負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

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翌朝、まだ薄暗さの残る時間帯に、私はそわそわと落ち着かない気持ちで目を覚ました。

ベッドの中でうとうとしていたら、使用人が急ぎ足で部屋の前まで来た気配がしたからだ。ドアをノックする音に、私は慌てて起き上がる。

「アデル様、王宮より緊急のご使者がいらっしゃってます! お早く玄関ホールへ……!」

「え、また王宮……?」

フローラの嫌がらせを受けたばかりなのに、今度は王宮の使者となると、一気に胸がざわつく。

慌ただしく着替えを済ませ、廊下へ出ると、ちょうどギルバートとレオンも急いで駆け寄ってきた。どうやら二人とも同じように使用人に叩き起こされたらしい。

「アデル、何かあったんでしょうか……嫌な予感しかしないんですが」

ギルバートが低い声で言う。レオンも顔色が優れない。

「まさか本格的に呼び出しをくらうのか……王城の書類とか、僕の話かな」

「わからない。とにかく行きましょう。ここで逃げ出してもしょうがないわ」

三人で玄関ホールへ向かうと、そこには王宮の正装をまとった若い男が一人立っていた。  

その背後には衛兵らしき者が二、三名控え、明らかに“正式な要件”を告げに来た雰囲気が漂っている。

「失礼いたします。私は王家の侍従でございます。このたびは急なお話で恐れ入りますが、アデル・フォン・ヴァイゼル様と、レオン・クラヴィス殿にお越しいただきたいという王城からの通達をお持ちしました」

聞けば、「近日中に王家主催の“査問会”を開く」という。そこに私とレオンが出席するよう要請されているというのだ。  

査問会――要するに“お前たち、本当に事件を起こしたのかどうか説明しろ”という場なのか?

「査問会って……ちょっと大げさじゃない? 私たちはまだ正式に容疑者でも何でもないはずよ」

私が強く言い返すと、侍従は微かに苦笑しながら首を振る。

「ええ、容疑者とは限りません。ただ、先日の“王家の道具が使われた事件”について、状況を確認するための場です。実質的には“参考人”という位置づけですが、ある程度厳粛な場となりますので、相応の準備をお願いいたします」

あまりにも予想どおりの展開に、胃がキリキリ痛む。

フローラが裏で画策した“アデル犯人説”が影響しているのは間違いない。でも、こうなった以上、拒否するわけにもいかない。逃げ回れば余計に怪しまれるだけだ。

「わかったわ。査問会の日程はいつなの?」

「三日後に開かれる予定です。詳細はこの文書に記載しておりますので、そちらをご確認ください。……レオン・クラヴィス殿も、ぜひお読みになってください」

侍従は書類の束をレオンに手渡す。レオンが緊張しながら受け取り、表紙をちらっと見ると「王宮査問会 召喚状」という重々しい文字が……。

「うわ、想像以上にガチですね……」

レオンが顔を青ざめさせる。ギルバートも深刻そうに眉を下げた。

「これが正式な手続き……。アデル、レオンさん、本当に出席するしかなさそうです」
「そうね」

私が侍従に向き直ると、彼は丁寧に頭を下げる。

「ご多忙とは存じますが、どうかご協力いただきますよう。もし当日ご不都合がある場合は、あらかじめ王宮へ連絡をお願いいたします。…では、失礼いたします」

そう言って一礼し、侍従と衛兵は足早に屋敷を後にした。  

重苦しい沈黙が玄関ホールに漂う。ほどなくして、私たちは深い息をつき、顔を見合わせる。

「三日後……スケジュール的には急だけど、なんとか準備するしかないわね」
「僕、いよいよ腹をくくらないと……。査問会って、場合によっては証拠を要求されたり、偽証の罰則があったりするんですよね?」

レオンが不安げに言う。確かに王族主催の査問は、普通の“お尋ね”とはわけが違う。下手をすれば処罰される可能性だってある。

「まあ、やましいことは何もないんだから堂々としていればいい。フローラが何か企んでるかもしれないけど、私たちにはヴィクトリアの情報もあるし、レオンに嘘はないもの」

「そ、そうだけど……大丈夫かな」

レオンが俯くのを見て、私は柔らかく微笑む。

「大丈夫よ。仮にフローラが仕込んできても、私が絶対阻止する。逆にフローラのほうこそ、変な嘘をつけば自分の首を絞める結果になるはず」

ギルバートが「ああ、僕たちも協力します。査問会でどんな質疑が行われるか、想定問答を練っておいたほうがいいですね」と真面目な調子で提案してくれる。

「想定問答……なるほど、ちょっとしたリハーサルみたいなものかしら。確かにそれは必要そう」

その日は朝から大騒ぎだったが、いったん落ち着きを取り戻したところで、私たちは書斎にこもって“査問会の準備”を始めることにした。
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