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バオバブの実

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アラータス学園の卒業式

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「それではケイレブ・コクトー、答辞をお願いします」
 今日はノストルム王国の王立アラータス学園の卒業式。
 3年間ずっと首席であったケイレブが壇上に立った。

 ケイレブは私ことマルグリット・ララ・ロレンスの同級生であり、永遠のライバルなのである。
 とは言っても私はいつも次席、全く歯が立たなかったのではあるが。

「相変わらずいいこと言うなぁ」
 私の横でキリアン・バークレーがひじでつつきながら小声で言った。
 この人も私の同級生、成績は…まあ、頭の良さより人の良さ、憎めないヤツなのである。

「ケイレブ、ありがとう。続きまして…」
 式進行は3年間私たちがお世話になったリーブス先生だ。
 今日この日、私たちはたくさんの思い出の詰まった学園を卒業する。


 私はリーブス先生のおかげで勉強に目覚めた。
 ロレンス子爵の三女として生まれた私はただ卒業して結婚し、良き妻に、母になるという道がすべてだと思っていた。
 ところがリーブス先生は女性はもっと視野を広げるべきと解いた。
 先生は神学が専門だが、そこから派生する歴史学、果ては政治、経済とありとあらゆることを惜しみなく教えてくれた。
 最もその先進的な考えは学園の教授陣からは疎まれていたが。

 リーブス先生の授業は面白く生徒たちに人気だった。私ももちろん夢中になった。
 私の知識欲は留まるところを知らず、いつしか隣国であるルクス帝国に留学することを夢見ていた。
 だが留学を実現しようと動き出した矢先、婚約破棄されてしまった。しかも私の有責で。


「卒業生のみなさん!おめでとう‼︎」
「「「おめでとうー」」」
 在校生たちの声で我に返った。
 長い式典が終わったらしい。

「マルグリット様、ご卒業おめでとうございます」
「マルグリットさまぁーさびしいですぅ、うう」
 かわいい後輩たちが花束を持ってきてくれた。
「みんな、ありがとう」
 私はそれぞれに挨拶を交わしながら、周りを見渡した。
 キリアンは男子生徒に囲まれている。女子より男子に人気なのである。
 ケイレブは…なにやらリーブス先生と深刻な顔をして話し込んでいる。
 まあいいか、夜の卒業パーティーで会えるんだし。
 そう思い歩き出すと
「マルグリット嬢、ちょっといいかな?」
 声をかけられた。
 ワトソンズ伯爵の長男アンディ様、私の元婚約者だ。
「何か御用ですの?」
 私は少し身構えた。

 ふたりで学園の中庭へ行った。ここなら混雑して話せないという感じでもなく、かといって人の目が全くないということもなかった。ちょうどいい。それくらい私たちの関係は微妙なのである。
「婚約破棄のこと、本当に申し訳ない!僕としては婚約解消にしたかったんだが。」
 こちらが申し訳なくなるほど深々と頭を下げた。
「両親とも君のことは本当に気に入っていたんだ。だけど留学の話を聞いてきっと裏切られた気持ちになったんだと思う。しかも僕や君から聞いたのでなく、よそから耳に入ったのもマイナスだった…」
 あぁ、そうか、私は思った。
 伯爵家と子爵家の家柄の釣り合わない婚姻。
 でもお話がきたのはワトソンズ伯爵家からだった。婚約してからも伯爵夫妻からよくしてもらった。
「もうお顔をお上げください、アンディ様。私、今やっと気づきました。私が話の通し方を間違ったのです。おふたりを傷つけてしまった…」
「い、いや、そんなことは、」
 アンディ様は上げた頭を今度は左右に激しく振った。
「うちの家は古い考え方なんだ。女は結婚こそが幸せだと。だから君が卒業してすぐ家に来てくれるものと。帝国へ行って勉強するなど考えもしなかったのだろう」
 私は空を見上げた。このノストルム王国では当たり前。ワトソンズ伯爵夫妻の考えのほうが多数なのだ。
「…僕もリーブス先生に出会わなければあるいは両親といっしょになって君を攻め立てたかもしれない。
 先生には感謝している」
「私も。リーブス先生と後は学園長にもお世話になりましたから」
 留学話が絡んでいたので、お二方が間に入って執りなしてくれたのだ。
 おかげでワトソンズ伯爵家に支払う慰謝料は妥当な金額になった。
「あるいは留学から帰ってきてから結婚という目も…あぁ、それはもう言うまい。
 マルグリット、向こうに行っても体に気をつけて。勉強、がんばって」
「ありがとう、アンディ様」
 私たちは堅い握手を交わした。
「それと…これはお願いなんだが、もしまた君と会うことがあったら、みんなのように『ララ』と呼んでもいいかな?」
 私は公の場や下級生からは『マルグリット』と呼ばれ、家族や親しい友からは『ララ』と呼ばれているのだ。
 真面目なアンディ様はララとは呼べなかったのね。
「もちろんですよ、アンディ様」
「その僕のことも…キリアンやケイレブみたいに…そのアンディと」
 もじもじしているのを見ると何やらおかしくなって
「もちろん!アンディ!私たちずっと同級生でしょ?」
 と元気に答えた。
 お互い笑顔で別れた。

 空はどこまでも晴れ渡っていた。
 ひとつのわだかまりが消えた。
 私は良い卒業式だったと思った。
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