裏切り夫に離婚届を突きつけたら、前世の王女が覚醒しました

由香

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エピローグ　炎の王女の記憶

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夜明けの光が、世界を染めていく。
水平線の彼方から、金の陽が静かに昇る。

その光の中で、彼女は微笑んでいた。

――セレスティア。
かつて、炎の王国の最後の王女と呼ばれた女。
誇り高く、強く、そして孤独だった。

彼女は、終焉の夜に祈りを残した。
愛した人を失い、国を奪われ、それでも最後まで膝を折らずに立ち続けた。
その祈りは、時を越え、ひとりの女に届いた。

――綾乃。

「よくここまで来たわね」

風のような声が、静かに響く。
綾乃は夢の中で振り返り、微笑んだ。
白い花が風に揺れている。
かつて炎に包まれた城が、今は静かな花園となっていた。

「貴女が、わたしを導いてくれたのね」

「いいえ。貴女が、自分の力で立ち上がったの。私はただ、記憶を渡しただけ。“愛されるために生きる”のではなく、“愛するために生きる”という記憶を」

綾乃は目を伏せ、そして顔を上げた。
そこにはもう、迷いはなかった。

「ありがとう。あなたの痛みを知ったから、わたしは強くなれた。でももう、あなたの涙の続きを生きる必要はないわ。――これからは、私の物語を歩く」

セレスティアは、ゆるやかに微笑んだ。
その瞳に、誇りと安らぎが宿る。

「ええ。それでいいの。貴女が笑えるなら、私はようやく終われる」

光が、花の上に降り注ぐ。
セレスティアの姿は次第に淡くなり、風の粒子に溶けていく。

「さよなら、私の輪廻。そして――幸せに」

綾乃は目を閉じた。
頬を撫でた風が、まるで誰かの優しい指先のように温かかった。

目を覚ますと、朝の光がカーテン越しに差し込んでいた。
あの夢の余韻が、まだ胸の奥で穏やかに波打っている。

スマホの画面には、新堂からのメッセージ。

『今日、少し話がしたい。朝の公園で待ってる。』

綾乃は微笑んで、返信を打つ。

『行きます。朝日が綺麗ですね。』

鏡の中の瞳が、かすかに紫に光った。
セレスティアの記憶は、もう痛みではなく、
ただ――“力”としてそこにあった。

「行こう。新しい日へ」

靴音が、朝の街に響く。
その一歩ごとに、過去は遠ざかり、未来が広がっていく。

燃え尽きた炎の跡に、芽吹いた花。
それは、終わりと始まりの象徴。

そして、彼女の再生の物語は、ここから本当の意味で始まる。

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