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セキレイさんへの贈り物
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私は戦争によって親兄弟、友人、知人、住む所の全てを失い、それにより自分の誕生日まで失くしたものと思っていた。祝ってくれる人のいない誕生日なんて、普通の日と同じだ。
──そう思っていたのに、誕生日当日の朝目覚めると、いつもそこに広がっていたはずの青空は無く、真っ白な世界が広がっていた。
「セキレイさん!壁紙、壁紙!」
私が飛び起きてリビングへ行くと、翠、木葉、鷹雄さん、ユリが三角帽を被ってクラッカーを鳴らした。セキレイさんとダリアは絶対に三角帽とクラッカーは鳴らさないと拒絶したらしく、手ぶらで棒立ちしている。多分だけど、セキレイさんはプライドが三角帽を許さず、クラッカーは怖くて引けないのだろう。ダリアに至っては、この状況を馬鹿馬鹿しい茶番だと思っていたに違いない。
それでも、皆がこうして自分の為に集まってくれたのが嬉しかった。しかもプレゼントまで用意してくれて、翠からは箸の持ち方を矯正する治具、木葉からは原型をとどめない下手く……斬新な似顔絵?ユリからはウェディングケーキに匹敵する程の大きなバースデーケーキ、鷹雄さんからは見たこともない電動のコケシ、ダリアからは皮肉をもらった。セキレイさんからは『自分だけの物』を沢山貰った。壁紙もそのひとつだ。夜中に私が眠っている隙に青空の壁紙を綺麗に剥がし、その代わりとしてカタログを提示し、こう言ってくれた。
「あの部屋は翡翠の物なんだから、自分の好きな壁紙にするといいよ」
毎朝、起きる度に他人の部屋で目覚める違和感を味わう事もなくなるのだと思うと、とても嬉しかった。瑪瑙さんの部屋にお邪魔させていただいているとか、瑪瑙さんの部屋を汚してはいけないといったかしこまった気分を払拭出来るのは自分の精神にとってもいい事だろう。
おまけにパジャマからシャツからタオルから筆記用具の細部に至るまで全て、自分の好きな物をネットでチョイスしていいと言われ、嬉しい反面、逆にセキレイさんや瑪瑙さんに申し訳なく思った。
私は瑪瑙さんの身代わりなのに、いいのかな?
セキレイさんは瑪瑙さんの遺品をとっておいてたのに、あれら全てを処分するのだろうか?
他人のお下がりに抵抗はあったけれど、セキレイさんの心中を思うと何だか気が引けた。
手放しで喜んでいいのかな?
「私、今着ているパジャマも、他の服も、タオルも、今使っている物全てに愛着があるから、別にこのままでもいいんです」
本当は嫌だった。
瑪瑙さんの物を身に纏っていると、自分がまるで瑪瑙さんの皮を被って、セキレイさんから瑪瑙さんとして見られている様で嫌だった。でもセキレイさんが悲しむなら、私はそんな目で見られても我慢する、そう思っていたのだが、セキレイさんはしゃがんで私に向き合い『我慢しなくていい』と言ってくれた。
セキレイさんは、私の思っていた事が解っていたみたいだ。
「今までごめんな。嫌だったよな?これからはここをお前の物でいっぱいにしよう」
「私は……」
そうしてセキレイさんに頭を撫でてもらうと色んな事がどうでもよくなり、同時に、私は自分だけの物が欲しかったというよりも、自分だけのセキレイさんが欲しかったのだと気がついた。
「セキレイさん、ありがとうございます。私はあなたの気持ちが嬉しいんです」
私がセキレイさんに深々と頭を下げると、翠が──
「最初はどうなる事かと思ったけど、君らって本当は凄く相性がいいのかもね」
と言ってくれて、私はその事がとても喜ばしかった。
最初は気が咎めたが、自分だけの物、自分だけのセキレイさんが手に入ったようで天にも昇る思いだった。
例えそれが6年程のかりそめの関係でも──
それから数ヶ月間、私はセキレイさんの為に勉強やら一般教養やら習い事にこれまで以上に真剣に取り組んだ。
「翡翠、ほら、ここ間違ってるぞ」
勉強で間違っても、セキレイさんと一緒にいる時間はとても穏やかで、全ての物事が尊いものに思えた。
ちなみに、結局、誕生日プレゼントだった壁紙は差し替えず、毎朝起き抜けにあのまっさらな天井や壁を見ている。おかげで清々しい朝を迎えられている。パジャマ等の日用品はセキレイさんに選んでもらって全て新調した。可笑しい事に、あの朴念人が選んだ物は、小さな女の子が好みそうな可愛らしい物ばかりで、シンプルな物が好きな私はちょっと『ないわ』と思ったが、セキレイさんが私の為に一生懸命選んでくれた気持ちが嬉しくて、今ではその日用品の一つ一つがいとおしい。セキレイさんが選んでくれた、私だけの物、そう思っただけで毎日が薔薇色だ。
不思議だ、セキレイさんが選んでくれたってだけなのに、どピンクのパジャマや、フリフリの服、マスコットが乗ったペンが好きになってる。
ただ、ただだ、フリフリの服は部屋以外で着るのはさすがに恥ずかしくて、早くサイズが合わなくなるように毎日熱心に牛乳を飲んでいる。勿論、その事はセキレイさんには内緒だ。
そうそう、あともう1つ気掛かりなのはネーム入りのシャツの事だ。胸のポケットの所に小さく自分の名前が刺繍されている物なのだが、確かに『自分だけの物』は嬉しいし、究極の『自分だけの物』ではあるが、自分のフルネームを看板で背負っているみたいでこれもまた恥ずかしい。しかしセキレイさんが気に入っている様なので、それはそれでいいかとも思い始めている今日この頃。
「おお、小田切翡翠、電動コケシ使ってみたか?」
「……」
通路ですれ違いざまに鷹雄さんからその様に声を掛けられ、私は前言を撤回する。
そう、件のシャツには『小田切翡翠』という私の実名が縫い付けられている。
「くっ……」
もうすぐやってくるセキレイさんの誕生日には『渡辺セキレイ』とでかでかと名前の入ったシャツを贈りたい。
──そうは言っても、さすがにいい歳をした大人にネーム入りのシャツを着てもらうのは可哀想なので、日中、留守番でいつもの献上品達が鷹雄さんの部屋に集まった際に相談してみた。
「そう言えばセキレイさんの誕生日、もうすぐなんだっけ?」
ユリが私の隣で、着席している私達の為に自作のシフォンケーキを切り分けてくれる。
「うん。私、セキレイさんに何をあげたらいいかわからなくて」
以前なら、没落した国の王女と言っても、一般の民よりはお金の融通が利いたが、今の自分は無一文で何も持っていない。その状態でセキレイさんに恩返しをするとなると──
「肩たたき券!」
──とまあ、およそ子供が父の日に贈る様な物ばかりになってしまう。
ちなみに肩たたき券は、私の斜め左に座っている木葉の提案。彼女は毎年翠にそれを贈っているらしい。
「あー、翠さんて肩凝ってそうだもんね。何かこう、凝り固まってそう、頭とか」
遠回しに翠の頭が固いと言ったのは、私の正面に座るダリア。人を疑う事を知らない木葉はそれが皮肉とは気付いていないが、このひねくれ者は一体誰になら心を開くのだろう?
