10 / 16
第四章 虚構の崩壊
第一話 民の覚醒
しおりを挟む夜の王都は、いつになく静まり返っていた。
聖堂崩壊の翌日、光を失った街には、薄灰の霧が漂っている。
だが、その沈黙の奥底には、確かな“ざわめき”が生まれていた。
「――あの聖女の奇跡は、偽りだったらしい」
「祝福の水が、ただの薬液だったって……」
「王家は、私たちを欺いていたのか?」
囁きが街を這い、恐れと怒りが混ざり合って広がっていく。
露店の主人、労働者、神殿の信徒――皆が互いの顔を見合わせた。
“信仰”という名の鎖が、音を立てて外れていく。
一方そのころ、黒薔薇交易社の地下室。
セレーナは机の上に並んだ地図を見つめていた。
王都を中心に伸びる流通路、情報網、そして反王家勢力の拠点。
そこに、新たな赤い線が引かれていく。
「民が動き始めたわね」
報告に来たローレンが、わずかに息を弾ませる。
「各地で暴動が発生しています。聖女信仰の瓦解は止まりません。……予想を超えています」
「光を信じていた者ほど、闇を知れば立ち上がる。――皮肉ね。でも、それこそが“目覚め”というもの」
セレーナは微笑を浮かべる。
ディランが問いかけた。
「主様、次の手は?」
「混乱を統制するわ。無秩序な怒りは長続きしない。それを導く旗が必要――“真実を語る者”としてね」
そう言って、彼女は一枚の手紙を取り出した。
金の封蝋には、王立印刷局の紋章。
だが、その中身は密かに彼女の手で差し替えられていた。
「これは……“王家の機密文書”?」
ローレンが目を見張る。
手紙には、王太子エドワードと教団との金銭取引、そして“奇跡”を演出するために行われた魔石操作の記録が、詳細に記されていた。
「暴くのではなく、“見せる”のよ」
セレーナは言う。
「真実は、押しつけるものではない。民の手に渡った瞬間、それは力になる」
ディランが頷く。
「……では、この文書を?」
「ええ。夜明けとともに各地へ流すの。黒薔薇の伝令たちが、すでに準備しているはず」
その夜、密やかな紙束が街の壁に貼られた。
市場に、路地裏に、教会の扉に。
“聖女の奇跡は虚偽。王家は欺いていた”――。
翌朝、王都は別の色を帯びていた。
祈りの声は消え、代わりに怒号と足音が街を満たす。
王宮へ向かう群衆の列は、止まることを知らなかった。
「――返せ! 俺たちの信仰を!」
「偽りの王家に、裁きを!」
広場で燃え上がる民の声に、衛兵たちは動揺を隠せない。
玉座の間では、王太子エドワードが荒れ狂っていた。
「どうしてだ……どうして、あの文書が外に!?」
宰相が青ざめた顔で答える。
「内部の者の裏切りかと……しかし、出所は不明です!」
エドワードは拳を握り締めた。
脳裏に浮かぶのは、あの女の微笑。
あの日、断罪の舞踏会で見せた冷たい瞳。
「セレーナ……貴様が……!」
一方そのころ。
黒薔薇の館のバルコニーで、セレーナは遠くの喧噪を見下ろしていた。
民の怒り、王家の動揺――すべてが、彼女の描いた“台本”の通りに進んでいる。
「ようやく幕が上がったわ。――この国の“真実の劇場”の第一幕が」
夜風が吹き抜け、黒薔薇の花弁がひとひら舞い落ちる。
その微笑の裏に、かすかな哀しみが滲んでいた。
彼女は知っている。
この覚醒の果てに待つのは、破滅という名の結末だと。
69
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄されたので北の港を発展させたら
ふわふわ
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。
公爵令嬢アリアベルは、王太子カルディオンから突然の婚約破棄を告げられる。
「真実の愛を見つけた」
そう言って王太子が選んだのは、涙を流す義妹ヴィオレッタだった。
王都から追い出され、すべてを失った――
はずだった。
アリアベルが向かったのは、王国の北にある小さな港町。
しかし彼女の手腕によって港は急速に発展し、やがて王国最大の交易港へと変わっていく。
一方その頃、王太子と義妹は王都で好き勝手に振る舞っていたが――
やがてすべてが崩れ始める。
王太子は国外追放。
義妹は社交界から追放され修道院送り。
そして気づいた頃には、北の港こそが王国の中心になっていた。
「私はもう誰のものでもありません」
これは、婚約破棄された令嬢が自分の人生を取り戻し、
王国の未来を変えていく物語。
そして――
彼女の隣には、いつしか新しい王太子の姿があった。
婚約破棄から始まる、逆転ざまぁロマンス。✨
【完結済】婚約破棄から始まる物語~真実の愛と言う茶番で、私の至福のティータイムを邪魔しないでくださいな
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
恋愛
約束の時間に遅れ、さらには腕に女性を貼り付けて登場したアレックス殿下。
彼は悪びれることすらなく、ドヤ顔でこう仰いました。
「レティシア。君との婚約は破棄させてもらう」
婚約者の義務としての定例のお茶会。まずは遅れたことに謝罪するのが筋なのでは?
1時間も待たせたあげく、開口一番それですか? しかも腕に他の女を張り付けて?
うーん……おバカさんなのかしら?
婚約破棄の正当な理由はあるのですか?
1話完結です。
定番の婚約破棄から始まるザマァを書いてみました。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
蔑まされた没落貴族家の悪役令嬢ですが、この舞台の主役は私がやらせていただきます!
あぷりこっと
恋愛
「君の嫉妬深さにはもう辟易しているんだ」
婚約者のハイベルクにそう告げられた瞬間、レーウは確信した。
――計画通り。
何も知らない侯爵令嬢ランダ。王国最強と謳われた騎士団長ハイベルク。彼がその双剣を振るう相手を間違えた時、破滅のカウントダウンは始まった。
世間がレーウを嫉妬に狂った没落家の伯爵令嬢と蔑んでいる間、彼女は自警団と共に貴族院の秘密を暴き敵の逃げ場を奪い続けていた。
格安警備会社へのすり替え、配電盤の掌握、そして夜視の魔導具。
感情を切り捨て毒となった令嬢が公爵邸舞踏会を、社会的抹殺の舞台へと変える。
「不運と踊る?……いいえ。私に踊らされていたのだと、地獄で気づきなさい!!」
※ヒロインの活躍が凛々しいので応援してください♪
婚約破棄の慰謝料として『王国の半分』を要求したら、本当にくれたので、今日から私があなたの女王様です
唯崎りいち
恋愛
婚約破棄の慰謝料に
「王国の半分」を要求したら、
ゴミみたいな土地を押し付けられた。
ならば――関所を作りまくって
王子を経済的に詰ませることにした。
支配目当ての女王による、
愛なき(?)完全勝利の記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる