悪役推し令嬢はこじらせ男子を攻略したい

福北ヒトデ

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第一章 アレクシス攻略

仲良くなっておきたい相手

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「この噴水の裏は、昼寝にちょうどいいのだ。木陰で涼しいし、侍従たちにも見つかりにくいぞ」

 外に出られたのがよほど嬉しかったのか、アレクシスは嬉々としてお気に入りの場所を教えてくれる。
 つい数分前、私を貧相呼ばわりしたことなどすっかり忘れているようだ。細かいことを気にしないタイプなのかもしれない。

「あら。お外でお昼寝、ですか?」
「う。いや、その……間違えた。休憩だ。休憩にちょうどいいと言いたかったのだ」

 私の問いかけに、アレクシスは露骨にたじろぐ。
 そのやりとりを見ていたアレクシスの侍女らしき老婆が、クスクスと笑い出した。

「ルシールお嬢様、もっと言ってくださいませ。坊ちゃまときたら、お勉強のたびにどこかへ行ってしまうのです。見つけるのもなかなか大変なのですよ」
「よ、余計なことを言うな、マーサ!」

 アレクシスが顔を真っ赤にして、マーサに口止めする。だが、本気で怒っているようには見えない。どちらかといえば、保護者に秘密を暴露されて、恥ずかしいといった様子だ。
 主従にしては、かなり親しい間柄に見える。もしかしたら乳母や、育ての親に近い存在なのかも。
 いきなり侍女が口を出してきたことには驚いたが、きっと子どもだけでは間が持たないと考えたのだろう。非公式の場だから気を利かせてくれたに違いない。

 アレクシスのことをよく知っていて、目端が利いていて、家族に近しい侍女。
 間違いなく、彼女とは仲良くなっておくべきだ。将を射んと欲すればまず馬を射よ、である。

「マーサ、とおっしゃるのね。私、もっとアレクシス王子の話を聞きたいわ。他にどんなところでお昼寝をされているの?」
「昼寝の話はもういい!」
「ふふ、そうですね。噴水の裏も多いのですけれど、ここ最近のお気に入りは客間のソファの下でしょうか」
「マーサ!」

 プリプリしているアレクシスを見て、マーサと二人で笑い合う。

 しかし、これは幸先がいいかもしれない。
 あの傲慢な俺様王子アレクシスをどうやって攻略したものかと思っていたが、予想より早く仲良くなれそうだ。

 考えてみれば、私はアレクシスについて詳しく知らない。少女マンガではほとんど主人公のステラの視点で進むため、悪役であるアレクシスに関しては最低限しか描写されていないのだ。
 アレクシスとルシールは愛のない結婚だと思っていたが、もしかしたら嫌い合っているというわけではなく、すれ違っていたのではないだろうか。

 さっきの貧相騒動だって、私の前世が成人済で、アレクシスが推しだからサラッと流せていたが、普通の貴族令嬢ならムッとしてしまうだろう。
 その第一印象のまま、お互いが歩み寄れずに、冷え切った関係を続けた可能性はある。
 だとしたら死の間際、アレクシスがルシールを庇ったのにも納得がいく。愛がないわけではなく、愛を示せなかっただけなら……。
 ちょっと待て、それ一本で一冊書けるほど美味しいネタではなかろうか。しまった、メモ帳ぐらい用意しておくんだった。

「もう噴水はいい! 次だ。行くぞ、ルシール」

 妄想に入りかけていた私の手を引いて、アレクシスが駆け出そうとする。
 恥ずかしくてこの場から逃げ出したいのはわかるが、いきなり引っ張るものだから、少しよろめいてしまった。

「ま、待ってください。アレクシス王子」

 侍従が許可してくれたのは、目の届く範囲までだ。マーサがいるとはいえ、あまり遠くに行くのはよくないだろう。
 すると、年齢相応にはしゃいでいたアレクシスが、突然立ち止まった。
 一瞬、私の願いを聞いてくれたのかと思ったが、アレクシスの視線は不自然に前方を見たまま固定されている。
 その視線の先をのぞき込むと、数人の侍従を連れた金髪の少年がいた。金髪の彼はこちらを見るなり、爽やかな表情で微笑みかけてくる。

「おや、そこにいるのはアレクかい? こんなところで会うなんて珍しいね」
「……兄上」

 かすれるようなアレクシスのつぶやきに、私は身構えた。
 第二王子アレクシスが兄と呼ぶ相手は、この世界にたった一人しかいない。

 第一王位継承者、クリスティアン。
 アレクシスの異母兄で、主人公ステラと恋仲になり、そして――アレクシスとルシールを処刑した張本人だった。
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