「ダリア」
ユリが低い声でダリアをたしなめると、彼女は舌を出しておどけた顔をした。
存外、ダリアはこうしてユリに叱られるのを楽しんでいる様な気がする。
「あ!私のシフォンケーキにコインが入ってた~」
木葉が小さい子供の様にはしゃいでシフォンケーキからコインを取り出した。
「幸運のコインよ」
ユリはそんな木葉を我が子を見るような目で眺め、目元を綻ばせる。
「こないだも木葉だったじゃない」
ダリアは不服そうに口を尖らせた。
「まあまあ、いつかダリアや翡翠にも必ず幸運はやってくるから」
ダリアはそれでもヘソを曲げていたが、私はユリの次回作がとても待ち遠しくなる。
「えへへ、こないだのもとってあるんだ~」
そう言って木葉が大事そうにコインをティッシュでフキフキしているのを見て、私は閃いた。
「私も何か残る物をあげたい」
だって時が来れば、私はセキレイさんと一緒にいられなくなるのだから、瑪瑙さんみたいに自分が居なくなってからでも遺した物をセキレイさんに大事にしてもらいたい。あれからセキレイさんは瑪瑙さんの遺品を整理したが、あの銃だけは手放さず、今も大事に保管している。時々、セキレイさんは夜中にそれを引っ張り出して来ては、使わないのに無駄に手入れをしていた。
そういった事で、私は今は亡き瑪瑙さんが羨ましかった。
「でもさ、翠はいつも、お前が一生懸命勉強や習い事をしてくれる事が俺にとってのプレゼントだよって言ってるよ~」
木葉はゆっくりとした口調で私に笑いかけた。
「私が王様の側室になる事がセキレイさんへのプレゼントになるって事?でも、それはプレゼントというより恩返しだと思う」
今は、自分が側室になって生涯安泰でいたいというよりも、セキレイさんの願いである東部国の王権を彼にもたらしたい。
でも今回の誕生日プレゼントとそれはまた話が別で、王権を彼に贈るのは年月を経た集大成としてだ。
「手料理を振る舞うのは?おっぱい茶碗蒸しとか」
ユリが名案とばかりに手を叩くも、ダリアに鼻で笑われる。
「おっぱいプリンと何も変わらないじゃない。それにいくらセキレイさんが爆乳好きだとしても、食べ物でこられてもねぇ」
「誰か、使用人のおねいさんに胸を借りるとか?」
今度は木葉が手を叩いた。
「木葉、そんなの私が何か嫌だ」
というか、セキレイさんは爆乳好きなんだ……ないわ。
「セキレイさんて煙草吸うじゃない?それなら紙粘土で灰皿を作るとか?紙粘土なら木葉のとこにあるでしょ」
ユリが閃き、人差し指を立てたが、私はかねがねセキレイさんの体が心配で喫煙を止めてほしかったのでこれには賛同出来ない。
「灰皿はダメ!灰皿を作ったらセキレイさんが肺癌になる」
「灰皿作ったくらいで肺癌になる訳ないでしょ?馬鹿ね」
ダリアにこき下ろされたが、私のモチベーションはこの程度ではくじけない。
「灰皿はダメだけど、ペン立てとかどうかな?」
あの部屋にはペン立てが無いので、セキレイさんはいつも、ペンを使うと、競馬場のおじさんみたいにそれを耳の上に挟んでいたりする。
セキレイさんのイメージが崩れるので是非とも止めていただきたい。
「翡翠、優しいね。そうね、ペン立てがいいかもしれない。材料も、綿棒が入ってたケースと紙粘土と絵の具があれば事足りるし。ケースなら確かあっちに……」
ユリは、そうと決ったらシフォンケーキに手も付けず、あちこちの戸棚を開けて材料探しに奔走する。
「木葉、部屋に紙粘土取りに行って来るね~」
誰も聞いていないが、そう言って木葉が部屋を飛び出して行き、テーブルには私とダリアだけが残された。
時折隣の部屋から『あれ?あれ?どこにしまったかな?』とユリの困り果てた声がしたが、私達2人は静まりかえっている。
ダリアは、口を開けば皮肉や嫌味を言ってくるので、私は彼女の逆鱗に触れぬよう黙ってシフォンケーキを食べていた。
すると、ダリアが──
「ねぇ、翡翠、シーグラスって知ってる?」
と前置きもなく尋ねてきた。
「シーグラス?」
聞いた事もない響きだ。でも『シー』と付くからには海の何かなのだろう。そして『グラス』って事は、硝子か?
「そう、シーグラス。そういえばあんた、没落した南部国の人間だから実際の海を見た事がないんじゃないの?」
没落……
いつも思う、ダリアはいつも一言多い。しかしそれにいちいち腹を立ていても無駄だと学習した。
「ないよ。南部国は砂漠の国だから」
私は、ダリアにまた皮肉を言われるのではないかと警戒しながら話していた。
「そう、シーグラスってね、単なる硝子の破片なんだけど、海で流されるうちにこんな感じになるのよ」
そう言ってダリアはスマホを弄り、シーグラスの画像を見せてくれた。
「え!凄い!これが硝子!?凄く綺麗」
私は警戒するのも忘れ、色とりどりのシーグラスのくぐもった、温もりのある美しさに興奮し、見とれる。
宝石でもないのに凄く綺麗で個性的な輝き方をしてる。ひとつひとつ形も違って、1つとして同じ物はない。
そんなシーグラスに、私は一瞬で心を奪われた。
セキレイさんにあげたいな。水色のシーグラスなんかはクールなセキレイさんにぴったりだ。
「浜辺に行くとゴロゴロ落ちてるのよ?ペン立ての紙粘土に埋め込んだらきっと綺麗だと思わない?窓から差した日光が当たったら、涼やかだけど暖かく光輝くの。これなら絶対セキレイさんも喜んでくれるはずよ」
ダリアは珍しく微笑み、スマホをポケットにしまう。
「でも、浜辺に行かないとないんでしょ?」
献上品の子供達は基本、1人で外に出てはいけない。外に出たところを見つかると、その場で射殺されるらしい。
「海ならここから北に10分程歩いた所にあるから、往復20分くらいで戻って来られるわよ」
「でも私達献上品は、通行証が無かったり、大人の付き添いがなければ、外に出たら殺されるってセキレイさんが言ってた」
外に出る事は許されない。
私はさっきまでのテンションがただ下がりし、猫背気味に俯く。
せっかくセキレイさんに綺麗なペン立てをあげようと思ったのに……
私が落ち込んでいると、ダリアは『なーに言ってるの!』と私の方へ出向き、背中をベチンと殴打した。
「いたっ」
私は勢いでテーブルに手を着く。
ダリアは私を励ますつもりだったのだろうが、やたらとその手に力が入っている。痛いじゃない。
「そんなもの、献上品に逃げられない為の大人の嘘に決まってるじゃない。真に受けるなんて馬鹿ね。見つかったってせいぜいお尻ぺんぺんくらいよ」
『ぺんぺん』と言いながらダリアに尻を叩かれたが、やはりそれも痛い。ダリアらしいと言うか、なんだか確信犯に思える。
「でも、勝手に出てったのがセキレイさんにバレたら……きっと嫌われる」
それだけは避けたかったので、言っていて少し悲しくなった。
「バレっこないわよ」
そう言ってダリアは悪巧みを画策する様に私に耳打ちをする。
「調教師達が戻るのは夕方、それまでに戻れば問題ないし、献上品の特別枠であるユリの通行証があれば咎められる事なく城を出入り出来る。ユリには黙っててあげるから、行って来なさいよ」
確かにユリは私達一般の献上品とは違い、何故か城を出る事が許されている。たまに課外学習として鷹雄さんに何処かへ連れて行かれる事もあった。そんなユリの通行証があれば、何の問題も無く城を出入り出来るだろう。
ゴクリと私の喉が鳴った。
ダリアは私を唆す様にニヤニヤと戸棚の引き出しからこれ見よがしにユリの通行証を出す。
「じゃじゃーん。これがあれば海に行けるよ」
ダリアは有無を言わさずそれを私の胸ポケットに押し込んだ。
「ダリア!でも私、怖い」
悪い事をしている自覚も、外への不安もあった。
失敗したらどうしよう、そんな事ばかりが頭を過る。
「失敗したらどうしようとか思ってんでしょ?でもそれって既に、あんたは行く気だからそう思ってんのよ。馬鹿ね、臆病なうえに心配性なんだから。心配しなくても、私はしょっちゅうユリの通行証を持ち出しては外に出てるわよ?しかも未だに誰にも見つかってないんだから。それにあんた、セキレイさんの誕生日をきちんとお祝いしたいんでしょ?」
そんな風に言われると、私はセキレイさんの為ならと思えるようになり、歯をくいしばって鷹雄さんの部屋を出る。とにかくセキレイさんに喜んでほしくて、私はユリの通行証を首から下げてエレベーターに飛び乗った。
ユリとは見た目も年齢も違うのに、特に関所の様な所が無いせいか意外とすんなり城の駐車場まで出れた。
城というのは、侵入は難しいが、出るのは簡単なのかもしれない。
これに気を良くした私は、足取りも軽く北方面へ駆けて行った。
久しぶりの外だ。寒いけど、天気はいいし、空気も澄んでる。木々の隙間から見える木漏れ日がとても綺麗だ。何より、つかの間の自由が嬉しい。走ったり、寝転んだり、立ち止まって両手を大きく広げたり、こんな当たり前の事を城の廊下でやったらセキレイさんに怒られるだろう。
脛まである雪を素手でさらうと、清々しいくらい冷たい。それをギュッと握って目先の樹に投げつけると、白く弾けてキラキラと散った。
なんて儚くても美しい。
こうしていると、私は自分が奴隷であった事や、献上品である事なんか忘れ、新しい自分になった気がする。
何にも縛られない事がこんなにも新鮮で楽しいなんて、南部国にいた時ですら知らなかった。
薄汚れた砂しかない国とは違う、白く美しい銀世界、とても幻想的で、夢の国みたいだ。10分と言わず、20分と言わず、もっともっとここで遊びたい。絵本の中で見た鎌倉や雪だるまを作ってみたい。雪灯籠もいいな、雪兎も作りたい!
「……」
でも私はセキレイさんの元に帰らないと。
セキレイさんに綺麗なペン立てをあげたい。
セキレイさんに喜んでほしい。笑ってほしい。褒めてほしい。
それでセキレイさんにもっと私を好きになってほしい。
私は本来の主旨を思い出し、真っ直ぐ前へ歩き出した。
そろそろ10分も歩いただろう。くるぶしまでしかない靴から雪が入り込んで既に足先が霜焼けになっている。一旦興奮も落ち着くと、薄着で城を飛び出してきたのが悔やまれた。
私は背を丸め、両手で自分を抱き締めて歩き続ける。
「おかしいな、10分くらい歩いたら海のはずなのに」
歩けど歩けど海の『う』の字も見つからない。
まだかな、まだかな?
終わりなき白銀の樹海が私の気持ちをはやらせた。
「あ、松ぼっくり!鳥の羽もある!」
道なき道の先に松ぼっくりやらモノトーンの羽を見つけ、私は駆け寄ってそれを拾い上げる。
「松ぼっくりはクリスマスに飾ろう。この羽は何の鳥のかな?白、黒、灰色……セキレイかな?」
ちょうどいい、この羽でドリームキャッチャーも作ろう。セキレイさんと同じ名前の鳥の羽なら、きっとセキレイさんの願いが叶う。
私は手頃な羽を数枚と、松ぼっくりを2個ポケットに入れた。
「よーし、何だか幸先がいいな。夕方まで時間がある、もうちょっと進んでみよう」
私は自分を鼓舞するように独りごちて、ズンズン前に進む。
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク
ザク……
私は遂に足を止めた。
ザクザクと雪に足を取られながら歩くこと1時間以上、海に到着するどころか潮の気配もない。
ここにきて私は、さすがに何かがおかしいと思い始め、ひょっとしたらダリアに担がれたのではないかという猜疑心に苛まれる。
あと少し歩けば、あともう少し歩けば、海が見えてくるのではないかと前に進んで来たが、もやは手足がかじかんで感覚がない。
おまけにシンシンと雪まで降り始め、私は、このままでは凍えてしまうのではないかと踵を返して戻る事を決意した。
「ずっと真っ直ぐ歩いて来たんだから、この足跡を辿れば戻れるよね」
私は自分の足跡の通りに来た道を戻る。
帰り道で1時間ならセキレイさんが帰る頃には戻れるはず。
シーグラスを拾えなかった事は残念だけど、このままだと凍えてしまう。
往復20分ならと、上に3枚しか纏わないで来たが、マフラーや帽子、手袋くらいしてくれば良かった。
あー、でも、そもそも私には外に出掛ける用の衣服類は1枚も無いんだった。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチ
何の音かと思えば、寒さで私の全身は無意識に震え、歯と歯がぶつかり合っていた。鳥肌も止まらないし、勝手に肩もいかってしまう。体が生命の危機を感じている証拠だ。
早く帰らなきゃ、このままだと死んでしまう。
日が沈み始め、私は少し焦りだす。
行きとは違い、降雪が視界を遮り、私の行く手を阻まんとする。早く戻らなければと思うのに、思うように前へ進めない。足も手も、自分の物ではないかのように言うに任せない。
「あっ!」
私は雪に足をとられて膝から積雪に倒れ込み、その拍子に松ぼっくりを1つ落とした。
私はただちにそれを拾い上げようとして、ある事に気付く。
足跡がもう1つある。
「うそ……来る時は無かったのに」
その足跡は私のより二回り以上大きくて、私の足跡を遮る様に点々と存在している。
これは大人の男の人の足跡だ。きっと見廻りの兵士の物に違いない。
「どうしよう、捕まってしまう」
でも、兵士に見つかったところでお尻ぺんぺんくらいで済むのなら問題ないか?
ただ、セキレイさんにバレたら大目玉をくらうので、私は落とした松ぼっくりも忘れ、辺りを警戒しながら速足で進んだ。
それから30分は歩いただろうか?
何だか意識が朦朧として体が怠い。降雪のせいか、体調のせいか、目の前がやけにホワイトアウトして見える。おかげで自分が来た足跡が見えない。
「ハァハァハァハァ」
呼吸が苦しい。でも大きく息を吸うと冷たい空気が喉を襲う。
寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い
もう寒いしか考えられなくなりそうだ。
まずい、私、死んじゃうんじゃないかな?
命の危機を感じると、私は途端に怖くなった。
「やだ、セキレイさんに会いたい」
初恋の人に騙され、家族を殺され、住む所も失い、奴隷として売られた頃は生きたいとか思わなかったのに、今は死ぬ事が本当に怖い。
セキレイさんの、可もなく不可もない素っ気ないスープが飲みたい。あの、大して暖かくもないけど温もりのある部屋に帰りたい。雷が鳴らなくてもセキレイさんと一緒のお布団で寝たい。
死にたくない。
足が言う事を利かなくなったが、私は地面に這いつくばって死にもの狂いで前に進んだ。
全てはセキレイさんに再会する為に。
しかしそれから数分も経たないうちに、私の意識もホワイトアウトする。
──私は夢を見た。
誰かに抱き上げられ、その懐で温もりを感じるという夢だ。
とてもリアルで現実みたいだ。
温かい、でも誰だろう、体が馴染まない。セキレイさんじゃない、もっとスマートで、胸板が柔軟な筋肉をしている。
翠?
違う気がする。翠はお日さまの匂いがする。
鷹雄さん?
それも違う気がする。イメージだけど、鷹雄さんは軍医だから消毒液の香りがするはず。
見張りの兵士?
それも違う気がする。兵士はもっとマッチョだ。
──じゃあ、誰だ?
というか、これは現実か?
「君、君、戻っておいで」
耳触りのいいソフトな呼び声で私は現実に引き戻された。
重たい瞼を持ち上げると、そこには白馬でも似合いそうな正統派美青年のドアップが──
睫毛長いな。色も白くて、絹糸みたいな長い髪をしてる。灰汁の無い塩顔だ。男の人?綺麗な人……
夢じゃなかったんだ。
そう思っていると、その青年は私に品良く笑いかけてきた。
「良かった、目覚めた。低体温症にかかってたみたいだけど、こんな日暮れまでここで何をしていたのかな?」
「日暮れっ!?」
私は辺りを見回し、いつの間にかとっぷりと日が沈んでいるのを確認すると、私を抱いていた青年の腕の中で暴れだす。
「私、城に戻らないと!セキレイさんに怒られる」
「セキレイ?君、献上品の子かぁ」
青年は暴れる私を押さえつけ、ニッコリと微笑んだ。
この人、筋肉質な感じはまるでないのに割と力が強いところは、やはり大人の男の人だ。
「駄目だよ、暴れちゃあ。さっきも言ったけど、君は低体温症にかかっているんだから、死にたくなかったらじっとしておいで」
誰だろう?この人、上着まで掛けてくれて、私を助けてくれた?
見た感じ雰囲気が柔和で悪い人には見えないけど、セキレイさんに『絶対に知らない大人と鷹雄には付いて行くな』と耳にタコどころかイカが出来る程言われているから、離れた方がいいのだろうか?でも、私はこの人からはぐれたら確実に死んでしまう。
「あの、あなたはお城の見張りの方ですか?」
私は暴れるのを止めてじっと青年の顔を見つめる。
やっぱり綺麗な顔立ちだ。背景に花ばなが散って見える。けど、いくら見た目が綺麗だからと言って知らない人には変わりないし、何より初対面の男性にお姫様抱っこされるのは居心地が悪い。
「私?私は見張りでここまで来たんじゃないよ。この先の崖に花を手向けに来たんだ」
『この先』と言って青年は後ろを振り返ってみせたが、暗闇で一寸先も見えない。日中は日の光によって輝いていた銀世界も、夜になると様相を一変させ、白と黒だけの葬式みたいな世界に見える。こんな所に独りでいたら寂しさと不気味さで気がおかしくなりそうだ。
「この先には海があるって聞いてたんですけど……そこでセキレイさんの為にシーグラスを探しに来たんです」
「あらあら、それは一杯食わされたね。この先には崖しかないよ。だって城は後ろからの侵入を防ぐ為にこの立地に建てられたんだから。積雪で先が見えないから、そのまま進んでたらきっとおっこちて死んでいたかもしれないね」
信じたくはなかったけれど、これでダリアの罪は確定した。
あのまま進んでいたら、死んでた?
私は今になってガクガクと膝が震えだす。
「大丈夫だよ。君はもう大丈夫だから、何も怖がらなくていい。私が必ず城まで送ってあげるから」
「……違うんです。寒いだけです」
青年は私を安心させようと朗らかに話してくれたが、私は初対面の人間に自分の弱い部分を見せられなくてつい強がりを張ってしまう。
「そうか、近くに観測小屋があるから、雪が収まるまでとりあえずそこに居よう」
そう言うと青年は、私を抱いたまま急ぎ足で道を逸れた。
私を抱いたまま雪道を歩くなんて、大変だろうに、しかも上着まで貸してくれて、この人はきっと風邪をひく。どうせ献上品なんて、元奴隷や身寄りの無い孤児ばかりだし、ましてや脱走かもしれない私になんて親切なんだろう?
青年は私に雪がかからないよう、自分の体を盾にして蟹歩きまでしてくれる。そんな彼の頭にはどんどん雪が積もっていき、私の謝意も積もっていった。
ログハウス風の小さな観測小屋に着き、青年は私を寝かせると、石油ストーブを着けてくれた。
ランタンと石油ストーブの灯りで室内がボンヤリと照らされ、じんわりと温かい。木のいい匂いも少しだけ私を落ち着かせてくれる。
私はやっと生命の危機から脱する事が出来た。
「石油が残ってて良かったよ。ここは私が野鳥観察する時に使っている小屋なんだけど、君の役にたてて良かった。外にはスノーモービルを停めてあるから、視界が晴れたら出発出来るよ。勿論、君が私の背中にしがみつけるまでに回復したらね」
言いながら青年は、いつかのセキレイさんみたいに私の足を自分の手で揉んで温めてくれた。彼の手は冷たく凍えていたが、ハァと息を吹きかけて優しい温もりをくれる。上着だって私に貸したままだ。
「小さい足だね」
クスクスと笑って青年が私の足をくすぐり、私はびっくりして足を引っ込める。
「ちょっとは元気になったようで安心したよ。初めて君を見た時は、人形みたいで死んでいるのかと思ったよ」
「私も、自分は死ぬんだと思いました」
私はその時の事を思い出すと目頭が熱くなり、青年から顔を背けた。
「君を騙した人間の事を恨んだ?」
「え?」
ダリアを恨むだなんて思い付きもしなかったので、私はその発想に驚かされる。
死ぬ思いまでしたのにシーグラスを手に入れる事が出来なかったのが悔しい、その程度の悔しさならあるが、始めから意地悪だったダリアを信じた自分が馬鹿なのだ、別に彼女を責める気はない。おかげでドリームキャッチャーの材料が手に入った。これでセキレイさんの願いを叶える助けになる。それだけが報いだった。
それにユリが、人を恨む事の無意味さを教えてくれた。人を恨んでも自分が辛くなるだけなのだ。時折、城でトールとすれ違う場面もあって苦しくなったが、セキレイさんが一緒に居てくれるから、私はまだ心の平穏を保てた。
「騙された事はいいんです。ただ、シーグラスが手に入らなかった事や、あなたに迷惑をかけた事の方が……」
どうしよう、この人は絶対風邪をひく。
私は青年に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
この青年だって、普通なら今頃暖かい部屋で温かい夕食を食べている時分だ、なのにこんなに髪を濡らして、寒かっただろうに。
「子供がそんな事気にしなくていいんだよ。それに私は、君みたいなピュアな子に出会えて良かったよ。城の連中ときたら、狡猾な奴ばっかりで嫌になるからね」
青年はわざと口をへの字にして嫌悪感をコミカルにアピールした。
そこでふと私は思う、ところでこの親切な青年は何処の誰なのだろう?城の敷地内に居た事や、城での事を話す口振りから城内部の者である事は確かだが、そうだとして、単独でここまで来た私を咎めないのは何故だろう?
「あの、お名前をおうかがいしてもよろしいですか?」
私は青年の方に向き直った。
「私?私はね、波風って言うんだよ。海の波に風と書くんだ。その漢字は調教師から習った?」
私はコクリと頷く。
波風か、この涼やかで端整な顔の青年にぴったりな爽やかな名前だ、しかも清涼感があっていい響きだ。
「いい名前」
私が無意識にそう口にすると、青年ははにかんで見せる。
「そうかな?物事に波風を立てるとは言われたものだけど。君は?」
「私は小田切翡翠といいます」
私が起き上がって挨拶をしようとすると、青年は『無理しないで』とそれを制止してくれた。
「そう、小田切翡翠ね、覚えたよ。君も瑪瑙に似てとても綺麗な瞳をしているね」
私は青年に目尻をなぞられ、くすぐったくて目を細める。
「瑪瑙さんの事、知ってるんですか?もしかして崖に花を手向けに来たって、あすこで瑪瑙さんが?」
セキレイさんの話では、瑪瑙さんは崖から落ちて死んだという。もしかしたら彼女が最期に追い込まれたのはあの先の崖だったのかもしれない。
「そうらしいね。私も人伝に聞いただけだから……可哀想に、怖かっただろうに。君が同じ事にならなくて本当に良かったよ」
この人は瑪瑙さんの話をする時、セキレイさんと同じ様な顔をする。狂おしくって、寂しくて、それでいて憂いていて。
彼らにこんな顔をさせる瑪瑙さんとは、一体どんな人なんだろう?
「波風さんも、瑪瑙さんの事が好きだったんですか?」
何となく、そう思った。
「そうだね。好きだったよ。無知で、純粋な彼女が好きだった」
青年は何処か遠くを見て微笑する。
この人は瑪瑙さんとどういう関係だったのだろう?
気になったが、何だかしんみりした空気になってしまったので、私は開きかけた口を閉じた。
「ねぇ、ところで君は何歳だい?」
青年が急に私の顔の横に手を着き、顔を寄せてきて、私は驚いて腰が引ける。
「えっと、10歳になりました」
近いな。この人も目が悪いのかな?それとも耳が?でも今まで普通の距離で通じ合えてたのに。
「10歳か、じゃああと6年したら──」
あと6年したら?
私が続きに耳を傾けた時、突然足元側のドアがものすごい勢いでぶち開けられた。
「セキレイさん!?」
吹雪をバックにセキレイさんが目をつり上げて仁王立ちしていた。
何だかとてつもなく怒っている様に見える。その証拠に背後に炎のオーラが見えた(ような気がする)
「風斗!その子はまだ子供だ!」
風斗と呼ばれた青年は苦笑いして私の上から身を引き、セキレイさんに向き直った。
「風斗……風斗……」
何処かで聞いた名前だ。何処だったか……………………王様の本名!!
私が驚嘆して目を白黒させていると、王は悪びれた様子もなく『波風は名字だよ』と頭を掻いて照れくさそうに笑った。
「嫌だな、兄さん、私がこんな子供に悪戯でもすると思ったの?それじゃあまるでロリコンの変態みたいじゃ──」
「思った!」
セキレイさん!!
セキレイさんがあまりにも喧嘩腰で食いぎみに言い放つものだから、私は気が気ではない。
「セキレイさん、波か──王様は私を助けてくれたんです」
私はまだ完全ではない体を起こすと、目眩で床に手を着き、王にその体を支えられた。
「大丈夫かい?あまり無理をしちゃ駄目だよ」
王に背中をさすられ、私はペコリと頭を下げる。
「兄さん、翡翠の体が冷えるから閉めてもらえるかな?」
王が、怒り狂うセキレイさんとは対照的に落ち着き払ってドアを顎で指すと、セキレイさんはイライラしながらも素直にドアを閉めた。
セキレイさん、凄く怒ってる。私が脱走したと思っているのかな?何だか怖い。
私はセキレイさんと出会った頃の恐怖を思い出していた。あの頃はセキレイを冷たい人間だと思って恐れていた。
「翡翠、帰るぞ、今すぐ、直ちに、速やかに」
セキレイさんが一気に捲し立て、強引に私の腕を引く。
「いたた、セキレイさん、待って!待って!」
私は体が思うように動かないのに腕だけ持っていかれ、腕の節が軋んだ。
「セキレイ!もう少し優しく扱ったらどうだ?」
穏やかそうな王が私の為にセキレイさんを叱責してくれたが、それは逆にセキレイさんの火に油を注ぐ事となる。
「お前が言うな、三角木馬」
セセセセセ、セキレイさんっっ!!
全ては私のせいだけれど、王様相手にそんな事を言ったら、いくら腹違いの兄だとしてもどうなる事か。
「セ、セキレイさん!王様相手にそんな恐れおおい」
「ここは城の外だ。ならただの異母兄弟だ」
セキレイさんは依然として傲慢な態度だが、私はセキレイさんが心配で卒倒しそうだった。
「別に構わないけど、一応ここは城の敷地内だからね。ていうか、何だい?その変なあだ名は」
王は別に気分を害した様子もなく、ハァと呆れてため息をつく。よく考えると彼は私の仇だが、セキレイさんにあんなけなされ方をしても平静でいられるなんて、懐の深いお人だと思った。
「お前の代名詞だ」
セキレイさん、もうヤメテー!!
「セキレイさん、王様は私に良くしてくださいました。私が崖から落っこちなかったのも、低体温症で死ななかったのも王様のおかげなんです。だからそんな言い方しないで下さい」
私は心配して探しに来てくれたセキレイさんを責めるつもりはなかったが、何も悪くない王を無下に扱うのは善くないと思った。何より、ブーメランとなってセキレイさんの沽券に関わるといけない。でもセキレイさんにそれは伝わらないし、逆にセキレイさんがどれだけ私を心配したかというのも私にはよく伝わっていなかったのだと思う。
ベチンッ!!
