天使と悪魔の禁忌の恋

御船ノア

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第四話 誓なる夜

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「おっ、ここだな」
カードに記されている2020という番号と同じ部屋を見つけた。
ドアの取手の上にはカードの情報を読み取るセキュリティ機械が取り付けられている。
そこにカードをかざすと、機械に付いている赤いランプが緑のランプに変わると同時にガチャンとドアが開いたような音が発した。
試しにドアを引いてみれば、あら不思議。
鍵を使わなくともドアを開けられる最先端の技術に関心の言葉が思わず口から溢れてしまう。
「へぇ、人間共も中々面白い物を発明するものだな。なぁ、セラフィー」
「––––––え、あ、そうですね!」
(……そういえばセラフィーの奴、やけに静かだな。さっきまであんなにはしゃいでいたのに)
何気なくそう感じた俺は、一先ず部屋の中に入る事にした。
足を踏み入れた瞬間に部屋全体を照らす淡い光。
部屋は至ってシンプルなもので、45インチのテレビが一台に小さな物置場、他にも冷蔵庫にお湯を沸かすポットなども用意されている。
お風呂や洗面所、トイレなどといった生活をするうえで必要なものも当然付いている為、住む事に関しては十分といえる。
この世界で生きていく為の基本である衣食住の『住』はなんとか無事に解決しそうだ。
「悪魔城に比べれば質素な部屋だが……まぁ、これはこれで良いかもしれんな。なぁ、セラフィー」
俺は振り向いてセラフィーに顔を向ける。
「––––––あ、はい、そうですね!」
「…………」
何処か体調が悪いのかと心配してしまい顔色を伺う。
「お前、顔が赤いけど熱でもあるのか?」
「え!?」
「ちょっと触るぞ」
「ふぇぇ!?」
セラフィーのおでこに手を当て熱がないか確かめる。
「……熱はないようだな」
「ありません、ありませんから!」
嫌がるようにおでこに当てていた手を振り払うセラフィー。
「おい、どうした。さっきから様子が変だぞ」
「っ~~~…………ルシフェルには、一応伝えておかなければならない事があります」
「……なんだ?」
「私……」
「……」
「私、セッ●スに興味ありませんからぁッッ!!」
「––––––へ?」
目が点になるルシフェルを置いて、羞恥を感じながら走って部屋を出て行ってしまうセラフィー。
急に刺激的な言葉を放たれ最初の数秒は時が止まったかのようになってしまったが、セラフィーの言う言葉には直ぐに合点がついた。

それはエレベータ内で男女二人が心の中で呟いた言葉。

俺も我に帰った後、心の中で呟く。
(お前も人の心を読んでたのかよぉぉぉッッ!)


     ★


––––––時刻は夜7時。
思えば昼から何も食べていない為、お腹が減ってきた。
恥ずかしさに耐えられず部屋を飛び出して行ったセラフィーの帰りを待っていたのだが、一向に帰ってくる気配が無い。
あれから二時間は経っている為、流石に心配になってきた。
夕食の確保もしないといけない為、そろそろ此方からも動き出さないといけないと思ったルシフェルはカードキーをポケットにしまい、呆れながら溜息をついた後セラフィーを探しに行く。
「全く、世話の焼ける奴だな~」
渋々と周囲を見渡しながらセラフィーを探しているルシフェル。
とりあえずはホテル内の何処かにいるという前提で、自室フロアの20階から探し始める事にした。
20階にいなければ、19階、18階と一階ずつ下がって探す予定のルシフェルだが、正直それは面倒なので出来れば20階でセラフィーがいる事が何より望ましい。
俺は20階フロアの奥まで足を運びながら、セラフィーがいる事を期待する。

