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午後になると、私たちは地下室を見学させてもらうことに。意外にも広いスペースがあって、厳重な鍵や警備装置が施されている。さっきの衛兵が道具を運び込み、ヴィクトリアの承諾のもとで頑丈な箱に収納するようだった。
「まさに“王家の道具を隠しておく”にはうってつけかも。ありがとう、ヴィクトリア様」
私が礼を言うと、ヴィクトリアはさらりと首を振る。
「いえいえ、あくまで一時的な保管場所です。王家の公式な判断が下れば、また返却しなければなりません」
一方レオンは地下室の暗さに少しひるんでいる。かと思えば、興味深そうに警備の仕組みを観察して「これも王家のもの?」なんて質問を投げたり。ギルバートが「いや、それは普通の金庫ですよ」と答えていたりして、なんだか不思議な光景だ。
ほどなくして、すべての確認が終わり、私たちは地上階に戻ってきた。時計を見ると、すでに夕方が近い。今日はここで長居をしすぎるのも悪いので、そろそろ伯爵家へ帰ったほうがよさそうだ。
「ヴィクトリア様、本日は本当にありがとうございました。おかげで事件の手がかりを得られた気がしますわ」
再度お礼を述べると、ヴィクトリアは柔らかな笑みで答える。
「私もあなた方に協力できてよかったです。道具の出所は追って調べておきます。もし何か判明したらすぐにご連絡いたしますので」
「お願いします。私もできる限り動いてみます」
レオンが少し寂しそうな表情でヴィクトリアを見て、
「ありがとう、ヴィクトリアさん。君のおかげで少し光が見えた気がする」
と言うと、彼女は扇子を閉じて微笑む。
「いつでもどうぞ、レオン殿。あなたが“王族としてどう生きるか”はあなたの意思次第ですが、私は決してあなたを裏切りませんよ」
「……うん、ありがとう」
そんなやりとりが、どこか暖かく感じられる。私は気のせいか、少し胸がじんわりした。
別邸を出て馬車に乗り込むころ、空には夕陽がオレンジ色のグラデーションを描いていた。
屋敷へ戻る道のりは行きよりも穏やかで、馬車の中はやや緊張が解けた空気になっている。
「ギル、何か考えはまとまった? 今日の成果は大きかったと思うけど」
私が尋ねると、ギルバートは窓の外を眺めながら首をひねる。
「道具が王家のものらしい、という点は衝撃でしたね。そうなると犯人は王家の内部か、もしくはそこに強い繋がりを持つ誰か……やっぱりフローラ単独ではなさそうです」
「ええ。私もそう思う。フローラは誰かに利用されている可能性が高いんじゃないかな」
「利用……か。アルト様にも関わりはあるのかしら」
レオンが横でポツリとつぶやく。
アルトとフローラ――もし二人が裏で何か画策しているなら、あの道具を手に入れる手段があっても不思議じゃない。でも、昨日のアルトの態度を見る限り、フローラと完全に一致団結しているわけでもなさそうだ。
「うーん、ややこしいわね。アルト自身がどう考えているのかさっぱり。とにかく当面はフローラの動きに注視しつつ、王家の闇を探るしかないか」
そう結論づけながら、私は軽く伸びをする。話し合いの成果は上々だが、まだまだやるべきことは多い。
「あと、レオンの“仮登録”の件よ。あれ、本当にどうする? 現状だと、あなたが王家に近づけば近づくほど危険度は上がるけど……それを利用して事件の核心に迫れる可能性も高いわ」
「確かに。僕もそろそろ決めないといけない。逃げ場を残したままでもいいけど、中途半端にはしたくないし……もう少しだけ時間をちょうだい」
「わかった。焦らずに決めなさい。私も口出しはしないけど、協力は惜しまないわ」
静かに揺れる馬車の中、三人でそんな会話を交わしているうちに、王都の夜景が近づいてくる。屋敷へ戻るころにはすっかり暗くなりそうだ。
明日になれば、またフローラや王宮の誰かが動くかもしれない。だけど、私はもう怯えたままではいられない。
「悪役令嬢であろうと、私にはやるべきことがあるのよ……」
小さくつぶやいて、窓外に流れる街を眺める。
もしフローラが次の手を打ってきたなら、今度はきっちり受け止めてやる。王家の複雑な事情にも踏み込んで、レオンを守るし、自分の潔白も証明してみせる。
