元悪役令嬢、学園追放後に王太子一家を全員ざまぁします

由香

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エピローグ 花の都にて

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 王都は、かつての姿をすっかり変えていた。
 瓦礫の街は花咲く都へと生まれ変わり、季節ごとに異なる花が石畳を彩る。
 今では「千花の都」と呼ばれ、遠国からも人が訪れるようになっている。

 私はその中心にある研究院の中庭で、小さな薬草の苗を植えていた。

「リリアナ先生、今日も土いじりですか?」

「ええ、知識だけでなく“命”も育てられるようになりたいの」

 弟子の少女が笑いながら頷く。
 彼女の髪にはかつて私が愛した香草――アルステッドの白花が挿されていた。
 それは、私の家名と同じ名を持つ花。
 滅びた家の象徴が、今では新しい命の象徴となっている。

 ――あの日の呪いも、痛みも、もう遠い過去のようだった。



 午後になると、研究院の塔に王――ルシアンがやって来た。
 王冠を外し、軽装のまま。
 民の間を歩くことを好む彼は、昔と変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。

「また自分で来たの? 護衛もつけずに」

「君がここにいる限り、誰も俺を傷つけたりしないだろう?」

 その冗談に私は小さく笑い、ティーカップを差し出した。
 香るのは、薬草と紅茶を調合した“春の香”。

「懐かしい香りだな。学園時代に君が淹れてくれたものに似ている」

「ええ。あの頃は、殿下の好みに合わせてばかりいたけれど……今は私の配合よ」

「――こっちの方がずっと好きだ」

 彼の言葉に、胸が温かくなる。



 夕陽が沈むころ、ルシアンは王都の方角を眺めた。
 黄金色に染まる屋根と、鐘の音。
 かつて罪と嘘で覆われていたこの都が、今では希望の光で満ちている。

「君がいなければ、この景色はなかった」

「それは違うわ。私はただ、壊れた場所を見つめ続けただけ。立ち直ったのは、人々の力よ」

 そう言うと、彼は私の手を取り、そっと指先に口づけた。

「それでも、俺は君に救われた」

 頬を染めた私に、春風が優しく吹き抜ける。
 遠くで白い鳥が飛び立ち、空の彼方へと消えていった。



 夜。

 研究院の灯りを落とし、私は窓辺で月を見上げた。
 まるで静かに微笑むような満月。

 ――“真実は、いずれ王都を焼くでしょう”

 あの日、学園で言い放った言葉を思い出す。
 あの時は、ただの呪いだった。
 けれど今は、それが「再生の炎」だったと分かる。

 焼け跡の上に花が咲き、人が笑い、未来が築かれる。

 それこそが、私が望んでいた本当の“ざまぁ”だったのかもしれない。



 ルシアンが静かに部屋に入り、肩に薄いショールをかけてくれた。

「また夜更かしか?」

「ええ、少しだけ昔のことを思い出していたの」

「君の過去も、君のすべてだ。だから、俺はそれを誇りに思う」

 その言葉に、私は小さく笑い、頷いた。
 そして――月光の下、彼の肩に頭を預けた。

「ありがとう、ルシアン。あなたに出会えたこの人生が、ようやく報われた気がする」

 外では、春の花がそよ風に揺れていた。
 その香りが、まるで祝福のように二人を包む。

 かつて“悪役”と呼ばれた令嬢は、今――王と共に、新しい時代の夜明けを見つめている。

 すべての呪いが溶け、静かな幸福が訪れた。

 もう涙はいらない。
 笑顔で、生きていける。




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