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第一章 アレクシス攻略
第一王子襲来
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「……兄上は今日、父上と公務の予定だったのでは?」
アレクシスが、硬い表情でクリスティアンに問う。
私は静かに息を吐いた。
……落ち着け。クリスティアンが私たちを処刑するのはまだ先の話だ。
私の緊張など知るよしもないクリスティアンは、弟の言葉に笑顔で答えている。
「ああ。それなら午前中に終わったよ。オルムステッド公爵との会談が延期になってね。簡単な事務仕事だけ済ませてきたんだ」
アレクシスが、隣にいる私にしか聞こえないくらいかすかな声でつぶやいた。
「午前中……」
ひどく悔しいような、悲しいような表情だった。
父親の仕事が午前中に終わっただけで、なぜそんな表情をするのだろう。
そう考えて、ふと、ひらめいた。
私は、アレクシスがギルグッド侯爵に向けた言葉を思い出す。
「父上はお忙しい。代わりに侍従が受け取ることになっている」
もしかしたら、国王はアレクシスの婚約挨拶の場に出席する予定だったのではないだろうか。
けれど公爵との会談が入ってしまい、出席が不可能になってしまったとしたら……。
もちろん、国王の判断は間違っていない。
公爵家との執務、侯爵家と身内の婚約。責任の重さや身分差から考えれば、前者を選ぶのは当然の判断だ。
それがわかっているから、アレクシスも表だって文句は言っていないのだろう。
けれど会合は延期になり、執務は午前中で終わっていた。
ならば国王がこちらに来ることもできたのでは……と、アレクシスが考えたとしてもおかしくはない。
実際には、護衛や侍従の手配が間に合わなかったなどの理由で、急なスケジュール変更が難しいこともあるだろう。大人なら、そう自分に言い聞かすこともできる。
けれど、アレクシスはまだ十歳の子どもだ。自分が父王にないがしろにされたように感じたのではないだろうか。
……これはあくまで私の憶測でしかない。
だが、アレクシスが闇堕ちした理由の一端を垣間見たような気がして、私はそっと身震いした。
「アレクシス王子……」
私がアレクシスにどう声をかけたものかと考えていると、クリスティアンはこちらの深刻さに気付いていないのか、あっけらかんと話しかけてくる。
「そうか。アレクは婚約者との挨拶があると言っていたね。ではそちらが……」
クリスティアンが、私を紹介して欲しそうにアレクシスを見た。
だがアレクシスは拳を固く握りしめて、うつむいたままだ。クリスティアンの声が届いていないように見える。
仕方がない。
ずっと黙っているわけにもいかないので、私は自分から名乗ることにした。
「お初にお目にかかります、クリスティアン王子。ルシール・ギルグッドと申します」
「やっぱりギルグッド侯爵の娘さんだったんだね。今は非公式の場だから、正式な礼はいらないよ。僕はクリスティアン。弟ともども仲良くしてもらえると嬉しいな」
クリスティアンは人好きのする顔で、私に微笑みかける。
正直まぶしすぎて、目が痛い。
クリスティアンの顔立ちは、非常に整っていた。一般的には、美少年と呼称されるものだろう。人によっては天使のような、が前につくかもしれない。
王子様に夢を見ている十代の少女なら、ときめきで胸がいっぱいになっただろうな、とも思う。
「もったいないお言葉です。こちらこそよろしくお願いいたします」
不自然に見えない程度の作り笑いを浮かべて、私はクリスティアンに応じた。
クリスティアンが、少し意外そうにこちらを見ている。杓子定規な対応過ぎただろうか。
だが人の好みとは、ままならぬもの。
性癖に刺さらなければ、どんなイケメンも意味がないのだ。
もし私を攻略したいのなら、もっとヤンキーのようなとげとげしさか、黒魔術師のような闇の深さを備えてから現れてもらいたい。
