元悪役令嬢、学園追放後に王太子一家を全員ざまぁします

由香

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第四章 裁きの宴

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 冬の訪れを告げる雪が、王都の屋根を白く覆っていた。
 その静寂を破るように、王宮の鐘が高らかに鳴り響く。

「聖女感謝祭」――民の安寧を祈る祭典。
 だがその実態は、王家が民の不満を逸らすための“見せかけの儀式”だった。
 そして今年、なぜか私――リリアナ・アルステッドにも招待状が届いたのだ。

 金の封蝋。王家の紋章。
 文面には丁寧な言葉で“和解の意”が記されていたが、私は笑いを堪えることができなかった。

「和解、ね……処刑の間違いではなくて?」

 それでも、私は招待を受けた。
 罠だと分かっていながら、行かずにはいられない。
 ――ここで終わらせるために。



 祭典の夜。
 王城の大広間は、金と宝石で飾り立てられ、まるで栄華の幻のように輝いていた。
 私は漆黒のドレスをまとい、ゆっくりとその扉を押し開ける。

「……っ、あれが……リリアナ様……?」

「まるで夜の女神のようだ……」

 貴族たちの囁きがざわめきとなって広がる。
 私は微笑を浮かべ、まっすぐ王太子夫妻のもとへ歩いた。

 エドワードは以前よりも老け込み、疲弊した顔をしていた。
 隣のミリアンヌは、白いドレスに包まれながらもその肌はどこか灰色がかっている。
 生命を吸い尽くした花のように。

「久しぶりですね、殿下。王妃殿下も」

 軽く頭を下げると、王妃エレノアが唇を歪めた。

「招かれざる客が、よくぞ来たものね」

「“招待状”を頂きましたので」

 私の皮肉に、王妃の眉がわずかに動く。
 だがその奥に潜む焦りを、私は見逃さなかった。



 やがて、王太子が立ち上がった。

「諸君。本日は――この国を救った聖女ミリアンヌのために、祈りを捧げよう!」

 拍手が起こる。
 ミリアンヌは両手を掲げ、光の魔法陣を展開した。
 だが――。

 その光は、突然、黒く濁った。

「……っ!? な、なに……!」

 ミリアンヌの悲鳴が響く。
 彼女の背後から、黒い靄が溢れ出し、周囲の人々の体を蝕んでいく。

 私はゆっくりと前へ出た。
 ドレスの裾が床を滑り、銀の光が足元を包む。

「それが、あなたの“真の姿”よ。寄生の聖女ミリアンヌ」

 ざわめきが走る。
 誰もが信じられないといった表情を浮かべていた。

「嘘よ!わたしは聖女なの!この国を救うために神が選んだのよ!」

「神?」

 私は指を鳴らした。

 瞬間、天井に浮かぶ魔法陣が展開され、白い光が会場を包み込む。
 そこに映し出されたのは――真実の記憶。

 リリアナを陥れ、偽の証言を行うミリアンヌ。
 その隣で甘く笑い、婚約破棄を告げる王太子。
 そして裏で糸を引く王妃の姿。

「こ、これは……まさか……!」

「こんなことが……」

 民も、貴族たちも、息を呑んだ。
 王家がどれほどの偽りで国を支配していたのか、誰の目にも明らかだった。

「エドワード殿下、あなたの“愛した聖女”の正体、よく見ておきなさい」

 ミリアンヌの肌が灰色に染まり、瞳が濁っていく。
 人間の形を保てず、吸い取った命の残滓が溢れ出していた。

「いや……嫌ぁぁぁぁぁっ!」

 叫びながら崩れ落ちる彼女に、誰も手を伸ばさなかった。
 彼女が奪ってきた命たちの声が、怨嗟の風となって吹き荒れる。



 王太子は茫然と立ち尽くしていた。

「……リリアナ、俺は……間違って……」

「ええ。そうね。あなたの愚かさが、この国を滅ぼした」

 私は彼に背を向け、ゆっくりと歩き出した。
 その瞬間、王宮の壁が軋み、巨大な亀裂が走る。
 呪いが完全に解放されたのだ。

 天井から落ちる光の欠片。
 それはまるで、滅びの花吹雪のようだった。

「王家の罪を、千年の時を越えて償いなさい」

 私は指を掲げ、古代語で詠唱した。
 銀と黒の光が交錯し、王城を包み込む。

 ――轟音。

 地が揺れ、塔が崩れ落ち、虚空に吸い込まれていく。
 悲鳴と共に、王太子と王妃の姿は闇に消えた。

 静寂が訪れる。
 その中心で、私はただひとり、立っていた。

「ざまぁ、ですわ」

 微笑みとともに呟くその声は、静かに凍りついた王都に響き渡った。



 崩壊の最中、ひとりの男が瓦礫の中から私を見上げていた。
 ――ルシアン。

「間に合った……!」

 彼は駆け寄り、私の肩を支えた。
 私は微笑んで言った。

「あなたは……やはり来てくれたのね」

「俺はあなたを信じていた。最初からずっと」

 その声に、胸の奥が温かくなった。
 初めて、誰かが“リリアナ”という名を信じてくれたのだ。

 燃え盛る王城の向こう、夜空には満月が昇っていた。
 それは、千年前に私が見上げたのと同じ月。

「終わったわね……」

「いいや、始まりだ。これからは、あなたと共に新しい国を作る」

 ルシアンの瞳はまっすぐで、澄んでいた。
 私は小さく笑って頷く。

 崩れゆく旧王国の中で――
 新しい夜明けの光が、確かに生まれ始めていた。




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