––––––。
––––––。
––––––。

「……いねーな」
20階フロアの奥に到着したが、セラフィーの姿は見当たらない。
期待していた分、気が削がれてしまう。
俺は置いてあったソファに重たく腰を下ろし、何気なく外のベランダに目を向ける。
目に映ったのは、綺麗な星空。
その綺麗さに自然とベランダまで歩いて行ってしまう。
窓を開け、黄昏れるルシフェル。
「……セラフィーにも、見してやりてぇな」
そうぼんやりと呟くと、上の方から女の叫び声が聞こえ始める。
「や、やめてください!」
俺はその声の正体が誰なのか直ぐに分かった。
「セラフィー!?」
20階が最上階と思っていたが、どうやら更に上がある事に気付くルシフェル。
エレベーターでは20階までしかボタンがなかった為、別のルートで上に行ける事が考えられる。
十中八九階段であろう。
だが屋上まで繋がる階段を探すよりも自身の翼で飛んで行った方が断然早いと思ったルシフェルは、夜に馴染む漆黒の翼を大きく広げ、ベランダから一気に屋上へと登って行った。
(今助けに行くぞ、セラフィー!)


     ★


––––––約二時間前。
2020号室から勢いよく部屋を飛び出す少女がいた。
(私ったら、何を恥ずかしがっているのでしょう)
頭の中の恥じらいを振り払うかのように無我夢中に走り続け、冷静さを取り戻そうと我に帰った時には屋上にいた。
屋上から見える綺麗な星空を見つけると目が奪われている自分がいる事に気付く。
「綺麗……。ルシフェルにも見せてやりたいですね」
その瞬間は余計な感情が一切入り込まず、平常心の自分でいられる事に気付く。
そして、ひと時の感情で飛び出してしまい、ルシフェルに不快な思いをさせてしまった事を深く反省するセラフィー。
お腹もグーっと大きく鳴り、夕食を食べる時間である事に気づき、ルシフェルも同じ気持ちである事を考えると、これ以上待たせる訳にはいかない。
「ちゃんと、謝らないとですね……」
星空に顔を見上げながらそう呟いた後、踵を返してルシフェルのいる部屋に戻ろうとしたその時––––––。
「あれ~? もしかして、さっきエレベーターにいた子だよね?」
チャラそうな口調で後ろから近付いてくる一人の若い男性。
先程エレベーター内で一緒に居た、男女二人組のうちの男性だった。
「貴方は、セッ●スの人ですね」
「ブホォ!!」
勢い良く吹き出す男性。
「……おっと、失礼。君がいきなり過激発言をするものだから、つい吹き出してしまったよ」
「さっきは女性の方と一緒にいたと思いますが……」
セラフィーは少しだけ、警戒心を寄せている。
「ああ、さっきのメス豚の事か」
「…………」
「––––––捨てたよ。思っていたのと違ったのでね」
「体に魅力がなかった、で合っていますよね?」
「……すごいっ、良く分かったね! まるで僕の心が読まれたかのようだ」
「実際に読んでいましたので」
パチパチと拍手を送りながら驚きの顔を見せた男性だったが、セラフィーの発言によってその顔は険しい表情に変わる。
「……なに? どういう事だ?」
「私は相手の心を読み取る『読心術』という能力があります。それを使えば、どんな生き物でも心の中で思っている事を読み取る事が出来るのですよ」
「……フッ、君は面白い事を言うね。そんな漫画みたいな事ありえ––––––」
「はぁ、この女見かけによらず体はそうでもなかったな~」
「!?」
セラフィーは男性の口調に合わせながら、エレベーター内で読み取った言葉をそのまま発する。
「まぁでも、––––––S●Xを体験出来て良かった~」
「なッッ!!」
「これからこの二人も、性なる夜を過ごすんだろうな~」
「や、やめろぉぉぉッッ!!」
「…………」
「ハァ……ハァ……」
男性はこの台詞に覚えがあり、一言一句当たっている事に恐怖を感じてしまう。
本来なら、心の声など他人に聞かれる事などあり得ないのだから。
(なんなんだ……なんなんだこいつは!)
「私は天……コホン、セラフィーと申します。––––––ただの……人間ですよ」
「!」
男性の疑問に素直に答えようとするも、途中で怪しまれないように目をあちこちに泳がせながら何とか誤魔化そうとシフト変更する。
嘘をつくのが下手であからさまである事に直ぐ見抜かれると思いきや、男性はセラフィーの言う『読心術』というのがハッタリでは無い事に驚きと恐怖の感情が入り混じり、冷静さを失っていた。
そのお陰で何とか場をやり過ごす事に成功する。
「……は、ははっ」
「……!」
男性が不気味に笑い出す。
「良いねぇ~、余計に君が欲しくなってきたよ~」
目は正気を失ったかのように欲望に塗れており、舌を出してレロレロとねっとりとしたよだれが糸を引きながらいやらしく動かす。
まるで悪魔かのような男性は徐々にセラフィーに歩み寄る。
「さぁ、もっと僕の心を読んでくれたまえ!」
男性の心の声を聞くセラフィー。
(あぁ、早くセラフィーちゃんとエッチがしたい! その柔らかそうなおっぱいを揉み揉みしたい!)
「!!」
セラフィーは悪寒を感じ、全身に鳥肌が走る。
「い、いやっ……!」
男性が近寄ってくる分だけ、セラフィーは下がる。