それに私は知っているのだ。
未来のクリスティアン王子が、独占欲の強い腹黒王子だということを。
アレクシスが、硬い表情でクリスティアンに問う。
私は静かに息を吐いた。
……落ち着け。クリスティアンが私たちを処刑するのはまだ先の話だ。
私の緊張など知るよしもないクリスティアンは、弟の言葉に笑顔で答えている。
「ああ。それなら午前中に終わったよ。オルムステッド公爵との会談が延期になってね。簡単な事務仕事だけ済ませてきたんだ」
アレクシスが、隣にいる私にしか聞こえないくらいかすかな声でつぶやいた。
「午前中……」
ひどく悔しいような、悲しいような表情だった。
父親の仕事が午前中に終わっただけで、なぜそんな表情をするのだろう。
そう考えて、ふと、ひらめいた。
私は、アレクシスがギルグッド侯爵に向けた言葉を思い出す。
「父上はお忙しい。代わりに侍従が受け取ることになっている」
もしかしたら、国王はアレクシスの婚約挨拶の場に出席する予定だったのではないだろうか。
けれど公爵との会談が入ってしまい、出席が不可能になってしまったとしたら……。
もちろん、国王の判断は間違っていない。
公爵家との執務、侯爵家と身内の婚約。責任の重さや身分差から考えれば、前者を選ぶのは当然の判断だ。
それがわかっているから、アレクシスも表だって文句は言っていないのだろう。
けれど会合は延期になり、執務は午前中で終わっていた。
ならば国王がこちらに来ることもできたのでは……と、アレクシスが考えたとしてもおかしくはない。
実際には、護衛や侍従の手配が間に合わなかったなどの理由で、急なスケジュール変更が難しいこともあるだろう。大人なら、そう自分に言い聞かすこともできる。
けれど、アレクシスはまだ十歳の子どもだ。自分が父王にないがしろにされたように感じたのではないだろうか。
……これはあくまで私の憶測でしかない。
だが、アレクシスが闇堕ちした理由の一端を垣間見たような気がして、私はそっと身震いした。
「アレクシス王子……」
私がアレクシスにどう声をかけたものかと考えていると、クリスティアンはこちらの深刻さに気付いていないのか、あっけらかんと話しかけてくる。
「そうか。アレクは婚約者との挨拶があると言っていたね。ではそちらが……」
クリスティアンが、私を紹介して欲しそうにアレクシスを見た。
だがアレクシスは拳を固く握りしめて、うつむいたままだ。クリスティアンの声が届いていないように見える。
仕方がない。
ずっと黙っているわけにもいかないので、私は自分から名乗ることにした。
「お初にお目にかかります、クリスティアン王子。ルシール・ギルグッドと申します」
「やっぱりギルグッド侯爵の娘さんだったんだね。今は非公式の場だから、正式な礼はいらないよ。僕はクリスティアン。弟ともども仲良くしてもらえると嬉しいな」
クリスティアンは人好きのする顔で、私に微笑みかける。
正直まぶしすぎて、目が痛い。
クリスティアンの顔立ちは、非常に整っていた。一般的には、美少年と呼称されるものだろう。人によっては天使のような、が前につくかもしれない。
王子様に夢を見ている十代の少女なら、ときめきで胸がいっぱいになっただろうな、とも思う。
「もったいないお言葉です。こちらこそよろしくお願いいたします」
不自然に見えない程度の作り笑いを浮かべて、私はクリスティアンに応じた。
クリスティアンが、少し意外そうにこちらを見ている。杓子定規な対応過ぎただろうか。
だが人の好みとは、ままならぬもの。
性癖に刺さらなければ、どんなイケメンも意味がないのだ。
もし私を攻略したいのなら、もっとヤンキーのようなとげとげしさか、黒魔術師のような闇の深さを備えてから現れてもらいたい。
それに私は知っているのだ。
未来のクリスティアン王子が、独占欲の強い腹黒王子だということを。
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