守護の聖魔術師

御船ノア

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第八話 新たな幕開け

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俺達は青薔薇の拠点である家の近くでアリル達が戻ってくるのを待つ。
ミラーワールドに踏み入れる事が出来ない以上、俺達はここで二人が生きて帰ってくるのを祈るだけしか出来ないでいる。

そしてようやく、その時が来た。

目の前に空間が開き始め、そこから肩を掛け合いながらふらふらの状態で帰ってきた二人の女の子。
「アリル! ミラ!」
歓喜に満ち溢れた口調で勢いよく立ち上がる。
二人とも全身傷らだけで心配な面もあるが、二人の間にはそれを感じさせない友情のようなものが芽生えているような気がして安心させられる。
「二人とも大丈夫か!?」
それでも心配の声をかけずにはいられなかったヒョウ。
「全然大丈夫だよ。アリルが傷を癒してくれたから」
「え?」
アリルとミラは微笑み合う。
それだけで俺は、いや、この場にいた全員は理解した。
二人は最終的に和解し合う事が出来たのだと。
俺やヒョウ達もさっき和解し合う事が出来たから、二人もそこまで驚く事はなかった。
二人も自分達と同じような結果に至っただけなのだから。
「そっか。なら良かった」
夕暮れの陽が俺達を照らす。時刻は午後五時を回っている事だろう。
ミラが口を開く。
「あの、みんな……その……」
「それ以上言わなくても、俺達はもう和解した。もう敵対関係じゃない」
ミラが呆気を取られる。
和解、つまりは青薔薇の事情を既に説明済みという事を指している。
ミラもアリルに同じ事をしたばかりなので、ホッとさせられる気持ちになる。
「そっか。ありがとう」
ミラの笑顔はとても明るく満足そうだ。
「なんだ、やっぱりここにいたのか」
聞き慣れていない一人のおじさんの声が響く。
剛毛な髭が特徴のそいつは––––––。
「ハーゲス……っ」
「なんだ、あの数の兵は……!」
ハーゲスの後方にはざっと百人程の鎧を纏った兵が立っていた。
剣に槍、弓といった様々な武器を持っている。
「どういうつもり……?」
「それはこっちのセリフじゃ! 貴様がワシの連絡を無視するからこうやって足を運んだんじゃろうが! この役立たずがっ!」
ミラがハッとなる。視線の先はミラ達の家。
ミラはトランシーバーが家の中に置いてあることを思い出す。
普段はハーゲスからいつ連絡が来てもいいように持ち歩いているのだが、カイ達に接触する際には不審がられないようにする為置いていったのだ。突然ハーゲスから連絡が来たらハーゲスと繋がっている事がバレる危険性もあったから。
ハーゲスは今の青薔薇と俺達の状況を見て不信に思う。
「なんじゃ貴様ら……もしかして裏切るつもりか?」
「……そ、そうよ!」
ミラは僅かに声が震えながらも、言ってやったという風に清々しい気持ちに駆られる。
「……まぁ別にいいわい。その傷、大方敗北して助けられたってところじゃろう。雑魚に用は無いわい」
ハーゲスも清々しい程にあっさりと青薔薇を切り捨てる発言を言い出す。
「でもいいんじゃな? ワシを裏切ればお前達は地獄行きじゃぞ? それとも最後にチャンスをくれてやろうか? そこのゴミ二匹を殺せ!」
「絶対に嫌っ!」
「ほぉ? そうかい。じゃ、お前達はワシを裏切った大罪人としてここで死んでもらおうか」
兵達が武器を構える。
その動きにこちらも反射的に構えようとするが、激闘の後である為、体力も魔力も殆ど残っておらず体が言う事を聞いてくれない。
「くっ」
「ガッハッハッ! どうやら抵抗する力も残っていないようじゃのお!」
ハーゲスは急に強気な態度を見せる。
それは相手が武神を使えそうにないからだろう。
このタイミングで現れたのも、これ程の数の兵達を用意してきたのは、全てここまで予想してのこと。
武神が使えなければ普通の一般人と大して変わらない。
「それなら手始めに、先ずはあれから壊そうかのお。––––––おい、準備しろ」
「はっ」
ハーゲスがそう言うと、弓を持っていた兵達が返事する。
矢を手に取り、先端に火をつけ炎を纏わせる。
それをミラ達の家に向けて構い始めたのだ。
「や、やめて……っ。それだけは––––––!」
「グッフッフ。これが貴様らの大事な物である事は知っているからな。それが燃え尽きる様をその目に焼き付けるがいいわい!」
「やめてええええええええええええッッ!!」
「射てええええええええ!!」
矢が家に向かって放たれる。
あのまま直撃すれば、ミラ達の家は一瞬にして大火事となるだろう。

キンっ––––––。

「なっ!?」
「あちッ! あちちッ!!」
矢が弾かれ、他の兵達に直撃する。
ミラ達はそれを見て、直ぐに理解する。
「カイ!」
ミラ達の家の周りにはバリアが張られている。