(あぁそうだ。逃げられないように拘束プレイもいいなぁ~。そして、その白くて肌艶のある甘そうな肌をゆっっっくりと全身舐め回して––––––)
セラフィーはこれ以上読心術を使用する事は不快で気持ち悪い思いにしか繋がらないと思い、すぐさま止める。
––––––だが、その時には手遅れともいえる状態になってしまっていた。
想像以上の男性の悪趣味に恐怖を感じ、足を掬われてしまっているのだ。
性の欲望を剥き出しにしながら一歩ずつ近づいてくるその様は、本当に悪魔のようだった。
やがてセラフィーに密着し、歩んでいた足を止める男性。
セラフィーの両手首を強く握って抵抗出来ないよう抑え、顔を近づける。
「さぁ、これから僕と幸せな時間を送ろうじゃないか……」
もはや心の声で留め切れないのか、本心が表に出てしまっている。  
「や、やめてください!」
「先ずは、その綺麗な唇から頂くとするかな」
男性はキスをしようと、太い唇を尖らせる。
「っ!!」
「ん~~~~っ♡」
セラフィーは目をグッと瞑り、必死の思いで『誰か』に助けを求めた。
その誰かは、言うまでもない。
「んがぁッッ!?」
男性が何者かによって、横から顔を蹴られてしまう。
蹴りの威力は凄まじく、その衝撃で男性はコンクリートの壁に激突し、目でハッキリと確認出来るほど壁に窪みが生じていた。
セラフィーはその者を見て、思わず涙腺が緩むと同時に腰が抜けたかのようにペタンと地面に座り込んでしまう。
漆黒色の服と翼を身につけた男が満月に照らされながらセラフィーの前に立ち降りる。
「大丈夫か?」
「……全然、大丈夫じゃないでよっ」
男は腰が抜けてしまい、立ち上がろうとする事が困難そうに見えるセラフィーに手を伸ばす。
セラフィーはそれに遠慮する事なく、差し伸べられた優しそうな手に甘えるように握り、男が引き上げる力を利用して何とか立ち上がる。
「だ、誰だ……お前っ」
痛みに耐えながらも必死に声を荒げる男性。
男は素直にその問いに答えようとする。
「俺は––––––」
冷たい風が吹き荒れる。
「こいつの、こ。ここっ、こっ……こい……って何を言わせんだテメェッッ!!」
「ぐわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
男の手からは黒い炎が現れ、その炎を男性に向けて放ち、身を包み込むようにして焼きつこうとする。
「殺生はいけません、ルシフェル!」
「あ、悪い。つい、カッとなっちまった」
男の正体––––––それはルシフェルだった。
「でも、助けてくれてありがとうございます。よく、ここが分かりましたね」
「たまたま下のベランダにいたら、お前の声が聞こえたんでな」
「たまたま、ですか?」
「……そうだよ、たまたまだ。それよりもお前、あいつに何かされなかったか?」
「……キスを、迫られました」
「よし、殺すか」
再び黒炎を放とうとするルシフェルを慌てて止めに入る。
「わわっ、そこまでしなくても大丈夫ですから!」
男性は焼かれた事によるダメージのせいか、いつの間にか白目を向いて気を失っていた。
「セラフィーが良いなら……仕方ねぇ」
ルシフェルは観念したかのように、手に宿っていた黒炎を引っ込めた。
「一応、確認だが––––––」
「?」
「キスは……してないんだよな?」
ルシフェルは頬を赤くしながら横目で話す。
「はい、もちろんです」
その答えを聞き、俺の重たかった心は一気に解放されたかのように軽くなる。
「そうか」
安堵に包まれたルシフェルの側で、セラフィーは俺の肩に身を寄せてくる。
思わぬ行動に、俺は全身を伝ってドキっと跳ね上がってしまう。
「ど、どうしたっ」
「……私、ルシフェルなら構いませんよ」
構わない……その意味が何を表しているのかは、タイミング的に察する事が出来た。
でも、俺は動けなかった。
もし、俺とセラフィーがキスを交わしてしまえば、セラフィーは堕天使になってしまう。
自我を失い、殺戮を生きがいとする凶暴な神。
もしそうなってしまえば、俺とセラフィーは殺し合いをせざるを得なくなる。
それを実現させようとする神の悪戯、いわば堕天使の悪戯かのように、俺は苦渋の選択を迫られる事態に陥ってしまう。
互いの相手に対する想いが通じ合ってしまったのか、自然と目が合ってしまい、見つめ合ってしまう。
ドクン、ドクンと心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。
(まずい……)
見つめあっていながらも、互いに何か言葉を発する事はない。
ただ頬を赤くしながら見つめ合い、温かい息が微かに顔に当たるのを繰り返す。
そして何故か、相手の唇に意識を持ってかれて、これから『キス』をしようとする自分がいる事に気付いてしまう。
制御しようとも本能的に体が動いてしまい、強張りながらも俺の両手はセラフィーをこちらに引き寄せようとしている。
「……ルシフェル……」
俺の両手がセラフィーの頭と背中を包み込むようにし、僅かにこちらに引き寄せてしまう。
その距離は、もはや零距離。
幸か不幸か。
キスをしても可笑しくないムードと距離感が作り上がってしまった。
セラフィーもそれを感じ取れたのか、目を瞑り、僅かに顔を上げ、覚悟を決めているように感じ取れた。

––––––後は、ルシフェルが『それ』に答えるだけ。

(う、嘘だろ……。本当に……)
今度は自然と、顔が動き出してしまっていた。


     ★


セラフィーの唇に迫っていく俺は、意識は保てているのにも関わらず動きが止まる事はない。
自分でも思う。
これが『本能』というやつなのか、と。
頭の中で思っている事と行動が一致しない何とも不思議な現象。
俺は初めて、自分自身に屈服した。
敗北を知らない俺が、今日初めて『自分』という敵に敗北した事を知る。
『悪魔の王』とはまた別のもう一人の自分がいる事を認識し、それがいかに強大で恐ろしい事を知る。
堕天使とはまた違う恐ろしさ。

何故、こんなに恐怖を感じているのだろう。
悪魔の王となるこの俺が……。
いや、本当は気付いているはず。
俺は『それ』を見て見ぬフリをしているだけだ。
ルシフェルという悪魔が––––––。


セラフィーという天使を––––––殺そうとしている事を。


ルシフフェルはここにきて初めて生まれ持った悪魔の血を恨みながらも、天使と悪魔による誓いのキスが、今ここで行われる。

––––––事はなく、俺は紙一重のところで唇を交わし、セラフィーの体を強く抱きしめた。
「––––––え」
予想をしていた展開と違った事に、セラフィーは驚きの様子。
ルシフェルはセラフィーを抱いたまま囁く。
「……『それ』は、もう少しだけ待ってくれ」
セラフィーは理由を追求する事なく、残念そうにしながらも少しだけ微笑みを含ませる。
「……ええ、待っていますよ。––––––いつまでも……」

