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第三話 驚異と脅威
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昨日の入隊試験から翌日、午前9時前。
昨日に続いて、晴天の青空が迎えてくれた。
闘技場入り口前には入隊試験を突破した者達が大勢集まっており、試験を突破した自分に気が高まっているのか無駄にテンションが高く、隣の人と話をしたりして賑やかで絶えないでいる。
そんな騒然とする中、俺達の前に不気味な笑みを浮かべながら一人の金髪少女が現れた。
その響き渡る声に、集まっていた者達は一斉に少女の方へと向く。
「やぁやぁ皆さん! 元気にしてる―?」
元気に明るく笑顔で登場してきた謎の少女。
髪はツインテールに仕上げており、身長はお世辞でも大きいとは言えない程まさに幼い少女だった。
真紅色に染まったその瞳からただならぬ威圧さも感じる。
「ふーん。今年も結構いるのねー。これだけ防衛隊希望者がいる事にカリンちゃん、嬉しいぞっ☆」
語尾に合わせてウィンクと横ピースを決めてくるこのカリンっていう少女はアイドルか何か? と思ってしまう程癒されるというか、守ってあげたくなるような可愛さがそこには溢れていた。
「じゃあ早速、みんなの入隊祝いを込めて––––––」
カリンの表情が一変する。
「死んでください♡」
気付いた時には遅かった。
カリンを覗く、この場にいる全員を囲むように、数えきれない程の『銃』が出現し向けられていたのだ。
「ぶ、武神!? いつの間に!?」
「もう遅いよ。––––––バイバーイ♡」
何百、何千もの銃が一斉に発砲された。
しかし––––––。
––––––ぼよ~ん。
銃が発砲されると、それに似合わない間抜けな音が響く。
「おぉ! 良く反応したね。『これ』を防いだのは今まで誰もいなかったのに」
「……」
俺はこの場に立った時、妙な違和感を察知したので武神を予め装着し、ポケットに手を突っ込んでいた。
後は相手の攻撃に合わせ瞬時に絶対防御を発動し、みんなをバリアによって銃弾を防いだというわけだ。
ぼよ~んと響いたのは銃弾がバリアに跳ね返された事によるもの。
誰かに当たったわけではない。
とはいえ、当たってもきっと無傷であった事だろう。
発砲されたのは良く見る金属製による物ではなく、それに見せかけたゴム製の物だったのだから。
「安心してよ。今のはちょっとしたサプライズだからさ。本気で殺そうなんて欠片も思ってない。どう? 驚いた!?」
その問いに誰も答えないでいる。
それは呆れだとか、怒りだとか、そんな単純なものではない。
––––––本気で死を予感した。そんな恐怖によるもの。
それは見方を変えれば驚きによるものでもある為、この場にいた人達は驚いているといっても過言ではない。
そんな恐怖と驚きに感情が支配されているのを見て、カリンという少女は満足気だ。
チラッと俺の方を見て不服な一面も見せたが、直ぐに視線は逸らされる。
そんなカリンの元に、背後からもう一人女性が現れる。
「こらっ」
「イッッッたあぁぁ~~!」
ゴンッとゲンコツを頭に喰らうカリン。
そして、ゲンコツを与えたそのもう一人の女性はアリルの姉、プロラだった。
カリンは膨れ上がったタンコブを抑えながら涙目に訴えの声をかける。
「ちょっと、プロラ! イッタイでしょ! 何すんのよっ!」
「それはこっちのセリフよ。あなたこそ、折角の新人に向かって何物騒な事しているの?」
「それはっ……気合を入れてやろうと」
プロラは落ちていたゴム製の銃弾を拾い上げる。
「そう。まぁ、やり方は酷いけど見せしめとしては効果あったかもね」
不服そうにしていたカリンもちょっとだけ嬉しそうになる。
だがプロラは蹲っていたカリンを半強制的に立ち上がらせ、無理やり頭を下げさせた。
「皆さん、こちらの者が無礼を失礼致しました。この者にはそれなりの罰を与えたいと思いますので、そちらでどうかご勘弁をお願いします」
「えぇ~! なんで罰なんか––––––いだっ!」
二発目のゲンコツを喰らった事により、カリンは悶絶しながら黙り込む。
それを機にプロラは話を切り出した。
「まずは皆さん。入隊の程、おめでとうございます。今日からあなた達は晴れて防衛隊の一員です。いち早く馴染んでもらう為にも、本日は城内のご紹介と特訓の時間を設けてありますので、何卒よろしくお願い致します」
(特訓……?)
入隊した初日から特訓をする事を明言したプロラ。
『特訓』という言葉を聞いて疑問に思う人も少なくなかった。
しかし、治安を守る防衛隊として活動する以上、己の鍛錬は避けられない。
それはみんな心の底では理解しているのだと思うから聞かないのだろう。
だから俺にとっても特訓というのは前向きに捉えられた。
それはアリルにとっても同じ事だと思う。
「では、先ずは簡単に城内を紹介していきたいと思いますので、私に付いて来てください」
俺達は黙ってプロラの後に付いて行った。
蹲っているカリンを置いて。
★
防衛隊の敷地は呆気を取られてしまう程広く、歩きまわったり触れてみたりなどした結果、終わるまで計二時間強もかかってしまった。
紹介された場所で、特に生活面や活動面で大事になってくるのは以下の通りだった。
・寮……城内に備え付けられた個人寮。防衛隊の一員に一人一部屋与えられ、防衛隊の一員である以上、寮で過ごす事を強いられる。
・会員証……防衛隊である事を証明するカード。寮の部屋の鍵としての役割も持つ。
・食堂……防衛隊の者であれば誰でも利用可能な食券形式の食堂。自費ではあるが美味しい料理が食べられる。ただし、土日祝日は休み。
・ラウンジ……同期の者達と共有して利用する事が出来る、くつろぎの広間。
キッチンや冷蔵庫、テーブルにソファといった置き型家電も置いてある。
自分達で用意した材料を用いて食事を済ませる事も可能。
・任務受付……任務の手続きを行う場所。任務は難易度の高い順にS~Dランクと分けられており、防衛隊は自身のランクに合った任務をここで受付し活動を行う。任務はAランクの者以上を除く、単独の行動は原則禁止。手続きには会員証が必要。
・報酬金……依頼を成功した際に得られる報酬金。報酬金額は依頼内容に記載されてある。
以上の事が防衛隊として基本となる内容だ。
これだけ充実した機能を備えている寮生活。
ここに住めば衣食住は担保されている為、安心した生活が送れる事だろう。
同期と集まる事が出来るラウンジを用意してあるのは仲間との交流を深める為に用意されたのだと思う。
任務の話から世間話、なんだっていい。
孤独の生活を続けるよりも、誰かと会話をしていた方が心の健康にも繋がる。
そういった精神面の配慮までされているのはとてもありがたい事だと思う。
防衛隊だって人間だ。いつか、どこかで、辛い想いや悲しい想いに遭遇してしまう事だってあるだろう。
そうなった時に、俺達がその人の支えになれたらなと思う。
何よりも、そんな日が訪れない事を願うばかりだが。
★
午後0時。
見学が終わった後は『特訓』だと言っていた為、俺達はプロラに続いて外に出る事に。
城外を歩いて十分ほど経った頃だろうか、多くの木がそびえ立つ場所に連れてこられた。
「では最初に伝えた通り、ここで特訓を始めたいと思います」
どうやらここで特訓をするらしい。
ここで何をしようというのか皆目検討もつかない同期の人達は困惑の様子。
「皆さんもご存知かと思いますが、第二次聖魔戦争によってこの世界では武術と魔術の両方が誰にでも習得可能な極めて混沌とした世界になってしまっています」
本来であれば武術も魔術も一族だけが知り得る特権みたいな扱いであったのだが、第一次聖魔戦争後、人々は争いに対して自己防衛出来るようにと一族の特権である事を改め、人々が平等に力を得られるようにその情報を開示した。
それにより、力の根元である武術と魔術を人々は得られるようになる。
そして力を持っていなかった人達は未知の力を得られるようになってしまった自分に高揚感を覚え始め、力に対して傲慢になりつつあった。
そこから人々の理性は変わっていってしまった。
争いも、犯罪も、権力も……全ては『力』が絶対なのだと、そう認識するようになってしまう。
まるで力に洗脳されてしまったかのように……。
「第二次聖魔戦争はその名の通り、聖族と魔族の『二度目』の争いが起因となった戦争……。そこに巻き込まれた関係の無い人々も力を使って対抗して来た。––––––結果的に、第一次聖魔戦争よりも大きな被害をもたらしてしまった事は、決して忘れてはならない」
第二次聖魔戦争に巻き込まれた人々は決して少なくはない。
きっと、ここにいる人達の中にもいるはず。
それがきっかけで防衛隊に入ると決意をした人もいるんじゃないだろうか。
俺はその一人だ。
「各地では未だに力を利用して人々の生活を脅かせている者もいます。二度と、いえ……三度目の戦争を起こさない為に結成されたのが私達『防衛隊』です」
プロラの雰囲気が険しいものへと変わる。
「これからする特訓は、『最低限』防衛隊として活動するのに必要な技量まで高める為のものです。この試練を始めて突破した者こそが––––––真の防衛隊になります。あなた達に、それを成し遂げようとする覚悟は出来ておりますか?」
