4 / 6
第四章 裁きの宴
しおりを挟む
冬の訪れを告げる雪が、王都の屋根を白く覆っていた。
その静寂を破るように、王宮の鐘が高らかに鳴り響く。
「聖女感謝祭」――民の安寧を祈る祭典。
だがその実態は、王家が民の不満を逸らすための“見せかけの儀式”だった。
そして今年、なぜか私――リリアナ・アルステッドにも招待状が届いたのだ。
金の封蝋。王家の紋章。
文面には丁寧な言葉で“和解の意”が記されていたが、私は笑いを堪えることができなかった。
「和解、ね……処刑の間違いではなくて?」
それでも、私は招待を受けた。
罠だと分かっていながら、行かずにはいられない。
――ここで終わらせるために。
◇
祭典の夜。
王城の大広間は、金と宝石で飾り立てられ、まるで栄華の幻のように輝いていた。
私は漆黒のドレスをまとい、ゆっくりとその扉を押し開ける。
「……っ、あれが……リリアナ様……?」
「まるで夜の女神のようだ……」
貴族たちの囁きがざわめきとなって広がる。
私は微笑を浮かべ、まっすぐ王太子夫妻のもとへ歩いた。
エドワードは以前よりも老け込み、疲弊した顔をしていた。
隣のミリアンヌは、白いドレスに包まれながらもその肌はどこか灰色がかっている。
生命を吸い尽くした花のように。
「久しぶりですね、殿下。王妃殿下も」
軽く頭を下げると、王妃エレノアが唇を歪めた。
「招かれざる客が、よくぞ来たものね」
「“招待状”を頂きましたので」
私の皮肉に、王妃の眉がわずかに動く。
だがその奥に潜む焦りを、私は見逃さなかった。
◇
やがて、王太子が立ち上がった。
「諸君。本日は――この国を救った聖女ミリアンヌのために、祈りを捧げよう!」
拍手が起こる。
ミリアンヌは両手を掲げ、光の魔法陣を展開した。
だが――。
その光は、突然、黒く濁った。
「……っ!? な、なに……!」
ミリアンヌの悲鳴が響く。
彼女の背後から、黒い靄が溢れ出し、周囲の人々の体を蝕んでいく。
私はゆっくりと前へ出た。
ドレスの裾が床を滑り、銀の光が足元を包む。
「それが、あなたの“真の姿”よ。寄生の聖女ミリアンヌ」
ざわめきが走る。
誰もが信じられないといった表情を浮かべていた。
「嘘よ!わたしは聖女なの!この国を救うために神が選んだのよ!」
「神?」
私は指を鳴らした。
瞬間、天井に浮かぶ魔法陣が展開され、白い光が会場を包み込む。
そこに映し出されたのは――真実の記憶。
リリアナを陥れ、偽の証言を行うミリアンヌ。
その隣で甘く笑い、婚約破棄を告げる王太子。
そして裏で糸を引く王妃の姿。
「こ、これは……まさか……!」
「こんなことが……」
民も、貴族たちも、息を呑んだ。
王家がどれほどの偽りで国を支配していたのか、誰の目にも明らかだった。
「エドワード殿下、あなたの“愛した聖女”の正体、よく見ておきなさい」
ミリアンヌの肌が灰色に染まり、瞳が濁っていく。
人間の形を保てず、吸い取った命の残滓が溢れ出していた。
「いや……嫌ぁぁぁぁぁっ!」
叫びながら崩れ落ちる彼女に、誰も手を伸ばさなかった。
彼女が奪ってきた命たちの声が、怨嗟の風となって吹き荒れる。
◇
王太子は茫然と立ち尽くしていた。
「……リリアナ、俺は……間違って……」
「ええ。そうね。あなたの愚かさが、この国を滅ぼした」
私は彼に背を向け、ゆっくりと歩き出した。
その瞬間、王宮の壁が軋み、巨大な亀裂が走る。
呪いが完全に解放されたのだ。
天井から落ちる光の欠片。
それはまるで、滅びの花吹雪のようだった。
「王家の罪を、千年の時を越えて償いなさい」
私は指を掲げ、古代語で詠唱した。
銀と黒の光が交錯し、王城を包み込む。
――轟音。
地が揺れ、塔が崩れ落ち、虚空に吸い込まれていく。
悲鳴と共に、王太子と王妃の姿は闇に消えた。
静寂が訪れる。
その中心で、私はただひとり、立っていた。
「ざまぁ、ですわ」
微笑みとともに呟くその声は、静かに凍りついた王都に響き渡った。
◇
崩壊の最中、ひとりの男が瓦礫の中から私を見上げていた。
――ルシアン。
「間に合った……!」
彼は駆け寄り、私の肩を支えた。
私は微笑んで言った。
「あなたは……やはり来てくれたのね」
「俺はあなたを信じていた。最初からずっと」
その声に、胸の奥が温かくなった。
初めて、誰かが“リリアナ”という名を信じてくれたのだ。
燃え盛る王城の向こう、夜空には満月が昇っていた。
それは、千年前に私が見上げたのと同じ月。
「終わったわね……」
「いいや、始まりだ。これからは、あなたと共に新しい国を作る」
ルシアンの瞳はまっすぐで、澄んでいた。
私は小さく笑って頷く。
崩れゆく旧王国の中で――
新しい夜明けの光が、確かに生まれ始めていた。
その静寂を破るように、王宮の鐘が高らかに鳴り響く。
「聖女感謝祭」――民の安寧を祈る祭典。
だがその実態は、王家が民の不満を逸らすための“見せかけの儀式”だった。
そして今年、なぜか私――リリアナ・アルステッドにも招待状が届いたのだ。
金の封蝋。王家の紋章。
