負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

文字の大きさ
68 / 93

15-4

しおりを挟む
「フローラ、あなたが何を言っても、私は私のやりたいことをするわ。慈善パーティで寄付をするのも、その一環。事件のことはきちんと真実を明らかにするつもりなので、あなたこそ楽しみにしていれば?」

「そう。楽しみにさせていただくわ。……ただ、このまま黙っていれば、事件の真犯人が私だと思われる可能性もありますのよね?あなたのせいで」

フローラの目に閃く不穏な光。まるで「私に罪をなすりつけるつもり?」と言いたげだ。しかし本当は彼女こそが私に罪をなすりつけようとしているのは明白だ。

「自分の身は自分で守ればいいじゃない。それができないなら、私のせいにしないでちょうだいな」

軽く肩をすくめると、フローラは唇を曲げて忌々しげに睨む。

「まあ、あなたがそこまで言うなら、今後がますます楽しみですわ。私も黙って指をくわえてるほど暇ではありませんから、覚悟なさい」

そう言い捨てて、フローラは踵を返す。取り巻きの令嬢たちが慌てて彼女の後を追い、あっという間に姿を消していった。周囲の人々が安堵とも困惑ともつかない表情を浮かべている。

「いかにも“意味深な脅しセリフ”って感じだったわね……」

私がうんざりしたようにつぶやくと、ギルバートが深い息を吐く。

「フローラも周囲に悪印象を与えたでしょうが、彼女はそれを承知で動いてるように見えます。何か切り札があるのかもしれません」

「ほんと、面倒な相手……」

レオンが悔しそうに拳を握りしめる。「アデル、本当にごめんね。僕がいなければ、こんなに巻き込まれなかったんじゃないかって、時々思っちゃう」

「何言ってるの。あなたがいなければ、私は一人で立ち向かわなきゃいけなかったのよ? むしろ感謝してるくらいだわ。あなたとギルがいてくれるから、こうやって堂々としていられるの」

「アデル……」

私がきっぱり言い切ると、レオンは目を潤ませかけたが、慌てて咳き込んで誤魔化している。ギルバートが「二人とも、人前でイチャイチャしないの」と小声でツッコむ。  
思わず照れ笑いがこぼれ、気づけば周囲の客たちも「悪役令嬢が意外と仲間に支えられている?」と興味深げに見ているようだ。

結局、フローラはほんの短時間で会場を後にしてしまい、その後は特に騒動もなくパーティが続いた。  
私は軽く寄付金の手続きを済ませ、主催者から感謝の言葉をかけられる。レオンもギルバートも、それぞれ使用人や主催者側と話をして、孤児院への寄付が有効に使われるよう意見交換をしていた。

周囲の声によれば「アデルが人助けなんて珍しい」とか「やっぱり根は優しいのかも?」なんて、好意的な噂も流れ始めたようだ。フローラとあの場でやり合ったことが逆に“私のほうが筋が通っている”と思わせた部分もあるらしい。  
少なくとも、今回のパーティは私にとって悪い印象は残さなかったはずだ。

「さて、これで少しは状況が良くなるかしら。フローラの態度を見るに、次の手を打ってくるのは確実だけど」
パーティからの帰り道、馬車に揺られながら私は独り言を漏らす。

「アデル、あなたの善行が広まれば、フローラの訴えに対して“本当にアデルがそんな凶行に及ぶのか?”と疑う人も出てくるでしょう」
ギルバートが前向きに解釈してくれる。レオンも頷く。

「うん。あの人、明らかにイライラしてたし、逆に焦ってるんじゃないかな。だからこそああいう嫌味な態度を取るんだと思う」

「どんな焦りかはわからないけど……まあ、こっちも焦らずに動きましょう。王家の道具を巡る謎を解くのが先決だし、フローラが今後どんな行動を取るか注視する必要もあるわ」

馬車は夕暮れの街を走る。光がオレンジ色に染まり、家々の影が伸びていく。

あの慈善パーティでの出来事をきっかけに、私の“悪役”イメージが少しでも和らげばいい。だが、フローラの脅し文句が頭から離れない。

「覚悟しなさい」――そう言われたときの、彼女のまなざしは本物だった。

もし背後に王家の黒幕がいるなら、どんな手段を使ってくるかわからない。
レオンの安全だって、保証されているわけじゃない。

「でも……負けてたまるもんですか」
そっと窓の外を見やる。赤く染まった空を睨むように見つめながら、私は小さく拳を握りしめる。

悪役令嬢として与えられたポジションを逆手に取ってでも、絶対にフローラの思惑を粉砕してみせる――そう心に誓いながら、馬車の揺れに身を委ねた。

捨て猫の青年、ギルバートの支え、そして私の意地。これだけあれば、どんな悪女だろうと負ける気はしない。  
そう、フローラには言いたい。覚悟を決めるのはそっちだ――と。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...