブはまた奥にある小さな丘を指した。あれが本当の“ティラーンの丘”なのだろう。
 そこには鮮やかな緑の草が一面に生い茂っていた。
 丘の向こうに今夕日が落ちてゆく。
 ケイレブは丘に立ち
「これが原料となる植物だ」
 と言って膝をついてその草をひとつ引き抜いた時!

 グワァーン!
 私はまた体に信じられないくらいの圧を感じた。
 さっきまであった夕日の赤も草の緑色も感じられない、白黒の世界になった。
 今?何をする気?

 丘の反対側からルーメン枢機卿が現れた。手には槍が握られている。
 それはモンクたちが使う槍であった。

 ゆっくりとケイレブに近づいて…

 (ああ、やめて!)

 ケイレブの背に槍を突き立てた!

 槍の先はケイレブを貫通して地面に刺さった。

 (ケイレブ!いやあぁぁっ!)

 私は力一杯叫んだ。だが声にはならなかった。

 ところがケイレブはリーブス先生のように崩れ落ちない。

 (まだ息がある⁈)

 早く、時間よ、動き出せ…
 キリアンとアンディの姿は見えないが大丈夫、そばにいるはず!

 やがてまた周囲に色が戻ってきた。体も動く。
 私はありったけの声を出した!
「いまあぁーっ!キリアン!アンディ!」

 どこからかアンディが躍り出てルーメン枢機卿に体当たりした。
 枢機卿は倒れ伏す。
 キリアンが馬乗りなった。
 なお手足をバタつかせている。
 ルーメン枢機卿の体を固定しておいてふたりは素早く枢機卿の手首にあの手枷を嵌め込んだ。

 キリアンとアンディは目を見張った。ケイレブの有様に気付いたのである。
 それが一瞬の隙となったのか、ルーメン枢機卿は2人から逃れ手枷をしたまま立ち上がった。

「おのれ!なんだ?何をした⁈」

 枢機卿が暴れ回っている。

 あんなに綺麗だった夕焼け空は一天俄かにかき曇り雷鳴轟く嵐となった。

「よくも!もう一度止めてやる!
 ははっ捕まえてみろ!」

 そう言って天に向かって何か言おうとした時

 ゴロゴロゴロ…
 ピカーッ
 ドォーン!

 大きな音ともに閃光が走った!

 私もそこにいた人々も眩しくて目を覆った。

 そして…

 目をあけるとそこには…

 ルーメン枢機卿が黒焦げになって倒れている。

 雷に打たれた!

 急な嵐とその凄惨な姿にもはやみんなパニックだ。
 その中で
「聖女エレニは何をやっている?」
 エレニはケイレブに駆け寄って必死に手をかざしている。そのうちに
「どうして⁈わあああー」
 と泣き崩れてしまった。
 私はこの時ケイレブの命が尽きたと知った。
 私の頬を雨が激しく打った。
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