プロラが試すように問いかける。
人々を守る為にどんな困難が待っていようと、そこから逃げず、立ち向かい、成し遂げようとする覚悟は出来ているか。
この場に張り詰めた緊張の空気が漂い、誰も声を発さない。
聞こえるのは風に揺れて踊る木の葉の音のみ。
「これからする特訓は『出来るまで』続けてもらう事になります。それが出来るまでは任務に行かせる事は出来ません。最初の一ヶ月間は私も付き合いますが、それ以降は自主練として続けてもらい、合否の判定を見てもらいたい場合のみ付き合いますのでその点をご了承下さいね」
どんな特訓をするのか聞かされていないうえに、『合否』という試験の匂いを漂わせるニュアンスに固唾を飲んでしまう。
プロラが一ヶ月間も付き合う謎の特訓。きっと一筋縄ではいかないスパルタな内容である事が予想付く。
でなければ、これ程の威圧感を出すはずがない。
ハッタリをかましている可能性も考えられるが、それは無いだろう。
仮に誰でも簡単に成し遂げてしまう特訓など、やるに値しないと思うからだ。
それに、そんな甘い特訓では成長は見受けられないだろうし、とても人々を救えるとは思えない。
任務に行かせないというのも、それなりの実力を付けてからじゃないと命の危険にも及ぶからだろう。
これは脅しとかではなく、俺達の事を想っての言葉だ。
それだけ任務は自分達が想像している以上に危険が伴うのだろう。
敵の中には武術や魔術も使ってくる者もいる。
最悪、『死』も覚悟しなければならない時だってあるはずだ。
「因みにこれは強制じゃありません。この話を聞いて、防衛隊として活動する事を取り消したい場合は私に名乗りあげてください。上の者にその旨を伝え、辞退の手続きをさせます」
つまりは、覚悟が決められない人はここで辞退しろという事だ。
だがここに集まっている者は皆入隊希望者であり、入隊試験を突破した人達。
自ら辞退をするという決断はしないと思うのだが……。
「……あの、俺…………辞退します」
一人の男性が弱々しく手を上げ、辞退宣言をした。
その姿に全員は驚きを隠せないでいる。
すると、その男の流れに乗ろうと、次々と辞退宣言をする人達が現れ始めた。
「わ、私も……っ!」
「ぼ、僕もだっ!」
それはもう、面白いぐらい便乗するように……。
三百人程いたメンバーであったが、最終的に百人程まで減ってしまった。
なんと半分以上の者が自ら辞退する形を取ったのだ。
プロラの言葉に気圧されてしまったのだろう。
何となく口では防衛隊に入りたいと思ってみても、いざそういう窮地に立たせられると、本当の気持ちに気付く事だってある。
自分の覚悟は、その程度だったのだと……。
心の底では、甘く見ていた部分もあったのかもしれない。
防衛隊として活動するという事は、死を覚悟するのと同じ。
誰だって、死を目の前にしたら怖がるに決まっている。
わざわざ、自ら死の道へ進んでまでリスクを負う必要は無いのだ。
死にたくないのは誰だって同じ。
だからそれを、誰も止める事は出来ない。
「あーあ。結局ここまで減っちゃったか~」
背後から聞き覚えのある少女の声が。
振り返ってみると、カリンがこちらに向かって歩いて来ていた。
「まっ、どうせ更に減るんだろうけどさ」
「カリン、不謹慎な事を言わないの!」
「ウチは事実を述べているだけだよ。実際、これまで何人の人達が死んだと思ってるの? 中には任務に行ったきり戻って来ない人だっているらしいじゃない」
「っ……」
「ウチがさっき銃を向けた事はこの場で謝る。––––––でも、あれで全員が死んでいたっていう事もまた事実」
カリンが言いたいのは先程の銃の件。
あの時カリンが味方陣であったから殺されずに済んだものの、あれが任務中で敵陣の罠だったらあの場にいた全員は殺されていたという事。
「まぁ結果的にそこのカイって奴に守られたけど。そんな風にいつまでも守られているようじゃ、この世界で生き抜いていくにはちょいと厳しいだろうね」
カリンは脅しや嫌味で言っているわけじゃない。
これまでの経験からそう忠告してくれているんだ。
守られる事が駄目と言っているわけじゃない。守られっぱなしのままでは生き抜いていけないという事。
「俺はやるぜ」
圧迫した空気の中、それを感じさせない爽やか口調のイケメン男性が声をあげる。
やや長めの茶髪をおでこの前で分けているその男性は頼れる雰囲気を持つお兄さん系だった。
「防衛隊ってのはそういうもんだろ。俺はとっくに覚悟は出来ているぜ?」
多くの人が萎縮している中、そういった強気な発言は魅力的に感じるものだ。
見た目だけではなく、性格までもイケメンとか男の憧れる存在であろう。
実際何人かの女子達も頬を朱色に染め、既に惚れているかの様子だ。
「私もやるよー!」
イケメンの男性に続き、カリンとはまた違った元気いっぱいな声をあげる美少女。
薄桃色の髪は前髪と後ろ髪を垂らし、頭の片方には一つ縛りで括っている。
スタイルも抜群で胸もDかEぐらいはある。
モデルだと勘違いされてもおかしくないその女性は頼りになりそうな一面もあるが、どこかお茶目な雰囲気も感じられるお姉さん系だった。
二人の男女が性別別に代表で誓ったかのように言うと、その意志に続くように他の人達も強い意志を見せた。
「……ふーん。ま、いいんじゃない? 今年はそれなりに残った方だしね」
残った方、という事は、普段はこれよりも少ない人数しか残らないという事か。
「残った人数は然程重要じゃない。ここから人数を減らさない事が重要よ」
それはつまり、先程言っていた任務での死者や行方不明による事を指しているのだろう。
例え五百人のメンバーが残ったとしても、全員が死んでしまったら意味が無い。
カリンは辞退した人達の名前をタブレットに記入後、その人達を家に返した。
「さてと。ではこれより残ったメンバー達には武術の特訓を行いたいと思います。武術を習得する事は生存率をグッと高める事に繋がるからです」
特訓というのは武術の事だったか。
確かに武術は魔術と違って最も自己防衛に繋がりやすい。
魔術は体力の消耗が激しい一方で、武術は最小限に抑える事が出来る。
それに魔術の特訓を用意していたとしても、各々で武器や能力も違ってくるから統一するのは難しい。
だから魔術の特訓に関しては個人に任せる方針なのだろう。
プロラは指で三の数字を作り説明を始める。
「皆さんもご存知かと思いますが、武術を習得するには『心・技・体』の三つの要素が大事になってきます」
『心』は気配察知や集中力、『技』は組み手における攻防の構え、『体』は体の強化作り。
これらの内容は事前に伝わっている為、全員理解している様子。
「今回はその三つの要素を一つずつに分けた特訓を行いと思います」
つまり、『心』、『技』、『体』それぞれに効果的な訓練方法を行うという事。
「特訓の内容はそのまま試験に直結するから良く聞くように」
プロラが提示した特訓内容と試験は以下の通りだ。
『心』……ゴム弾銃を目隠しでキャッチする。
『技』……二人一組で実際に組み手を行い、動きを見る。
『体』……筋力トレーニングを行い木を一本凹ませる。
ざっくりとした内容ではあるものの、細かな内容までは分からないのが気になる所だ。
「百聞は一見にしかず。先ずは私がお手本を見せるわ。––––––カリン」
「は~い」
気が抜けるような返事をした後、いつの間にか銃を手にし始めるカリン。
どうやらカリンは気まぐれなんかで訪れたのではなく、手伝いの為に来てくれたようだ。
ゴム銃弾というのもカリンの銃を指していたのだろう。
プロラは目隠しをして立ち尽くす。
そこから十メートルほど離れた位置にカリンは立ち、プロラに銃を向ける。
という事は、先ずは『心』のお手本か。
場は緊張の静寂に包まれる。
「………………………………………………………………………………」
目隠しをしている相手に銃を向ける二人の姿に固唾を飲む。
隣のアリルもどこか落ち着かない表情で見守っていた。
ゴム銃弾だと事前に聞かせられているとはいえ、銃を人に向けるという光景はどうしてもソワソワしてしまう。
アリルの場合、その対象が姉なのだから尚更だ。
カリンの鋭い目つきはプロラを本気で当てようとしているのが伝わる。
直ぐに撃たないのは気が緩んだタイミングを見計らっている為か。
カリンは引き金に指を添え、いつでも発射出来る準備は出来ていた。
そしてここだ! と思ったのか、カリンは引き金を引いた。
パンッ––––––。
ゴム銃弾とはいえ、弾のスピードは銃を撃った時と変わらぬ速さであった。
普通の人であれば、反応出来ずに撃ち抜かれる事間違い無し。
それでもプロラは––––––。
––––––パシっ。
……見事に、鷲掴みしてキャッチした。
「くぅっ!」
それからカリンはあっさりとキャッチされた事に対して躍起になったのか、ゴム銃弾を何発も発泡し始める。
が、プロラの凄い所は目隠しをしているにもかかわらず、擦りもせずに躱し、時にはキャッチするという離れ技を披露する。
俺達傍観者は感激の声をあげて盛り上がる。
カリンはこれ以上自分が惨めになるだけと思ったのか、発砲するのをやめた。