文面には丁寧な言葉で“和解の意”が記されていたが、私は笑いを堪えることができなかった。
「和解、ね……処刑の間違いではなくて?」
それでも、私は招待を受けた。
罠だと分かっていながら、行かずにはいられない。
――ここで終わらせるために。
◇
祭典の夜。
王城の大広間は、金と宝石で飾り立てられ、まるで栄華の幻のように輝いていた。
私は漆黒のドレスをまとい、ゆっくりとその扉を押し開ける。
「……っ、あれが……リリアナ様……?」
「まるで夜の女神のようだ……」
貴族たちの囁きがざわめきとなって広がる。
私は微笑を浮かべ、まっすぐ王太子夫妻のもとへ歩いた。
エドワードは以前よりも老け込み、疲弊した顔をしていた。
隣のミリアンヌは、白いドレスに包まれながらもその肌はどこか灰色がかっている。
生命を吸い尽くした花のように。
「久しぶりですね、殿下。王妃殿下も」
軽く頭を下げると、王妃エレノアが唇を歪めた。
「招かれざる客が、よくぞ来たものね」
「“招待状”を頂きましたので」
私の皮肉に、王妃の眉がわずかに動く。
だがその奥に潜む焦りを、私は見逃さなかった。
◇
やがて、王太子が立ち上がった。
「諸君。本日は――この国を救った聖女ミリアンヌのために、祈りを捧げよう!」
拍手が起こる。
ミリアンヌは両手を掲げ、光の魔法陣を展開した。
だが――。
その光は、突然、黒く濁った。
「……っ!? な、なに……!」
ミリアンヌの悲鳴が響く。
彼女の背後から、黒い靄が溢れ出し、周囲の人々の体を蝕んでいく。
私はゆっくりと前へ出た。
ドレスの裾が床を滑り、銀の光が足元を包む。
「それが、あなたの“真の姿”よ。寄生の聖女ミリアンヌ」
ざわめきが走る。
誰もが信じられないといった表情を浮かべていた。
「嘘よ!わたしは聖女なの!この国を救うために神が選んだのよ!」
「神?」
私は指を鳴らした。
瞬間、天井に浮かぶ魔法陣が展開され、白い光が会場を包み込む。
そこに映し出されたのは――真実の記憶。
リリアナを陥れ、偽の証言を行うミリアンヌ。
その隣で甘く笑い、婚約破棄を告げる王太子。
そして裏で糸を引く王妃の姿。
「こ、これは……まさか……!」
「こんなことが……」
民も、貴族たちも、息を呑んだ。
王家がどれほどの偽りで国を支配していたのか、誰の目にも明らかだった。
「エドワード殿下、あなたの“愛した聖女”の正体、よく見ておきなさい」
ミリアンヌの肌が灰色に染まり、瞳が濁っていく。
人間の形を保てず、吸い取った命の残滓が溢れ出していた。
「いや……嫌ぁぁぁぁぁっ!」
叫びながら崩れ落ちる彼女に、誰も手を伸ばさなかった。
彼女が奪ってきた命たちの声が、怨嗟の風となって吹き荒れる。
◇
王太子は茫然と立ち尽くしていた。
「……リリアナ、俺は……間違って……」
「ええ。そうね。あなたの愚かさが、この国を滅ぼした」
私は彼に背を向け、ゆっくりと歩き出した。
その瞬間、王宮の壁が軋み、巨大な亀裂が走る。
呪いが完全に解放されたのだ。
天井から落ちる光の欠片。
それはまるで、滅びの花吹雪のようだった。
「王家の罪を、千年の時を越えて償いなさい」
私は指を掲げ、古代語で詠唱した。
銀と黒の光が交錯し、王城を包み込む。
――轟音。
地が揺れ、塔が崩れ落ち、虚空に吸い込まれていく。
悲鳴と共に、王太子と王妃の姿は闇に消えた。
静寂が訪れる。
その中心で、私はただひとり、立っていた。
「ざまぁ、ですわ」
微笑みとともに呟くその声は、静かに凍りついた王都に響き渡った。
◇
崩壊の最中、ひとりの男が瓦礫の中から私を見上げていた。
――ルシアン。
「間に合った……!」
彼は駆け寄り、私の肩を支えた。
私は微笑んで言った。
「あなたは……やはり来てくれたのね」
「俺はあなたを信じていた。最初からずっと」
その声に、胸の奥が温かくなった。
初めて、誰かが“リリアナ”という名を信じてくれたのだ。
燃え盛る王城の向こう、夜空には満月が昇っていた。
それは、千年前に私が見上げたのと同じ月。
「終わったわね……」
「いいや、始まりだ。これからは、あなたと共に新しい国を作る」
ルシアンの瞳はまっすぐで、澄んでいた。
私は小さく笑って頷く。
崩れゆく旧王国の中で――
新しい夜明けの光が、確かに生まれ始めていた。
53
あなたにおすすめの小説
婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね
うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。
伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。
お互い好きにならない。三年間の契約。
それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。
でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。
短編 跡継ぎを産めない原因は私だと決めつけられていましたが、子ができないのは夫の方でした
ヨルノソラ
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。
子を授からないのは私のせいだと、夫や周囲から責められてきた。
だがある日、夫は使用人が子を身籠ったと告げ、「その子を跡継ぎとして育てろ」と言い出す。
――私は静かに調べた。
夫が知らないまま目を背けてきた“事実”を、ひとつずつ確かめて。
嘘も責任も押しつけられる人生に別れを告げて、私は自分の足で、新たな道を歩き出す。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。
しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが──
「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」
なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。
さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。
「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」
驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。
ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。
「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」
かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。
しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。
暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。
そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。
「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」
婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー!
自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
無実ですが、喜んで国を去ります!
霜月満月
恋愛
お姉様曰く、ここは乙女ゲームの世界だそうだ。
そして私は悪役令嬢。
よし。ちょうど私の婚約者の第二王子殿下は私もお姉様も好きじゃない。濡れ衣を着せられるのが分かっているならやりようはある。
━━これは前世から家族である、転生一家の国外逃亡までの一部始終です。
【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます
ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」
「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」
シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。
全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。
しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。
アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――
今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです
有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。
けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。
助けた騎士は、王の右腕。
見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。
王城で評価され、居場所を得ていく私。
その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。
「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。
選ばれるのを待つ時代は、終わった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる