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第54話 ハリスとザード
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ハリスはヴェルド侯爵に書類一式を渡すと、その後食事は一人だった。
ヴェルド侯爵は、明日の案内の準備をするので申し訳ないが失礼すると告げ、早々にどこかに行ってしまった。
ジュールが傍らで采配していたので、彼と話しながら食事を楽しんだ。
「閣下には何か申しわけないな」
そうハリスが言うとジュールは答えた。
「いえ、とても張り切っておられるのですよ。なかなか魔獣らと会いたいという人はおりませんし、たぶんハリス様は王弟君ですので親近感もあるのだと思います」
「であれば私もうれしいが、恐縮するな。親近感を抱かれるほど、私は閣下のように出来が良くないのでね」
「ご謙遜を」
「いや、謙遜ではない。閣下は人類の過ちを一身で贖い、これまでこの大陸の平和の維持に努めてこられた。私は偶然王家に生まれただけの者だ」
食後酒をジュールに勧められながら、そう言ってハリスは哄笑した。
翌日、朝食を終えると謁見の間に案内されたハリスは、ヴェルド侯爵の傍らに座席を用意されてそこに座っていた。
「ここは魔獣たちが私に何か用事がある時か、王国と共和国以外の所からの来訪者と会う時に使う部屋だ」
「閣下が魔王領を統治されているということは噂されておりましたが、事実だったのですね」
「あくまで魔王陛下の代理だ。王国でも国王陛下は統治はしないだろう。とはいっても私が直接何か命じることはほとんどないのだがな」
ヴァンがそう言っている間に、ザードが参りましたと告げるジュールの声がした。
扉が開くと、サードが姿を現した。
ザードと呼ばれたゴブリンはハリスが思ったよりも大きく、ほとんど人と変わらない背丈で、制服を着ていてもわかるほど筋骨は逞しかった。
ザードは二人の前に跪くと頭を下げたままで言った。
「閣下、お客様をご案内する用意ができました」
「うむ、ご苦労であった。これにおられる方は、この度、ゴート王国から参られた軍務卿ハリス侯爵閣下だ。王国の軍の頂点にたち、閣下の号令一つでいく万の王国の精鋭が直ちにはせ参じる。その首を胴と付けておきたければ、粗相のないようにと魔獣らに伝えよ」
はッと答えた彼にヴァンはハリスを見て笑った。
「とはいっても、そんな恐ろしいご仁ではない。ザード、いつも通りでいいぞ」
ザードはそう言われて立ち上がり、少しホッとしたような表情で言った。
「初めてお目にかかります。魔獣の頭を務めております。ザードと申します。本日はよろしくお願いします。我らは人の国の礼儀作法を知らぬものですので、失礼はご容赦願います」
ハリスはそれを聞くと座を立つとザードに近寄って一礼すると手を差し出し、ザードもためらうことなくそれを握った。
「ヴェルド閣下の言ったことは戯れです。なまじ国王の弟に生まれたために神輿の乗っただけの一介の王国貴族です。多少の腕に覚えはありますが、相手になるのは人間までです。魔獣の方々に歯が立つはずありません。なのでこちらこそ、何か失礼があってもご容赦願います」
これが大陸史上初めての、魔獣領の魔獣の長と王国軍務卿の邂逅だった。
ヴェルド侯爵は、明日の案内の準備をするので申し訳ないが失礼すると告げ、早々にどこかに行ってしまった。
ジュールが傍らで采配していたので、彼と話しながら食事を楽しんだ。
「閣下には何か申しわけないな」
そうハリスが言うとジュールは答えた。
「いえ、とても張り切っておられるのですよ。なかなか魔獣らと会いたいという人はおりませんし、たぶんハリス様は王弟君ですので親近感もあるのだと思います」
「であれば私もうれしいが、恐縮するな。親近感を抱かれるほど、私は閣下のように出来が良くないのでね」
「ご謙遜を」
「いや、謙遜ではない。閣下は人類の過ちを一身で贖い、これまでこの大陸の平和の維持に努めてこられた。私は偶然王家に生まれただけの者だ」
食後酒をジュールに勧められながら、そう言ってハリスは哄笑した。
翌日、朝食を終えると謁見の間に案内されたハリスは、ヴェルド侯爵の傍らに座席を用意されてそこに座っていた。
「ここは魔獣たちが私に何か用事がある時か、王国と共和国以外の所からの来訪者と会う時に使う部屋だ」
「閣下が魔王領を統治されているということは噂されておりましたが、事実だったのですね」
「あくまで魔王陛下の代理だ。王国でも国王陛下は統治はしないだろう。とはいっても私が直接何か命じることはほとんどないのだがな」
ヴァンがそう言っている間に、ザードが参りましたと告げるジュールの声がした。
扉が開くと、サードが姿を現した。
ザードと呼ばれたゴブリンはハリスが思ったよりも大きく、ほとんど人と変わらない背丈で、制服を着ていてもわかるほど筋骨は逞しかった。
ザードは二人の前に跪くと頭を下げたままで言った。
「閣下、お客様をご案内する用意ができました」
「うむ、ご苦労であった。これにおられる方は、この度、ゴート王国から参られた軍務卿ハリス侯爵閣下だ。王国の軍の頂点にたち、閣下の号令一つでいく万の王国の精鋭が直ちにはせ参じる。その首を胴と付けておきたければ、粗相のないようにと魔獣らに伝えよ」
はッと答えた彼にヴァンはハリスを見て笑った。
「とはいっても、そんな恐ろしいご仁ではない。ザード、いつも通りでいいぞ」
ザードはそう言われて立ち上がり、少しホッとしたような表情で言った。
「初めてお目にかかります。魔獣の頭を務めております。ザードと申します。本日はよろしくお願いします。我らは人の国の礼儀作法を知らぬものですので、失礼はご容赦願います」
ハリスはそれを聞くと座を立つとザードに近寄って一礼すると手を差し出し、ザードもためらうことなくそれを握った。
「ヴェルド閣下の言ったことは戯れです。なまじ国王の弟に生まれたために神輿の乗っただけの一介の王国貴族です。多少の腕に覚えはありますが、相手になるのは人間までです。魔獣の方々に歯が立つはずありません。なのでこちらこそ、何か失礼があってもご容赦願います」
これが大陸史上初めての、魔獣領の魔獣の長と王国軍務卿の邂逅だった。
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