そしてプロラが目隠しを外し、俺達の方へと向き合った。
「ちょっと芸が過ぎたけど、あそこまで出来る必要はありません。最初に見せたキャッチをする所、あれを出来るまでひたすらやってもらいます」
続いて『技』。
これは二人一組で組み手を行うと言っていた。
これもお手本として見せる為に、プロラとカリンのペアが披露する事に。
「ここでは特に細かく説明するつもりはありません。相手の動きを見極め、それに対応した動きをする。それだけです」
プロラとカリンは最初に構えた後、素早い動きで組み手を交える。
つまりは実践を繰り返し、動きに慣れるというのが狙いだろう。
相手が隙を見せればそこを突き、攻撃をされたら上手く防御し、カウンターを試みる。
こういうのは『型』という基本の形がありそうなものだが、そこは人によって得意不得意がある為か、本人の動きに任せる方針らしい。
とりあえずは相手の動きに対し、柔軟な対応をする。
それが客観的に見て対応出来ていれば大丈夫という事。
プロラとカリンの動きは側から見てもプロ顔負けの素早い動きだった。
プロラが拳を向けてくればカリンはそれを払い、すかさずカウンターを決めとうとする。
それをまたプロラがぐるりと体を回転させ躱し、カウンターを決めようとしてきた腕を掴んだまま固め技を決めた。
「いだだだだだだだッッ! ギブ! ギブぅぅぅ!!」
どちらの動きも見惚れてしまう程キレのある動きだったが、プロラの方が一枚上手だったようだ。
「ま、ここまで相手を痛めつける必要は無いわ。動きが出来ていればそれで大丈夫だから」
「ギブだってばあああああああああ!」
中々解放してやらないプロラを見て、ちょっと怖い印象を持った俺達であった。
最後に『体』。
予め設定された筋力トレーニングを行い、木を一本凹ませるというもの。
「これは至ってシンプル。自分の力だけで木を一本だけ凹ませればいいだけ」
簡単そうに言い出し、プロラは軸足を出して踏み締め、腕を引いた後勢い良く木に向かって拳を放つ。
––––––ズンッ。
重い衝撃音と共に木が半分程凹んだ。
「へ、凹んだあああ!?」
「今回は合格基準を見せる為に加減をしたけど、本気を出せば––––––」
プロラはもう一本の木に拳を放った。
––––––バキッ。
木がぽっきりと折れた。
「お、折れたあああああああああ!?」
「何も驚く事ではありません。鍛錬を積めばこのぐらいは誰であろうと可能です。実際問題、この世界にはこのぐらいの猛者はいくらでもいます。だからこそ最低限ここで力を身につけてから任務に行く必要があるのです」
聖族からすればこのような芸当は朝飯前である事だろう。
なんせ元々は一族伝統の武術なのだから。
それ以外の人にとって聖族並みに鍛錬は愚か、そもそも一度も鍛錬をした事がない人だっているはず。
そういう人にとっては特に厳しい特訓になるだろうな。
「では試しにこれを一人ずつやって頂けます。別に出来なくても問題はありません。皆さん一人一人が現在、どの領域にいるのかを確かめるのが目的でありますので。では最初は……アリル。あなたからやって貰える?」
「は、はい!」
プロラに呼ばれ、木の前に立つアリル。
姉の前だからか、顔の表情は固めだ。
アリルはプロラと同じ動きで、拳を引く。
「はあっ!」
放たれた拳は見事に木の半分程まで食い込む事に成功。
「おぉ!」
「すげぇ!」
一人目にして見事成し遂げたアリルの姿は多くの人達から尊敬の念を抱かれた事だろう。
流石は聖族としか言いようがない。
「うん。アリルは武術の方は大丈夫そうね」
そう言い、タブレットを操作するプロラ。
どうやらタブレットに記録をしているようだ。
それから次々と他の人が挑戦していくが誰もアリルのような結果を出せなかった。
実際にやってみると。
「いっっっだああああああああい!!」
一人の少女が見よう見まねでアリルの動きを真似して拳を放ってみたが、ゴンっという鈍い音が響いただけで、自分の拳だけが悲鳴を上げる結果となる。
これは少女だけではなく、他のみんなもそうだった。
中にはある程度まで凹む事が出来る人もいたが、半分までは到達しない。
その人というのは先程辞退する件の時に頼もしい一声をあげた、イケメンのお兄さん系と癒しのお姉さん系だった。
「じゃあ最後、カイ」
「はい!」
木の前に立ち、拳を構える。
一度深呼吸をして心を落ち着かせた後、俺は拳を放った。
ドゴンっ––––––バキッ––––––バキッ––––––バキッ––––––バキッ––––––バキッ。
俺は目の前の木一本のみならず、その先に並んでいた木も巻き込んで折ってしまう。
拳から放たれた衝撃波で、ついやりすぎてしまったようだ。
いや俺は悪くない。だって、そんな注意されてないもんっ。
「「「…………」」」
無残に木々が倒れていくなか周りはポカーンと呆けており、なんだか気まずそうな雰囲気が漂う。
「す、すみません! やりすぎ、ちゃいましたか?」
「い、いえ。問題はありません」
そう言われ、ホッとする俺。
やたら視線が痛い事に気付くが、気付いていないフリ作戦でスルーする。
しかし、耳だけはどうしてもシャットダウン出来ないので、俺の事を称賛してくれたり、不気味に感じている人の声は聞こえてしまう。
「よし、とりあえず今のみなさんの現状は把握出来ました。ここからは午後五時までひたすらこの特訓を一ヶ月間、みっちりと行いたいと思います。明日からは午前九時にこの場所に集合するように。それから特訓が終わるまでは食事は摂らないようにして下さいね」
「え、どうしてですか?」
「この場所が嘔吐物で溢れるからです」
「スパルタ!?」
特訓は午前九時から午後五時までを一ヶ月間行い、食事は夕食以外摂るのを禁止となる。
脱水症状に気を付ける為にも唯一水分補給だけが許される。
ブーブー文句を言う人もいれば、敢えて自分をやる気に満ちさせて気持ちを誤魔化そうとする人もいた。
––––––。
––––––。
––––––。
結局この特訓を一発で合格出来た人は俺とアリルだけだった。
「カリン、少しの間この場はお願いしますね」
「あ~いよっ」
「ではアリル、カイはこちらへ。二人はこれから任務受付へと向かいたいと思います」
試練を合格した為か、プロラは俺達を連れてアイリス防衛隊の城内へと連れて行く。
進んでいった先に見えたのは『任務受付』と書かれた部屋だった。
プロラは自身の会員証をセキュリティにタッチし、部屋へと踏み入れる。
部屋の中はお世辞にも綺麗とは言えない程書類やファイルなどが散らかっていて、周りにある多数の本棚の中にはファイルがぎっしりと詰まっていた。
「あ、プロラさん。こんにちは」
受付人と思われる丸眼鏡を装着した女性が挨拶をする。
「こんにちは、レーセ。今、大丈夫かしら?」
「ええ、大丈夫ですよ。丁度一段落終えた所でしたから」
レーセという女性が使用している机の上にはパソコンが一台と大量の書類が積み重なっていた。
机が彼女の分しか無いことから、ここの受付人は彼女一人で担っている事が予想付く。
「プロラさんがここに来るなんて珍しいですね」
「ええ。ちょっと任務の受付をしに」
「任務って、プロラさんが?」
「いえ、私ではなくこちらのお二人です」
プロラが俺達を手招く。
「まぁ、アリルちゃん! 大きくなったね!」
「はい、お久しぶりですね、レーセさん。今日から防衛隊として活動する事になりました。よろしくお願い致します」
アリルが会釈し終えた所で俺も続けた。
「同じく、防衛隊として活動する事になりました、名前をカイって言います」
「カイ……。ああ、闘技場で凄かった人ね!」
レーセは目をキラキラしながら見つめてくる。
「凄かった、ですか?」
「うんうん! あれだけのバリアを張れるなんて、君、相当な魔力を持ってるって事でしょ!? あそこに居た人達、みんな驚いていたんだから!」
それは試合後の事だろうか。
試合中は観客達の声を気にしていなかった為、とりあえずお礼を言う事に。
「ありがとうございます」
「うんうん! 期待しているよ! あ、もちろんアリルちゃんもね!」
レーセはアリルにも激励の言葉を向ける。
というか最初から気になってはいたが、ちゃん付けって事は……。
「もしかして、二人は知り合いなんですか」
「んー、知り合いっていうか、アリルちゃんは小さい頃からアロン様と良くここに遊びに来てくれたから、どちらかというと親戚の関係って感じかな?」
「アリルはお父様の事が大好きで離れなかったものね」
「んもぉ! 姉さんからかわないでくださいよ!」
俺は目が点になる。
アリルとプロラは姉妹。アロンはアリルのお父さん。それってつまり……。
「もしかして、三人は家族だったのか!?」
一瞬、レーセが私は違うよと言い掛けそうになったが、話の内容から察してくれた。
「ええ、そうです。私とアリルとアロン様は血の繋がった家族です」
「ええええっ!?」
「カイ君、そんなに驚く事ですか?」
「いやだって、そりゃあ……」
アロンはこの国の王だし、プロラは指導する程の実力だろうし、入隊試験の相手がその娘だったなんて、そんなの驚かない方がおかしい。
「じゃあ、お母さんもどこかに?」
「「「…………」」」
一斉に黙り込んでしまう三人。
俺はこの時、失言だったと思った。