キスをする事が出来ない理由を正直に話そうと思ったルシフェルだが、それが堕天使を生み出す原因である事を伝えた時のセラフィーの悲しむ顔が思い浮かんでしまい、喉元にまで来ていた言葉を無理やり引っ込めた。
その言葉の代わりとなる言葉を導きだした答えが……。
(なんで俺は……あんな事を……っ)
セラフィーに対する二つの想いが混濁してしまい、結果的に中途半端な言葉を伝えてしまった事に後悔するルシフェル。
待っていて貰う以上、いずれは答えを迎えに行かなければならない。
自分で自分を苦しめる、何とも馬鹿げた失態。
そんな自分を戒めているとは裏腹に、セラフィーは俺の背中を優しく二回叩く。
「ルシフェル、ルシフェル。上を見てください」
そう言われ、密着していたセラフィーとの体をゆっくり離し、上を見上げた。
目に映ったのは、先程一人でベランダに立ちながら見ていた、キラキラと無数に輝く星が常闇に広がっている綺麗な星空だった。
「綺麗ですよね」
「……あぁ、そうだな」
互いに、好意の相手と一緒に見る事が出来た事に満足げな様子。
––––––グ~。
二人のお腹が同時に鳴り響く。
「……なんだかホッとしたら、お腹空いてきちゃいました。お恥ずかしい……」
「そりゃあ、もう夕飯時だからな。早く帰って食おうぜ」
「私の勝手な行動のせいで、本当に申し訳ございませんでした」
頭を深く下げるセラフィー。
「気にするな。誰だって恥ずかしかったらその場から消えたくなるものだろう。––––––さ、帰るぞ」
「待て……」
「!」
ルシフェルによって傷を負った男性は、苦し紛れながらも必死な様子で声を上げる。
「お前達は……何者なんだっ……」
素朴な質問に、一度頭の中で考えてしまう。
そんな俺を他所に置き、セラフィーは悩む事なく率直に告げた。
「––––––いずれ、恋人関係になる者です」
「!!」
セラフィーの予告発言に男性だけではなく俺までも驚いてしまう。
セラフィーは男性まで歩みより、両手で体を覆うようにし、何かを唱え始めた。

『ヒール(女神の治癒)』

聖なる光が男性を包み込み、ルシフェルによって負った傷がみるみると修復していき、暫くして完全に元の状態の体へと変わっていった。
「なっ、傷が!?」
「本来なら、貴方には天罰を与えなければなりませんが、今回は特別に見逃してあげます。二度と、このような真似はしないと約束出来ますか?」
「は、はい! しません! ありがとうございました! セラフィー様!!」
男性は何度も土下座しながら頭を下げ、崇拝の意を示す。
「では、行きましょう。ルシフェル」
「ああ」
二人は隣り合わせで仲良さそうにしながら屋上を後にしていく。
二人の姿が視界から消えた後、男性は疲れ果てたように仰向けになる。
「なんか…………天使と悪魔みたいだったな。…………いや、いる筈ないか……俺は幻覚でも見ていたのか?」
男性は先程の傷があった部分をじっと見つめながらも、現実世界にそんな事あり得る筈がないと信じられないでいた。
「まぁでも、天使と悪魔が恋人になったら……それはそれで面白いかもな」
躊躇する事なく相手に立ち向かい、大事な女を守り遂げたルシフェルという男。
自分の欲望を満たす為だけに襲い掛かった自分を咎める事なく、優しく救ってくれたセラフィーという女。
「……かっこいいなぁ。どっちも」
生まれて初めて憧れの存在が出来、自分もそのようなかっこいい存在になりたいと思うようになった男性は今回の出来事を元に、二人のような……人々の上に立つのに相応わしい存在になろうと、心からそう誓うのであった。

––––––星空に一瞬だけ輝いた、あの流れ星に強く願いを込めて。
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