長い一日を終え、私たちはそれぞれの思いを抱えながら、また屋敷で対策を練ることになるのだろう。先は見えないけれど、少なくとも一歩は進んだ――そんな手応えを感じつつ、私は夜の王都を後にした。
「まさに“王家の道具を隠しておく”にはうってつけかも。ありがとう、ヴィクトリア様」
私が礼を言うと、ヴィクトリアはさらりと首を振る。
「いえいえ、あくまで一時的な保管場所です。王家の公式な判断が下れば、また返却しなければなりません」
一方レオンは地下室の暗さに少しひるんでいる。かと思えば、興味深そうに警備の仕組みを観察して「これも王家のもの?」なんて質問を投げたり。ギルバートが「いや、それは普通の金庫ですよ」と答えていたりして、なんだか不思議な光景だ。
ほどなくして、すべての確認が終わり、私たちは地上階に戻ってきた。時計を見ると、すでに夕方が近い。今日はここで長居をしすぎるのも悪いので、そろそろ伯爵家へ帰ったほうがよさそうだ。
「ヴィクトリア様、本日は本当にありがとうございました。おかげで事件の手がかりを得られた気がしますわ」
再度お礼を述べると、ヴィクトリアは柔らかな笑みで答える。
「私もあなた方に協力できてよかったです。道具の出所は追って調べておきます。もし何か判明したらすぐにご連絡いたしますので」
「お願いします。私もできる限り動いてみます」
レオンが少し寂しそうな表情でヴィクトリアを見て、
「ありがとう、ヴィクトリアさん。君のおかげで少し光が見えた気がする」
と言うと、彼女は扇子を閉じて微笑む。
「いつでもどうぞ、レオン殿。あなたが“王族としてどう生きるか”はあなたの意思次第ですが、私は決してあなたを裏切りませんよ」
「……うん、ありがとう」
そんなやりとりが、どこか暖かく感じられる。私は気のせいか、少し胸がじんわりした。
別邸を出て馬車に乗り込むころ、空には夕陽がオレンジ色のグラデーションを描いていた。
屋敷へ戻る道のりは行きよりも穏やかで、馬車の中はやや緊張が解けた空気になっている。
「ギル、何か考えはまとまった? 今日の成果は大きかったと思うけど」
私が尋ねると、ギルバートは窓の外を眺めながら首をひねる。
「道具が王家のものらしい、という点は衝撃でしたね。そうなると犯人は王家の内部か、もしくはそこに強い繋がりを持つ誰か……やっぱりフローラ単独ではなさそうです」
「ええ。私もそう思う。フローラは誰かに利用されている可能性が高いんじゃないかな」
「利用……か。アルト様にも関わりはあるのかしら」
レオンが横でポツリとつぶやく。
アルトとフローラ――もし二人が裏で何か画策しているなら、あの道具を手に入れる手段があっても不思議じゃない。でも、昨日のアルトの態度を見る限り、フローラと完全に一致団結しているわけでもなさそうだ。
「うーん、ややこしいわね。アルト自身がどう考えているのかさっぱり。とにかく当面はフローラの動きに注視しつつ、王家の闇を探るしかないか」
そう結論づけながら、私は軽く伸びをする。話し合いの成果は上々だが、まだまだやるべきことは多い。
「あと、レオンの“仮登録”の件よ。あれ、本当にどうする? 現状だと、あなたが王家に近づけば近づくほど危険度は上がるけど……それを利用して事件の核心に迫れる可能性も高いわ」
「確かに。僕もそろそろ決めないといけない。逃げ場を残したままでもいいけど、中途半端にはしたくないし……もう少しだけ時間をちょうだい」
「わかった。焦らずに決めなさい。私も口出しはしないけど、協力は惜しまないわ」
静かに揺れる馬車の中、三人でそんな会話を交わしているうちに、王都の夜景が近づいてくる。屋敷へ戻るころにはすっかり暗くなりそうだ。
明日になれば、またフローラや王宮の誰かが動くかもしれない。だけど、私はもう怯えたままではいられない。
「悪役令嬢であろうと、私にはやるべきことがあるのよ……」
小さくつぶやいて、窓外に流れる街を眺める。
もしフローラが次の手を打ってきたなら、今度はきっちり受け止めてやる。王家の複雑な事情にも踏み込んで、レオンを守るし、自分の潔白も証明してみせる。
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