私はいきなりセキレイさんに頬をぶたれ、衝撃で目の前に星が飛び、ポケットから最後の松ぼっくりが転がり出た。
「お前は何も解ってないっ」
セキレイさんは殴られた私よりも苦しそうに顔を歪め、一瞬、言葉を詰まらせる。
セキレイさんはきっと私をとても心配してくれたのに、私は無神経な事を言って彼を怒らせてしまった。
私は、セキレイさんにこんな顔をさせた自分が許せなくなり、頬の痛みが気にならない程胸が苦しくなった。
「もういい、翡翠、お前は今からそこの王に献上されるといい。俺は帰る」
「セキレイさん!待って!」
『置いていかないで』とセキレイさんにすがろうとしたが、目の前で荒々しくドアを閉められた。
セキレイさんに嫌われた。
セキレイさんに見放された。
セキレイさんに捨てられた。
「翡翠、大丈夫?」
「……」
私が黙って絶望に打ちひしがれていると、王は後ろから私を抱き締めてくれた。
温かくて、いい匂いがしたけれど、セキレイさんとは全然違う。セキレイさんはもっとこう……
思い出すと泣けてくる。
「翡翠、君の事は6年後に貰い受けようと思ったけど、今から私が面倒をみよう。献上の手順なんてどうでもいい。私自らが、王である私の好みにお前を育てあげよう」
「え?何を言っているんですか?私はセキレイさんちの子ですよ?」
私は気がどうにかなっていて、訳も解らず王の腕の中でもがいたが、彼は暴れ馬を宥めるようにドウドウと言って私の頭を撫でた。
そして前代未聞の信じられない事を口にする。
「私がお前の調教師になろう」
そして王は『今からお前はうちの子だ』と言った。
──そう思っていたのに、誕生日当日の朝目覚めると、いつもそこに広がっていたはずの青空は無く、真っ白な世界が広がっていた。
「セキレイさん!壁紙、壁紙!」
私が飛び起きてリビングへ行くと、翠、木葉、鷹雄さん、ユリが三角帽を被ってクラッカーを鳴らした。セキレイさんとダリアは絶対に三角帽とクラッカーは鳴らさないと拒絶したらしく、手ぶらで棒立ちしている。多分だけど、セキレイさんはプライドが三角帽を許さず、クラッカーは怖くて引けないのだろう。ダリアに至っては、この状況を馬鹿馬鹿しい茶番だと思っていたに違いない。
それでも、皆がこうして自分の為に集まってくれたのが嬉しかった。しかもプレゼントまで用意してくれて、翠からは箸の持ち方を矯正する治具、木葉からは原型をとどめない下手く……斬新な似顔絵?ユリからはウェディングケーキに匹敵する程の大きなバースデーケーキ、鷹雄さんからは見たこともない電動のコケシ、ダリアからは皮肉をもらった。セキレイさんからは『自分だけの物』を沢山貰った。壁紙もそのひとつだ。夜中に私が眠っている隙に青空の壁紙を綺麗に剥がし、その代わりとしてカタログを提示し、こう言ってくれた。
「あの部屋は翡翠の物なんだから、自分の好きな壁紙にするといいよ」
毎朝、起きる度に他人の部屋で目覚める違和感を味わう事もなくなるのだと思うと、とても嬉しかった。瑪瑙さんの部屋にお邪魔させていただいているとか、瑪瑙さんの部屋を汚してはいけないといったかしこまった気分を払拭出来るのは自分の精神にとってもいい事だろう。
おまけにパジャマからシャツからタオルから筆記用具の細部に至るまで全て、自分の好きな物をネットでチョイスしていいと言われ、嬉しい反面、逆にセキレイさんや瑪瑙さんに申し訳なく思った。
私は瑪瑙さんの身代わりなのに、いいのかな?
セキレイさんは瑪瑙さんの遺品をとっておいてたのに、あれら全てを処分するのだろうか?
他人のお下がりに抵抗はあったけれど、セキレイさんの心中を思うと何だか気が引けた。
手放しで喜んでいいのかな?
「私、今着ているパジャマも、他の服も、タオルも、今使っている物全てに愛着があるから、別にこのままでもいいんです」
本当は嫌だった。
瑪瑙さんの物を身に纏っていると、自分がまるで瑪瑙さんの皮を被って、セキレイさんから瑪瑙さんとして見られている様で嫌だった。でもセキレイさんが悲しむなら、私はそんな目で見られても我慢する、そう思っていたのだが、セキレイさんはしゃがんで私に向き合い『我慢しなくていい』と言ってくれた。
セキレイさんは、私の思っていた事が解っていたみたいだ。
「今までごめんな。嫌だったよな?これからはここをお前の物でいっぱいにしよう」
「私は……」
そうしてセキレイさんに頭を撫でてもらうと色んな事がどうでもよくなり、同時に、私は自分だけの物が欲しかったというよりも、自分だけのセキレイさんが欲しかったのだと気がついた。
「セキレイさん、ありがとうございます。私はあなたの気持ちが嬉しいんです」
私がセキレイさんに深々と頭を下げると、翠が──
「最初はどうなる事かと思ったけど、君らって本当は凄く相性がいいのかもね」
と言ってくれて、私はその事がとても喜ばしかった。
最初は気が咎めたが、自分だけの物、自分だけのセキレイさんが手に入ったようで天にも昇る思いだった。
例えそれが6年程のかりそめの関係でも──
それから数ヶ月間、私はセキレイさんの為に勉強やら一般教養やら習い事にこれまで以上に真剣に取り組んだ。
「翡翠、ほら、ここ間違ってるぞ」
勉強で間違っても、セキレイさんと一緒にいる時間はとても穏やかで、全ての物事が尊いものに思えた。
ちなみに、結局、誕生日プレゼントだった壁紙は差し替えず、毎朝起き抜けにあのまっさらな天井や壁を見ている。おかげで清々しい朝を迎えられている。パジャマ等の日用品はセキレイさんに選んでもらって全て新調した。可笑しい事に、あの朴念人が選んだ物は、小さな女の子が好みそうな可愛らしい物ばかりで、シンプルな物が好きな私はちょっと『ないわ』と思ったが、セキレイさんが私の為に一生懸命選んでくれた気持ちが嬉しくて、今ではその日用品の一つ一つがいとおしい。セキレイさんが選んでくれた、私だけの物、そう思っただけで毎日が薔薇色だ。
不思議だ、セキレイさんが選んでくれたってだけなのに、どピンクのパジャマや、フリフリの服、マスコットが乗ったペンが好きになってる。
ただ、ただだ、フリフリの服は部屋以外で着るのはさすがに恥ずかしくて、早くサイズが合わなくなるように毎日熱心に牛乳を飲んでいる。勿論、その事はセキレイさんには内緒だ。
そうそう、あともう1つ気掛かりなのはネーム入りのシャツの事だ。胸のポケットの所に小さく自分の名前が刺繍されている物なのだが、確かに『自分だけの物』は嬉しいし、究極の『自分だけの物』ではあるが、自分のフルネームを看板で背負っているみたいでこれもまた恥ずかしい。しかしセキレイさんが気に入っている様なので、それはそれでいいかとも思い始めている今日この頃。
「おお、小田切翡翠、電動コケシ使ってみたか?」
「……」
通路ですれ違いざまに鷹雄さんからその様に声を掛けられ、私は前言を撤回する。
そう、件のシャツには『小田切翡翠』という私の実名が縫い付けられている。
「くっ……」
もうすぐやってくるセキレイさんの誕生日には『渡辺セキレイ』とでかでかと名前の入ったシャツを贈りたい。
──そうは言っても、さすがにいい歳をした大人にネーム入りのシャツを着てもらうのは可哀想なので、日中、留守番でいつもの献上品達が鷹雄さんの部屋に集まった際に相談してみた。
「そう言えばセキレイさんの誕生日、もうすぐなんだっけ?」
ユリが私の隣で、着席している私達の為に自作のシフォンケーキを切り分けてくれる。
「うん。私、セキレイさんに何をあげたらいいかわからなくて」
以前なら、没落した国の王女と言っても、一般の民よりはお金の融通が利いたが、今の自分は無一文で何も持っていない。その状態でセキレイさんに恩返しをするとなると──
「肩たたき券!」
──とまあ、およそ子供が父の日に贈る様な物ばかりになってしまう。
ちなみに肩たたき券は、私の斜め左に座っている木葉の提案。彼女は毎年翠にそれを贈っているらしい。
「あー、翠さんて肩凝ってそうだもんね。何かこう、凝り固まってそう、頭とか」
遠回しに翠の頭が固いと言ったのは、私の正面に座るダリア。人を疑う事を知らない木葉はそれが皮肉とは気付いていないが、このひねくれ者は一体誰になら心を開くのだろう?
「ダリア」
ユリが低い声でダリアをたしなめると、彼女は舌を出しておどけた顔をした。
存外、ダリアはこうしてユリに叱られるのを楽しんでいる様な気がする。
「あ!私のシフォンケーキにコインが入ってた~」
木葉が小さい子供の様にはしゃいでシフォンケーキからコインを取り出した。
「幸運のコインよ」
ユリはそんな木葉を我が子を見るような目で眺め、目元を綻ばせる。
「こないだも木葉だったじゃない」
ダリアは不服そうに口を尖らせた。
「まあまあ、いつかダリアや翡翠にも必ず幸運はやってくるから」
ダリアはそれでもヘソを曲げていたが、私はユリの次回作がとても待ち遠しくなる。
「えへへ、こないだのもとってあるんだ~」
そう言って木葉が大事そうにコインをティッシュでフキフキしているのを見て、私は閃いた。
「私も何か残る物をあげたい」
だって時が来れば、私はセキレイさんと一緒にいられなくなるのだから、瑪瑙さんみたいに自分が居なくなってからでも遺した物をセキレイさんに大事にしてもらいたい。あれからセキレイさんは瑪瑙さんの遺品を整理したが、あの銃だけは手放さず、今も大事に保管している。時々、セキレイさんは夜中にそれを引っ張り出して来ては、使わないのに無駄に手入れをしていた。
そういった事で、私は今は亡き瑪瑙さんが羨ましかった。
「でもさ、翠はいつも、お前が一生懸命勉強や習い事をしてくれる事が俺にとってのプレゼントだよって言ってるよ~」
木葉はゆっくりとした口調で私に笑いかけた。
「私が王様の側室になる事がセキレイさんへのプレゼントになるって事?でも、それはプレゼントというより恩返しだと思う」
今は、自分が側室になって生涯安泰でいたいというよりも、セキレイさんの願いである東部国の王権を彼にもたらしたい。
でも今回の誕生日プレゼントとそれはまた話が別で、王権を彼に贈るのは年月を経た集大成としてだ。
「手料理を振る舞うのは?おっぱい茶碗蒸しとか」
ユリが名案とばかりに手を叩くも、ダリアに鼻で笑われる。
「おっぱいプリンと何も変わらないじゃない。それにいくらセキレイさんが爆乳好きだとしても、食べ物でこられてもねぇ」
「誰か、使用人のおねいさんに胸を借りるとか?」
今度は木葉が手を叩いた。
「木葉、そんなの私が何か嫌だ」
というか、セキレイさんは爆乳好きなんだ……ないわ。
「セキレイさんて煙草吸うじゃない?それなら紙粘土で灰皿を作るとか?紙粘土なら木葉のとこにあるでしょ」
ユリが閃き、人差し指を立てたが、私はかねがねセキレイさんの体が心配で喫煙を止めてほしかったのでこれには賛同出来ない。
「灰皿はダメ!灰皿を作ったらセキレイさんが肺癌になる」
「灰皿作ったくらいで肺癌になる訳ないでしょ?馬鹿ね」
ダリアにこき下ろされたが、私のモチベーションはこの程度ではくじけない。
「灰皿はダメだけど、ペン立てとかどうかな?」
あの部屋にはペン立てが無いので、セキレイさんはいつも、ペンを使うと、競馬場のおじさんみたいにそれを耳の上に挟んでいたりする。
セキレイさんのイメージが崩れるので是非とも止めていただきたい。
「翡翠、優しいね。そうね、ペン立てがいいかもしれない。材料も、綿棒が入ってたケースと紙粘土と絵の具があれば事足りるし。ケースなら確かあっちに……」
ユリは、そうと決ったらシフォンケーキに手も付けず、あちこちの戸棚を開けて材料探しに奔走する。
「木葉、部屋に紙粘土取りに行って来るね~」
誰も聞いていないが、そう言って木葉が部屋を飛び出して行き、テーブルには私とダリアだけが残された。
時折隣の部屋から『あれ?あれ?どこにしまったかな?』とユリの困り果てた声がしたが、私達2人は静まりかえっている。
ダリアは、口を開けば皮肉や嫌味を言ってくるので、私は彼女の逆鱗に触れぬよう黙ってシフォンケーキを食べていた。
すると、ダリアが──
「ねぇ、翡翠、シーグラスって知ってる?」
と前置きもなく尋ねてきた。
「シーグラス?」
聞いた事もない響きだ。でも『シー』と付くからには海の何かなのだろう。そして『グラス』って事は、硝子か?
「そう、シーグラス。そういえばあんた、没落した南部国の人間だから実際の海を見た事がないんじゃないの?」
没落……
いつも思う、ダリアはいつも一言多い。しかしそれにいちいち腹を立ていても無駄だと学習した。
「ないよ。南部国は砂漠の国だから」
私は、ダリアにまた皮肉を言われるのではないかと警戒しながら話していた。
「そう、シーグラスってね、単なる硝子の破片なんだけど、海で流されるうちにこんな感じになるのよ」
そう言ってダリアはスマホを弄り、シーグラスの画像を見せてくれた。
「え!凄い!これが硝子!?凄く綺麗」
私は警戒するのも忘れ、色とりどりのシーグラスのくぐもった、温もりのある美しさに興奮し、見とれる。
宝石でもないのに凄く綺麗で個性的な輝き方をしてる。ひとつひとつ形も違って、1つとして同じ物はない。
そんなシーグラスに、私は一瞬で心を奪われた。
セキレイさんにあげたいな。水色のシーグラスなんかはクールなセキレイさんにぴったりだ。
「浜辺に行くとゴロゴロ落ちてるのよ?ペン立ての紙粘土に埋め込んだらきっと綺麗だと思わない?窓から差した日光が当たったら、涼やかだけど暖かく光輝くの。これなら絶対セキレイさんも喜んでくれるはずよ」
ダリアは珍しく微笑み、スマホをポケットにしまう。
「でも、浜辺に行かないとないんでしょ?」
献上品の子供達は基本、1人で外に出てはいけない。外に出たところを見つかると、その場で射殺されるらしい。
「海ならここから北に10分程歩いた所にあるから、往復20分くらいで戻って来られるわよ」
「でも私達献上品は、通行証が無かったり、大人の付き添いがなければ、外に出たら殺されるってセキレイさんが言ってた」
外に出る事は許されない。
私はさっきまでのテンションがただ下がりし、猫背気味に俯く。
せっかくセキレイさんに綺麗なペン立てをあげようと思ったのに……
私が落ち込んでいると、ダリアは『なーに言ってるの!』と私の方へ出向き、背中をベチンと殴打した。
「いたっ」
私は勢いでテーブルに手を着く。
ダリアは私を励ますつもりだったのだろうが、やたらとその手に力が入っている。痛いじゃない。
「そんなもの、献上品に逃げられない為の大人の嘘に決まってるじゃない。真に受けるなんて馬鹿ね。見つかったってせいぜいお尻ぺんぺんくらいよ」
『ぺんぺん』と言いながらダリアに尻を叩かれたが、やはりそれも痛い。ダリアらしいと言うか、なんだか確信犯に思える。
「でも、勝手に出てったのがセキレイさんにバレたら……きっと嫌われる」
それだけは避けたかったので、言っていて少し悲しくなった。
「バレっこないわよ」
そう言ってダリアは悪巧みを画策する様に私に耳打ちをする。
「調教師達が戻るのは夕方、それまでに戻れば問題ないし、献上品の特別枠であるユリの通行証があれば咎められる事なく城を出入り出来る。ユリには黙っててあげるから、行って来なさいよ」
確かにユリは私達一般の献上品とは違い、何故か城を出る事が許されている。たまに課外学習として鷹雄さんに何処かへ連れて行かれる事もあった。そんなユリの通行証があれば、何の問題も無く城を出入り出来るだろう。
ゴクリと私の喉が鳴った。
ダリアは私を唆す様にニヤニヤと戸棚の引き出しからこれ見よがしにユリの通行証を出す。
「じゃじゃーん。これがあれば海に行けるよ」
ダリアは有無を言わさずそれを私の胸ポケットに押し込んだ。
「ダリア!でも私、怖い」
悪い事をしている自覚も、外への不安もあった。
失敗したらどうしよう、そんな事ばかりが頭を過る。
「失敗したらどうしようとか思ってんでしょ?でもそれって既に、あんたは行く気だからそう思ってんのよ。馬鹿ね、臆病なうえに心配性なんだから。心配しなくても、私はしょっちゅうユリの通行証を持ち出しては外に出てるわよ?しかも未だに誰にも見つかってないんだから。それにあんた、セキレイさんの誕生日をきちんとお祝いしたいんでしょ?」
そんな風に言われると、私はセキレイさんの為ならと思えるようになり、歯をくいしばって鷹雄さんの部屋を出る。とにかくセキレイさんに喜んでほしくて、私はユリの通行証を首から下げてエレベーターに飛び乗った。
ユリとは見た目も年齢も違うのに、特に関所の様な所が無いせいか意外とすんなり城の駐車場まで出れた。
城というのは、侵入は難しいが、出るのは簡単なのかもしれない。
これに気を良くした私は、足取りも軽く北方面へ駆けて行った。
久しぶりの外だ。寒いけど、天気はいいし、空気も澄んでる。木々の隙間から見える木漏れ日がとても綺麗だ。何より、つかの間の自由が嬉しい。走ったり、寝転んだり、立ち止まって両手を大きく広げたり、こんな当たり前の事を城の廊下でやったらセキレイさんに怒られるだろう。
脛まである雪を素手でさらうと、清々しいくらい冷たい。それをギュッと握って目先の樹に投げつけると、白く弾けてキラキラと散った。
なんて儚くても美しい。
こうしていると、私は自分が奴隷であった事や、献上品である事なんか忘れ、新しい自分になった気がする。
何にも縛られない事がこんなにも新鮮で楽しいなんて、南部国にいた時ですら知らなかった。
薄汚れた砂しかない国とは違う、白く美しい銀世界、とても幻想的で、夢の国みたいだ。10分と言わず、20分と言わず、もっともっとここで遊びたい。絵本の中で見た鎌倉や雪だるまを作ってみたい。雪灯籠もいいな、雪兎も作りたい!
「……」
でも私はセキレイさんの元に帰らないと。
セキレイさんに綺麗なペン立てをあげたい。
セキレイさんに喜んでほしい。笑ってほしい。褒めてほしい。
それでセキレイさんにもっと私を好きになってほしい。
私は本来の主旨を思い出し、真っ直ぐ前へ歩き出した。
そろそろ10分も歩いただろう。くるぶしまでしかない靴から雪が入り込んで既に足先が霜焼けになっている。一旦興奮も落ち着くと、薄着で城を飛び出してきたのが悔やまれた。
私は背を丸め、両手で自分を抱き締めて歩き続ける。
「おかしいな、10分くらい歩いたら海のはずなのに」
歩けど歩けど海の『う』の字も見つからない。
まだかな、まだかな?
終わりなき白銀の樹海が私の気持ちをはやらせた。
「あ、松ぼっくり!鳥の羽もある!」
道なき道の先に松ぼっくりやらモノトーンの羽を見つけ、私は駆け寄ってそれを拾い上げる。
「松ぼっくりはクリスマスに飾ろう。この羽は何の鳥のかな?白、黒、灰色……セキレイかな?」
ちょうどいい、この羽でドリームキャッチャーも作ろう。セキレイさんと同じ名前の鳥の羽なら、きっとセキレイさんの願いが叶う。
私は手頃な羽を数枚と、松ぼっくりを2個ポケットに入れた。
「よーし、何だか幸先がいいな。夕方まで時間がある、もうちょっと進んでみよう」
私は自分を鼓舞するように独りごちて、ズンズン前に進む。
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク
ザク……
私は遂に足を止めた。
ザクザクと雪に足を取られながら歩くこと1時間以上、海に到着するどころか潮の気配もない。
ここにきて私は、さすがに何かがおかしいと思い始め、ひょっとしたらダリアに担がれたのではないかという猜疑心に苛まれる。
あと少し歩けば、あともう少し歩けば、海が見えてくるのではないかと前に進んで来たが、もやは手足がかじかんで感覚がない。
おまけにシンシンと雪まで降り始め、私は、このままでは凍えてしまうのではないかと踵を返して戻る事を決意した。
「ずっと真っ直ぐ歩いて来たんだから、この足跡を辿れば戻れるよね」
私は自分の足跡の通りに来た道を戻る。
帰り道で1時間ならセキレイさんが帰る頃には戻れるはず。
シーグラスを拾えなかった事は残念だけど、このままだと凍えてしまう。
往復20分ならと、上に3枚しか纏わないで来たが、マフラーや帽子、手袋くらいしてくれば良かった。
あー、でも、そもそも私には外に出掛ける用の衣服類は1枚も無いんだった。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチ
何の音かと思えば、寒さで私の全身は無意識に震え、歯と歯がぶつかり合っていた。鳥肌も止まらないし、勝手に肩もいかってしまう。体が生命の危機を感じている証拠だ。
早く帰らなきゃ、このままだと死んでしまう。
日が沈み始め、私は少し焦りだす。
行きとは違い、降雪が視界を遮り、私の行く手を阻まんとする。早く戻らなければと思うのに、思うように前へ進めない。足も手も、自分の物ではないかのように言うに任せない。
「あっ!」
私は雪に足をとられて膝から積雪に倒れ込み、その拍子に松ぼっくりを1つ落とした。
私はただちにそれを拾い上げようとして、ある事に気付く。
足跡がもう1つある。
「うそ……来る時は無かったのに」
その足跡は私のより二回り以上大きくて、私の足跡を遮る様に点々と存在している。
これは大人の男の人の足跡だ。きっと見廻りの兵士の物に違いない。
「どうしよう、捕まってしまう」
でも、兵士に見つかったところでお尻ぺんぺんくらいで済むのなら問題ないか?
ただ、セキレイさんにバレたら大目玉をくらうので、私は落とした松ぼっくりも忘れ、辺りを警戒しながら速足で進んだ。
それから30分は歩いただろうか?
何だか意識が朦朧として体が怠い。降雪のせいか、体調のせいか、目の前がやけにホワイトアウトして見える。おかげで自分が来た足跡が見えない。
「ハァハァハァハァ」
呼吸が苦しい。でも大きく息を吸うと冷たい空気が喉を襲う。
寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い
もう寒いしか考えられなくなりそうだ。
まずい、私、死んじゃうんじゃないかな?
命の危機を感じると、私は途端に怖くなった。
「やだ、セキレイさんに会いたい」
初恋の人に騙され、家族を殺され、住む所も失い、奴隷として売られた頃は生きたいとか思わなかったのに、今は死ぬ事が本当に怖い。
セキレイさんの、可もなく不可もない素っ気ないスープが飲みたい。あの、大して暖かくもないけど温もりのある部屋に帰りたい。雷が鳴らなくてもセキレイさんと一緒のお布団で寝たい。
死にたくない。
足が言う事を利かなくなったが、私は地面に這いつくばって死にもの狂いで前に進んだ。
全てはセキレイさんに再会する為に。
しかしそれから数分も経たないうちに、私の意識もホワイトアウトする。
──私は夢を見た。
誰かに抱き上げられ、その懐で温もりを感じるという夢だ。
とてもリアルで現実みたいだ。
温かい、でも誰だろう、体が馴染まない。セキレイさんじゃない、もっとスマートで、胸板が柔軟な筋肉をしている。
翠?
違う気がする。翠はお日さまの匂いがする。
鷹雄さん?
それも違う気がする。イメージだけど、鷹雄さんは軍医だから消毒液の香りがするはず。
見張りの兵士?
それも違う気がする。兵士はもっとマッチョだ。
──じゃあ、誰だ?
というか、これは現実か?
「君、君、戻っておいで」
耳触りのいいソフトな呼び声で私は現実に引き戻された。
重たい瞼を持ち上げると、そこには白馬でも似合いそうな正統派美青年のドアップが──
睫毛長いな。色も白くて、絹糸みたいな長い髪をしてる。灰汁の無い塩顔だ。男の人?綺麗な人……
夢じゃなかったんだ。
そう思っていると、その青年は私に品良く笑いかけてきた。
「良かった、目覚めた。低体温症にかかってたみたいだけど、こんな日暮れまでここで何をしていたのかな?」
「日暮れっ!?」
私は辺りを見回し、いつの間にかとっぷりと日が沈んでいるのを確認すると、私を抱いていた青年の腕の中で暴れだす。
「私、城に戻らないと!セキレイさんに怒られる」
「セキレイ?君、献上品の子かぁ」
青年は暴れる私を押さえつけ、ニッコリと微笑んだ。
この人、筋肉質な感じはまるでないのに割と力が強いところは、やはり大人の男の人だ。
「駄目だよ、暴れちゃあ。さっきも言ったけど、君は低体温症にかかっているんだから、死にたくなかったらじっとしておいで」
誰だろう?この人、上着まで掛けてくれて、私を助けてくれた?
見た感じ雰囲気が柔和で悪い人には見えないけど、セキレイさんに『絶対に知らない大人と鷹雄には付いて行くな』と耳にタコどころかイカが出来る程言われているから、離れた方がいいのだろうか?でも、私はこの人からはぐれたら確実に死んでしまう。
「あの、あなたはお城の見張りの方ですか?」
私は暴れるのを止めてじっと青年の顔を見つめる。
やっぱり綺麗な顔立ちだ。背景に花ばなが散って見える。けど、いくら見た目が綺麗だからと言って知らない人には変わりないし、何より初対面の男性にお姫様抱っこされるのは居心地が悪い。
「私?私は見張りでここまで来たんじゃないよ。この先の崖に花を手向けに来たんだ」
『この先』と言って青年は後ろを振り返ってみせたが、暗闇で一寸先も見えない。日中は日の光によって輝いていた銀世界も、夜になると様相を一変させ、白と黒だけの葬式みたいな世界に見える。こんな所に独りでいたら寂しさと不気味さで気がおかしくなりそうだ。
「この先には海があるって聞いてたんですけど……そこでセキレイさんの為にシーグラスを探しに来たんです」
「あらあら、それは一杯食わされたね。この先には崖しかないよ。だって城は後ろからの侵入を防ぐ為にこの立地に建てられたんだから。積雪で先が見えないから、そのまま進んでたらきっとおっこちて死んでいたかもしれないね」
信じたくはなかったけれど、これでダリアの罪は確定した。
あのまま進んでいたら、死んでた?
私は今になってガクガクと膝が震えだす。
「大丈夫だよ。君はもう大丈夫だから、何も怖がらなくていい。私が必ず城まで送ってあげるから」
「……違うんです。寒いだけです」
青年は私を安心させようと朗らかに話してくれたが、私は初対面の人間に自分の弱い部分を見せられなくてつい強がりを張ってしまう。
「そうか、近くに観測小屋があるから、雪が収まるまでとりあえずそこに居よう」
そう言うと青年は、私を抱いたまま急ぎ足で道を逸れた。
私を抱いたまま雪道を歩くなんて、大変だろうに、しかも上着まで貸してくれて、この人はきっと風邪をひく。どうせ献上品なんて、元奴隷や身寄りの無い孤児ばかりだし、ましてや脱走かもしれない私になんて親切なんだろう?
青年は私に雪がかからないよう、自分の体を盾にして蟹歩きまでしてくれる。そんな彼の頭にはどんどん雪が積もっていき、私の謝意も積もっていった。
ログハウス風の小さな観測小屋に着き、青年は私を寝かせると、石油ストーブを着けてくれた。
ランタンと石油ストーブの灯りで室内がボンヤリと照らされ、じんわりと温かい。木のいい匂いも少しだけ私を落ち着かせてくれる。
私はやっと生命の危機から脱する事が出来た。
「石油が残ってて良かったよ。ここは私が野鳥観察する時に使っている小屋なんだけど、君の役にたてて良かった。外にはスノーモービルを停めてあるから、視界が晴れたら出発出来るよ。勿論、君が私の背中にしがみつけるまでに回復したらね」
言いながら青年は、いつかのセキレイさんみたいに私の足を自分の手で揉んで温めてくれた。彼の手は冷たく凍えていたが、ハァと息を吹きかけて優しい温もりをくれる。上着だって私に貸したままだ。
「小さい足だね」
クスクスと笑って青年が私の足をくすぐり、私はびっくりして足を引っ込める。
「ちょっとは元気になったようで安心したよ。初めて君を見た時は、人形みたいで死んでいるのかと思ったよ」
「私も、自分は死ぬんだと思いました」
私はその時の事を思い出すと目頭が熱くなり、青年から顔を背けた。
「君を騙した人間の事を恨んだ?」
「え?」
ダリアを恨むだなんて思い付きもしなかったので、私はその発想に驚かされる。
死ぬ思いまでしたのにシーグラスを手に入れる事が出来なかったのが悔しい、その程度の悔しさならあるが、始めから意地悪だったダリアを信じた自分が馬鹿なのだ、別に彼女を責める気はない。おかげでドリームキャッチャーの材料が手に入った。これでセキレイさんの願いを叶える助けになる。それだけが報いだった。
それにユリが、人を恨む事の無意味さを教えてくれた。人を恨んでも自分が辛くなるだけなのだ。時折、城でトールとすれ違う場面もあって苦しくなったが、セキレイさんが一緒に居てくれるから、私はまだ心の平穏を保てた。
「騙された事はいいんです。ただ、シーグラスが手に入らなかった事や、あなたに迷惑をかけた事の方が……」
どうしよう、この人は絶対風邪をひく。
私は青年に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
この青年だって、普通なら今頃暖かい部屋で温かい夕食を食べている時分だ、なのにこんなに髪を濡らして、寒かっただろうに。
「子供がそんな事気にしなくていいんだよ。それに私は、君みたいなピュアな子に出会えて良かったよ。城の連中ときたら、狡猾な奴ばっかりで嫌になるからね」
青年はわざと口をへの字にして嫌悪感をコミカルにアピールした。
そこでふと私は思う、ところでこの親切な青年は何処の誰なのだろう?城の敷地内に居た事や、城での事を話す口振りから城内部の者である事は確かだが、そうだとして、単独でここまで来た私を咎めないのは何故だろう?
「あの、お名前をおうかがいしてもよろしいですか?」
私は青年の方に向き直った。
「私?私はね、波風って言うんだよ。海の波に風と書くんだ。その漢字は調教師から習った?」
私はコクリと頷く。
波風か、この涼やかで端整な顔の青年にぴったりな爽やかな名前だ、しかも清涼感があっていい響きだ。
「いい名前」
私が無意識にそう口にすると、青年ははにかんで見せる。
「そうかな?物事に波風を立てるとは言われたものだけど。君は?」
「私は小田切翡翠といいます」
私が起き上がって挨拶をしようとすると、青年は『無理しないで』とそれを制止してくれた。
「そう、小田切翡翠ね、覚えたよ。君も瑪瑙に似てとても綺麗な瞳をしているね」
私は青年に目尻をなぞられ、くすぐったくて目を細める。
「瑪瑙さんの事、知ってるんですか?もしかして崖に花を手向けに来たって、あすこで瑪瑙さんが?」
セキレイさんの話では、瑪瑙さんは崖から落ちて死んだという。もしかしたら彼女が最期に追い込まれたのはあの先の崖だったのかもしれない。
「そうらしいね。私も人伝に聞いただけだから……可哀想に、怖かっただろうに。君が同じ事にならなくて本当に良かったよ」
この人は瑪瑙さんの話をする時、セキレイさんと同じ様な顔をする。狂おしくって、寂しくて、それでいて憂いていて。
彼らにこんな顔をさせる瑪瑙さんとは、一体どんな人なんだろう?
「波風さんも、瑪瑙さんの事が好きだったんですか?」
何となく、そう思った。
「そうだね。好きだったよ。無知で、純粋な彼女が好きだった」
青年は何処か遠くを見て微笑する。
この人は瑪瑙さんとどういう関係だったのだろう?
気になったが、何だかしんみりした空気になってしまったので、私は開きかけた口を閉じた。
「ねぇ、ところで君は何歳だい?」
青年が急に私の顔の横に手を着き、顔を寄せてきて、私は驚いて腰が引ける。
「えっと、10歳になりました」
近いな。この人も目が悪いのかな?それとも耳が?でも今まで普通の距離で通じ合えてたのに。
「10歳か、じゃああと6年したら──」
あと6年したら?
私が続きに耳を傾けた時、突然足元側のドアがものすごい勢いでぶち開けられた。
「セキレイさん!?」
吹雪をバックにセキレイさんが目をつり上げて仁王立ちしていた。
何だかとてつもなく怒っている様に見える。その証拠に背後に炎のオーラが見えた(ような気がする)
「風斗!その子はまだ子供だ!」
風斗と呼ばれた青年は苦笑いして私の上から身を引き、セキレイさんに向き直った。
「風斗……風斗……」
何処かで聞いた名前だ。何処だったか……………………王様の本名!!
私が驚嘆して目を白黒させていると、王は悪びれた様子もなく『波風は名字だよ』と頭を掻いて照れくさそうに笑った。
「嫌だな、兄さん、私がこんな子供に悪戯でもすると思ったの?それじゃあまるでロリコンの変態みたいじゃ──」
「思った!」
セキレイさん!!
セキレイさんがあまりにも喧嘩腰で食いぎみに言い放つものだから、私は気が気ではない。
「セキレイさん、波か──王様は私を助けてくれたんです」
私はまだ完全ではない体を起こすと、目眩で床に手を着き、王にその体を支えられた。
「大丈夫かい?あまり無理をしちゃ駄目だよ」
王に背中をさすられ、私はペコリと頭を下げる。
「兄さん、翡翠の体が冷えるから閉めてもらえるかな?」
王が、怒り狂うセキレイさんとは対照的に落ち着き払ってドアを顎で指すと、セキレイさんはイライラしながらも素直にドアを閉めた。
セキレイさん、凄く怒ってる。私が脱走したと思っているのかな?何だか怖い。
私はセキレイさんと出会った頃の恐怖を思い出していた。あの頃はセキレイを冷たい人間だと思って恐れていた。
「翡翠、帰るぞ、今すぐ、直ちに、速やかに」
セキレイさんが一気に捲し立て、強引に私の腕を引く。
「いたた、セキレイさん、待って!待って!」
私は体が思うように動かないのに腕だけ持っていかれ、腕の節が軋んだ。
「セキレイ!もう少し優しく扱ったらどうだ?」
穏やかそうな王が私の為にセキレイさんを叱責してくれたが、それは逆にセキレイさんの火に油を注ぐ事となる。
「お前が言うな、三角木馬」
セセセセセ、セキレイさんっっ!!
全ては私のせいだけれど、王様相手にそんな事を言ったら、いくら腹違いの兄だとしてもどうなる事か。
「セ、セキレイさん!王様相手にそんな恐れおおい」
「ここは城の外だ。ならただの異母兄弟だ」
セキレイさんは依然として傲慢な態度だが、私はセキレイさんが心配で卒倒しそうだった。
「別に構わないけど、一応ここは城の敷地内だからね。ていうか、何だい?その変なあだ名は」
王は別に気分を害した様子もなく、ハァと呆れてため息をつく。よく考えると彼は私の仇だが、セキレイさんにあんなけなされ方をしても平静でいられるなんて、懐の深いお人だと思った。
「お前の代名詞だ」
セキレイさん、もうヤメテー!!
「セキレイさん、王様は私に良くしてくださいました。私が崖から落っこちなかったのも、低体温症で死ななかったのも王様のおかげなんです。だからそんな言い方しないで下さい」
私は心配して探しに来てくれたセキレイさんを責めるつもりはなかったが、何も悪くない王を無下に扱うのは善くないと思った。何より、ブーメランとなってセキレイさんの沽券に関わるといけない。でもセキレイさんにそれは伝わらないし、逆にセキレイさんがどれだけ私を心配したかというのも私にはよく伝わっていなかったのだと思う。
ベチンッ!!
私はいきなりセキレイさんに頬をぶたれ、衝撃で目の前に星が飛び、ポケットから最後の松ぼっくりが転がり出た。
「お前は何も解ってないっ」
セキレイさんは殴られた私よりも苦しそうに顔を歪め、一瞬、言葉を詰まらせる。
セキレイさんはきっと私をとても心配してくれたのに、私は無神経な事を言って彼を怒らせてしまった。
私は、セキレイさんにこんな顔をさせた自分が許せなくなり、頬の痛みが気にならない程胸が苦しくなった。
「もういい、翡翠、お前は今からそこの王に献上されるといい。俺は帰る」
「セキレイさん!待って!」
『置いていかないで』とセキレイさんにすがろうとしたが、目の前で荒々しくドアを閉められた。
セキレイさんに嫌われた。
セキレイさんに見放された。
セキレイさんに捨てられた。
「翡翠、大丈夫?」
「……」
私が黙って絶望に打ちひしがれていると、王は後ろから私を抱き締めてくれた。
温かくて、いい匂いがしたけれど、セキレイさんとは全然違う。セキレイさんはもっとこう……
思い出すと泣けてくる。
「翡翠、君の事は6年後に貰い受けようと思ったけど、今から私が面倒をみよう。献上の手順なんてどうでもいい。私自らが、王である私の好みにお前を育てあげよう」
「え?何を言っているんですか?私はセキレイさんちの子ですよ?」
私は気がどうにかなっていて、訳も解らず王の腕の中でもがいたが、彼は暴れ馬を宥めるようにドウドウと言って私の頭を撫でた。
そして前代未聞の信じられない事を口にする。
「私がお前の調教師になろう」
そして王は『今からお前はうちの子だ』と言った。
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