俺の絶対防御だ。

「おい」
「ッ!」
「それはお前達が奪っていいようなものじゃない。上に立つ人間が、そんな事も分からないのか?」
「ぐぬぬっ……。ええい黙れ! 貴様か!? この変なバリアを張ったのは!」
「そうだけど?」
「ッ! 貴様ぁ……ワシを誰だが知っておるじゃろ!」
「ハゲだっけ?」
「ハーゲスじゃわい!! もう許さん! 貴様から先に殺してやる! お前達、あいつを先に殺せ!!」
「…………」
「お前達、返事は––––––!?」
ハーゲスは無言を貫く兵達に違和感を感じて振り向く。
そこに映っているのは倒れている兵士達だった。
「はあああああああああ!?」
「悪いな。話が長くなりそうだったから先に片付けておいた」
「い、いつの間に……!?」
この時、カイの後ろで見ていたアリル達は辛うじて目で追えていた。
ハーゲス達がバリアに見惚れている間に、カイは一瞬にして敵を確実に仕留めていた事を。
もちろん殺してはおらず。急所を狙って気を失わせただけ。
相手は鎧を纏っているがそんな防具を無視してダメージを喰らっているようだった。
(カイ君。三人を相手してもまだあんなに……!)
(何者なの……カイって)
(あいつ、俺達と戦っておいてまだあんなに余力があんのかよ……)
(……なーんか、釈然としないんだけど~)
(カイ、やっぱりかっこいいの!)
速さを目で追うにはそれなりの『慣れ』が必要になるのだが、ハーゲスのような聖魔術師と一度も戦った事のない人から見れば一瞬の出来事のように感じる事だろう。
速さの感じ方はその慣れ具合によって感じ方が違ってくるのだ。
「さて、残るはお前一人だな。ハゲ」
「ひぃぃぃぃ!」
ハーゲスにとって、激闘を行った後にしてもここまで体力が残っていたのは誤算だった。
カイという存在がハーゲスの計画を狂わせたのだ。
もうハーゲスには戦う武器が無い。
「お前達の事情は全て青薔薇から聞いた。随分と酷な命令を下したものだな」
俺はハーゲスの胸ぐらを掴み上げる。
ハーゲスは苦しそうにジタバタともがくなか、俺は利き手である左手に力を込める。
「ま、待ってくれ!! 暴力だけはッッ!」
「お前達は多くの人達を苦しませた。その報いを受けるのは当然の事だ」
「や、やめっ、やめてくれええええええええええええええッッッ!!」
「この一発は、みんなの想いだ。––––––それを味わえ!」
「ぶっ––––––」
ハーゲスの顔に拳がめり込む。
ボキッと鈍い音を鳴らし、ハーゲスは殴られた勢いで吹っ飛んでいく。
ハーゲスは大量の鼻血をポタポタと地面に垂らしつつも既に意識が朦朧としていて、今すぐにでも気を失ってしまいそうだ。
そうさせないギリギリのラインまで力を調節したのはハーゲスには告げておかないといけない事があるからだ。
「がっ……ぁ……っ」
「おいハゲ。お前はこれから三十分以内に警察に自主をしてこい。これまでしてきた事を全部だ! もし出来なかった場合は……命はないと思え」
「アッ……ハイ……カイ、さま……」
ハーゲスは重たそうな体を起こし、プルプルと震えながら颯爽と消えていった。
倒れている兵達は一先ず拘束し、警察に明け渡す事にしよう。


––––––それから翌日。


ハーゲスが自主した事で警察による念入りな取り調べが行われ、結果的にハーゲスと賄賂で繋がっていた人達は全員逮捕され、無期懲役という判決を即決で下されたようだ。
国を動かすトップ層の人達が全員逮捕された事はコルド王国全員の耳に届き、近々代わりになる人の総選挙を行う事になるそうだ。
その結果を最後まで見届ける事は出来ないが、今回の一件でコルド王国は良い方向に進んでいくのではないかと思う。
青薔薇が逮捕にいたらなかったのは今回の件の救世主であるカイとアリルの活躍が大きく関わっており、そんな俺達の嘆願が今回の件に大きく影響している。


––––––コルド王国を出る前日。
お別れの前に青薔薇のみんなでバーベキューをして乾杯する。
そこには敵対関係であったのが嘘であるかのように壁という壁がなく、親密に楽しむ事が出来た。
青薔薇達による思い出話、アリルが料理を始め、最近振る舞った事、好きな異性のタイプ、互いの戦闘エピソードなど。
どれも話題が尽きず、笑いが絶えないで盛り上がった。
そんな俺達を見守るように満月が照らしてくれている。
遠いようで近く感じるその満月も、俺達と一緒に楽しんで笑っているように見えたのは……きっと気のせいなんかではない。

改めて。防衛隊と青薔薇の和解を祝って……。

「乾杯!」


     ★


コルド王国を出て、俺とアリルはアイリスに到着する。
コルド王国に向かった時とは違って、帰りを迎えてくれる者は誰もいない。
「アリル、俺この後用事があるから先に帰っててもらえるか?」
「用事、ですか。分かりました。では、先に寮に向かってますね」
「ああ。みんなにもよろしく伝えておいてくれ」
「はい」
アリルの姿が完全に見えなくなったところで、俺は船の操縦士の人に向かって告げる。
「そろそろ正体を明かしたらどうだ?」
「…………」
操縦士の男性は船から姿を現し、陸に降りる。
すると、男性は一瞬にして姿、形を変え、小柄な少女へと姿を変える。
「よく気付いたね」
「行く時は操縦士の人から魔力を感じなかったのに、帰りになって魔力を微弱ながらも感じ取れたんでな。疑いの目を持つのは当然だ」
本当に微弱で、余程感知能力に優れてなければ見落としてしまう程。
アリルはそこに気付けなかったようだ。
「やはり君は私のパートナにふさわしい」
意味深な言葉に眉を潜めてしまう。
「パートナー? てか、君は誰だ?」
俺はこんな小柄で黒髪のショートボブを知らない。
黒髪の少女は不敵な笑みを浮かべながら言う。
「私は『ガセリ』。世界を滅ぼす力を持つ魔族さ」



※ここまでが一巻分となります。
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