話の流れでつい聞いてしまった自分が悔やまれる。
「お母様はもう……亡くなっています」
「…………そう、だったのか。ごめん、変な事を聞いちゃって」
「いえ。カイ君が気に病む必要はありません。私達の内情を知らないのですから。それに、この質問にはもう慣れていますので」
少しだけ気を遣わせてしまった俺。
アリル曰く、このような質問がされる事はこれまでに何回も経験済みのようだ。
確かに、お父さんが王という凄い肩書きを持っているのだから、流れでお母さんの事を聞いてしまうのはあるかもしれないな。
今回の俺のように。
それでも思い出したくもないであろう、哀しい出来事を掘り返してしまった事には大いに反省した。
重くなりつつあった場の空気を誤魔化すように、レーセは自然と話題を変えた。
「ところでプロラさん。二人に任務をと言っていましたが、一体どんな任務を?」
「アロン様から二人には『Bランク任務』をやらせるよう命じられまして。とはいえまだ入隊したばかり。その中でも手頃そうな任務はありますか?」
任務受付に向かった時点で何となく察してはいたが、まさか本当に任務の受付をするとは。
「ちょっと確認してみますね」
そう言うと、レーセはパソコンでカタカタとキーボードの音を鳴らしながら操作する。
「…………そうですね。調べたところ、手頃そうなのはこちらになりますかね」
レーセがパソコンの画面をこちらに見せてくる。
その画面には難易度を示すBの文字と報酬金、依頼場所、その内容が書かれていた。
以下がその内容だ。
〈難易度〉Bランク
〈報酬金〉20万円
〈場所〉コルド王国。
〈内容〉コルド王国内で金銭物の盗難が多発している為、犯人の捕獲に協力して欲しい。
簡潔に記載されている内容を見て直ぐに理解する。
任務の内容は窃盗犯の確保。
内容だけ見れば難易度はそこまで高そうには感じられず、これだったら俺達新人でも達成出来そうな気がした。
「ですがこの任務……ちょっと不安な部分もあります」
「不安?」
「はい。この任務、これまで三十六名の方が任務で向かったきり、一度も帰還されていないのです。恐らく監禁されているか、もしくは」
「––––––殺されている、という事ですね?」
「……はい」
何とも気味が悪い話だ。
窃盗犯を捕獲するだけの内容でそこまでの異常な事態に遭遇するだろうか。
しかもこれはBランク任務。この任務を受ける事が出来るのはBランク以上の聖魔術師だけだ。
アリルがBランクである事から、この任務を受けたのは少なくともアリルぐらいの実力者以上である事は間違いない。
そんな人達でさえ手こずるこの任務は、どうやら一筋縄ではいかない『何か』が潜んでいるに違いない。
「なるほど。二人はどうする? この任務を受けるかはあなた達が判断してください」
任務に向かうのは俺達になる為、責任と覚悟を持って自主的に決めろという事なのだろう。
人の命が関わる任務である以上、プロラが勝手に決めていい話ではない。
隣でアリルが悩んでいる中、俺は先に返事をする。
「俺はその任務、やらせてください」
「!」
「防衛隊に入る前から、俺はどんな過酷な任務であろうと受けるって決めていますので」
心の中で思っていた本音を言葉にしたおかげで、体の緊張が抜けたような感覚に陥った。
敢えて『俺は』と言ったのは、アリルが受けたくないとなれば俺一人でも行ってやろうという決意の表れだ。
俺の言葉を聞いて周りの三人が驚きの顔をしている。
「アリル、あなたはどうするの? 別にこれは強制じゃない。もし断りたいのなら断ってもかまわないわ」
「……私もやります。やらせてください!」
一瞬だけ迷う素振りもあったが、アリル自身覚悟を決める事が出来たようだ。
そのキリッとした目つきにはそう書いてあった。
「……分かりました。この任務、受理致します」
レーセはそう言うとパソコンでカタカタといじりだし、防衛隊の会員証を提示するよう申し出た。
「よしっ、これで任務の登録は完了しました。こちら会員証、お返ししますね」
レーセから会員証を受け取る。
どうやら俺達の会員証に書いてある会員番号を入力していたようだ。
今後はこういう流れで任務を受けるようだな。思った以上に簡単だった。
「それでは明日午前十一時に船の手配を済ませますので、その時間に近くの港に集合するようお願いします」
どうやらコルド王国までは船を使って向かうらしい。
言われてみればこうやって他国まで任務で向かう事があるのだから当然と言えば当然か。
今後場所によっては電車や飛行機などの交通機関も利用する事は大いにありそうだ。
「「分かりました」」
「では以上で任務の受付は終了です。プロラさん、他にも何かありますか?」
「いえ。私に課せられたのはこの件だけですので」
「そうでしたか。ではお二人とも、明日は船旅とはいえコルド王国までは六時間程掛かります。必要な荷物を準備し、明日に備えてゆっくりと休んで下さいね」
「「はい!」」
「では二人とも、今日はこれで解散して頂いてかまいません。残りの時間は自室で過ごすなり、外に出掛けて必要な買い出しをするなど、好きに過ごしてもらって結構ですので」
「「分かりました」」
二人に頭を下げた後、俺とアリルは部屋を退出し、寮へと向かった。
その後、俺とアリルの姿が見えなくなった所で、部屋に残っているプロラとセーラは話だす。
「本当に良かったの? プロラさん」
「何がですか?」
「二人を任務に行かせた事。いいの? 大事な妹なのに」
「そうね。かけがえのない大事な家族の一人だから心配な部分もあるわ。でも、心の何処かでは安心している自分もいる」
気持ちが矛盾している事には気付いている。その要因が––––––。
「カイさん。さっきの男前の人がいるからですね?」
私は無言で頷く。
「プロラさんがそこまで買っているなんて、相当な実力の持ち主なのですね」
「私だけじゃないわ。お父様だってそう。今回初めてにして二人にBランク任務をやらせたのも彼がいるからよ。アリル一人だったら荷が重過ぎて頼んだりはしなかった」
「でもそうだね。彼の実力は底知れないかもしれないね。あの時のバリア……あれ程の規模を実現させるには相当な魔力が必要になるし。何より彼は、まだ余力を残しているように見えた」
「ええ。けどそれだけじゃないわ。魔術だけではなく、武術においても申し分なかった。アリルはまだまだ実力不足とはいえ、武術においては目立つ程問題点があるわけじゃない。それをいとも簡単にねじ伏せる彼の実力は未知数だわ……」
「アリルちゃんとの試合の時、最後は罠にはまった彼が負けるかと思いましたけどね」
「あの時、彼は最初から罠が仕掛けられている事に気付いていたわ。試合中何度か地面を気にしていたから。アリルは戦略を練っていたせいで気づかなかったようだけど」
レーセがオーバーリアクションで驚きの素振りを見せる。
「ええっ!? そうだったんですか! じゃあ何でわざわざ罠にはまったんですかね?」
「これは私の見解だけど、彼は『試したかった』んじゃないかと思う。自分の力がどこまで通用するのか。その証拠に、彼は一度もアリルを倒そうとはしなかった」
レーセが試合の様子を思い出し、ハッとなる。
「……言われてみれば、彼一度も襲うような行動はしなかったですね」
「逆に言えば、彼が本気で戦ったのならアリルは瞬殺されていたかもね」
「どっひえええええ!? しゅ、瞬殺!? ア、アリルちゃんが!?」
レーセからすればアリルの実力はかなりのものだと信じ込んでいる。
そんなアリルを瞬殺出来る程の相手が現れたのだから驚くのも無理はない。
「アリルは今回の入隊試験でBランク。それもギリギリのBランクってとこかしら。それに対し彼はエラーと表示されたの。これってどういう意味だと思う?」
「えっ、エラーですか? 何ですかそれ? どういう意味ですか?」
レーセは役職上、入隊試験の結果に触れる事はないので良く理解出来ていない様子。
「AIでさえ彼の実力を分析しきれなかったって事よ。これだけで彼がいかに驚異的な存在であるか分かるでしょ?」
誤解されぬよう、決してAIの故障なんかでは無い事も伝えた。
「ちょ、ちょっと待って! 確かプロラさんは入隊試験の時、評価はAランクだったわよね?」
「ええ。そうよ」
「それってつまりさ……プロラさんより強いって事?」
「……どうでしょう。こればかりは手合わせしてみないと分からないわね。でも可能性としてはあるでしょうね」
「う、うわぁ……。今年はとんでもない人が入ってきましたね。そうだとしたら既に『三皇』レベルという事ですよ!?」
三皇とは次期栄王に最も近い存在の人に与えられる称号。
栄王の右腕として護衛に付き添う場合もある屈指の実力者だ。
因みにプロラはその一人。
それ程の実力者が新人として現れたら脅威以外の何者でもない。
不審がられるのも納得だ。
レーセはまたもや先程以上にオーバーリアクションをして椅子ごと後ろに倒れそうになるが何とか踏みとどまる。
「とりあえず良かったと思う事は味方陣という事ね。あんな未知数な人が相手だったらそれこそアイリスの脅威的存在になる」
「た、確かに……!」
レーセは胸に手を当て安心した様子を見せる。
「まぁいずれ、『私の剣』が彼に通用するのか……それは試したいものね」
