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第7話 最後の切り札 公開の場で断罪されるのは
しおりを挟む王国は、舞台を整えた。
王都中央広場。
聖堂と王宮の双方に面した、最も人が集まる場所。
名目は――
「新進気鋭の魔導士・リオンの功績披露」
だが、その実態を、セレスティアは一目で理解した。
(……公開裁定)
称賛と名誉を餌に、王国の“正義”に組み込むための儀式。
そして同時に――
彼女自身を、再び“悪役”に仕立て上げる場。
*
「母さん……人、多いね」
リオンは落ち着かない様子で、広場を見渡した。
「ええ」
セレスティアは、彼の背にそっと手を添える。
「だからこそ、よく聞いて、よく考えて」
「うん」
彼は、真剣な顔で頷いた。
王国は、すでに退路を用意していない。
ここで従えば、二度と自由はない。
*
高台の演壇に立ったのは、元王太子だった。
「本日は集まってくれて感謝する」
澄ました声が、広場に響く。
「王国は、新たな希望を得た。若き魔導士、リオン・アルヴェインだ」
拍手が起こる。
歓声すら混じる。
リオンは、困惑したように小さく頭を下げた。
「そして――」
元王太子の視線が、セレスティアへ移る。
「彼を育てた母。かつての王国貴族、セレスティア・フォン・アルヴェイン」
ざわり、と空気が揺れた。
――悪役令嬢。
――追放者。
囁きが、確実に広がっていく。
*
「王国は、過去を再検証した」
元王太子は、堂々と続ける。
「当時の裁定に、問題はなかったと判断している」
セレスティアは、微動だにしない。
「だが――」
彼は声を強めた。
「母が、息子の力を隠し、王国の管理を拒んできた事実は、看過できない」
それが、切り札だった。
――“危険な母”。
「王国としては、リオンを正式に保護・管理下に置く」
同時に、母子の分離を、暗に示す言葉。
*
「……え?」
リオンが、小さく声を漏らした。
「管理、って……?」
彼の困惑を、元王太子は“同意”と誤認した。
「安心しなさい。君は、王国の宝だ」
その瞬間。
「――質問を」
静かな声が、広場を切り裂いた。
セレスティアだった。
「王国は、いつから“保護”と“支配”を同義にしたのですか?」
ざわめき。
元王太子は、表情を強張らせる。
「言葉遊びだな」
「いいえ。事実確認です」
セレスティアは、一歩前に出た。
「私の息子は、自ら志願して王国に仕えたことはありません」
彼女は、群衆を見渡す。
「試験も、結界修復も、依頼されたから“協力した”だけ」
冷静な声。
だが、逃げ道を塞ぐ言葉。
*
「さらに言えば」
セレスティアは続ける。
「王都外縁の結界異常は、自然発生ではありませんでした」
空気が、凍りつく。
「人為的操作の痕跡を、複数の独立魔導士が確認しています」
ざわめきが、怒号に変わり始める。
「……それは!」
元王太子が遮ろうとする。
「もし否定なさるなら」
セレスティアは、静かに微笑んだ。
――悪役令嬢として。
「ここに、当時の記録と、現在の改竄箇所を示しましょうか?」
その瞬間、広場の空に、魔法映像が展開された。
王国文書。
結界改修履歴。
不自然な“欠落”。
すべて、客観的な証拠。
人々は、気づき始めていた。
――どちらが“危険”なのかを。
「母さん……」
リオンが、セレスティアの袖を引く。
「僕、わかったんだ」
彼は、一歩前へ出た。
「王国は、僕を必要としてるんじゃない」
静かな声。
「僕の力を、必要としてるだけだ」
その言葉が、最も重い断罪となった。
*
元王太子は、言葉を失っていた。
彼は、ようやく理解したのだ。
――この場で、裁かれているのは。
少年でも、母でもない。
王国そのものだということを。
セレスティアは、息子の肩に手を置く。
「よく言えたわ」
そして、群衆へ向けて告げる。
「この子は、誰かの道具になるために生まれてきたのではありません」
夕暮れの光が、二人を包む。
王国の“切り札”は、完全に、裏目に出ていた。
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