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01話 「何言ってるか分からないね」

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 話が重いというか固いのはこの1話だけです。
 設定は大事だねという感覚で軽く読んでくださいな。
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 ここはいったいどこなんだ?

 気が付くと真っ白な場所に私はいた。しかし、体をうまく動かすことができない。水の中で泳いでいる、そんな感覚である。いや、これは無重力って可能性もあるけどそんな体験はしたことないなあ。記憶もおぼろげで、はっきりと思い出すことはできないみたいだ。

「-------、------------------------」
「-----------、----」

 誰かの声らしきノイズが聴こえる。でも何言ってんだあいつら? そう、目の前に二人の男女がいてこちらに話しかけている。

 男性はかなり筋肉ムキムキのタンクトップと短パンだが、顔は知性を感じさせる金髪のおじさんだ。いかにもプロテインが大好きそうだがすごく真面目そうな雰囲気である。もう一人の女性は、茶色いロングヘアで清楚そう顔立ちの美人である。スーツを着ていて仕事ができる感じがするが今まさに仕事中なのかな? 鋭い目つきでこちらを見ているが、微笑みすらしなくてちょっと怖いなあ。

 二人はこっちを見ながら私に何かをつぶやいているのだが……。

「----------。-----------?」
「--、---?」
「--------------。-------------」
「---、------------------」

 なんだか二人で盛り上がっている。だが私には何を言っているのがさっぱりわからない。男が女に何やら訴えているがそんなの知らねえって顔である。

 ええい、私も混ざってみよう!

「こんにちは。あの、何言ってるのか全然分らないんだけど……」

 私の言葉で目の前の二人が会話をしたと思ったら、喧嘩になって女が叫んだぞ?!

「----------ね、こ--------------------」

 あの女の人こわっ。でも、何を言っているかわからないなあ。だが、かろうじで二文字だけわかったぞ。とりあえず会話に混ざろう。

「ねこ?」

 お、言葉が通じたのかな? 女は微笑んだけど、男が指を差しているところに光るものを見ている。あれは何だか知らないが、男は光を追いかけていった。

 その後、女が語りかけてくるがやはり何を言っているか分からない。うむ、ここは適当に頷いておこう。

 しばらくして、男が戻ってきた。さっき見つけた光を持っている。それを近づけると私の体に吸い込まれていく。


「---------------。---------祈ります。」
「次の人生も頑張れよ」


 おお、声がわかるようになったぞ! さっきの光のおかげかな? とりあえず男の人にお礼をしよう。



「ありがとう」



 そして次の言葉を発する前にまぶしい光に包まれて私は転生した。


 え? 嘘だろ。聞きたいこといっぱいあるのに急すぎるよ!!!



 ◆


 ここは現世で死んだ者たちの魂が集まる”死後の世界”。現世で亡くなった魂は、次の人生を決めるために必ず訪れる場所がある。そこに魂がやって来ると、天国や地獄に送ったり別の人生に転生をしたりする。簡単にいえば魂の市役所のような場所である。そこにひとつの魂がやってきた。

「はじめまして。私はこの世界の魂を管理している女神のエムピーです」
「同じく管理人である男神のエチピーだ、よろしくな」

 二人の神様は魂に語りかけた。どうやらこの状況に戸惑っているようで返事はない。

「自己紹介はこれぐらいにしますね。面倒なので転生でいいですね?」
「おい、エムピー?」
「無茶なこという前にやってしまいましょう。見たい神テレビ番組に間に合いません」
「待てって、話をした後に決めるのがここのルールだろうが」


「こんにちは。あの、何言ってるのか全然分らないんだけど……」


「ほれみろエムピー。困惑しているじゃないか。説明を省きすぎてわからないんだよ」
「こちらの魂は日本人のようですから日本語でしゃべってますよ? 通じてますから大丈夫でしょう」
「いやいや、そういう問題じゃなくてだな。言葉は理解しているけどお前が何いっているのか……」
「もー、うるさいですね! この真面目筋肉があッ!!!!!」
「いやいやテキトーはダメだって。規則守れよ」
「日本人は流されやすいからこれでいいのよ!!!」

 この女神に言葉が通じないと男神が思っていると日本人の魂から声がした。


「ねこ?」


「猫? 次に転生したら猫ですね、わかりました」
「いや、よく見ろ。ほらあそこだよ。あそこに猫がいるからあれのことを言ったんだよ」

 男神が指を差したところに光があり、それは猫の魂があった。

「あら、いつの間に。次の人生では猫になりたいのね」
「急に現れたあれに驚いただけだと思うぞ?!」

 ここで二人の神は少し違和感を覚えた。今ここに来た魂は一つだけだったし、他の魂の気配を全く察知することができなかった。なによりこの日本人の魂から得られる情報が少なかった。

「おかしいはずね、日本人とは分かるのに前世の名前が分からないのよ。魂が欠損してるのは間違いないみたいよ。ほらエチピー」
「あの猫の魂は、この日本人の思い出や大事な記憶といったものだろう。拾ってくるから先に話を進めておいてくれ」
「ふふふ、任せて(これで邪魔者は消えたわね)」

 うるさい男神を黙らせるには丁度よかったと女神は思った。あの筋肉男神が戻ってくる前に終わらせてしまおう。



「あなたの一部は、エチピーが持ってきてくれるから安心しなさい。ここは次の人生をどう過ごすか選ぶ場所。あなたのように死んでしまった生き物の魂が集まるっているの」

 目の前の日本人は反応しないが、どんどん話を続けていく女神エムピー。

「あなたは、前世の生き方は悪い生き方ではなかったようね。天国でも地獄でも好きなところに送ってあげるわ。もし悪いことばっかりしていたら地獄に強制だったけど、今回はあなたに選ばせてあげるわ」

 たまたまなのか、この魂の生き方についての情報は欠けていなかった。なにより悪いことをした魂の光は、暗い輝きを放つ。目の前の日本人は明るい光を放っているから大丈夫だ。

「元の世界に送ることも可能よ。ただ現世の肉体は消滅しているから別の生き物として転生することになるわね。何になるかはランダムよ。元の世界に不満があるならこことは違う別の世界もあるのよ。あなたたちの言葉だと異世界って言えばわかりやすいかしらね?」

 別の世界と聞いた日本人の魂が反応し、それがいいとコクコク頷く。

「あら、別の世界に行きたいのね。その願い女神であるエムピーが叶えてあげるわ!」

 女神との話が終わったころに、男神が猫の魂を捕まえて戻ってきた。

「無事に話し合いが終わったようだな」
「この魂は別の世界に行きたいってすぐ答えてくれたわよ」

 別の世界に転生すると決めたこの日本人の魂に猫魂を近づけると、スゥっと吸い込まれて欠損した部分も消えていた。

「魂も綺麗に戻った。やはり猫魂はこの日本人の魂の一部で間違いないな。この記憶が欠けると消滅してしまうかもしれないぞ」
「あら、それは困るわね。転生したら前世の記憶は消えてしまうのが規則なのよ」
「今回は仕方あるまい。善良な魂を消してしまうのは神として問題だろう」
「そうねえ、大事な記憶であるようだから今回は記憶を引き継ぐ転生にしましょう。前世と同じ種族だと魂も安定するでしょう、いいかしら?」
「異論はないぞ。それでいこう」
「ふふふ、早く決めてくれたから神テレビに間に合うわ」

 女神は転生の儀式を開始した。部屋に光が満ち魂を包み込んだ。

「さあ、行きなさい迷える魂よ。幸運を祈ります」
「次の人生も頑張れよ」


「ありがとう」


 そして女神は力を使い、魂を別の世界に転生させたのだった。




「なあエムピー。魂の破損を戻したときに前世の名前を確認したんだが、ちょっとおかしくなかったか?」
「最近の日本人ならあれぐらい普通だと思いますよ」


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次回からコメディー開始です。お楽しみください。
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