自身の掌に鋭い目つきを向けているプロラを見て、レーセはゴクリと唾を飲み込んだ。
昨日に続いて、晴天の青空が迎えてくれた。
闘技場入り口前には入隊試験を突破した者達が大勢集まっており、試験を突破した自分に気が高まっているのか無駄にテンションが高く、隣の人と話をしたりして賑やかで絶えないでいる。
そんな騒然とする中、俺達の前に不気味な笑みを浮かべながら一人の金髪少女が現れた。
その響き渡る声に、集まっていた者達は一斉に少女の方へと向く。
「やぁやぁ皆さん! 元気にしてる―?」
元気に明るく笑顔で登場してきた謎の少女。
髪はツインテールに仕上げており、身長はお世辞でも大きいとは言えない程まさに幼い少女だった。
真紅色に染まったその瞳からただならぬ威圧さも感じる。
「ふーん。今年も結構いるのねー。これだけ防衛隊希望者がいる事にカリンちゃん、嬉しいぞっ☆」
語尾に合わせてウィンクと横ピースを決めてくるこのカリンっていう少女はアイドルか何か? と思ってしまう程癒されるというか、守ってあげたくなるような可愛さがそこには溢れていた。
「じゃあ早速、みんなの入隊祝いを込めて––––––」
カリンの表情が一変する。
「死んでください♡」
気付いた時には遅かった。
カリンを覗く、この場にいる全員を囲むように、数えきれない程の『銃』が出現し向けられていたのだ。
「ぶ、武神!? いつの間に!?」
「もう遅いよ。––––––バイバーイ♡」
何百、何千もの銃が一斉に発砲された。
しかし––––––。
––––––ぼよ~ん。
銃が発砲されると、それに似合わない間抜けな音が響く。
「おぉ! 良く反応したね。『これ』を防いだのは今まで誰もいなかったのに」
「……」
俺はこの場に立った時、妙な違和感を察知したので武神を予め装着し、ポケットに手を突っ込んでいた。
後は相手の攻撃に合わせ瞬時に絶対防御を発動し、みんなをバリアによって銃弾を防いだというわけだ。
ぼよ~んと響いたのは銃弾がバリアに跳ね返された事によるもの。
誰かに当たったわけではない。
とはいえ、当たってもきっと無傷であった事だろう。
発砲されたのは良く見る金属製による物ではなく、それに見せかけたゴム製の物だったのだから。
「安心してよ。今のはちょっとしたサプライズだからさ。本気で殺そうなんて欠片も思ってない。どう? 驚いた!?」
その問いに誰も答えないでいる。
それは呆れだとか、怒りだとか、そんな単純なものではない。
––––––本気で死を予感した。そんな恐怖によるもの。
それは見方を変えれば驚きによるものでもある為、この場にいた人達は驚いているといっても過言ではない。
そんな恐怖と驚きに感情が支配されているのを見て、カリンという少女は満足気だ。
チラッと俺の方を見て不服な一面も見せたが、直ぐに視線は逸らされる。
そんなカリンの元に、背後からもう一人女性が現れる。
「こらっ」
「イッッッたあぁぁ~~!」
ゴンッとゲンコツを頭に喰らうカリン。
そして、ゲンコツを与えたそのもう一人の女性はアリルの姉、プロラだった。
カリンは膨れ上がったタンコブを抑えながら涙目に訴えの声をかける。
「ちょっと、プロラ! イッタイでしょ! 何すんのよっ!」
「それはこっちのセリフよ。あなたこそ、折角の新人に向かって何物騒な事しているの?」
「それはっ……気合を入れてやろうと」
プロラは落ちていたゴム製の銃弾を拾い上げる。
「そう。まぁ、やり方は酷いけど見せしめとしては効果あったかもね」
不服そうにしていたカリンもちょっとだけ嬉しそうになる。
だがプロラは蹲っていたカリンを半強制的に立ち上がらせ、無理やり頭を下げさせた。
「皆さん、こちらの者が無礼を失礼致しました。この者にはそれなりの罰を与えたいと思いますので、そちらでどうかご勘弁をお願いします」
「えぇ~! なんで罰なんか––––––いだっ!」
二発目のゲンコツを喰らった事により、カリンは悶絶しながら黙り込む。
それを機にプロラは話を切り出した。
「まずは皆さん。入隊の程、おめでとうございます。今日からあなた達は晴れて防衛隊の一員です。いち早く馴染んでもらう為にも、本日は城内のご紹介と特訓の時間を設けてありますので、何卒よろしくお願い致します」
(特訓……?)
入隊した初日から特訓をする事を明言したプロラ。
『特訓』という言葉を聞いて疑問に思う人も少なくなかった。
しかし、治安を守る防衛隊として活動する以上、己の鍛錬は避けられない。
それはみんな心の底では理解しているのだと思うから聞かないのだろう。
だから俺にとっても特訓というのは前向きに捉えられた。
それはアリルにとっても同じ事だと思う。
「では、先ずは簡単に城内を紹介していきたいと思いますので、私に付いて来てください」
俺達は黙ってプロラの後に付いて行った。
蹲っているカリンを置いて。
★
防衛隊の敷地は呆気を取られてしまう程広く、歩きまわったり触れてみたりなどした結果、終わるまで計二時間強もかかってしまった。
紹介された場所で、特に生活面や活動面で大事になってくるのは以下の通りだった。
・寮……城内に備え付けられた個人寮。防衛隊の一員に一人一部屋与えられ、防衛隊の一員である以上、寮で過ごす事を強いられる。
・会員証……防衛隊である事を証明するカード。寮の部屋の鍵としての役割も持つ。
・食堂……防衛隊の者であれば誰でも利用可能な食券形式の食堂。自費ではあるが美味しい料理が食べられる。ただし、土日祝日は休み。
・ラウンジ……同期の者達と共有して利用する事が出来る、くつろぎの広間。
キッチンや冷蔵庫、テーブルにソファといった置き型家電も置いてある。
自分達で用意した材料を用いて食事を済ませる事も可能。
・任務受付……任務の手続きを行う場所。任務は難易度の高い順にS~Dランクと分けられており、防衛隊は自身のランクに合った任務をここで受付し活動を行う。任務はAランクの者以上を除く、単独の行動は原則禁止。手続きには会員証が必要。
・報酬金……依頼を成功した際に得られる報酬金。報酬金額は依頼内容に記載されてある。
以上の事が防衛隊として基本となる内容だ。
これだけ充実した機能を備えている寮生活。
ここに住めば衣食住は担保されている為、安心した生活が送れる事だろう。
同期と集まる事が出来るラウンジを用意してあるのは仲間との交流を深める為に用意されたのだと思う。
任務の話から世間話、なんだっていい。
孤独の生活を続けるよりも、誰かと会話をしていた方が心の健康にも繋がる。
そういった精神面の配慮までされているのはとてもありがたい事だと思う。
防衛隊だって人間だ。いつか、どこかで、辛い想いや悲しい想いに遭遇してしまう事だってあるだろう。
そうなった時に、俺達がその人の支えになれたらなと思う。
何よりも、そんな日が訪れない事を願うばかりだが。
★
午後0時。
見学が終わった後は『特訓』だと言っていた為、俺達はプロラに続いて外に出る事に。
城外を歩いて十分ほど経った頃だろうか、多くの木がそびえ立つ場所に連れてこられた。
「では最初に伝えた通り、ここで特訓を始めたいと思います」
どうやらここで特訓をするらしい。
ここで何をしようというのか皆目検討もつかない同期の人達は困惑の様子。
「皆さんもご存知かと思いますが、第二次聖魔戦争によってこの世界では武術と魔術の両方が誰にでも習得可能な極めて混沌とした世界になってしまっています」
本来であれば武術も魔術も一族だけが知り得る特権みたいな扱いであったのだが、第一次聖魔戦争後、人々は争いに対して自己防衛出来るようにと一族の特権である事を改め、人々が平等に力を得られるようにその情報を開示した。
それにより、力の根元である武術と魔術を人々は得られるようになる。
そして力を持っていなかった人達は未知の力を得られるようになってしまった自分に高揚感を覚え始め、力に対して傲慢になりつつあった。
そこから人々の理性は変わっていってしまった。
争いも、犯罪も、権力も……全ては『力』が絶対なのだと、そう認識するようになってしまう。
まるで力に洗脳されてしまったかのように……。
「第二次聖魔戦争はその名の通り、聖族と魔族の『二度目』の争いが起因となった戦争……。そこに巻き込まれた関係の無い人々も力を使って対抗して来た。––––––結果的に、第一次聖魔戦争よりも大きな被害をもたらしてしまった事は、決して忘れてはならない」
第二次聖魔戦争に巻き込まれた人々は決して少なくはない。
きっと、ここにいる人達の中にもいるはず。
それがきっかけで防衛隊に入ると決意をした人もいるんじゃないだろうか。
俺はその一人だ。
「各地では未だに力を利用して人々の生活を脅かせている者もいます。二度と、いえ……三度目の戦争を起こさない為に結成されたのが私達『防衛隊』です」
プロラの雰囲気が険しいものへと変わる。
「これからする特訓は、『最低限』防衛隊として活動するのに必要な技量まで高める為のものです。この試練を始めて突破した者こそが––––––真の防衛隊になります。あなた達に、それを成し遂げようとする覚悟は出来ておりますか?」
プロラが試すように問いかける。
人々を守る為にどんな困難が待っていようと、そこから逃げず、立ち向かい、成し遂げようとする覚悟は出来ているか。
この場に張り詰めた緊張の空気が漂い、誰も声を発さない。
聞こえるのは風に揺れて踊る木の葉の音のみ。
「これからする特訓は『出来るまで』続けてもらう事になります。それが出来るまでは任務に行かせる事は出来ません。最初の一ヶ月間は私も付き合いますが、それ以降は自主練として続けてもらい、合否の判定を見てもらいたい場合のみ付き合いますのでその点をご了承下さいね」
どんな特訓をするのか聞かされていないうえに、『合否』という試験の匂いを漂わせるニュアンスに固唾を飲んでしまう。
プロラが一ヶ月間も付き合う謎の特訓。きっと一筋縄ではいかないスパルタな内容である事が予想付く。
でなければ、これ程の威圧感を出すはずがない。
ハッタリをかましている可能性も考えられるが、それは無いだろう。
仮に誰でも簡単に成し遂げてしまう特訓など、やるに値しないと思うからだ。
それに、そんな甘い特訓では成長は見受けられないだろうし、とても人々を救えるとは思えない。
任務に行かせないというのも、それなりの実力を付けてからじゃないと命の危険にも及ぶからだろう。
これは脅しとかではなく、俺達の事を想っての言葉だ。
それだけ任務は自分達が想像している以上に危険が伴うのだろう。
敵の中には武術や魔術も使ってくる者もいる。
最悪、『死』も覚悟しなければならない時だってあるはずだ。
「因みにこれは強制じゃありません。この話を聞いて、防衛隊として活動する事を取り消したい場合は私に名乗りあげてください。上の者にその旨を伝え、辞退の手続きをさせます」
つまりは、覚悟が決められない人はここで辞退しろという事だ。
だがここに集まっている者は皆入隊希望者であり、入隊試験を突破した人達。
自ら辞退をするという決断はしないと思うのだが……。
「……あの、俺…………辞退します」
一人の男性が弱々しく手を上げ、辞退宣言をした。
その姿に全員は驚きを隠せないでいる。
すると、その男の流れに乗ろうと、次々と辞退宣言をする人達が現れ始めた。
「わ、私も……っ!」
「ぼ、僕もだっ!」
それはもう、面白いぐらい便乗するように……。
三百人程いたメンバーであったが、最終的に百人程まで減ってしまった。
なんと半分以上の者が自ら辞退する形を取ったのだ。
プロラの言葉に気圧されてしまったのだろう。
何となく口では防衛隊に入りたいと思ってみても、いざそういう窮地に立たせられると、本当の気持ちに気付く事だってある。
自分の覚悟は、その程度だったのだと……。
心の底では、甘く見ていた部分もあったのかもしれない。
防衛隊として活動するという事は、死を覚悟するのと同じ。
誰だって、死を目の前にしたら怖がるに決まっている。
わざわざ、自ら死の道へ進んでまでリスクを負う必要は無いのだ。
死にたくないのは誰だって同じ。
だからそれを、誰も止める事は出来ない。
「あーあ。結局ここまで減っちゃったか~」
背後から聞き覚えのある少女の声が。
振り返ってみると、カリンがこちらに向かって歩いて来ていた。
「まっ、どうせ更に減るんだろうけどさ」
「カリン、不謹慎な事を言わないの!」
「ウチは事実を述べているだけだよ。実際、これまで何人の人達が死んだと思ってるの? 中には任務に行ったきり戻って来ない人だっているらしいじゃない」
「っ……」
「ウチがさっき銃を向けた事はこの場で謝る。––––––でも、あれで全員が死んでいたっていう事もまた事実」
カリンが言いたいのは先程の銃の件。
あの時カリンが味方陣であったから殺されずに済んだものの、あれが任務中で敵陣の罠だったらあの場にいた全員は殺されていたという事。
「まぁ結果的にそこのカイって奴に守られたけど。そんな風にいつまでも守られているようじゃ、この世界で生き抜いていくにはちょいと厳しいだろうね」
カリンは脅しや嫌味で言っているわけじゃない。
これまでの経験からそう忠告してくれているんだ。
守られる事が駄目と言っているわけじゃない。守られっぱなしのままでは生き抜いていけないという事。
「俺はやるぜ」
圧迫した空気の中、それを感じさせない爽やか口調のイケメン男性が声をあげる。
やや長めの茶髪をおでこの前で分けているその男性は頼れる雰囲気を持つお兄さん系だった。
「防衛隊ってのはそういうもんだろ。俺はとっくに覚悟は出来ているぜ?」
多くの人が萎縮している中、そういった強気な発言は魅力的に感じるものだ。
見た目だけではなく、性格までもイケメンとか男の憧れる存在であろう。
実際何人かの女子達も頬を朱色に染め、既に惚れているかの様子だ。
「私もやるよー!」
イケメンの男性に続き、カリンとはまた違った元気いっぱいな声をあげる美少女。
薄桃色の髪は前髪と後ろ髪を垂らし、頭の片方には一つ縛りで括っている。
スタイルも抜群で胸もDかEぐらいはある。
モデルだと勘違いされてもおかしくないその女性は頼りになりそうな一面もあるが、どこかお茶目な雰囲気も感じられるお姉さん系だった。
二人の男女が性別別に代表で誓ったかのように言うと、その意志に続くように他の人達も強い意志を見せた。
「……ふーん。ま、いいんじゃない? 今年はそれなりに残った方だしね」
残った方、という事は、普段はこれよりも少ない人数しか残らないという事か。
「残った人数は然程重要じゃない。ここから人数を減らさない事が重要よ」
それはつまり、先程言っていた任務での死者や行方不明による事を指しているのだろう。
例え五百人のメンバーが残ったとしても、全員が死んでしまったら意味が無い。
カリンは辞退した人達の名前をタブレットに記入後、その人達を家に返した。
「さてと。ではこれより残ったメンバー達には武術の特訓を行いたいと思います。武術を習得する事は生存率をグッと高める事に繋がるからです」
特訓というのは武術の事だったか。
確かに武術は魔術と違って最も自己防衛に繋がりやすい。
魔術は体力の消耗が激しい一方で、武術は最小限に抑える事が出来る。
それに魔術の特訓を用意していたとしても、各々で武器や能力も違ってくるから統一するのは難しい。
だから魔術の特訓に関しては個人に任せる方針なのだろう。
プロラは指で三の数字を作り説明を始める。
「皆さんもご存知かと思いますが、武術を習得するには『心・技・体』の三つの要素が大事になってきます」
『心』は気配察知や集中力、『技』は組み手における攻防の構え、『体』は体の強化作り。
これらの内容は事前に伝わっている為、全員理解している様子。
「今回はその三つの要素を一つずつに分けた特訓を行いと思います」
つまり、『心』、『技』、『体』それぞれに効果的な訓練方法を行うという事。
「特訓の内容はそのまま試験に直結するから良く聞くように」
プロラが提示した特訓内容と試験は以下の通りだ。
『心』……ゴム弾銃を目隠しでキャッチする。
『技』……二人一組で実際に組み手を行い、動きを見る。
『体』……筋力トレーニングを行い木を一本凹ませる。
ざっくりとした内容ではあるものの、細かな内容までは分からないのが気になる所だ。
「百聞は一見にしかず。先ずは私がお手本を見せるわ。––––––カリン」
「は~い」
気が抜けるような返事をした後、いつの間にか銃を手にし始めるカリン。
どうやらカリンは気まぐれなんかで訪れたのではなく、手伝いの為に来てくれたようだ。
ゴム銃弾というのもカリンの銃を指していたのだろう。
プロラは目隠しをして立ち尽くす。
そこから十メートルほど離れた位置にカリンは立ち、プロラに銃を向ける。
という事は、先ずは『心』のお手本か。
場は緊張の静寂に包まれる。
「………………………………………………………………………………」
目隠しをしている相手に銃を向ける二人の姿に固唾を飲む。
隣のアリルもどこか落ち着かない表情で見守っていた。
ゴム銃弾だと事前に聞かせられているとはいえ、銃を人に向けるという光景はどうしてもソワソワしてしまう。
アリルの場合、その対象が姉なのだから尚更だ。
カリンの鋭い目つきはプロラを本気で当てようとしているのが伝わる。
直ぐに撃たないのは気が緩んだタイミングを見計らっている為か。
カリンは引き金に指を添え、いつでも発射出来る準備は出来ていた。
そしてここだ! と思ったのか、カリンは引き金を引いた。
パンッ––––––。
ゴム銃弾とはいえ、弾のスピードは銃を撃った時と変わらぬ速さであった。
普通の人であれば、反応出来ずに撃ち抜かれる事間違い無し。
それでもプロラは––––––。
––––––パシっ。
……見事に、鷲掴みしてキャッチした。
「くぅっ!」
それからカリンはあっさりとキャッチされた事に対して躍起になったのか、ゴム銃弾を何発も発泡し始める。
が、プロラの凄い所は目隠しをしているにもかかわらず、擦りもせずに躱し、時にはキャッチするという離れ技を披露する。
俺達傍観者は感激の声をあげて盛り上がる。
カリンはこれ以上自分が惨めになるだけと思ったのか、発砲するのをやめた。
そしてプロラが目隠しを外し、俺達の方へと向き合った。
「ちょっと芸が過ぎたけど、あそこまで出来る必要はありません。最初に見せたキャッチをする所、あれを出来るまでひたすらやってもらいます」
続いて『技』。
これは二人一組で組み手を行うと言っていた。
これもお手本として見せる為に、プロラとカリンのペアが披露する事に。
「ここでは特に細かく説明するつもりはありません。相手の動きを見極め、それに対応した動きをする。それだけです」
プロラとカリンは最初に構えた後、素早い動きで組み手を交える。
つまりは実践を繰り返し、動きに慣れるというのが狙いだろう。
相手が隙を見せればそこを突き、攻撃をされたら上手く防御し、カウンターを試みる。
こういうのは『型』という基本の形がありそうなものだが、そこは人によって得意不得意がある為か、本人の動きに任せる方針らしい。
とりあえずは相手の動きに対し、柔軟な対応をする。
それが客観的に見て対応出来ていれば大丈夫という事。
プロラとカリンの動きは側から見てもプロ顔負けの素早い動きだった。
プロラが拳を向けてくればカリンはそれを払い、すかさずカウンターを決めとうとする。
それをまたプロラがぐるりと体を回転させ躱し、カウンターを決めようとしてきた腕を掴んだまま固め技を決めた。
「いだだだだだだだッッ! ギブ! ギブぅぅぅ!!」
どちらの動きも見惚れてしまう程キレのある動きだったが、プロラの方が一枚上手だったようだ。
「ま、ここまで相手を痛めつける必要は無いわ。動きが出来ていればそれで大丈夫だから」
「ギブだってばあああああああああ!」
中々解放してやらないプロラを見て、ちょっと怖い印象を持った俺達であった。
最後に『体』。
予め設定された筋力トレーニングを行い、木を一本凹ませるというもの。
「これは至ってシンプル。自分の力だけで木を一本だけ凹ませればいいだけ」
簡単そうに言い出し、プロラは軸足を出して踏み締め、腕を引いた後勢い良く木に向かって拳を放つ。
––––––ズンッ。
重い衝撃音と共に木が半分程凹んだ。
「へ、凹んだあああ!?」
「今回は合格基準を見せる為に加減をしたけど、本気を出せば––––––」
プロラはもう一本の木に拳を放った。
––––––バキッ。
木がぽっきりと折れた。
「お、折れたあああああああああ!?」
「何も驚く事ではありません。鍛錬を積めばこのぐらいは誰であろうと可能です。実際問題、この世界にはこのぐらいの猛者はいくらでもいます。だからこそ最低限ここで力を身につけてから任務に行く必要があるのです」
聖族からすればこのような芸当は朝飯前である事だろう。
なんせ元々は一族伝統の武術なのだから。
それ以外の人にとって聖族並みに鍛錬は愚か、そもそも一度も鍛錬をした事がない人だっているはず。
そういう人にとっては特に厳しい特訓になるだろうな。
「では試しにこれを一人ずつやって頂けます。別に出来なくても問題はありません。皆さん一人一人が現在、どの領域にいるのかを確かめるのが目的でありますので。では最初は……アリル。あなたからやって貰える?」
「は、はい!」
プロラに呼ばれ、木の前に立つアリル。
姉の前だからか、顔の表情は固めだ。
アリルはプロラと同じ動きで、拳を引く。
「はあっ!」
放たれた拳は見事に木の半分程まで食い込む事に成功。
「おぉ!」
「すげぇ!」
一人目にして見事成し遂げたアリルの姿は多くの人達から尊敬の念を抱かれた事だろう。
流石は聖族としか言いようがない。
「うん。アリルは武術の方は大丈夫そうね」
そう言い、タブレットを操作するプロラ。
どうやらタブレットに記録をしているようだ。
それから次々と他の人が挑戦していくが誰もアリルのような結果を出せなかった。
実際にやってみると。
「いっっっだああああああああい!!」
一人の少女が見よう見まねでアリルの動きを真似して拳を放ってみたが、ゴンっという鈍い音が響いただけで、自分の拳だけが悲鳴を上げる結果となる。
これは少女だけではなく、他のみんなもそうだった。
中にはある程度まで凹む事が出来る人もいたが、半分までは到達しない。
その人というのは先程辞退する件の時に頼もしい一声をあげた、イケメンのお兄さん系と癒しのお姉さん系だった。
「じゃあ最後、カイ」
「はい!」
木の前に立ち、拳を構える。
一度深呼吸をして心を落ち着かせた後、俺は拳を放った。
ドゴンっ––––––バキッ––––––バキッ––––––バキッ––––––バキッ––––––バキッ。
俺は目の前の木一本のみならず、その先に並んでいた木も巻き込んで折ってしまう。
拳から放たれた衝撃波で、ついやりすぎてしまったようだ。
いや俺は悪くない。だって、そんな注意されてないもんっ。
「「「…………」」」
無残に木々が倒れていくなか周りはポカーンと呆けており、なんだか気まずそうな雰囲気が漂う。
「す、すみません! やりすぎ、ちゃいましたか?」
「い、いえ。問題はありません」
そう言われ、ホッとする俺。
やたら視線が痛い事に気付くが、気付いていないフリ作戦でスルーする。
しかし、耳だけはどうしてもシャットダウン出来ないので、俺の事を称賛してくれたり、不気味に感じている人の声は聞こえてしまう。
「よし、とりあえず今のみなさんの現状は把握出来ました。ここからは午後五時までひたすらこの特訓を一ヶ月間、みっちりと行いたいと思います。明日からは午前九時にこの場所に集合するように。それから特訓が終わるまでは食事は摂らないようにして下さいね」
「え、どうしてですか?」
「この場所が嘔吐物で溢れるからです」
「スパルタ!?」
特訓は午前九時から午後五時までを一ヶ月間行い、食事は夕食以外摂るのを禁止となる。
脱水症状に気を付ける為にも唯一水分補給だけが許される。
ブーブー文句を言う人もいれば、敢えて自分をやる気に満ちさせて気持ちを誤魔化そうとする人もいた。
––––––。
––––––。
––––––。
結局この特訓を一発で合格出来た人は俺とアリルだけだった。
「カリン、少しの間この場はお願いしますね」
「あ~いよっ」
「ではアリル、カイはこちらへ。二人はこれから任務受付へと向かいたいと思います」
試練を合格した為か、プロラは俺達を連れてアイリス防衛隊の城内へと連れて行く。
進んでいった先に見えたのは『任務受付』と書かれた部屋だった。
プロラは自身の会員証をセキュリティにタッチし、部屋へと踏み入れる。
部屋の中はお世辞にも綺麗とは言えない程書類やファイルなどが散らかっていて、周りにある多数の本棚の中にはファイルがぎっしりと詰まっていた。
「あ、プロラさん。こんにちは」
受付人と思われる丸眼鏡を装着した女性が挨拶をする。
「こんにちは、レーセ。今、大丈夫かしら?」
「ええ、大丈夫ですよ。丁度一段落終えた所でしたから」
レーセという女性が使用している机の上にはパソコンが一台と大量の書類が積み重なっていた。
机が彼女の分しか無いことから、ここの受付人は彼女一人で担っている事が予想付く。
「プロラさんがここに来るなんて珍しいですね」
「ええ。ちょっと任務の受付をしに」
「任務って、プロラさんが?」
「いえ、私ではなくこちらのお二人です」
プロラが俺達を手招く。
「まぁ、アリルちゃん! 大きくなったね!」
「はい、お久しぶりですね、レーセさん。今日から防衛隊として活動する事になりました。よろしくお願い致します」
アリルが会釈し終えた所で俺も続けた。
「同じく、防衛隊として活動する事になりました、名前をカイって言います」
「カイ……。ああ、闘技場で凄かった人ね!」
レーセは目をキラキラしながら見つめてくる。
「凄かった、ですか?」
「うんうん! あれだけのバリアを張れるなんて、君、相当な魔力を持ってるって事でしょ!? あそこに居た人達、みんな驚いていたんだから!」
それは試合後の事だろうか。
試合中は観客達の声を気にしていなかった為、とりあえずお礼を言う事に。
「ありがとうございます」
「うんうん! 期待しているよ! あ、もちろんアリルちゃんもね!」
レーセはアリルにも激励の言葉を向ける。
というか最初から気になってはいたが、ちゃん付けって事は……。
「もしかして、二人は知り合いなんですか」
「んー、知り合いっていうか、アリルちゃんは小さい頃からアロン様と良くここに遊びに来てくれたから、どちらかというと親戚の関係って感じかな?」
「アリルはお父様の事が大好きで離れなかったものね」
「んもぉ! 姉さんからかわないでくださいよ!」
俺は目が点になる。
アリルとプロラは姉妹。アロンはアリルのお父さん。それってつまり……。
「もしかして、三人は家族だったのか!?」
一瞬、レーセが私は違うよと言い掛けそうになったが、話の内容から察してくれた。
「ええ、そうです。私とアリルとアロン様は血の繋がった家族です」
「ええええっ!?」
「カイ君、そんなに驚く事ですか?」
「いやだって、そりゃあ……」
アロンはこの国の王だし、プロラは指導する程の実力だろうし、入隊試験の相手がその娘だったなんて、そんなの驚かない方がおかしい。
「じゃあ、お母さんもどこかに?」
「「「…………」」」
一斉に黙り込んでしまう三人。
俺はこの時、失言だったと思った。
話の流れでつい聞いてしまった自分が悔やまれる。
「お母様はもう……亡くなっています」
「…………そう、だったのか。ごめん、変な事を聞いちゃって」
