負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

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「アデル! 待ってくださいよ」

ギルバートだ。

振り返ると、彼は苦笑いを浮かべながら肩をすくめている。

「本当にいいんですか、あんな形で」

「何が?」

「婚約破棄ですよ。あなたの名誉にも関わります」

「どうせ今さら私の名誉など地に落ちていますわ。ならば落ちきるところまで落ちてみます」

そう言い捨てて、私は再び廊下を歩き出す。

けれどギルバートは横をついてくる。

「アルト様が、何か誤解しているとしか思えません。あなたの優しさを知らずに」
「誤解なら、私もとっくに慣れていますもの」

本当は、その誤解を解きたかった時期もあった。

けれど誰も聞く耳を持たなかったのだから、仕方ないのだ。

パーティ会場の玄関ホールに着くと、使用人たちが驚いた顔をしている。

「アデル様、もうお帰りですか?」

「ええ、少し気分が乗りませんので」

そう言ってすぐに馬車を呼ばせる。

ギルバートは何か言いかけたが、言葉を飲み込むようだった。

私の頭の中では「さっさと屋敷に帰ってお茶でも飲みたい」という思いしかなく、悲壮感はさほどない。

頭がぼんやりとするのは、恐らくお酒を少々飲み過ぎたせいでしょう。

馬車に乗り込み、窓から外を眺める。
月は美しく、そして冷たい。
まるで自分の行く末を暗示しているようで、少しだけ切ない気分になった。

「まあいいわ。負け犬が吠えても、誰も耳を傾けてくれないのですもの」

ぽつりとつぶやく。

今はただ家に帰ってゆっくり休みたい。
明日になったら、また周囲に変な噂が広がっているんだろうなと思いつつ、私は馬車の揺れに身を任せる。

ほどなくして屋敷に近づくと、馬車が急に止まった。

「どうしたの?」

車夫に声をかけると、彼は外から「あの、道端に人が倒れているんですが」と戸惑った声をあげる。

「人が倒れているですって?」

少し興味をそそられ、私は扉を開けて外に降りた。

夜道は薄暗く、街灯の光も少ない。

そんな中に、確かに誰かがうずくまっていた。

「生きてるのかしら?」

恐る恐る近づいて声をかける。

「もしもし、大丈夫ですか?」

すると、その人物は顔を上げた。

意外にも綺麗な顔立ちの青年で、しかし服はボロボロ。

「お腹減った…」

「は?」

「水を少し、ください」

なんて弱々しい声でしょう。

私は思わず周囲を見回したが、誰もいない。

仕方なく、馬車の備え付けの水と非常食のパンを渡すと、青年は目を輝かせるようにして口に運んだ。

あっという間に平らげてしまい、まるで飢えた猫のよう。
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