吸血公ヴェルド侯爵の憂鬱~魔王の生贄となった病弱王子は、魔獣たちを従えて無双する

一ノ瀬 薫

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第55話 従者ジュール

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 ヴァンはザードを見ると、私は後で海に行く、ハリス侯爵を頼むぞと言った。
 そしてハリスには、そういうことなので私が後で海を案内するまでザードに色々見せてもらってくれ、聞きたいことがあれば彼に聞いてもらえれば答える、私より詳しいからなと言ってヴァンは謁見の間から出て行った。
 多分ヴェルド侯爵は、魔獣たちと私だけで交流をさせたかったのだろうとハリスは思った。
 そして今一つの意図は、私に対して何の秘密もないということを示したかったに違いない。

 ザードはではご案内いたしますと謁見の間を出ると、外にいたジュールに深く頭を下げた。
 ジュールも頭を下げたが、視線はハリスに向けられ、これはあくまでハリスに対する礼であることを表していた。
 城を出ると、そこからは森に向かう道があるだけだった。
「ザードさん。お聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんでもお答えするように主には言われておりますので、どうぞお聞きください」
「閣下に訊ねそびれてしまったことですが、ジュールさんはどのようなお方なのでしょうか。閣下の従者をされていることはお聞きしたのですが」

 それを聞くとザードは、愉快そうに答えた。
「ジュール様は確かにいつも主の傍らに控えておられるので、さすがに本人の前では聞きにくいですね」
「ええ。あとは、サードさんを含めて魔獣の方々にとって、どのような方のかも知りたかったので」
「我々にとっては尊敬する兄のような上司のような方です。また、主にとっては魔王領であるこの森の留守を任すことのできる唯一のお方でもあります」
「それほどの力があるということですか。では、人の姿をされておられますが、やはり魔獣ということなのでしょうか」
 いや、とんでもないと強く否定したザードは言った。

「ジュール様は魔人です。我々魔獣とは能力のレベルが違います。我らの力は所詮は肉体に依存した物理的ものですが、魔王陛下、主であるヴェルド様、ジュール様は魔術をお使いになります。なので我らの物理的な力は無効化されてしまうので、戦いにすらなりません」
「魔人ですか。初めて耳にしました」
「このことは魔獣領では知らぬものはありませんが、そのほかの国や地域ではそもそもジュール様の存在を知られておりませんので」
「そうですな、魔獣領は人にとっては未知の領域ですからな。私がいくらかでも見聞を広め、人類に伝えたいと思っております」
「ええ、主もそれを望んでおられるのだと思います」

 森の中の道をしばらく行くと、少し広いターミナルのような所に出た。
 そこには見上げるような巨体のオーガとそれより少し小さいが、黄金の鱗に覆われたドラゴニュートがいた。彼らは一人ずつ並んでサードとハリスを出迎えた。
「こちらが王国軍務卿のハリス侯爵閣下だ」
 ユグノーとリアーは直立不動で頭を下げた。
「彼がオーガの長《おさ》のユグノー、そしてドラゴニュートの長《おさ》のリアーです」

 ハリスは彼らを見て、彼らが大挙して攻撃するとなれば、王国や共和国の軍など物の数ではないと実感せざるを得なかった。
「ご紹介にあずかったハリスです。ご案内をよろしくお願いいたします」
 見上げるような大きさのユグノーとリアーの前にハリスは進むと、それぞれと握手を交わした。
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