「いえ。カイ君が気に病む必要はありません。私達の内情を知らないのですから。それに、この質問にはもう慣れていますので」
少しだけ気を遣わせてしまった俺。
アリル曰く、このような質問がされる事はこれまでに何回も経験済みのようだ。
確かに、お父さんが王という凄い肩書きを持っているのだから、流れでお母さんの事を聞いてしまうのはあるかもしれないな。
今回の俺のように。
それでも思い出したくもないであろう、哀しい出来事を掘り返してしまった事には大いに反省した。
重くなりつつあった場の空気を誤魔化すように、レーセは自然と話題を変えた。
「ところでプロラさん。二人に任務をと言っていましたが、一体どんな任務を?」
「アロン様から二人には『Bランク任務』をやらせるよう命じられまして。とはいえまだ入隊したばかり。その中でも手頃そうな任務はありますか?」
任務受付に向かった時点で何となく察してはいたが、まさか本当に任務の受付をするとは。
「ちょっと確認してみますね」
そう言うと、レーセはパソコンでカタカタとキーボードの音を鳴らしながら操作する。
「…………そうですね。調べたところ、手頃そうなのはこちらになりますかね」
レーセがパソコンの画面をこちらに見せてくる。
その画面には難易度を示すBの文字と報酬金、依頼場所、その内容が書かれていた。
以下がその内容だ。
〈難易度〉Bランク
〈報酬金〉20万円
〈場所〉コルド王国。
〈内容〉コルド王国内で金銭物の盗難が多発している為、犯人の捕獲に協力して欲しい。
簡潔に記載されている内容を見て直ぐに理解する。
任務の内容は窃盗犯の確保。
内容だけ見れば難易度はそこまで高そうには感じられず、これだったら俺達新人でも達成出来そうな気がした。
「ですがこの任務……ちょっと不安な部分もあります」
「不安?」
「はい。この任務、これまで三十六名の方が任務で向かったきり、一度も帰還されていないのです。恐らく監禁されているか、もしくは」
「––––––殺されている、という事ですね?」
「……はい」
何とも気味が悪い話だ。
窃盗犯を捕獲するだけの内容でそこまでの異常な事態に遭遇するだろうか。
しかもこれはBランク任務。この任務を受ける事が出来るのはBランク以上の聖魔術師だけだ。
アリルがBランクである事から、この任務を受けたのは少なくともアリルぐらいの実力者以上である事は間違いない。
そんな人達でさえ手こずるこの任務は、どうやら一筋縄ではいかない『何か』が潜んでいるに違いない。
「なるほど。二人はどうする? この任務を受けるかはあなた達が判断してください」
任務に向かうのは俺達になる為、責任と覚悟を持って自主的に決めろという事なのだろう。
人の命が関わる任務である以上、プロラが勝手に決めていい話ではない。
隣でアリルが悩んでいる中、俺は先に返事をする。
「俺はその任務、やらせてください」
「!」
「防衛隊に入る前から、俺はどんな過酷な任務であろうと受けるって決めていますので」
心の中で思っていた本音を言葉にしたおかげで、体の緊張が抜けたような感覚に陥った。
敢えて『俺は』と言ったのは、アリルが受けたくないとなれば俺一人でも行ってやろうという決意の表れだ。
俺の言葉を聞いて周りの三人が驚きの顔をしている。
「アリル、あなたはどうするの? 別にこれは強制じゃない。もし断りたいのなら断ってもかまわないわ」
「……私もやります。やらせてください!」
一瞬だけ迷う素振りもあったが、アリル自身覚悟を決める事が出来たようだ。
そのキリッとした目つきにはそう書いてあった。
「……分かりました。この任務、受理致します」
レーセはそう言うとパソコンでカタカタといじりだし、防衛隊の会員証を提示するよう申し出た。
「よしっ、これで任務の登録は完了しました。こちら会員証、お返ししますね」
レーセから会員証を受け取る。
どうやら俺達の会員証に書いてある会員番号を入力していたようだ。
今後はこういう流れで任務を受けるようだな。思った以上に簡単だった。
「それでは明日午前十一時に船の手配を済ませますので、その時間に近くの港に集合するようお願いします」
どうやらコルド王国までは船を使って向かうらしい。
言われてみればこうやって他国まで任務で向かう事があるのだから当然と言えば当然か。
今後場所によっては電車や飛行機などの交通機関も利用する事は大いにありそうだ。
「「分かりました」」
「では以上で任務の受付は終了です。プロラさん、他にも何かありますか?」
「いえ。私に課せられたのはこの件だけですので」
「そうでしたか。ではお二人とも、明日は船旅とはいえコルド王国までは六時間程掛かります。必要な荷物を準備し、明日に備えてゆっくりと休んで下さいね」
「「はい!」」
「では二人とも、今日はこれで解散して頂いてかまいません。残りの時間は自室で過ごすなり、外に出掛けて必要な買い出しをするなど、好きに過ごしてもらって結構ですので」
「「分かりました」」
二人に頭を下げた後、俺とアリルは部屋を退出し、寮へと向かった。
その後、俺とアリルの姿が見えなくなった所で、部屋に残っているプロラとセーラは話だす。
「本当に良かったの? プロラさん」
「何がですか?」
「二人を任務に行かせた事。いいの? 大事な妹なのに」
「そうね。かけがえのない大事な家族の一人だから心配な部分もあるわ。でも、心の何処かでは安心している自分もいる」
気持ちが矛盾している事には気付いている。その要因が––––––。
「カイさん。さっきの男前の人がいるからですね?」
私は無言で頷く。
「プロラさんがそこまで買っているなんて、相当な実力の持ち主なのですね」
「私だけじゃないわ。お父様だってそう。今回初めてにして二人にBランク任務をやらせたのも彼がいるからよ。アリル一人だったら荷が重過ぎて頼んだりはしなかった」
「でもそうだね。彼の実力は底知れないかもしれないね。あの時のバリア……あれ程の規模を実現させるには相当な魔力が必要になるし。何より彼は、まだ余力を残しているように見えた」
「ええ。けどそれだけじゃないわ。魔術だけではなく、武術においても申し分なかった。アリルはまだまだ実力不足とはいえ、武術においては目立つ程問題点があるわけじゃない。それをいとも簡単にねじ伏せる彼の実力は未知数だわ……」
「アリルちゃんとの試合の時、最後は罠にはまった彼が負けるかと思いましたけどね」
「あの時、彼は最初から罠が仕掛けられている事に気付いていたわ。試合中何度か地面を気にしていたから。アリルは戦略を練っていたせいで気づかなかったようだけど」
レーセがオーバーリアクションで驚きの素振りを見せる。
「ええっ!? そうだったんですか! じゃあ何でわざわざ罠にはまったんですかね?」
「これは私の見解だけど、彼は『試したかった』んじゃないかと思う。自分の力がどこまで通用するのか。その証拠に、彼は一度もアリルを倒そうとはしなかった」
レーセが試合の様子を思い出し、ハッとなる。
「……言われてみれば、彼一度も襲うような行動はしなかったですね」
「逆に言えば、彼が本気で戦ったのならアリルは瞬殺されていたかもね」
「どっひえええええ!? しゅ、瞬殺!? ア、アリルちゃんが!?」
レーセからすればアリルの実力はかなりのものだと信じ込んでいる。
そんなアリルを瞬殺出来る程の相手が現れたのだから驚くのも無理はない。
「アリルは今回の入隊試験でBランク。それもギリギリのBランクってとこかしら。それに対し彼はエラーと表示されたの。これってどういう意味だと思う?」
「えっ、エラーですか? 何ですかそれ? どういう意味ですか?」
レーセは役職上、入隊試験の結果に触れる事はないので良く理解出来ていない様子。
「AIでさえ彼の実力を分析しきれなかったって事よ。これだけで彼がいかに驚異的な存在であるか分かるでしょ?」
誤解されぬよう、決してAIの故障なんかでは無い事も伝えた。
「ちょ、ちょっと待って! 確かプロラさんは入隊試験の時、評価はAランクだったわよね?」
「ええ。そうよ」
「それってつまりさ……プロラさんより強いって事?」
「……どうでしょう。こればかりは手合わせしてみないと分からないわね。でも可能性としてはあるでしょうね」
「う、うわぁ……。今年はとんでもない人が入ってきましたね。そうだとしたら既に『三皇』レベルという事ですよ!?」
三皇とは次期栄王に最も近い存在の人に与えられる称号。
栄王の右腕として護衛に付き添う場合もある屈指の実力者だ。
因みにプロラはその一人。
それ程の実力者が新人として現れたら脅威以外の何者でもない。
不審がられるのも納得だ。
レーセはまたもや先程以上にオーバーリアクションをして椅子ごと後ろに倒れそうになるが何とか踏みとどまる。
「とりあえず良かったと思う事は味方陣という事ね。あんな未知数な人が相手だったらそれこそアイリスの脅威的存在になる」
「た、確かに……!」
レーセは胸に手を当て安心した様子を見せる。
「まぁいずれ、『私の剣』が彼に通用するのか……それは試したいものね」
自身の掌に鋭い目つきを向けているプロラを見て、レーセはゴクリと唾を飲み込んだ。
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