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しおりを挟む「…どこから来たの?」
私が尋ねると、青年は無言で首を振る。
「帰るところはあるの?」
再び首を振られた。
何とも言えない沈黙。
どうやらこの青年、完全に行き場を失っているらしい。
「ふむ」
私は少し考え込む。
正直、今の私は気が滅入っていて、他人の世話なんてしたくない気分。
でも、ここで見捨てたら後味が悪いし、放っておけば彼はまた路上に転がるだけだろう。
「それなら、私の屋敷に来ます?」
思わず口走った言葉に、自分で驚いた。
だって私、自他ともに認める“悪役令嬢”なんですよ?
こんな善行は似合わないはず。
けれど、青年はとても嬉しそうに微笑んだ。
「お言葉に甘えたい…」
その瞳は、まるで捨て猫が救いの手を待つように潤んでいる。
やれやれ、これは厄介なものを拾ってしまったかもしれない。
馬車に青年を乗せて、再び走り出す。
「名前は?」
私が尋ねると、青年は少し戸惑いながら答える。
「レオン…と呼ばれていました」
「苗字とかは?」
「…さあ、わかりません」
何やらよくわからないけれど、名前だけでも判明したならよしとしましょう。
こうして私は、“捨て猫”ならぬ“捨て青年”を拾ってしまったのだった。
屋敷に到着すると、使用人たちは目を丸くした。
そりゃそうよね、真夜中にボロボロの青年を連れ帰るなんて、常識的に考えたらおかしい。
「…アデル様、どうなさいました?」
メイド長が恐る恐る聞いてくるが、私にだって詳しい事情なんてわからないのだ。
「道端に倒れていたのです。ひとまず着替えと食事を用意してもらえる?」
「あ、はい、かしこまりました」
使用人たちは混乱しながらも、私の指示に従って動き出す。
そのまま私はレオンを客室に案内した。
柔らかいベッドを見て彼は瞳を輝かせ、
「うわあ…」と感嘆の声を漏らす。
「そんなに感動するもの?」
私が首をかしげると、レオンははにかむように笑ってから、困ったように言った。
「ごめんなさい。偉そうにしちゃいけないと思うんですけど、本当に助かったんです」
「ふうん。まるで捨て猫ね」
冗談めかして言うと、レオンは不思議そうに首を傾げる。
「猫?」
「放っておいたら死んでしまいそうだった。だから拾ったの、という意味よ」
「それは感謝すべきことですよね」
「まあ、好きにしなさい」
私はさっさと部屋を出ようとしてドアの前に立つ。
そのとき、レオンが小さく呟いた。
「あなたは、優しいんですね」
「は?」
振り返った私に、彼は穏やかな笑みを向ける。
「捨て猫を拾ってくれるような優しさってこと」
「勘違いしないで。私は悪役令嬢ですから」
「…そうなんですか?」
「ああ、そうよ。世の中から疎まれる負け犬ですわ」
わざと嫌味っぽく言ったのに、レオンはまるで子どものような好奇心に満ちた眼差しで私を見つめる。
「でも、僕には悪い人には見えないです」
「好きに思っていればいいわ」
そう吐き捨てるように言って部屋を出る。
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