元悪役令嬢、学園追放後に王太子一家を全員ざまぁします

由香

文字の大きさ
5 / 6

第五章 新たな夜明け

しおりを挟む
 王都を覆っていた黒煙がようやく晴れ、朝の光が差し込む。
 崩れた城の残骸の中、民たちは震える声で祈りを捧げていた。

 だがその祈りは、もはや王家ではなく――
 一人の女性へ向けられていた。

「リリアナ様……」

「本当に、救ってくださったんですね……」

 泥にまみれた民が、次々とひざまずく。
 私は首を横に振り、静かに微笑んだ。

「救ったのは私ではありません。あなたたちの“願い”が、この国を生かしたのです」

 そう告げると、朝陽が金色に輝き、瓦礫の隙間から小さな花が咲いた。
 冬を越えた生命の証――それがこの国の再生の始まりだった。



 数日後、臨時評議会が開かれた。
 王妃エレノアと王太子エドワードは、呪いの発動とともに命を落とした。
 王家は滅び、次の王が必要となった。

「この国を導くべき者はただ一人――第二王子ルシアン殿下です!」

 貴族たちが頭を下げる中、彼は静かに壇上へ上がった。

「兄の罪、そして王家の過ちを、私がすべて受け継ぎます。だが、私はこの国を“力”ではなく、“信頼”で治める」

 彼の声は透き通っていて、民の心を打った。

「そして――」

 彼は私の方を振り返る。
 その目に、真っすぐな光が宿っていた。

「リリアナ・アルステッド。あなたの知恵と勇気なくして、この国の再建はありえません。どうか、私の隣で共に歩んでください」

 ざわめく会場。
 その中で、私は小さく微笑み、ゆっくりと頭を下げた。

「陛下――いえ、ルシアン。あなたが真実を選び続ける限り、私は力を貸しましょう」

 拍手が広がり、光が会場を包む。
 あの時、私を“悪役”と呼んだ人々が、今は“守り姫”と称えていた。



 王都の復興は目覚ましかった。
 荒廃した畑には再び緑が戻り、民は笑顔を取り戻した。
 私は学術院を設立し、魔導や薬学の知識を民に開放した。
 知識は力であり、自由だ。
 誰もがそれを使い、自分の未来を描けるように。

「リリアナ様、今日は新しい図書棟の完成式ですよ」

「ええ。民の手で作られた初めての学び舎――素敵な日ね」

 微笑みながらも、心の奥にはほんの少しの寂しさが残っていた。
 ――私はもう、“復讐”のために生きてはいない。
 けれど、それが終わった今、何を望めばいいのだろう。



 そんなある日、城の庭園でルシアンに呼び止められた。
 風が春の香りを運び、桜に似た花が舞う。

「リリアナ」

「はい、陛下」

「もう“陛下”はやめてくれ。俺の名を呼んでほしい」

 その声に、心臓が小さく跳ねた。

「……ルシアン」

 彼は微笑み、私の手を取った。
 あの頃とは違い、彼の手は温かかった。

「あなたはこの国の光だ。王としてではなく、一人の男として、あなたと共に歩みたい」

 春風が頬を撫でる。
 私は目を閉じ、静かに答えた。

「もしまた、私が“悪役”と呼ばれる日が来ても――あなたは信じてくれますか?」

「もちろんだ。君が何者でも、俺は君の味方だ」

 その言葉に、胸の奥の氷が完全に溶けた。
 私は彼の胸にそっと身を寄せる。

「……ありがとう。ようやく、自由になれた気がするわ」

 彼が優しく抱きしめる。
 その温もりの中で、長い長い呪いの輪がようやく断たれた。



 数年後。

 王都の北門――かつて私が“追放”された場所に、私は再び立っていた。
 今は、春の花が咲き乱れ、民の笑い声が響く。

「お帰りなさいませ、リリアナ様!」

「いいえ、私はずっとここにいたのよ」

 そう言って微笑むと、遠くで鐘が鳴った。
 青空の下、白い鳥が群れを成して飛び立つ。

「もう誰にも裁かれない。私は、私のままで生きていく」

 その言葉を風に乗せ、私は振り返らずに歩き出した。
 隣には、王――いや、ルシアンが微笑んでいる。

 新しい時代が、静かに幕を開けた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね

うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。 伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。 お互い好きにならない。三年間の契約。 それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。 でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。

短編 跡継ぎを産めない原因は私だと決めつけられていましたが、子ができないのは夫の方でした

ヨルノソラ
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。 子を授からないのは私のせいだと、夫や周囲から責められてきた。 だがある日、夫は使用人が子を身籠ったと告げ、「その子を跡継ぎとして育てろ」と言い出す。 ――私は静かに調べた。 夫が知らないまま目を背けてきた“事実”を、ひとつずつ確かめて。 嘘も責任も押しつけられる人生に別れを告げて、私は自分の足で、新たな道を歩き出す。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

無実ですが、喜んで国を去ります!

霜月満月
恋愛
お姉様曰く、ここは乙女ゲームの世界だそうだ。 そして私は悪役令嬢。 よし。ちょうど私の婚約者の第二王子殿下は私もお姉様も好きじゃない。濡れ衣を着せられるのが分かっているならやりようはある。 ━━これは前世から家族である、転生一家の国外逃亡までの一部始終です。

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

処理中です...